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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第一章
17/193

渡る世間はロボばかり 03

>command com

>CPU・・・・OK

>main memory check・・・・・・OK

>main device check・・・・・・・・OK

 アナクロな起動シーケンスがモニター上に次々と流れる。こういう趣味的な表示を創った人はどんなんか考える。………いやいや、めんどくさいので俺は考えるのをやめた。

 グリーンランプが次々と燈り、機体に力が蘇ってきた。

>Hello World!

 最後にビープ音と共に完了の文字が流れた。

「今どきコマンドコムはないだろう、コマンドコムは…」

「創った奴に文句を言え。形式美なんだろ、気にするな」

 ヘルメットから管制室にいるモニター係りが答えた。

「システム、オールグリーン。いつでも行けます」

「ではハンガーのロックを解除する。こけるなよ」

「今更ここでこけるつもりはないわ」

 毒づいて、ロックが解除されるのを待つ。

 ガコン。鈍い音と振動が伝わる。肩と腰を固定していたハンガーのアームから開放された音だ。

 釣られていた状態から開放され、自身のみの力で姿勢を倒立状態に保つ。いつもこの一瞬は緊張する。

「はいはいあんよはこちら~手のなるほうへ」

 モニター係りがちゃかす。

「ベイビーベイビーママのおっぱい何処にある♪」

 併せて唄った。

「第2運動場に集合だ。先輩方はもう移動しているぞ」

「うげっそういうことは早く言えっての」

 歩行モードから駆け足モードに切り換え、先を急いだ。


 第2運動場に着いた時は、丁度先輩方の最後の機体が入っていく所だった。なんとかギリギリ間に合った。安堵の息を吐く。

挿絵(By みてみん)

 そいや今日はなにをやるのだろうと、カリキュラムシートを開いてみた。

「……ドッチボール??」

 コートには、自分を含め32機の機体が勢ぞろいしている。半分づつということで16機で一班を組んでやるのか。4機で1小隊、4小隊16機で中隊ってな具合だ。班の組み合わせを見る。何時もは種馬野郎とのコンビだけで何かしらやってたから新鮮だ。

 そういえば、他のメンバーと共同実習をするのは、最初の完熟訓練以降初めてであるのを思い出した。ほんと奴のせいで色々特別扱いされていたんだなと実感した。


 班に別れて2回程試合をした。

 意外とボールの扱いが難しく、掴むことさえ厳しい。何機かは握りつぶしていたりもした。また、投げる方向も明後日の方にいったりとてんやわんやだ。勿論投げつけられたボールをキャッチするのは至難の技で、試合自体は上手く投げれれば相手を仕留めることがたやすく、1試合目は速いテンポで終了した。

 俺自身も1/3程班のメンバーがアウトになったころ、バックアタックから当てられて場外に追い出されてた。

 2試合目も終了し、ボールの扱いにもなれ、機体もあったまってきたところ、鬼教官らしい鬼の一言を発した。

「さて、貴様らのオートバランサーはカットする。それでもう1試合やってもらう」

 ピッと軽快な電子音が鳴ると、オートバランサーOFFの文字がディスプレイの端に警告として表示された。

 途端にバランスを崩して、膝をつく機体がちらほらとみかけれた。

「動けない奴はそのままに残ったメンバーだけコートに入れ。入れない奴は腕立てとスクワット50づつやれ」

 きつい叱咤が飛ぶ。

 そして……俺は、なんとか動かすことができた側におり、慎重にコートへと進んだ。

 無線は禁止されているため、残ったメンバーと意思疎通はできない。阿吽の呼吸をこれで得ろってことなんだろうけど、ハードルは遥かに高い。コートに入るまでに転倒したり、数機がよろよろとぶつかって退場していくのもあった。

 コートには、味方側が自分併せて8機、相手は12機だった。

 最初からハンデありまくりに軽く絶望した。

 10対10に調整してくれてもいいのに、実戦では~うんぬんかんぬんと尤もらしい事をのたまって許されなかった。曰く、運も実力の内らしい。

 まぁ、敵側からこっちに2人来たとしても、それはそれで微妙な気がする。

 数が少ないことから、ボールはこちらから始まった。

 先輩の操る機体がそつなく相手の太股辺りにボールを当て1機減らした。流石にオートバランサーを切っても機体制御ができている人達は巧みである。……人もいた。

 その後何回かやりとりがあり、お互いに2機づつ退場していった。

 状況は6対9となる。

 不意にボールが俺目掛けて飛んできた。威力はそんなに無く、真正面だったこともあってなんとか捕球する。

 ボールを投げるため、前に出る。先輩の機体が何機か前にいたので、避けつつ移動し中央線の所まで──。

 不意に躓いた。

 ヘッドスライディングの要領で前のめりに地面とご対面。咄嗟のことであったが、なんとかボールは離さなかった。

 緩衝装置が働いてはいたが、軽くシェイクされ一瞬呼吸が止まった。

「つつつ」

「なにやっとる。さっさと立て、立てなければ這ってでも退場しろ」

 教官の叱咤が無線で飛んできた。

 はいと元気よく返事し、立ち上がろうとすると先輩が手を差し伸べてきた。

 有り難く差し出された手を掴んで立ち上がろうとした時、先輩の機体がよろめいた。覆い被さる形で乗っかられた。派手な音と主に機体に衝撃がまた走る。

「こらー、なにやっとるかっ」

 教官から再度の叱咤が飛ぶ。

「ごめんねー、オートバランサーを切っているのでよろけてしまいした」

 先輩の機体から声がした。おそらく教官含めて3人の回線を繋いだのだろう。

「お前も、こけたままなら這って退場させるぞ」

「はい、今立ち上がります」

 そういって、上に乗っかっている機体が立ち上がろうと動く。

 クッションを絡めた鉄の棒で殴ったような鈍いゲシュンといった感じの音が横腹を襲った。機体が軽く揺すられる。

 今のは……蹴られた??なぜ??いや、その前になぜ俺はコケた?

 待て、今はそんなことを考えない。早く立ち上がってボールを……。

 ボールは手の中になかった。覆い被さってきた先輩の手の中にそれはあった。

 くっどういうことだ。思考を巡らす。

 巡らしつつ機体を立ち上がらせ、後ろ側の位置へと下がろうとする。

 と、それが止められた。

 別の先輩が俺を押しとどめ、そこにいろと指示してきた。

 試合は再開する。

 ボールを奪った先輩は、軽やかに相手の機体にボールをぶつけアウトにする。とてもさっきの体たらくな操作なんか、微塵も感じさせない。

 ボールが再び襲ってきた。今度は剛速球だ。

 機体を捻り、躱す。

 そこへ別の先輩の機体が割り込んできた。捕球しようとすれば、後ろから突かれる形になっただろう。

 しかしてボールはその先輩に命中し、退場となった。これで5対9。

 流石にここまでやられると、意図が解ろうというもの。

 いじめだ。

 昼休みに生徒会で言ってた奴か。早速すぎるわっ。

 問題はどう対処するか……。

 ひとつは、熱血物の大乱闘。結果は退学させられる。しかもこんな機体で暴れた日にゃ犯罪者にされてしまふ。

 ふたつは、黙っていいようにやられて相手の気分が晴れるのを待つ。

 無理だな。こういったものはどんどんエスカレートするものだ。早晩俺の方が耐えられなくなる。

 みっつめ、ここを即効退場食らってコート外に出た後は彼らとの接触をしないように距離を置くこと。

 今後も授業で逢うのに無理ゲーだ。

 よっつめ、皇もしくは生徒会に助けを求める。なさけなさすぎて却下だ。大体、その問題をどうするのか、話し合っている最中である。

 いつつめ、圧倒的実力をみせて、絡むことさえ無意味だということをきっちりと解らせる。はいはい無理無理。操縦は向こうの方がなんぼも上手だ……あれ?そうか??種馬の魅せた動きに付き合ったり、エリザベスの化け物染みた攻撃を俺は捌いたじゃないか。

 オートバランサー付きだったとはいえ、あの速度域で動いてみせたんだ。もしかしたら……。

 センサーの範囲を前方の相手コートだけでなく全域に指定する。

 メインカメラに映る映像では解らなかった情報が入ってきた。なんとも俺をさり気なく囲むような布陣に何機か位置どっている。偶然その位置にいるかもしれない可能性を除いて、3機は確実にこっちとの距離を計っているようだ。

 そういえば奴はハッキングで相手の声を拾っていたな。俺にもできるか?この間の奴の行動ログを呼び出す。あった。これだろうか、すかさず動作させる。

「くっそーあの子、本当に生意気だわ」

「どうする?あんま無茶やると教官にばれるわよ」

「とりあえずボール回してタイミングを計るね」

「腰巾着がほんと生意気。立場を思い知らせてやる」

 こいつら、禁止の無線通信をしてやがる。

 しかも、相手方にも味方がいるようだ。思い返せば、今までの行動からしてそれもありなん。

 大きく深呼吸をする。吸って、吐いて、吸って、吐いて。おしっ、やるならとことんやってやる。

 感覚を研ぎ澄ませろ。心と機体を一致させろ。集中しろっ。自身に言い聞かせる。

 ボールが2回、3回と行ったり来たり。次に飛んできたボールが自分の近くにやってきた。

「ここだっ」

 飛びついてボールを捕球する。大丈夫、零していない。そのままの勢いで、相手コートの機体目掛けて全力で投げる。

 咄嗟のことだったのか相手は捕球できずボールは機体に当たって地面を転がった。

「ひとーつ」

 5対8になる。

 相手コートの機体は今みたいに排除できるとして、問題は自陣コートの敵だ。どうしかけてくるか……。

 囲っている機体の位置を確認する。背後の右斜めに位置どっている機体がある。とりあえずはこいつからか。

「くそっやられた。もう、やってやる」

「わっ馬鹿、まだ速いって」

「うっせー」

 傍受している敵の声から狙ってくるのが知れる。

 左右に機体を揺すってフェイントを入れ、狙いを定まらせないようにする。これは囮。

 さらに右に移動してみせたとき、少し機体を不安定に揺さぶって隙を見せる。

 見事に狙い通り、相手はボールを投げてきた。

 こっちはそれに併せて、更に体制を崩しながらでも無理に右にステップ。

 がくがくと膝が揺れ、上半身が暴れるが踏ん張って耐える。がんばれ俺。

 ボールは予想通り、俺がたたらを踏んでいた所を通過し、後ろの自陣の“敵”へ向かって飛び……当たる。

 前に跳ね返って落ちたボールを必死に掴む。不格好ではあるが、なんとか成功。

 立ち上がり、直ぐさま投げてきた敵に向かってボールを投げ返すと、それは見事に命中し、ボールは転々と地面を転がる。

 上級生といえど、オートバランサーを切った状態で、投げて直ぐに動けずにいたのが功を奏した。

 なんとか、自陣2、敵陣2の敵を排除成功となった。しかし状況は4対7でまだまだ不利だ。明確に解らない敵数も相まって、これからどうするか思案する。

 相手がボールを拾っている間、ゆっくりと後方へ下がる。

「なんであんなふらふらな奴に当たらないんだ」

「ボール捕球なんか不格好そのものなのにっ」

 ヒステリックな叫び声。

 確認しよう。自陣には2機の敵がいる。敵陣は最低1機。

 確定している機体をレーダーマップでオレンジマークに設定。

「とりあえず、冷静になれ。まず邪魔者を排除しよう」

「わかったわ。ヤツばかり狙って不審に思われても仕方ないしね」

 つまり、確定してる2機と自分以外は残り1機。友軍と認定しグリーンマークをつける。

 なかなか傍聴ってのは役立つんだな。

 さて、どうするかな。ここで選択肢としては、また何かしらされる前に、自ら当たって退場するって手もある。

 そうなると、後々また絡まれることもあるだろう。教官に御注進して対処してもらうこともできるが……。

 やっぱ、そんなん腹の虫が納まらないよね。

 つまり、導き出される結論は、何も知らない味方を庇いつつ敵を撃破することになる。君仁なら笑ってそうしただろう。

「感化されてしまったかな」

 独りごちる。でもまぁ悪くない。

 ボールが行ったり来たりする。

「ちっ邪魔だ。捕るんじゃないっての」

「あっちくしょーやられた」

「なにやってんだよ」

「大丈夫大丈夫、こっちはまだ二人残っている」

「頼むよ、ほんとに」

 4対6。そして、敵は1体減り、残り敵陣コートは2機いることが解った。

 味方コート内は敵2、友軍1と自分か。

 それにしても、この友軍の人はかなり機体の扱いが巧い。フォローをするつもりで近くにいたが、逆にフォローされている気がしないでもない。

 ボールが行き交う。

「どうしよう、どうしよう」

 ん?

「様子見といったけど、そうもいってられないか」

「やる?やっちゃう??」

「潮時かねぇ」

「そうだね。一丁ここいら辺で、痛い目みさせてやるか」

 どうにも短気を起こしたようだ。

「やつとの間にボールを投げてくれ。近寄る」

「オーケー」

 来るか。気合を入れ直す。

 ボールが投げられる。やはり失投を装ったやまなりのボールだ。これは捕る。

 着地点目掛けて一目散に走り出す。向こうはワンバンを取ろうとしたのか、後ろへと下がりつつ捕球体制を取ろうとしている。

 狙い通りっ。

 片手をめいいっぱい延ばし、ボールを掴もうとする。

 あっっっ。

 しまったーーーーーー。

 片手で捕球できるわけないじゃないー。

 見事差し出した手にボールは当たる。そして、跳ねた。

 放物線を描き、ボールは明後日の方向に跳んだ。

 跳んだボールは、云うまでもなく重力に引かれて落ちてくる。

 そこにはもう片方の敵とマークしていた機体があり……ボールは頭に当たってから、ぽーんとまた跳ねる。

 そのままボールは後方に廻って捕球しようとしたもう一機の肩に当たった後、地面に落ちた。

 トリプルだ。

 3人揃って退場となった。

 はぁ…張り切ったのに……力が抜けた。まぁ自爆したが、自陣の敵は一掃できたわけだし、中途半端ではあるがよしとしよう。

 一機残った味方には申し訳ないが仕方ない。心の中で詫びを入れて、退場した。

 その後、最後に残っていたグリーンマークを付けた友軍機は、見ていて凄かった。

 獅子奮迅の活躍で、残り2機まで減らすまでした。が、そこまでで、負けてしまった。

 ボールを捕球しようとしたところ、俺がこけて造った窪みに脚を滑らせたせいだった。

 正直済まん。

 そして授業は終わりを告げた。


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