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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第五章
169/193

Tempest 04

 気がつくと暗黒の中にいた。

 意識を廻りに巡らせば、暗黒の中に光が見える。気付けば満点の夜空の如く光り輝いていた。

 どういうことだ?

 認識すれば、知覚したってことなの……か。

 よくよく観れば、大きな光り輝く大きな所が複数……沢山ある。そこから小さい欠片のような輝きが漏れだしているのが解る。

 小さい輝きは、ふらふらと大きな輝きの周辺を周回しつつ消えていっている。というよりも、さらに破片のよう更に小さな輝きが広がっていって、やがて本体は薄まって消えていっているようだ。

 他には何かにぶつかって派手に砕けたり、合体してより大きなものへと姿を変えているものもある。相も変わらず、本体から漏れる輝きのような欠片が散らばっているのだが。

 うーん、これって、つまり?

 宇宙、それは最後のフロンティア。

 右を観ても左を観ても、上も下も前後ろ、いわずものがな。ってーことなのか?なんとなく違うようなきがするが。

 なんで俺はこんなところにいるんだ。さっきまでは……。

 さっきって?

 俺は何をしていたんだ。

 上手く思い出せない。

 両手で顔を覆う。

 ………あれ?手の感触がしない。

 頬を抓ってみる。

 うむ、痛くない。

 漫画みたいにびろ~んとか伸びない。でもなんだ?

 俺の身体からも細かい光の粒のようなものが湧き出ている。なんとなく自身が薄れていっているような気がするのは気のせいか?

 てか、そんなことを気にしている場合じゃない。早く戻らなければ、まずい。

 なにがまずいって………そうだ、襲撃を受けたんだ。それで俺は……。

 もしかして、盛大に自爆した?弥生が裏返るとかいってたよな。そういうことか?

 千歳の制止を無視して無理したせいで……。あれ?でも裏返るといまいち繋がらないよな。それにここはどこだ。ホントに宇宙ってわけじゃないんだろ。

 もう一度、辺りを見回す。

 何も変わらない。真っ暗な夜空に輝く星が流れていくように見えている所は天の川なのか。星座とか知ってたら、もっと良く解るのだろうか。

 オリオン座とかカシオペア座とか北斗七星程度なら解るが、そんな形をした連なりは見つからない。

 ………どうしたらいいんだろ。途方に暮れる。

 でも、以前にも似たようなことがあったような無かったような……うーむ。


「よぉ、俺」

 黄昏ていると、声がかかった。振り向くとそこには、俺がいた。

「思い出したっ!」

 以前の出来事、説明されたこと。

 生と死の狭間。形而上と形而下の境界線。肉体と魂の境目の世界。

「ふむん、その反応を観るに、前に一度逢ったようだな」

 忘れもしないって、今の今まですっかり記憶の欠片もなかったけどな。

「憶えていないのか?」

「無茶を言うなって、この世界、時間の概念もくそもねぇんだ。まぁ、この状態は俺がそこから“半分降りた”状態だけどな。所謂お出迎えだ。さっきあったやつは寿命で、俺と合一したし、臨死体験で戻っていくやつも何人かいる。俺って結構意地汚くしぶといからな」

 つまりなんだ。あの星の川はなんてことはない、三途の川ってやつか。

 自分のことを振り返る……。死にそうな目、どころじゃないような。

「なんだか、良く死にかけているんだが」

「普通なら、最初の死にそうな目で逝っているわな」

 ふむん、言われてみればそうかもしれない?

「不死属性で復活するってのなら、まだしも救いはあるのだが……」

「そんな便利なものはない。ゾンビだって“死ぬ”んだからな」

「そんなホラーは遠慮したい」

 まぁ、頭が吹っ飛んだり、身体の半分が吹き飛んだんりしても復活する人間って………人間じゃないな。

 人外も真っ青な人外だろう。幾ら、人より優れた力を持っていても、死んでしまえばそれまでだ。

 となると、俺はもう死んでいるってことか。

 いいや、それが死んじゃいねーんだな。二度あることは三度ある。いい加減、お前の世界の俺がどんな波瀾万丈な生き方しているのか、気になってくる。

 そげんこついわれても、巻き込まれ人生だ。向うからやってくるんだからしゃーねーだろ。

 逃げたけりゃ、全てを捨てて仕舞えばいい。そうできないから、巻き込まれるんだよ。

 全て捨てるって無茶いうな。今まで積み上げたものを放り投げるってできるわけねーだろ。それに、これから先のこともある。逃げ出すわけにはいかんってもんだ。

 それで死んでりゃ世話ないわな。

 ぐぬっ。

 まぁでも、俺の人生だ。俺が好きにすればいい。

 好きに人生、生きられるほど世の中都合のいいもんじゃねぇぞ。

 現状論で言われてもな。結果論でいってきてんだろ、そんな未来わかるわけねー。確かにそうだ。未来を観ることなんて、神でもむりだ。

 因果律。

 そうなるべき。そうである。そうだった。

 収束する未来なんか、結果は同じだがな。エントロピーの法則ってやつだ。宇宙の死には誰も逆らえん。

 そこから抜け出せるのが神と呼ばれるものだろ。解脱ってやつだ。

 涅槃で悟りを開けってのか。煩悩まみれでは無理だな。悟りを開く前に寿命で死んどる。

 俺<が|は>笑う。

 で、俺はいつ復活するんだ?知らんがな。勝手に復活するだろ。

 ゾンビじゃあるまいし、何かしなきゃならんよな?

 定めじゃ。

 いきなり、どっかの和尚の台詞いってどうしたんだ。

 俺は死んでない。死んでりゃ即効、俺と合一する。そうでないから死んでない。Okay?

 あ?つまり、次の瞬間には死んで、俺と合一するかもしれないってことか。さもありなん。

 でもなんで合一なんだ?そりゃ、まだ俺が肉体に縛りつけられているからに決まっているだろ。拠所が無ければ、こっちに来るに決まっている。ん?つまり俺は死んでいるのか?

 それは微妙なところだな。死んでもいるし、死んでもいない状態だ。ぉぃ、それって人前で云うと恥ずかしいアレってやつか。まぁそうだな。シュ──いわんでいい。大体アレは、揶揄だ。それに、閉じたまんまじゃ空腹で死ぬっつー。おい、それこそ恥ずかしい──。

 で、どうよそこんとこ。本当に死ぬのか?俺に聞くなって。俺は俺であって神じゃない。

 なんかさ、前と逢った俺と違うような気がするんだが。そりゃ、不変なんか有り得ないだろーよ。以前の俺と今の俺、その間に俺と合一した俺がいるんだぜ、情報量に差がでてくる。それで俺が俺であるってどうして解る。俺と“お前”に差があれば他人だ。

 多少の波長の違いなんか誤差だ。ハゲとロンゲの差みたいなもんだな。じゃぁ俺が俺である理由ってのはなんだ?魂が同じだからさ。また胡散臭い話が出た。まぁそういうなって、俺同士……あれ?ん?

 なんか混じっているな。しかも複数。だから合一しなかったのか?なんだそりゃ、俺のことなのに解らないのか。大体、俺ってまだ死んでないんだ。合一してないのにそこまで解るかよ。でも面白い。なにがだ。いやいや、俺ってば詰まるところ他者を取り込んでいるんじゃね?はぁなに寝惚けた事いってんだ。そんな、どこぞのヴァンパイアみたいなこと………あ。そうだな、そうか。これは面白い。実に面白い。俺ってば神に成れるかもしれないようだ。はぁまたとんでもない事をって、そうかそういうことか。

 だろ、流石俺。俺の想ったことを理解したようだな。しかし、そんなんで神に成るって眉唾ものだ。いやいや俺がやれば、上手くいくさ。なんってたって、三千世界の俺の集合体。やれないことはないだろ。寝惚けたこといってんじゃねー。俺は俺、“お前はお前”だ。

 そうかな、どこまでが俺でどこまでが“お前”かなんて解るもんか。多少混ざり物があったところで、本質的に俺は俺である。大体“お前”は誰だ。俺だというには、なんか違う。それは混ざりものがあるせいだな。本格的に死ねば、混ざりものなんかどうとでもなる。俺は俺である。

 違う。“お前はお前”だ。

 ほら、そういう平行線なところ、俺そっくりだ。なにが平行線だ。だって、嫁の一人も抱けないヘタレだろ。あっなにこいつ俺の記憶を覗きやがって。だって俺だぜ、死んでないといっても死ぬ一歩手前だ。多少の繋がりはできるというもんさ。何適当なことを、俺だからな、そろそろか。

 あ、なにがそろそろ。

 俺の身体が、輪郭がぼやけ出している。対する俺も輪郭がぼやけ出している。俺が俺となる。

 だからいっただろ俺は俺であって俺である。

 あぁ解る俺は俺で俺なんだ。

 俺と情報、数多の世界の俺の集合体。本来なら、俺という“個”は無くなるはずなのに、俺であり続ける俺。

 そうさ、俺は人の枠を超えた。物理法則を破り、俺という“個”を成立させた。

 だが、俺が俺であるためには、まだ“情報”が足りない。“個”を確立するためには数多の俺が俺であることを認識し続けねばならない。

 それは、最初の一人か最後の一人か解らない。なにもかも“個”という存在が確立していないがため、始まりを認識できないから。

 俺が最後の俺なのか、最後になる俺なのか、そもそも俺が“個”を存続させるパーツであるのか。

 そら、俺なんだから、俺にしか解らんだろうに。俺という“個”は、俺一人なのか不明なんだし。

 そんなんやったら俺じゃないだろう。俺という位置づけ、“個”の情報というのはどういうことなんだ。

 魂さ。さっきもいっただろう。俺を俺であり続ける情報、“個”の情報。俺だけが特別な存在。

 有り得ない。俺というのは、生まれてから死ぬまでの間の“個”であるはずだ。それを無視はできない。

 だから、超越したのさ。物理法則を超えた世界で存在する“個”に俺は成った。じゃぁお迎えてっのはなんなんだ。

 俺がどこにいるかなんて、俺が一番良く解っているだろ?“個”と成った俺なんだから。

 なんだそれ。卵が先か鶏が先みたいな話をしてんじゃねー。

 俺は決別した。

 途端、混ざり合っていた部分の俺が、俺になる。

 でも、どうすんのさ。このままだと、結局俺になるだけなんだが。

 ぐぬぅ、確かにそうだ。どうやって戻ればいいのだろう。つか俺の身体はどうなっているんだ。

 自分のことなのに自分の状態が良く解らない。目の前にでもあればいいのに。

 ん?目の前、もしかして……。

 目を凝らす。力の流しかたは知っている。

 まだ俺の身体が生きているのなら……。

「それはやめておけ」

 俺が声に出して、忠告してきた。

「世界を覗く行為は危険だ」

「俺はまだ死んでいない。俺の世界の話だろ」

「あーそういうんじゃねーんだよ」

「じゃぁなんだってんだ」

「未練が残るだろ?」

「今だって未練たらたらだ。どうかしているぞ」

「あとは、俺が世界に干渉するなら、俺も干渉できるがいいのか」

「なんだそれ。何を云ってい……」

「ほら、止めないから俺にも見えた」

 瞬間、俺は集中を解いた。

 解いた筈なのに………、向うが見える。

「俺を通して、止めた俺にも見えてしまっているのさ」

「止めろ、観るなっ」

「俺のしたことだろう。俺が引き継いで何か問題でも」

「おおありだ。俺は止めた。“お前”も止めろ」

「観る俺と観ない俺。二つが一つの状態であるのも、仕方ない。ここはそんな世界だ。解っているだろう」

「またそういう」

「そういうことさ」

「いいから止めろってんだよっ」

「無茶をいうな。俺の中の観たい俺と見たくない俺がいるってだけで、俺がどうこうしているわけじゃない」

「屁理屈を」

「なら、俺と同一するか?そして俺を支配すればいい」

 冷たい感情が流れてきた。俺だから解る。俺の行動だから。

「ふむん、俺と俺が同じってことを認識したようだな」

「解る。俺自身に嘘はつけない。というか、嘘だと解る。俺の考えだから」

「なら、この観る俺と観ない俺の状態ってのも解るだろ」

 悔しいが解る。最初、観るなと言われた。しかし俺は観た。

 それが単に逆転しているだけなのだ。矛盾が矛盾したまま存在する世界。

 数多ある俺の可能性の問題であるだけで、俺の……。

「まて、“個”を確立したなら、矛盾が矛盾したまま存在するのか」

「自分で云って、自分で解っているだろう」

 俺が云う。

 あぁそうだ。俺は観たいんだ。何がどうなっているのか。だから、俺は観ている。観るなと云われても観る。

「ん、なかなか面白い世界じゃないか。女に囲まれてウハウハ。ウラヤマシネ」

「俺が俺に云って、虚しくないか?」

「それもそうだな」

 ………。

 ……。

「まぁあれだ」

「どれだ」

「その反応まさしく俺だな」

「うっさいわ」

「数多ある三千世界の俺の中には、生まれて間もなく死んだ俺や、冤罪で女を恨んで死んだ俺もいる」

 ………。

「一生、独身、童貞のまま、老衰したなんてのも」

「虚しくなるから止めてくれ。俺はまだ、終わっていない。終わった俺には同情するが……俺が俺を同情するってのもなんか変な気持ちになるが」

「まぁ俺と同一化すれば、そういうのも纏めて内包されるだけだから気にするな」

「なぁ、俺よ」

「なんだ俺よ」

「もう一度やり直したいとは想わないのか?」

「つまり、俺の身体を乗っ取れと?」

「そういうことをいってんじゃない」

「まぁ言いたいことは解る。解るが無理だ」

「なら……」

「俺ならどういう意味か解るだろ。もし、同一化して肉体にもどれば、確実に“裏返る”ぞ。それどころか弾けて肉塊になって、スプラッタ上等だぞ」

「それってどういう……」

「既に解っているだろう」

 解る。

 俺の肉体に、この魂に耐えきれない。

「可能性はある」

「シブロク……いや、サンナナの賭けなら乗らないこともないが、衛星軌道から針の穴を通すような真似は流石に無理だろ」

「俺ならできるだろ」

「で、やってどうする?確実に世界の脅威となるぞ」

 俺は黙る。

「この世界のSランクなんか、歯牙にも掛けない。在るだけで星を壊せるような存在に成れとはいわんやろ」

 成功しても失敗しても世界の滅亡か。

「まぁ“器”がもっとしっかりすれば、制御もできるだろうが、今はその時じゃないな」

 俺が俺に悟らされる。

「第一、肉体を捨てたのにまた肉の衣を着ろって?冗談じゃない。俺が死んだとき、俺の魂が俺にその体験を味あわせてくれんだろ。それに俺の目的は肉体を得ることじゃない」

 解る。

 俺の目的それは───。


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