Tempest 03
班はエルフ一人とメイド一人を組にして分けてある。路を拓くエルフとお互いで通信できるメイドを軸にメンバーを割り振った三つの班だ。
残り一人のメイド、ビアンカはここに残って俺たちといる。
指示を出した後、俺はここで荷物番となる。流石に30キロを背負って行動はさせられない。
「そんじゃ、ちょっくら暴れてくるぜ。土産を楽しみにしてるといい。あと報酬も頼むぜ」
言うなり、マルヤムが掛けだす。
「あっ勝手に!迷うわよっ。私達も行きます。報酬はラーメンで」
エルフのカルディアが軽く告げて駆ける。それに続いてメイドのアラキナに割り振ったメンバーが続いてく。各々に報酬を口にして。
絶対、金は先生方に払わせよう。心に固く誓った。
「では、こちらも行ってまいります」
シンディが丁寧な口調で告げると、その班も移動を開始した。
「報酬は、マスターになってもらうことです」
とだけ告げて。
なんだか視線が痛い気がする。あとで誤魔化そう。
残りの班も、言いたいことを行って出ていった。
残されたのは、ビアンカ以外だと俺と手を繋いだ状態でいる弥生にジャネット、結界を観ている千歳。
それと、あずさんが残っている。流石に人外の速度には着いていけないだろうとの判断である。
レンとメアリーは残りたそうではあったが、戦力として外せないから行ってもらっている。
「もうちょい時間あるようだから、他にないか探ってみる」
俺は監視作業を続けた。
これ以上現れられると、手が回らないかもしれない。数次第だが、源たちとの合流も視野に置く。
まだ、探しきってない場所へと視線を向かわせた。
見つからない。
電波妨害までしておいて、この程度なのか?
確かに、黒犬は脅威だ。人外の彼女たちでなければたやすく蹂躙されていただろう。
それが3カ所。ここと合せて4つは、十分な脅威ともとれなくもない。
いや、そうじゃない。
妨害電波をだしている大本がいるはずだ。なのに見つからない。巧く隠れているのか居ないのか。
見つけれなければ、解はでない。
………なんだか引っかかる。
こういう時は、素数を……は流石に時間の無駄だ。もう一度考え直してみる。
まず状況だ。
雨で状況が悪い。
妨害電波が発せられている。
黒犬が4つのグループで襲撃に来ている。
うち、一つは撃退済みで、いま残りの駆除に皆が行った。
狙いはなんだ?
黒犬だけの襲撃なら、まだ偶然とも言えるが、それも4つと成れば話しは違ってくる。
妨害電波もそうだ。連絡を取らせないようにしている訳だ。
………誰に?
………狙いは誰に?それともどこかの施設?何らかの示威行為?
………待て、襲撃されたのはここ(行軍の学生)だけ?
「弥生、この襲撃の目的ってのは何か予想つく?」
「我を標的にしていると?」
一番簡単に連想が着くだろう答えを告げてきた。
「いや、それはないな」
反論する。
「そうだな。まずこのの襲撃が、我が目的だとすれば、それは余りにも稚拙すぎる」
「そうだろうな」
本気を出せば、歩く厄災だ。この程度でどうにかなるもんではない。大隊くらいで来てもどうにもならない……と、思っている。
大体、千歳よりも強い時点でいわずものがな。
で、あるならば、本命は別にある。
「ここは陽動?」
一体誰にとっての……。
「本命はここだろう。通信が妨害されているのがその証拠だ」
なるほど。
陽動であるなら、襲撃への救援要請を相手は出させたいはずだ。その後で妨害電波を出して混乱させたほうがスジというものだ。
「陽動の手違いがあったということは」
「それを望んでも仕方ない。そうであれば、これ以上は何もないだろう」
ふむん。
確かに、陽動であるならば、本命の巻き添えなだけで、俺たちがこれ以上どうすることはない。というかできない。相手の目的が不明なのだから。何処で何をされても、向かう場所さえ解らない。踊らされたムカツキだけは残るが、どうにもならない。
そうではなかったら。
本命がここ。つまり俺たち学生。いや、軍学校へなんらかの……。駄目だ、話が壮大すぎて何も浮かばん。
もっと絞り込まなくては。
もし、俺たち、人外のクラスへの何らかの……、クラスの誰かが目的……。
メアリー?
クラスの重要人物。
弥生でなければ、メアリーか千歳かになる……のかな?
どちらも姫だ。
だが、千歳の線はないだろう。
こんなことを言ってはなんだが、どうこうしたところで、何が起きるというのか。
まぁ、個人的に恨みを買っていての復讐って線は捨てれないが、ここでコトを起こす意味がない。
……はずだ。
恨みで千歳を狙うなら、ここまでのことはしないだろう。………しないよね?いくらなんでも。
恨みを持つ人外がいたとして、普通の人間を巻き添えにするのは、協定のこともある。自分たちの立場が危うくなるような真似までは………。
なんだろう、色々否定できない。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いってのもある。人と仲良くする人外など言語道断だと主張する輩がいても不思議はない。日本はまだ手を取り合っているが、それも大局的なもので、個人的なこととなれば解ったもんじゃないしな。
人外でも普通(とは言いにくいが)の人外がこっちに来て、色々と学ぶ。
それを良く思わない輩がいても、流石に手を出すまでには至らないだろう。もっと大々的に大人数であれば流石にそうでは……。ぉぃ、俺のクラス、半分がそうだぞ。日本の人外達だよ。
あれ、ちょっと待ってください。
普通は学年単位で数人って話だったよな。うむ、大量である。しかも姫と呼ばれるような人物がいる。旗頭として、他からしてみれば目につくだろう。その実情はどうであれ……。
十分本命と見なされ、なおかつこんな規模での襲撃があってもおかしくはないのか。冷や汗が流れる。
だからといって、それで決まった訳ではない。
メアリーにも同じことが当てはまるだろう。
週末は積極的に外に出て、何かしらやっている。そこで反対派に目をつけられてしまったとか。
UKで、彼女をよろしく思わないものが、やってきた可能性もある。なんだっけ、エリザベスと確執があったとかなんとか言ってたような。彼女たちの事情なんかこれっぽっちも知りたくはないが。だとすれば、この騒ぎはエリザベスが仕組んだことになるのか?
無いな。有り得ない。彼女が俺にメイドを寄越しておいて、それを御破算にすることがある訳がない。それともなかなか認めないから痺れを効かせてこんなマネをしたってことは……有り得ん。メアリーを焚きつけて、仕掛けてくる方がなんぼもマシである。例え長船がいたとして………。
奴ならアリエル!!!!!
どんなに理不尽で、スジが通ってようがなかろうが、ヤツならどんなことでも有り得る!
よしっ、犯人は長船。それで決まりでいいや。面倒がなくていい。
………なーんてねっ。
そうしたいの山々だが、流石に弥生を巻き込むようなことはしないだろう。妙に肩入れしていたし、シスコン拗らせたような発言もしていた。
どこまで本気なのか解らないが。
それが、全部演技であるならたいしたものだけど、流石にそれはないだろうなぁ。まぁヤツのことはほっておく。
話をメアリーに戻してってと。
逆にUKと日本の間をよろしく思わないものがいて、日本で彼女を殺害することで、楔を打ち込みたい。なんてことも考えに浮かぶ。
………話が壮大すぎて処理不能だ。第一、あれやこれと理由をつければなんでもござれだっての。
ちょっと冷静になろうか、俺。
こんなことを真顔で云ったら、後々どんなネタにされるか解ったもんじゃないぜ。
留学組の人外達だって、安心はできない。馬鹿船が連れてきた連中だ。一癖も二癖もあるし、裏事情ガーとか絶対あるに決まっている。
スイレンがその例だ。他の面々も裏事情がわんさか山積みと聞かされても驚かんよ。ない事を切に願うけど。
あれは偶然の遭遇ではあったが、種馬が一枚噛んでいるのだ、本当に偶然といってよいのか疑ってかかってくらいが丁度いい。被害妄想だと思うなかれ。ヤツの影がちらつけば@何がどう転んでもおかしくない。
って、流石に被害妄想か。
どうも馬鹿船のこととなると、俺も色々冷静では居られない。なんで、あんなんが友なんだろう。
不思議だ。本当に不思議だ。大事なことなので二回云う。
要するに、このクラスは世界的な火種が詰まっている。もうそれだけでおなか一杯だ。
つか、俺がどうこうできる話じゃねぇっての。なんだか余計な思考に振り回されているな。
とりあえず、廻りを巡っている視線の先には何も見つからない。
本命がここじゃなく、陽動だった場合、どこが狙われる?
相手が何らかの狙いがあってこんなことをしているならば、妨害するためにも他にも何かしら騒動をおこしている可能性がある。
狙われる一番の目標といえば………軍港か。
ただ、こんな所の軍港狙ってどうするの、という思いがある。違うか、この地が狙われているとするならば、軍港は余計なものだ。行動を停められる可能性は高いというより以前、確定的だ。
街で何かあれば、警察のお仕事だが、それが人外、とりわけ魔獣の類だとするならば、軍隊の出動に直ぐ切り替わるだろう。
ならば、確認のためにもそっちを──。
「時間じゃ。効果が切れる」
千歳の声がした。
なぬっ、もうちょい待ってくれ。せめて、街を港を確認するまでは。
慌てて視線を移動させる。
「主よ、早く切れ」
「もうちょっとだけ」
「ならぬっ」
「そこをなんとか」
視線を飛ばす。街へ港へと急がせる。
「早く戻るのじゃっ、弾けるぞ」
弾けるって大げさな。危なくなったら切るでいい。
千歳の制止を無視しつつ、視線を急がせる。
相変わらずモザイクの世界。
青黒い空模様は雨雲と雨のせいだ。
眼下には深緑のモザイク。木々の緑だ。
灰色のモザイクは街か。更にその先──。
視界がぐらついた。
効果が切れたのか、途端に制御が乱れる。明滅する視界、色あせていくモザイク模様に焦りがつのる。
散らばる意識の手綱を握りしめ、集中する。
何かが弾ける音がした。水道管が破裂したような音。続いて、ブチブチと繊維を引き裂くような音もする。
まだだ、まだ行ける。この先を見ずには。確認せずには──。