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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第五章
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ニイタカヤマノボレ 04

 今更だが、なんで俺なんかを好きになってくれているのだろう。あの時の献身的な行動、今もずっと傍らで看護してくれていたし。ただ、俺が弥生に対して何か好かれるようなことをした覚えはない。あずさんもそうなんだが……。

 まぁあずさんは置いといて、千歳は色々と理由があるのはなんとなく解っている。単におれをエスケープゴートに仕立て上げている気もしないではないが。

 メアリーもいまいちよく分からないところはある。ホント俺なんかの何処がいいのだろう。先輩たちもそうだよな。

 そこで、はたと気付いた。

 俺って彼女たちに好かれるようなことしてないよな。引っ張り廻されて付き合ったりしてたけど、俺からってのは何もない。

 いや、まぁ、色々警戒して手を出さないように気をつけていた。というか、避けている。

 これもそれも、長船野郎の“護衛”の弊害なのか?アレのお蔭で、女の醜い面を嫌というほど思い知ったからなぁ。アレのことをなんとか片隅にでも置くことにして、もう少し、積極的に前にでるようなことをしたとしてもいいんじゃねーのかな。

 だが、俺が誰かを好きになる?恋をする?愛を囁く?

 そんな情景が全然浮かんでこない。

 確かに、弥生たちは好ましい存在だ。色々やり方を間違ってはいるようだが、献身的であるし、容姿もよければ、頭脳も明晰、勿論運動に関してもなんら問題はない。というか突き抜けている。

 そんなスーパーウーマンが俺を好きになってくれている。想ってくれているから、応えたい。普通の感情だが、それでいいのか?

 なんとなく違うような気がする。

 なぁなぁでこのままずっとやっていける気もするが。

 命を救ってくれた恩はある。命を懸けて報いるつもりもある。

 だが、それは貸し借りな関係だ。好きといわれていようが、俺が何かしてやりたいような情動は薄いといわざるを得ない。

 このまま、付き合っていていいものかどうか。

 弥生とは約束がある。だから付き合っている。

 あずさとは何もないが、一応世話にはなっている。なってないこともあるが。

 千歳は?彼女の行動原理は聞かされた。それに押し切られるように今がある。

 先輩たちは?メアリーは?

 ここまでの関係ではないだろうが、メイド4姉妹にジャネット、スイレンもいる。

 あと、天目先生もそうか。

 俺が自主的になにもしてないのに、どうしてこういう状況になってしまったのか。

 俺じゃなくても良かったんじゃないのか?たまたま巡り合わせただけだろう。

 そんなもんで、付き合うとかしていいのだろうか。

 気楽に流されるままに付き合っても問題はないのか?

 なんだよ、主体性がなさすぎるぜ、俺様よ。

 そんなことをモンモンと思考が頭の中で渦巻いている内にテントに辿り着いた。

 結局、弥生との会話はなかった。


 あずさんとマルガリータが組み立てたテントの隅にフライテントまて張っており、その中に石を積み上げた竈があった。

 二人は竈の横にある、簡易的な組み立てテーブルに向かって一心不乱に料理の準備をしていた。

 見た感じ、カレーのようではなかった。使っている材料が違うからだ。共通なのはもちろんあるが、肝心なものが無かった。ルーだ。

 タマネギ、ニンジン、ジャガ芋、キャベツ、トマト、牛肉、ソーセージ、ハム、ベーコン、肉団子……は鳥のか?、リンゴ、インゲン……あと見たことのない青菜などがあった。

 なんだ、闇鍋でもなさそうだが、これってどんなものが出来上がるのだろうか。

 想像がつかなかった。

 料理はマルガリータが主に作っている。あずさんは補助で入っているようで、ご飯を炊いたりしていた。

 鍋の中をみてみる。

 ……紅い。

 見た目はとても辛そうな印象を受ける。しかし、香辛料の類が見受けれなく、疑問である。

 まぁ喰えればいいかな。深く突っ込むのは諦めた。駄目なら非常食のレーションがあるしとタカをくくっておく。

 最悪ご飯に塩でも腹は膨れるさ。


 自分のテントを確認する。

 弥生には、マルガリータ達の手伝いを頼んだ。一応“男部屋”になるし、中へは連れてけないからだ。

 6人用のテントが並ぶ。俺のは2人用の寝るだけテントだ。

 出口部分が広がっていて張り出した屋根がついており、そこで簡易コンロで料理をするくらいの小さなスペースができている。

 だが、見つからない。

 ………え?

 何処から見ても6人テントしか並んでいない。

 はっはっはーアレだね。女子とは近い場所に設営する訳にはいかないから、少し離れているんだよ、きっと。

 キョロキョロと辺りを探す。

 ………どこにもそれらしいテントは無かった。

 変わりに、木の根元に置かれた俺のナップザックを発見した。

 しばし呆然と眺める。

 やるせなさと怒りが沸いてくる。

 いやいや、少し良心的に考えようか俺。

 いくらなんでも、女子が男子の荷物を漁るマネは無理だろう。あずさんダケなら構わず拡げられたかもしれないが、マルガリータもいる。

 うん、そうだろう、それしかない。

 だいたい、2人用テントなんて直ぐに建てれる。別に誰かにやってもらうまでもないんだからねっ。

 まぁここでうんうん唸ってても仕方ないのは確実だ。寝床を作らなければならない。

 辺りを見回す。

 女子のテントからは、少し離れた場所だ。考えるまでもなく、ここに建てろってことなのだろう。

 多少のだるさが残る身体を動かし、テントの設営に取りかかった。

 独りで出来るもんっ。


 テントを建てるのは10分程度で完了した。

 2人用テントなんてそんなものだ。

 ナップザックから着替えと寝袋を取り出し準備しておく。

 そうこうしている内に騒がしくなってきた。出発地点まで往復させられた彼女たちが戻ってきたようである。

 彼女たちを迎えるべく、テントから出る。

 ぞろぞろと連なるそれは、流石に40kmを走破してきただけに疲労の度合いが高そうだった。何故だか服装も泥まみれだ。

 ショートカットしようとしたのか?いやいくらなんでも同じことをすれば、また往復の形に処されるだろうしそれはないだろうが、なにやっていたんだろう。

「お帰り、食事の用意はマルガリータ達がやっているから、汚れを落としてきてはどう?」

 一瞬の間。

「ケッ」

 俺を無視して皆は各々がテントを探し出し中へと入っていく。

 ……あれ?なんだか険悪な雰囲気。

 呆然と突っ立っていると、ジャネットとレンがやってきた。

「あー、お疲れ」

 二人は心底疲れ切った顔をしていた。流石に人外といえども40kmは堪えたようだ。

「襲、撃に、あった」

 レンがぼそっと告げた。

「天目先生だった」

 誰であったかをジャネットが続けて言う。

「手ごわかった。手も足も出なかった。余の身が弱体化しているとはいえ、あれほどとは思わなかった」

「まぁ、そうだね」

 捕獲作戦時の戦闘を観ていれば、さもあらんというところだが、彼女たちは天目先生の本当の凄さを知らない。

 ジャネットと千歳は知っているか。まぁジャネットの方は、まともに戦闘していなかったからなぁ。読みが外れたのかねぇ。

 あの時、あのまま続けていたら、どこまで被害が出ていただろうか。

「にしても、全員を相手にそこまでとは予想外だな」

「いや、一対一だ」

「はぁ?」

「課外授業だそうな」

「なるほど、よくわからん」

 天目先生、あんたいったい何したいんだ。

「いや、おもいしらされた。世の中には上というものがあるということを」

 ボス猿争いじゃあるまいし。

「うーん、それは良かったことなのか?納得しているならいいんだが」

 何か人外同士での心得というか、仁義みたいなものでもあるのだろうか。

「そうだな。いい勉強になった……ということなのだろう、色々と」

 俺を見つめる顔には悔しさが多少出ていた。

「レンは大丈夫だったか?」

「おなか、がすいた」

 ジャネットと顔を見合せ、乾いた笑いが同時に出た。

「夕食は直ぐだろうから、汚れを落としてくるといい」

 ここでずっと引き止めて時間を潰させるわけにいかない。

 ……あれ?ヤクイチメイ足りないような。

「千歳はどうした?」

「特別授業だそうだ」

「……つまり?」

「我々は、夕食の時間があるからと先に帰らされた」

「んで、千歳だけが居残りってことか」

「あい、つ馬鹿」

 レンが珍しく言ってきた。

「負けていない。決着がつくまでと、一人残った。どうみても負けているのに諦めが悪い」

「なるほど千歳だな。てか、俺とやったときはあっさり負けを認めたのに、それを考えるとおかしい気もするが、ふむぅ」

 俺の言葉に二人は反応する。

「余としたことが抜かったわ」

「……いい、おなか、すいた」

 様々である。

「こうしてはおれん」

「まて、行くな」

 戻ろうとするジャネットを呼び止める。

「しかしっ」

「今は団体行動中だ。勝手な行動されると全員の責任となる。何故戻ろうとするのかわからんが、日も暮れる。とっとと汚れを落として飯にしろ」

 がっくりとうなだれるのを見て、やれやれと思うが。勝手な行動をされては、こっちがやれやれだ。

「一体、余はなんなのだろうな」

 呟きながら言われた通りテントへと向かうジャネットであった。

 そんなの俺が聞きてぇーわ。

 その後、夕食も終わりかけの段になって、天目先生に連れられて千歳が戻ってきた。

「時間切れの引き分けじゃ」

 そんなことをぼろぼろの姿でのたまわっていたのが印象的だった。

 因みに夕餉はボルシチというもので、味的にはトマトシチューの類だった。好きか嫌いかだと、嫌いではないってところか。ご飯に合うあわないは大きな判断のしどころだ。


 さて、飯のあとは風呂である。

 帝国軍謹製、野戦風呂が態々設営されているのを利用だ。

 男風呂1に対して女風呂は2の割合ではあるが、人数的にはすかすかの男風呂で、ギュウギュウ詰めの女風呂であった。

 さらに男は烏の行水であるが、女は長風呂と相場は決まっている。必然、後が使えててんやわんやの大騒ぎが、隣の方から聞こえる。

「はぁー極楽極楽♪」

 姦しい喧騒を背景音楽にのんびりと浸かる。

 あー、いまこそ男で良かった。そんな思いがする。

 他の男子の視線さえ無ければ……。

 俺のことをどう見られているのか、マル解りというか、敬遠されているのだろうな。

 総合演習の時の少佐たちをふと思い出す。後輩で学生という立場であったからこそかもしれないが、友好的に接してくれた。

 もしくは、皇族の縁者になるかもしれないからという見方もある。……いや、それはないか。そんなに丁寧には扱われた記憶はない。あくまで学生の立場というところまでだ。踏み込ませてはくれなかった訳で。俺としても前線に出ろと言われても困る。

 そういう線引きはしっかりしていたと思う。

 皇軍だからなのか?

 今日、設営で来ている帝国軍の人達はなんかよそよそしかった感じもする。逆に俺が皇軍という立場のせいかもしれない。名ばかりではあるが、彼等彼女等からしてみれば、雲の上の存在になるのか?

 皇軍は帝国軍のエリートがなるもの。そう想っていた時期がありました。

 実態をみると、なんだか嘘くさい気はするが、そこんとこどうなんでしょう。今度、小早川大尉と話しをする機会があれば聞いてみたいところだ。でも、そんなことを聞けば、皇軍へと引きずり込まれないか、それが心配でもある。

 結局は、俺が軍隊へ所属するつもりでなければ、聞かない方がいいのかもしれない。

 そんなことを、ボーとしながら考えつつ湯船に使っていたら、気がつけば風呂場に人が居なくなっていた。

 近くでラッパの音が聞こえる。

 ん?この時間って何かあったけ?就寝時間まではまだまだ余裕の筈だが。

 何か知らされていないことがあったけか。ずっと救護テントで寝てたし、新たな伝達事項があったとしたら……、いや、弥生たちは何も言ってこなかったし、それはないだろう。

 それじゃなんなんだ?

 色々考察しているうちに、脱衣所から黄色い声がしだした。

「へ?」


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