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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第五章
162/193

ニイタカヤマノボレ 02

 因みに、俺たちの留学組で纏まった班の構成はというと、こんな感じだ。


 Z-1(ズーワン)小隊

 一班:平坂ひらさか安西あんざい霧島きりしま仁科にしな、4年生

 二班:前田まえだ北条ほうじょう結城ゆうきみなもと間部まなべ

 三班:羽柴はしば石田いしだ竹中たけなか、2年生、2年生

 四班:櫛橋くしはし最上もがみ亘理わたり龍造寺りゅうぞうじ、3年生


 Z-2(ズーツー)小隊

 一班:すめらぎひいらぎ、ジャネット、ドゥルガー、中島なかじま

 二班:メアリー、アラキナ、ビアンカ、シンディ、ディアナ

 三班:カナン、イフェ、カルディア、エレノア、シルヴィア

 四班:マルガリータ、マルヤム、フィリス、クリスティーナ


 という構成である。上級生が一人づつ入るような事を言っていたが、四天王候補生と行動を供にするのは遠慮したいとのことで、間部が入っている。


 と、まぁ割と順当な組み合わせとなった。メアリーはメイド4姉妹と班を組めば、カナンとイフェはエルフ3人と組んでの班分けとなり、余った4人が残りという構成だ。

 クリスティーナはこっちをみて狡いとか言ってたが、まぁそこは諦めてください。俺に班の構成をどうこうする権限はないのである。遺憾の意を発しよう。

 余り物のように見える四班もマルガリータがマルヤムを抑えてくれるだろうし、フィリスは……よく分からないが、ムードメーカーのクリスティーナもいるしで、割とバランスいいきがしないでもない。


「異議あり!」

 クリスティーナが立ち上がる。

「なんだどうした?」

「こっちは4人だ、入れ替えを、いや追加を要請します」

「だが、誰をだ。他の班は5人で埋まっているだろ」

「中島サンをこの班にいれるべきだ」

「さぁ平坂たちがいったら、次は俺たちの番だからな。千歳、コースマップ受け取ってきてくれ」

「無視するなー」

 クリスティーナが絡んでくる。

「わっこら、くっつくな、腕を絡めるな、脚もだ」

 ひっつき蟲の如く絡まれながらも、絶妙なバランスでゆらゆらしながら、倒れないよう拮抗を保つ。

 引き剥がそうと肩を掴み、押し返そうとするが、人外である彼女の力を振り払うことがでない。

 じゃぁ不可抗力ってことで、いろんな所を弄るのはいいのかと思うが、それをすれば俺の明日がやってこない気がひしひしと感じる。視線も痛い。

 ぼそっと喋ったあずさんの口が、“エロつる魔神”と読めた気がしたが、不可抗力である。そういわれるのを気にして何もしてないのに理不尽である。

「班の移動つったって、小隊として一緒に行動すんだから、意味ないと思うけど」

「いやー、違うね。断然違う」

 そう、耳元で力説された。あー耳がキンキンする。

 訳が解らん。改めていうまでもなく、班は違えど一緒に行動するのだ。別段班を変わる意味はない。

「とりあえず離れろ。皆の視線で死ぬ」

「こっちの班に来るなら離れてあげる」

 なぜここまで力説してくるのだ?しかも、訳の解らん色仕掛けまでしてきて。男子としては嬉しいが、後が怖いのでデレるにデレれない。

「なんだそれは。もしかして、お前、予知ができるとか?それで、なにがしらの危険があって、班を移動すれば回避できるとか、そういう──」

「そんな訳ないでしょ。中坊みたいなこといってんじゃないわよ」

 ………殺していいかな。いや、どうあがいても返り討ちだろうけど。

「じゃぁなんなんだよ。このままだと出発できねーじゃねーか」

「なんだよ、僕と一緒にいるのがそんなに嫌なのか」

 口を尖らせて拗ねられた。

 ふと視線を巡らす。廻りの反応が様々であった。さげずんだ視線、何かを期待するような視線、怒り一歩手前な視線、その他モロモロ。 

「嫌とかいう話じゃねーだろ。この期に及んで何がしたいんだ」

 まじ、胸でも揉んだろか。

 待て俺、それは危険だ、とても危険。そんなことしたら移動は決定的になる。ついでに謝罪と賠償もつけられる。

『所有者様、警報です。ペンダントが窃盗されようとしています』

 唐突に頭の中で声が響く。

 なぬっ?

 反射的に胸元へと手をやると、クリスティーナの手首と当りそのまま掴んだ。

 視線があう。そのまま掴んだ手首へと降ろしていく。

「フフフ、そういうことか」

「あははは、なんのことかなー」

「てめーばっくれてんじゃねー。その手にあるのはなんだ、言ってみろ!」

「違うよ、偶然だよ。弄っていたら偶然!偶然、手にぽろっと入って……」

「よしっ解った。お前に預けてたバイク、没収な」

 一目散に逃げって行った。

 馬鹿めっ、逃げようが没収は変わらぬわっ!とりあえず一カ月は禁止としよう。

 ふぅ、思わず溜め息が漏れる。

 まったく抜け目がないつーかなんつーか、バイク渡したせいでタガが緩んだか?それとも与し易いと勘違いしたか。俺の中で、クリスティーナの評価は最低辺当りまで急降下した。

「マイロード、それはあまり人目につかない様にお願いします」

「見せつけてるわけじゃなかっんだがな。目敏く見つけられたわ」

 ビアンカが警告?忠告?してきた。

「つかそんな大層なもんを今でも俺に持たせておくなといいたいのだが」

「それの所有権はマイロードにあります。今更です」

「突っ返したいんだが」

「拒否します」

 云って、手に持っていたペンダントを俺の首に掛け直し、シャツの中へと直していく。一瞬の手技であった。

「くれぐれも大事にしてください。それはわたした──、いえ、なんでもありません」

 私達の国の大事な宝石なのですから。かな?云おうとしたのは。そんなことをいったら、俺が絶対返却するだろうと解っているから。……つかほんとにそうだったら、いやそうでなくてもいかんよいかん。

 返すべきではあるんだが、なんだか色々お世話になっている気がして勿体ない気がヒシヒシと伝ってはいるんだが、心を鬼にしなくてはならない。

 ……ま、とりあえず、行軍が終わるまでは預かっておこう。なんせ、これがあると凄く体調が楽で動きのキレもよいと。お守り以上に効果があるのだから。………ガメないからねっ!

『にしても、助かった。サンクス』

『No probrem』

 そっと帽子の天辺をみやる。

 見えないが、そこにはチエリがいるはずである。

 経緯はどうであれ、着いてきてしまっている。寮で待ってて欲しかったが、放置してたらまた面倒なことが起きそうであるからして、しぶしぶ連れてきた。面倒をみる天目先生もこの行軍に参加なもんで、寮には誰も居なくなるからな。

『見つからない様に気をつけてくれよ』

『No probrem』

 そう、チエリは今、透明化して俺の帽子であるカウボーイハットの天辺に座っている。

 弥生や千歳、あずさんは知っているが、それ以外には一応内緒にしている。知られたら、またぞろ厄介事になるからな。

 こっそりポケットから、指一本くらいの大きさの専用食の高カロリースティックを一本差し出して渡した。

 チエリにとって、一本で三日くらいはそれで保つ食料である。

 先は長い。一週間……週末までの5日をおもいやられた。


 学校の裏門から出て早一時間、俺は既に、とてつもなく、どうしようもなく後悔していた。

 一日20キロの行軍である。

 各ゴールである野営地に行くまでに5キロ程度の距離毎にポストがあり、順繰りに巡っていく。ポストには番号が振られており、それを記録しておかなければならない。一日のゴールで記録した番号を報告し、不正がないことを確認する。

 不正があれば、戻って確認だ。

 ポストの位置は帝国軍の方々が態々設置してくれ、毎年同じ位置にあるとは限らず、地図とコンパスを頼りに探さなければならない。俗に言うポイント・オリエンテーリングだ。

 地図は1/10000の縮尺図と、ポストに至る分解された図である。道を間違えるとあてどもなく彷徨うことになる。まぁそんなに難しい訳じゃないのでそうそう迷うことはないのであるが……。

 ……地図通りに進めば。

 この小隊、先頭はエルフ3人娘がいる3班が担っている。

 曰く。

「森の事ならエルフにお任せよっ」

 エルフと言えば、森。森と言えばエルフと誰もが納得の配剤である。

 野性の勘に加え、地図とコンパスがあれば鬼に金棒だろう。

 迷うことなく、最短距離で突き進み、余裕を持って一日のゴールへと到達できる。そんな確信があった。

 だから任せた。

 そして………任せたのがいけなかった。

 意気揚々と彼女たちは突き進む。本能を解放して、天性の才能を発揮して。

 農道から山道へ、森へと突き進む。

 道無き道を切り開き、高い崖だろうが切り立った崖だろうかお構いなしに、十全に能力を奮って目的地まで一直線。

「止めてくださいマジ死んでしまいます」

 思わず泣きがはいる。

 人はそれを道とはいわない。

 そんな雑草が生え、獣道でさえもない、茂みを分けて彼女たちは突き進む。

 確かに直線距離である。

 道を無視し、高低差を無視し、茂みを己の持つ鉈で掻き分け邁進する。

 俺は最後尾の班で、皆が通って跡ができた道をえっちらおっちら着いていく。こうでもしないとついていけない。

「だらしないのぅ」

 横で千歳が軽快な声を発して俺をなじってくる。

 やはり、こいつらバケモノだ。なんで皆平気なんだよっ!

 木々が生い茂り、シダ類が足元を覆い隠すような道。

 人の倍はある段差の崖を何の躊躇いもなく降りたり登ったり。ちくしょーなんで“一歩”でそんなことができんだよっ。

 あまつさえ、木に登るルートなんかまである。

 息を切らしているのは俺ただ独り。それどころではない。命をすり減らしているのは俺ただ独りだ。

 総合演習で無駄に装備を持たされて走らされたからには、それなりに体力もついて余裕だと思っていました。

 だが、現実は残酷であった。

「I can fly!」

 5メートルの高さを飛び下りる。

 フォースパワーを巡らせ、肉体強化してなければ死んでいる。30キロの荷物を背負っていなければ、なんとかなるかもしれないが、なんともならない。

 いちいち荷物を降ろして、吊り下げ吊り上げえっちらおっちらサセテクダサイ!

 なぜ、みんな散歩でもしているような感覚でずんずん奥へと進めるんだ。ちくしょーめーーー。

 などと嘆いている場合ではない。

「置いてかないでー」

 必死にあとを追った。

 にしても、弥生たちは冷たい。俺がこんなにぜぇぜぇ云ってるのに気にかけているように見えない。一応最後尾である俺に会わせて後ろには居てくれているのだが、誰も手伝おうとか、助けようなどといった行為は一切してこない。

 まぁそんなことされたら、俺の心が折れるけどな。

 だって、みっともないじゃん。なけなしの自尊心が俺を奮い立たせる。

『次のポストにそろそろ到達します』

 頭の上でのんびりと帽子に腰掛けているチエリが告げる。

「とりあえず一息つけそうだな」

 そんな益体のないことを夢想した。


 先頭が茂みから山道へと躍り出た。

「少しずれたみたいだね」

「ん、この位は誤差だよ」

 ゾロゾロと後続が続いて茂みの中から姿を現す。

「ポストの位置は……あそこだね」

 目敏く見つけたエルフの一人、エレノアが指差す。

 丁度、どこかの小隊がポスト付近で休んでいた。

「オラとっとと行くぞ」

 ガハハと豪快に笑いながら、マルヤムが遠慮もなしにずかずかと進みゆく。

 ポストに近づくに連れ、視線が痛い。

 畏怖?恐怖?襲われるのではないかと思った奴もいそうだな。

 どうすっか……。このまま休憩とったとして、この雰囲気、この視線。休まるものも休まるまい。

 休憩は諦めて、皆を急かすか。一番休みたいのは俺だってのに、なぜ気をつかわなければならないんだっての。

 逡巡していると、番号を書き取ったとエルフのカルディアが告げてきた。

 ええい、休もう。視線がなんだってンだ。先にいた班は先に移動を始めるだろう。向うもこっちに構っている余裕はないはずだ。とっとといなくなれっ。

「それじゃ次に行きますよ」

 最後のエルフ、シルヴィアが当然のように告げる。

 次はどこだーとか、昼飯の場所はしっかりいいところ探せよなとか、そんな声が聞こえ………俺たちの小隊は休む間もなく、茂みの中へと邁進していく。

 俺は息も絶え絶えになりながらも、必死に後ろをついて行った。唖然とした見送りの視線を受けながら。

 ………もうゴールしてもいいよね?ねっ!


気付けば、20万PVを突破。

\(^o^)/バンザーイ。

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