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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第五章
161/193

ニイタカヤマノボレ 01

ニイタカヤマノボレ


「荷物の点検は済んだか?重いものは上、軽いものは下、ちゃんと守ったか」

 六道先生が各自の荷物を見廻って、最後の確認を済ませている。

 俺は俺のキスリングを観る。

 一番下から寝袋に着替え、食料、水、食器、コッヘル、ストーブ、ガス缶などを含めた料理具。テントの部品や折り畳みシャベルなどの道具。

 俺の持つテントは2人用、まぁそういうことだ。男は俺しか居ないからな。ひとりで全部持つことになる。他の面子は6人用テントを分散させて持っている。フライ、シーツ、支柱、ペグ含めて4人で分けている。もちろん寝床用のだけではなく、料理するための屋根となるテントも含まれている。

 簡易食卓セットもあるぜ。強化プラスチックで見た目ほど重くないが、それでも独りで運ぶには荷が重すぎる。これもまた分散して持っていく。

 サイドポケットには飯ごう、カッパ、ロープ、水筒、携行食など雑多に詰め込まれている。

 ウェストベルトのポケットにはコンパスや地図といった行軍用の道具を仕舞っている。

 後、キャンプではなく行軍のために通信機も装備の一つだ。5人一組の班に渡される近距離用途のヘッドセット。他の部隊との連絡用の中型通信機となる。

 中型通信機はあずさん持ちで、残りのメンバーがヘッドセットを装備している。

 流石に鉄砲の類は携行品として支給されていないが、鉈とナイフはベルトにぶら下がっている。

 このナイフ……柄だけはやたらと造りのよいナイフ。こんなの渡されてもなぁ。

「お前たちの馬鹿騒ぎのせいで俺の面目は丸潰れだ。いいか、二度目はない、肝に命じておけ。山ン中で騒ぎなんかおこそうものならどうなるか覚悟しておけ」

 威嚇する先生、相当機嫌が悪いと見える。

 そらそうだ。過日の出来事を思い出す。


 事の起こりは、そう、全校生徒での班分けした交流会である。

 上級生とのお目通り、俺たちの班は弥生の御威光もあって、表立って人外に対する差別的な視線は少なかった。

 というより、俺に対してのやっかみや嫉妬の視線が痛かった程度で、まぁいつも通りといえばいつも通りであるので、気にはしなかった。

 だが、そういう“御威光”がなければどうなる?

「あーなんだって、俺らが道具全部持てだと、ふざけるな」

 同じ班の上級生が権力を笠に着て、荷物の配分で無理やり重いものを持たせようとでもしたのだろう。

 結果、こーなった。

 ホント、どうしてこうなった。

 あれよあれよと、罵り合いから手が出て、足が出て、乱闘となった。

 一年で、体育祭優勝のクラスを轟かせたのもあるのだろう。力は有り余っている。だからと、上級生はその位の荷物を持っても大丈夫だろ。いや、下級生は上級生に従うもんだ、当然だ。

 全校生徒がそういうヤツ等ばかりではないことは解っているが、それでも一部の馬鹿が威張るせいで人外と只の一般人という対立の構図が出来上がり、事態は深刻化、険悪な流れがいっそう加速し……爆発、乱闘という流れであった。

 上級生の人外を含む人外対人で乱闘を起こした結果、乱闘に加わった人側を全部のしてしまった。中には多少逃亡したやつもいるだろうが。こまけーことはいいんだよ。

 ハハハ、乾いた笑いがでたぜ、あの時は。停める間もなくというか、俺の与り知らぬ場所での出来事。無理ですはい。

 でもまぁなんだ、のしただけで終わって良かったともいえる。人外が暴れるということは、人死にがでるのが普通である。彼女たちは程よく手加減を憶えてくれていたとも言える。

 惨事にならなくて幸運だったのだ。

 そう言えるのだが……その結果、俺たちZクラスは何処の班からも受け入れを拒否されることとなる。あまつさえ上級生の人外も同じ状況となり、上級生の人外1班、そこからあぶれた数人とZクラス日本側の人外、留学組という班分けが新たに創られた。

 人と人外の溝は埋まらない。お互いがお互いを意識しすぎて溝を深めている。にしてもまぁ馬鹿すぎる結果だ。

 人外の脳筋ぶりは今更だが、流石軍学校、人側も多分に漏れず脳筋であった。

 俺?その時は弥生たちとさっくり外側に退避して難を逃れました。争いイクナイ。

 というか、乱闘の輪の中に突撃しようとする千歳を抑えていたのだから、まぁなんだ、役には立ってたと思うよ、うん。

 ただ、乱闘が始まると即効で千歳の廻りから人が居なくなったけど……俺の知らない間になにがあったんでしょうか、知りたくもないですハイ。

 あと、風紀委員がオカンムリで、首謀者は特別教練を受けることとなり、この行軍には参加していない。

 もっとハードでいや~んな所に放り込まれたとかなんとか。人外側は放り込んでも意に介さないだろうけど、まぁこっちは被害者側なので、誰も掴まらなかった。つか、そんな首謀者と一緒にすりゃ、今度こそ人死にがでるってもんだ。くわばらくわばら。

 生徒会も事態の収拾に西に東へとおおわらわであったことも云う迄もない。

 あとで、東雲副会長に絞られたのは冤罪だーと叫びたかったのも記憶に新しい。彼女なんだから、そういうところは……ねぇ、もっと、こう……ということはなかった。公私の区別はハッキリしてて付け入る隙はなかった。

 確かに俺が割って入ればここまでの大乱闘にはならなかったかもしれないが、俺が狙われるという事案が発生すれば、それ以上の事案が発生するんじゃないのでしょうか。そう!だからボクは悪くない!

 参加しないことで、人死にがでなかったんだから、褒められてしかるべきである。

 ………フッ。我ながら情けない。

 しかし、しかしだよ、参加しなかったどころか、退避していたのに裏で煽っていたとか暴れるように指示したとか、マコトシヤカナ噂が流れていたのはどうしてなんでしょうねっ!

 泣くぞ、ちくしょーーーめーーーー!!!


 という訳で、日本側の人外にはお目付役にクラス委員長である平坂、霧島書記、ついでに安西が祭り上げられ、俺は留学組を担当することとなった。

 留学組も俺に弥生、あずさんと千歳がお目付役という訳だ。

 ……一部訂正、千歳は日本組と一緒だと、さらに暴走するからと隔離である。もっとも俺が留学組担当となったので、千歳は何の不満もなくこっちに来た次第ではあるが。

 籖引きとかなんだったんでしょうね。


 そしてこのナイフ。鈍色に光る両刃で刃渡り6センチ位の短さ。切れ味は普通のナイフだが、クラフトナイフのほうがまだ使い勝手よさそうな感じがする。天目先生から渡された一品である。

 切るという事象に特化したという。フォースパワーを込めれば込めるほど切れ味が鋭くなるとのこと。神秘学の延長であるが、それを渡され、この行軍で実感してみろとのことである。

 枝とか紐を切るのに、そんな大層なもん渡されてもなぁ……。使い道なんかその程度しか思いつかねぇよ。

 まぁ、先週の課外授業で魔術に関して扱かれた結果でもあるし、あの騒動のせいでもある。心配したのかこれもまた課題の一つであるのか……両方だと思うが、持たされたということだ。

 課外授業もなぁ、スパルタだった。部活が終わってから夕餉までの少しの時間、千歳やあずさんの特訓という汝のシゴキのほんの微かな休憩時間。風呂の時間……は流石にご遠慮したが、ありとあらゆる空き時間を狙って講義が炸裂した。

 どっかあにあったよな。達人とは坂を転がる石のようなものである。気付いたらそうなっていた。いやそうならさられていたとか。今の状況まさにそれ。

 お蔭かどうか、多少魔術の入り口に立つことはできたのではあるが、ライター変わりな種火を発生させたり、シャワー代わりの行水ができる魔術とか。

 正直、一般の生活では使いようがないようなものばかりである。

 といっても、ここが基本の立ち位置だ。この程度できずに、魔術の深遠を覗こうなどという行為自体おこがましいという。

 断れない気弱さに泣いた。

 ………でも無理だよねぇ、俺がそんな大それたところまで行けるわけないじゃん、逝ってしまわないかのほうが心配である。

 で、渡された禍々しいナイフもそうだが、精霊石もそうだ。なんだが物騒なものが増えてきた。その石も肌身離さず持ってます。というか首から吊ってます。下手に部屋に置き去りなんかにした日にゃ魔血晶と同じ運命を辿りそうだし、メアリーは受取り拒否して逃げやがるしでいかんともしがたい。お蔭で最近はメアリーからの干渉がなくっているのが助かっているところではある。

 まぁ、持ってるだけでなんだか効用はある感じはする。フォースパワーを巡らす時とか魔術を使う時とか、スムーズになっているのを感じるのではあるが、有り難いのか有り難くないのか評価に困る。失くしたら洒落になんないんだろうなぁ……。くわばらくわばら。


 ひとしきり、校長先生の益体もない演説が行われた。集団行動を乱さないようにとか、けが人がでれば直ぐに連絡をよこすようにとかの諸注意も含めて、長々と時間だけが過ぎていく。

 その後、右端の班から地図を受取り出発していく。

 俺たちは最後だ。

 平坂の班の呼称名はZ-1(ズーワン)で俺の所がZ-2(ズーツー)である。六道先生が決めた。ケレンミたっぷりな呼称である。

「それじゃ、先いくね」

 中江先輩と東雲副会長が挨拶しに来た。

「道中お気をつけて」

「そんな、たいそうなことないわよ。荷物が重いだけよ」

 中江先輩なら、まぁモータースポーツもやっているから、その位の重量は問題ないとは思っていたが、ずっと生徒会室に籠もっている東雲副会長が平気な顔してキリスングを背負っているのは少々驚いた。腐っても軍学校の生徒であるということだ。って生徒会に属するなら、その位は当然なのか?ふむん。

「キャンプ地で逢えたら、一緒にご飯しましょうね」

「はい、期待してます」

 小さく手を振り、彼女たちを見送った。

 晩飯か……俺たちの飯は喰えるのだろうか。色々心配である。寮で料理してるやつは見たことない。

 大量の飯をかっ喰らっている光景しか浮かびません。

 まぁ、ある程度の調理は俺はできるから、なんとかなるだろうとは思う。伊達に孤児院で過ごしたわけではない。

 料理とか洗濯、掃除は皆で廻してた。こった料理は無理だが、食べれないものを作る事はない。

 ……邪魔が入らなければ。先行き不安である。とりあえず、カレーさえ作っていれば問題ないだろう。そうそうぶっとんだ味にはならないしな。


「よーし、そろそろ出発の時間だ。いいか、く・れ・ぐ・れも問題起こすなよ」

 ゴクリと廻りの唾を呑む音が聞こえた気がした。

「それと、ただ行軍するだけでは、お前たちには物足りないだろう。だから少々イベントを用意しておいた。楽しみにしておくように」

 サァーと血の気がひく音が廻りから聞こえた気がした。

 それから怒濤の怒声が響いた。

「喧しい!今騒いだ奴倍付けだからな」

 シーンと、一瞬にして静まった。

 くわばらくわばら、彼女たちには良い薬だ。尤も乱闘に関しては同情するが、普段の言動もあるし深くは同情はしないでおこう。

「ここにいる全員覚悟しておくように」

 御愁傷様。

 にしても、1班20人いるのだ、いくらなんでも……俺は廻りを観る。Zクラスの2班と上級生の1班。一様に青い顔をしていた。

 四天王というのは化物か!

「フフフ、楽しみなのじゃ。これで妾の真の実力を皆に示せるというもの。手加減せずかかってくるのじゃ」

 あっ一人、意気揚々な御方がいた。まぁいいけどね、巻沿いにされなければだが。

「そうだな、まだまだ小便臭いガキに身の程を知らせてやるさ」

 六道先生と千歳の間で火花が散る。

 先生も安い挑発に乗っちゃって、教職に就いているのだからそこは諭すところだろう!

「それと、中島。自分対象外と思ってないだろうな」

 へっ?

 何故か俺に視線が向けられた。

 射抜くように瞳の奥を貫いてくる。ハッまさかそんな展開は……ないよな。ある訳ない!しかし、そこは人外だ。人の考え及ばぬ……なんというか、人の考えが及びもつかないような展開が……。尻の穴がキュッと閉まる。

「鵞鳥相手にやり合ったんだろ。他にも聞いている。どこまで成長したか楽しみだ」

 玩具を観る目だった!!!

「主よ、任せろ。お前には指一本たりとも触れさせるものか。こやつは妾の獲物じゃからな」

 俺の前に立って遮り、六道先生を再度睨む。

「力及ばずながら、余もマスターの盾となろう」

 ここぞとばかりにジャネットもやってきて、俺に前に立つ。

 その横には、レンも無言で立っている。緊張感のない、ぼうとした感じで。

「ふむ、お姫様を守る騎士どもか。いいね、その顔を絶望に染めてやるぜ」

 どこの悪玉だよっ。先生だろ先生ッ!それでも教職者か。

「大丈夫だ」

 弥生までもやってきた。正直、他の面子に守ってもらうのはやぶかさではないが、何故か弥生に守ってもらうのは気が引ける。この中で誰よりも強者であるはずなんだが。

「我が旦那なら、鎧袖一触で教師など粉砕してくれるであろう」

 ………何か違ってませんか?

 貴方の信頼がボクには重いです。

「いや、無理だろっ」

 思わず突っ込んだ。

 瞬間、弥生と俺の間にあずさんが割って現れる。

「殿下に意見など、1万と2千年早い。言われた通りに鎧袖一触で粉砕せねば、私が貴方を粉砕しますよ、いいですね。粉微塵変態裸族つるつる魔神」

 わぁおっ、今日も舌好調ですね。

 波瀾万丈な展開だけにはならないように祈りを捧げた。


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