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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第五章
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幕間 intersection

明けましておめでとうございます。本年も引き続きごひいきに願います。


……の、一発目が幕間で、短めで済みません。


幕間 intersection


「我々にもあのロボテクスを早急に手配してもらいたい」

 机の向うで男が言った。

 筋肉質の伊達男が迫ってくるのは暑苦しくて仕方ない。

「正式採用されることは決まりましたが、いまだ量産のラインは出来てません。いえ、それよりもまだ試験段階で不具合箇所をとっているところです。配備するなんて、まだまだ先になりますよ。それに、貴方たち自身のは選定中ではなかったのですか。私達のものを欲しがる意味が解りません」

「そんなことは解っている。今あるのを寄越せと言っているのだ」

「今有るものといわれましても、既に試験機として数機はそちらでも受け取っているはずです。部隊連携の運用試験に使っているでしょう。こちらに有るものはこちらでの事情があります。お互いにスケジュール通りの筈ですが」

「そのことを言っているのではない。寄越せと言ったのはサクヤのことだ」

 おやおや、随分ばっさりと切り込んできたと、鼻白む。規定事項のように告げられるのは癪に障った。

「貴殿は皇族機を寄越せと、そう仰るのですか。それは元帥閣下もご存じの帝国軍の総意ということでよろしいのですね」

「皇族機だと?殿下が今だ機乗もせず、一介の学生が遊びで乗り回しているような状況をそうとは言わぬ」

 痛いところを突いてきた。ただ、その一介の学生というのは、扶桑を救った英雄ではあるのだが。

 もっとも正確な情報は流せず、皇軍が対処したことになっている。

 上辺だけの情報なら、サクヤに興味を持たれるはずはない。どこまで知っているのか手の内は完全に見せられていない。どうやって探りをいれてみるか悩ましい。

「一介の学生とは言われますが、彼は皇族の婚約者であり、身柄は皇軍となっています。ゆくゆくは我が皇軍を率いるかもしれない御方ですよ。その言い方は無礼になりませんかね」

 相手は苦虫をかみつぶしたように顔をしかめる。親族となるならば無理は通せないはず。そう計算する。

 彼の心の内を知るものにとっては、絶対有り得ない選択ではあるが。

 その辺は蛇の道は蛇、手練手管で引き込むことなどたやすい。彼の意志がどうであろうと、状況が許さないと成ればどうとでもなる。彼にそこまで強固な拒否の意志はないはずだ。

「そんなもの、たかだか数ある候補者というだけだ。国の財産であるロボテクスを安易に使える立場ではないと思うが」

 いわんとしていることは、解る。だが……あまりに幼稚だ。

「数ある候補者ですか……」

「そうだ、殿下のご威光を持ってすれば、血統の良い相手などいくらでも現れるだろうよ」

 選民思想の気がある?皇軍に併せて言ってきた?どこぞの財閥のぼんぼんにあてがわせて皇族の利権を侵食する算段?

 言葉の裏を推し量る。

 どれもありそうだ。

 サクヤのことにしてもそうだ。基本的な情報は研究所のデーターベースを検索すれば出てくる。

 実機でなくても情報は取り出したい放題だ。閲覧権限は厳しいが、権限があれば覗き放題なのは変わらない。別段サクヤを欲しがるなら、自分らでこっそり渡された試験機を同じようにすればいいだけの話しである。

 それを見ていながら、実機を欲しがる。

 となれば、データーベースに乗せていない情報、もしくは上位権限過ぎて覗けない情報を欲しがっている。そうであるなら、機密情報保護法に抵触する行為だ。

 データーベースからは得られないから、難癖つけて実機をよこせか。

 A.Iの稼働情報、もしくはファミリアー……それとも、彼の個人情報?思い当たることが多すぎる。更に今は……。

 まさかアレのことは流石に知らないだろう。もしアレが目当てなら、その情報を得た手腕は称賛に値する。

 いや、まてよ。もしかして、何もないことを証明するために欲しがっている可能性もある。彼の謂う所の“一介の高校生”が、なぜ皇軍で重要視されているのかについて。何らかの釣り餌であるのだと確信したいがためってのもあるか。彼が起こした本当の実績を知らない人が聞けば、なんの冗談だと思ってしまうことだろう。

 どっちだ?それを証明するためにサクヤを渡すなんてことは以ての外、論外である。

 さて、ここでカードオープンだ。

「サクヤですが、この間の総合演習に参加したことは知っていますよね」

「もちろんだ」

「その時の襲撃で大破しましてね、報告してもあるのですが、みてませんか?お蔭で今は再建中な訳ですよ。なので渡せといわれても、渡すものがありません」

 言われて目を白黒させている。私が未だ直していなかったことに驚いているようだった。

「馬鹿なっ」

「と言われましても、二度目の大破ですからね。流石に部品がありませんのでどうしようもないです。正式な量産もまだですし、何時部品が届くか解ってません。急かしてはいるのですがね」

 本当は全く別のものを仕込もうとしているので、届かなくても問題はない。というか、ここで決断した。こそこそと今の技術水準に合わせてやる苦労の放棄だ。

 彼女に全て任せようと。自分のやるべきことはもう終えている。大好きなご主人様のためなら乾坤一擲の情熱を込めてくれることだろう。設計を向うに任せて、こっちは必要な部品の供給だけにすれば、火の粉はかからない。メンテナーの彼には苦労してもらうことになるが、苦労だとは思わないだろうな。

 ついでに彼も皇軍に入れてしまうか。メカのためなら魂を売渡すような彼である。二つ返事でサインしてくれることだろう。

「……見せてもらっても?」

 今後のことを夢想していると、割り込みが入った。おっといかん、今はこいつの相手をしなくては。

「皇軍の工廠に帝国軍が入れるとでも?」

 入れる帝国軍は、研究職にあたり、個人での誓約書も作成するなど、厳密な審査の上でのことである。当然、ただの見学で入れるようなところではない。

 ………表向きは。

 抜け道は多々あれど、目の前の人物にそれを許すことなどない。


 そうして会議は終了した。


 さてさて、尻尾を漸くだしたか。どこの尻尾なのか……後は情報部に任せることにしよう。端末を開き、呼び出す。

 呼び出しながら考える。

 早急に次のサクヤを用意しなくては。のんびり出来なくなった。押さえる前に行動に出るとすれば、目標は彼になるだろう。彼に危害が加わるような自体となれば、殿下も無関係ではなくなる。それどころか……。

 皇族に刃を向けるような事態は勘弁願いたいですよ。

「あっ、みーくん、僕々。ちょっと話があるんだけどさー───」

 一通り話を通した後、もう一本連絡を入れる。

「今度の週末のことなんだけど、サクヤをね、ちょっと早急に仕上げないといけないことになったんだ。だから君の力が必要で───」




「くそっあの若造めがっ」

 在り来りな悪態をつく。苛立ちはつのる一方だ。

「やはり決裂か」

 背後から声が聞こえた。

「ああ全く、これだから皇軍というのは好きになれん」

 帝国軍大佐まで上り詰めたが、その先である少将、さらにその先に昇っていくには更なる権力が必要となる。サクヤを暴くことで皇軍の地位を貶め、利権を手中にする計画はまたもや破談した。

 忌ま忌ましいことこのうえない。

 武闘会でのデモンストレーションからこっち、計画は狂うばかりだ。

 あの学生が関わることで、なにもかもが上手くいかない。普通の学生がそんな大それた真似が出来るとは到底思えない。

 ならば、その学生は餌である。誰が裏で糸を引いているのか確かめる必要がある。

 只の一般市民のシンデレラストーリーを演出する誰か。そうすることで得をするのは何者なのか。

 一つ言えることは、自身の進路に横たわる大きな溝であるということだ。

 叩き潰さねばならないことだけは確かである。

「あの話し、進めてくれ」

「それでいいのか」

「構わん、多少の揉め事はこちらで握りつぶす」

 次の一手を打ち込んだ。




 潮の香がする。

 月のない夜。

 浜辺に一隻のゴムボートが音もなく辿り着く。

「臭い臭い。異教徒の匂いで息が詰まりそうだ」

「静かにしろ。ここで見つかるわけにはいかんのだからな」

 黒装束に包まれた数人が海岸に降り立つ。

 装備をゴムボートから引き降ろしたあと、ゴムボートに残っていた方は岸を離れる。

「作戦時間は一週間だ。それまでに確保する必要がある。確保できぬ場合、対象を抹殺すること。異教徒どもに汚させたまま済ませることはできない」

「そんなことにはならないでから安心してください。こちらにはコレがありますからね」

 首からぶら下げた革袋を見せる。

「本当にソレが有効なのか確かめた訳ではあるまい」

 怪訝に聞き返す。

「確実ですよ。初代が用いたものですから。コマンドワードも解っていますし、後は対象の前で唱えるだけの簡単な作業です」

 卑下した歪な笑いが後に続く。

「だといいがな」

「見ててください。手始めにこの島を焼き尽くすこともできますよ」

「それは許さぬ。我等の目的を履き違えるな。ここで力を消耗させる訳にはいかない。使うべき相手は別にいる」

「お固いことで」

「貴様を連れてきたのは、ソレが使えるからだということを忘れるな。独り残りたくはないだろう」

「解ってますって、ではさっさと行きましょう。ここにずっといたところで何もありませんからね」

「フンッ」

 黒装束で固めた一段は闇の中へと姿を消していった。


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