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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第一章
16/193

渡る世間はロボばかり 02

「小賢しいのぉ」

 口火を切ったのは柊。

「全ては力じゃぞ。力なくして統率なぞできようもない。見せつければよいではないか。そして従属させれば問題なかろう」

 淡々と告げる柊であるが、死と隣り合わせの緊張が部屋を埋める。

 俺は大きくため息を吐いた。

「なら、お前は俺に負けたんだよな。俺の意見に従うってことでいいよな」

「うっ」

「なんとなく、お前のスタンスが解ってきたよ。でもそれはお前の本心じゃないよな。負けて、全て奪われるようなことを自覚しているなら、そもそも俺に負けを認めるようなことはしない。無駄に挑発させて相手を量ろうとしたんだろ。その辺は安心しろ。俺が保証する。彼らは良い人だよ、皆のことを考えているさ。そうでしょ、会長」

「そうであろうとしている」

 その顔は自信と不安が混ざっていた。

「それに、みんな根本的な事を忘れてますよ」

 俺は告げる。

 周りはハテナマークを浮かべる。

「彼女、柊はここの生徒ではありません。今日明日中には帰るんですよ」

 云われて、皆は呆気に取られた顔をした。

「おいおいおい、なんだこの茶番。俺ら全員馬鹿じゃねーか」

 古鷹風紀委員長は手で顔を隠し仰ぎ見ながら言った。

「まて、妾は帰るつもりはないぞ。主と添い遂げなければならないからな」

 異を発するのは柊。

「いや、お前どこに住もうってんだよ。それに、親御さんとか学校とか向こうの生活とか色々あるだろ。ここに居られる分けないやん」

「ならばっ、ここに通う。お主の部屋に住む。親とは離縁じゃ。これで問題はない」

「無茶を言うな。大体ここは普通の学校じゃないんだぞ。簡単に転校なんてできる訳がないだろ。それにそんなこと親御さんが許すはずなんかないだろうよ」

「大丈夫だ、問題ない」

 仁王立ちして腕を組んで仰け反って言い切った。

「問題だらけだっ」

 霧島書記を除くみんなの総突っ込みが入った。


 軽く扉を叩く音がした。

 古屋会長が、どうぞと入室の許可をだす。

 入ってきたのは初老の長い髭をした男だった。

 続いて皇弥生と咲華あずさが入室してきた。 

「ここに、中島政宗という方が来ていると聞いてきたのだが、どちらが中島君かな」

 周りを一瞥して初老の男が聞いてきた。

 あ、この人は。

「今朝はどうもです」

 何が起きたのか、状況は解らなかったが挨拶をする。

「爺様っ何故ここに」

 ビックリ仰天の大声を発したのは柊だった。

「お前を迎えにきたのではないか。帰るから来なさい」

「い、いやじゃ。妾はここにおるのじゃ」

「ふむ、ならばどうする?ここでわしを倒して残るか?」

 鋭い眼光が柊を貫き、魅入られたように固まる

「ここに居るといっても、生活はどうするんじゃ?食事は?学校は?それに、我等は彼らにとって恐怖の対象じゃぞ?事あるごとに言いがかりをつけられようぞ。いや、無くてもだな。その時、お前はどうするつもりだ?」

 生徒会室に居る面々を一瞥し、柊に視線を戻す。見事な正論攻撃だった。

「それでも……それでも、ここに居たいんじゃー」

 子供が駄々をこねるが如く、手足をじたばたさせて暴れる。同い年とは思えない潔い駄々っ子ぶりに、失笑を零してしまった。

「何故帰りたくないのだ?用事はすませたのであろう」

 大きくため息を吐きつつ、爺様が尋ねる。

「婿を見つけたのじゃ」

 俺を指さししつつ即効で答える。

 爺様の眉がぴくりと一瞬つり上がる。

「どういうことじゃ?」

 刺すような視線が俺に向かってきた。

「彼女がそうだといって迫ってきているのですが、理由は解りませんよ」

「妾を負かせたのじゃ。そんな男は今まで居なかったぞ」

「ほぅお前に勝ったというのか。にわかには信じられぬ話じゃな」

 疑うような視線が俺を貫く。ほんと、疑うのは解りますよ。自分でも何故“勝ち”になったのか解ってないんだもん。

「まさか、婚約の話が嫌で嘘をついたという訳ではないじゃろうな」 

「あんな奴らの中から婚約者を選ぶなぞ、最初っから願い下げだと前々から言っておるのじゃ」

 爺様は大きくため息をつく。

「皇のお嬢さん、こやつの話は本当のことなのかね」

「ああ、本当だとも」

「わざと負けたというようなことは?」

「天地神明に掛けて無い。我の婿は無敵であるぞ」

 爺さんが固まった。

「今……なんとおっしゃられた」

「こいつは、千歳に勝ったと言ったのだ。耄碌したか?」

「いや、聞きたいのはそっちじゃない」

 顔を真っ青にして問い直す。

「そんな女なぞ排除して妾だけのものにしてやる」

 踏ん反り返って柊は挑発的に言う。

「やれるものならやってみるがよい。羽を毟って海に放り込んでくれるわ」

 視線と視線がぶつかり火花が散る。

 いきなりの、一触即発な状況。

 このお馬鹿たちめっ。スパコーンと、2人のどたまを俺は叩く。

「喧嘩は辞めなさい。それとまだ俺は了承した覚えはないからなっ」

「貴様っ」

 咲華が皇の前に立ちはだかり、俺の胸ぐらを掴む。

「お前も同じだぞ。俺は結婚なんて認めてないからな。勝手に進めんじゃねー」

「お主……怒ったのか?」

 皇が問うてくる。

「怒る??ああ、確かにちょっと怒っている。俺の気持ちを無視して、頭の上でなんだかんだと勝手してくれるんだ。気分がいいと思えるなら、病院に行け」

 と、云ったところで、古鷹風紀委員長に取り押さえられた。

「落ち着けっ。深呼吸深呼吸。お前までわやいなことになったら、まとまるもんもまとまらんちゅーの」

「はー、もーなにこれ?ライバル勢ぞろいって訳?楽しそうね」

 東雲副会長が横から突っ込みをいれてきた。

「私はこんなやつ認めてない」

 強く否定する咲華。

「そうなの?」

「そうですっ」

 そこへ昼休みの終わりを告げる予鈴が響きわたった。

「とりあえず、放課後にもう一度集まりませんか。このまま放置するわけにはいかないでしょう」

 古屋生徒会長が仕切り直しの提案を持ちかける。

「お二方はどうします?ここに残られますか?」

「ふむ」

 辺りを見回して室内を確認する。

「ならばご好意に甘えよう。茶菓子はでるかの」

「霧島君、お願いするよ」

 古屋会長の声に、はいと素直な返事が響き、そそくさと紅茶とケーキのセットが二人分お盆に乗せてやってきた」

「お昼の残り物ですみませんが、これでよいでしょうか」

「ほっほっほっ、いたせりつくせり、いたみいる」

 爺様は中央の席にどかっと座り茶をもらう。

 横に引き連れられた柊もちょこんと座らされる。

「では放課後、待っておるからな」


 生徒会室を出たあと、途方に暮れた。結局、話が進展するどころか余計に訳がわからないことになった。

 なにをどうしたらこういうことになるんだ。あーそうだ、全ては種馬野郎のせいだ。今度あったら顔の原型無くなる位までどつきまくってやる。なーに大丈夫だ。こちらにはあの女医さんがいる。彼女がいる限り、死ぬか四肢欠損しない限りは無問題だ。待ってろよ、長船。

「そんじゃ、放課後にもう一度ってことで、……あぁ部活休むこと報告しにいかなければ……ここ連日参加できていないや」

「全校生徒部活必須ですからねぇ。運動部には絶対入らなければならないって面倒だよねぇ」

 東雲副会長が同意を促してきた。

「それは、軍の学校だから仕方ないさ。そんじゃ、またあとで」

 古鷹風紀委員長はそう言って、そそくさと後にした。

「では我々も戻ろう。また放課後に」

 生徒会の三人は各々の教室に戻っていった。

 今日の昼の教科は選択制で、俺が選択しているのはロボ科だ。そいや、皇と咲華が何を選んでいるのかは聞いてなかったな。昨日の今日だし、昨日は昨日であんな事あったし、いやいや、その前にそんなにポンポンと話をするような間柄でもなかったな。

「それじゃ、俺も次の授業へ行ってくるよ」

 言って俺は更衣室へ向かった。

 昼は二日ぶりのロボテクスの操縦訓練だ。本当なら三年になってからの授業だけど。


 更衣室経由でハンガーにやってきた。

 零式のコックピットに何時ものピチピチでオムツなデータースーツにヘルメットを被って乗り込む。

 結局、種馬君仁が居なくなっても、やることに変わりはなかった。カリキュラムの途中だし、今日からこっちって訳にはいかないんだろう。

 だが、周りの生徒は3年生ばかりで、なんとも居心地が悪い。

 1年のカリキュラムに戻して欲しい気もするが、ここまで乗れるようになったんだから、今更戻されてもという気もある。

 要するに、俺はこいつに乗って居たいんだなと改めて認識した。

 ………あんなことがなければだけど。

 ケーブルを引っ張りだし、ヘルメットに繋げる。

 メインスイッチをONにし、起動シーケンスが動く。

 ロボ側の起動チェックが走り、グリーンマークが点灯後、俺との接続テストになる。

「ピーーーーッ」

 機械特有の甲高いエラー音が鳴り響いた。

 あれ?手順に間違っているところはないはずだが。エラーメッセージを読む。なになに?

“commect speed error. not STS version V5.2”

 なんだこりゃ?初めて見るメッセージだ。

 ヘルメットの通信スイッチをONにし、整備班に連絡を入れる。

「零式と繋がらないンだけど、何かあった?」

「あーそうだった。お前のメットのソフトはアレ用に書き換えていたんだったけ」

 直ぐに返答がきた。安西だった。

 アレと云われて理解した。

 てか、いつの間に……勝手に人の装備になにしてくれとんのや。

「互換性あったんじゃなかったの?」

「そんなん普通上位互換だろ」

 快活に笑って答えられた。それにしてもいつの間に……よそう、ヤツの手際の良さは折り紙付きだ。

「えっ?どうすんの?別のメットある?それとも直ぐに書き換えできるの?」

「無理だな、手続きせんことにはソフト借りられん。どうする?アレに乗って実習うけるか?」

 豪快な事を言ってくれる。

「いくらなんでも無理だろ。教官に言って見学となると、校庭10周走らされることになるか」

 げんなりと気分が超下降。

「乗れるなら乗って構わんぞ。一応お前の所有物で登録されている。お前の専用機って書類に書かれていた」

 横から鬼教官が割って入った。

「え?よろしいのですか?でも整備とか機材とかメンテとか色々あとが大変なのでは?」

「あーそれはいい、整備班がなんとかする」

 抑揚のない声のあとに、背後から歓喜とも絶望とも取れる絶叫がマイクに割って入った。

 歓喜の声は安西だな。こいつは、触りたい、弄りたい、バラしたいのトンデモ君だった。絶望の声はその他整備班の面々だろう。御愁傷様です。

 教官は教官で、何か思うところがあるのだろう。いつものトーンではない。

「機体が変わったといってもやることは同じだからな。それに一応ソレは一人乗りでも使えるようになっているから大丈夫だ」

 渦巻いていた疑問を先に解消され、これは乗るしかないという状況に陥れられたのを理解した。

「それに、なにかあったときの請求先は皇軍だ。壊れん程度に無理無茶して壊してやれ」

 こんなことでストレス発散はしないでくださいよ……と思うが言葉には出さない懸命さはギリギリ持っていた。

「了解、アレに機体を変更します………ところでアレの名称ってなんですか?いつまでもアレとかソレとかじゃどうしていいやら困ります」

「んーそういわれても、まだ最終段階の調整機体で正式名称なんてまだまだ先だしな。だいたい、正式配備されるのかさえ未定だ。型名はあるが……EF-14Fってのが」

 皇軍(Emperor Force)-14番目の戦闘機(Fighter)ってことか。

「え?やつはこれが次期皇軍の配備機体だと言ってましたたけど」

「そりゃぁ、十中八九そうなるとは思うがな。対抗がないわけでもない。最後のプレゼンスに破れたらスクラップか研究素材としてバラされることもありうる。まーその辺含めて君の肩に掛かっているようなないような……あっこれはオフレコだったか。ワスレロ」

「そういうさらっと軍事機密を何気ない会話の中に混ぜないでくださいよ」

「知らん、何も言ってない。いいか、何も言ってないし、お前は聞いていない。それより時間押してんだ。はやく乗れ」

 怒鳴られた。やれやれとレイの機体の方へと駆け足で向かう。

 機体を見上げる。ハンガーに納まっている9m超えの巨人は静かに佇んでいた。

「よう、なんかなし崩し的に相棒になってしまったようだけど、これからはよろしくな」

 機体の膝に拳を押しつけた。


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