日入り果てて、風の音、虫の音 03
俺は他の班がどうなっているのか見回す。
千歳は源に龍造寺、安西と同じ班だ。……うん、がんばれ安西、陰ながら応援しているよっ!
あずさんは、メイド姉妹の内二人にマルヤムと仁科さんか。マルヤムの暴走が気になるが、全体のバランスは良さそうだ。というかですねっ、一人はうちの班にもメイドさんが欲しかったぜ。何かと便利!
とかいったら、押しかけられそうな気がするので自重する。
ジャネットは、カナンにイフェ、平坂とフィリス。比較的普通の面々がかたまっているようだ。それもこれもご加護でしょうか?本人を目の前はしては言わないが、巧い組み合わせのようだ。
レンについては、何も言うまい。コメントできるような面子でもないし、本当にバラバラの集まりだ。エルフにメイド、3馬鹿四天王、他。どうか仲良く強調してください。祈るしかなかった。
コメントしずらいといえば、メアリーの班もである。間部がいるから何とかなるだろうけど、我が儘言わなければという注釈はつきそうだ。まぁ、その件に関しては俺も同じだろう。
六道先生の話によると、明日からの午後は、ハイキングに合わせての授業になる。
支給される装備や備品についての取り扱い等々、ということのようである。
「ということで、各班は班長を決めるように。上級生との打ち合わせは基本、班長が行う。時間がないからさっさとな」
ホント、さっさと決めてしまおう。
各班ごとに集まり、挨拶を交わす。
「──というとこで、よろしく」
面々を見渡す。当然という風か弥生はいつもと同じ態度。霧島書記は俺と弥生がいるお蔭か安心している様子だ。
そして……。
「はっ前田ン所と同じ班になるとはな」
「うっさいわ。だまっとけや」
キーキー突っかかる羽柴とものうざげに反論する前田。それの中を取り持とうとする石田という構図。
ぬぅこいつらって、こんな犬猿関係だったのか?思ったより前途多難?
「まぁまぁ、お前ら少しは仲良くしようとはしてくれよな。これから班行動するんだから」
「断るっ!」
二人してハモって拒絶された。
「うちはな、あんなお調子者と一緒に見られるのはすかんのや」
羽柴が悲鳴にも似た声でハッキリと断言する。
「まっこと、猿のようにうざい。みどもの事など放っておけばよかろう」
前田が生ゴミを見るような目で反論する。
「脳筋がようゆうわ」
「金勘定ができるから、みどもより強いってか」
ずいっと一歩脚を踏み出し、胸を羽柴に押しつける。
対する羽柴も胸を反らして対抗する。
キーキー、ワンワン。駄目だこいつらぶちまかしてやりてぇ。仕方ねぇ話の持ってき方をどうにかかえるか。
「羽柴さん、金勘定が得意なんか」
「あん?当たり前や、そんなことも知らんかったんか」
「だってなぁ、まともに話したことなんかないやん」
素で返す。
じぃっと俺の顔を覗き見る羽柴。
「………あほくさ」
言って、石田の所へと下がっていく。
「で、だ。前田さん。四天王なんやろ。そんな態度しててえーんか?」
「あー、どういうことだ?」
羽柴とやりあってた馴れ合いの怒気ではなく、俺には殺気でもって睨んできた。
「人の上に立つつもりなら、其れなりの素養をみせなきゃならんのじゃねってことだ」
「いちいちうるせーんだよっ。ナニサマのつもりだ」
まだ花札のこと根に持っているのだろうか。一瞬そんなことが脳裏をよぎる。
「そいや、罰ゲーム」
「ああん?」
「いや、ちょっと思い出した。演習のせいでいなかったけど、ちゃんと続けてたよね」
「だだだだ、黙れっ」
この反応ってことは。
羽柴と石田をみる。
「知らないぴょん」
二人してハモって言ってきた。
「で、どうなんだ。やったのかやってないのか、そこんところハッキリさせておこうよ」
見事な話題反らしである。いちいち付き合ってられんからな。
「……るせぇ」
「ん?」
「うるせぇっていってんだよっ。ナニサマのつもりだぁぁぁ」
怒り心頭。いきなり殴ってきた。
俺はその一撃を見る。
見た途端、身体が反応した。
顔面に向かってくる拳。それを踏み込んで右前に移動。併せて掌底がでる。
「へぶっ」
突き出した右手に当たった感触が伝わる。
前田の一撃をギリギリ回避し、反射で出た手がカウンターで顎を打っていた。
ストンと膝が折れて倒れる前田がいた。
「あ…」
自分が何をやったのか理解できなかった。
思わず自分の右手を見る。赤い染みが一筋ついてた……血?
「おいっ大丈夫か」
慌てて近寄る。
頭を上げると、口から血が流れていた。歯で唇を切ってしまったようだ。目の焦点があってない。綺麗に入ったからなぁ。
顎を突いたことで、脳を揺すったのだろう。朦朧としていた。
「これ何本に見えるか解るか?」
二本立てて目の前で揺らす。
返事はない。
パシッ。
指を立てた手を払われた。
「上等だ。やってやる」
襟首を掴んで俺を引き寄せる。
やべっ、なんかスイッチいれちまったようだ。
トン。
突かれ、距離が離れる。
それは合図。
背筋に冷たいものが走る。
「いっぺん死んで──」
言葉は最後まで紡がれず。
前田は吹っ飛んだ。
平坂と共に。
「へっ?」
飛んでった方向を見る。
いい感じに前田と平坂が絡みついていた。
ラッキースケベ爆誕の瞬間であった。
状況が飲み込めず、廻りを見る。
あーー………なるほどね。
平坂を投げたのは千歳のようだった。
ずかずかと千歳は前田に歩み寄る。
絡まった平坂を無造作に放り投げ、前田の頭を鷲掴みにして持ち上げた。
「今、なんと申したかのー、耳がとーくて聞こえなんだ。もういっぺん、妾に聞かせてもらおうかのー」
言う間、もう片方の手が顔をはたきまくる。
連打の前に前田は返答を返せない。
「妾のモノをどうするっていった?ほらっ言ってみるのじゃ」
デジャブー。
いや、以前にもあったな、コレ。てか、俺はお前のモノじゃないっ。
停めないと、一歩前に出ようとすると、ジャネットが立っていた。俺を背にし、周囲を警戒している様に見える。視線の先は……北条?
「なにを──」
横に人がいたのか、身動きしたところ当たった。
そこにはレンがいた。その視線の先には結城。
軽く目眩がし、一歩あとじさると、また当たる。今度は誰と見ればビアンカだった。その視線の先は言うまでもなく源を警戒していた。源の傍らには間部がいる。
………改めて教室内を見回す。
軽く臨戦態勢のようだ。
メアリーの廻りにはビアンカを除くメイドの3人が立っており、弥生の前にはあずさん。霧島書記は弥生の横で庇われてる感じ。
クリスティーナはマルヤムに首根っこを掴まれぶらんとしており、エルフ3人は互いを背にして固まっている。石田、竹中、羽柴の3人も同じように固まっている。他も何人かでまとまり周囲を警戒していた。
乱闘一秒前?
突然のことに理解が追いつかない。一体全体どういう──。
「やめんか馬鹿どもーーーーー」
怒声が響く。窓が共振でビリビリ震える。
教室の面々は一様に動きをとめた。
声の主は六道先生だった。
「お前ら、俺の目の前で楽しいことしてんじゃねーぞ。元気が有り余っているなら走ってこい。全員だっ!校庭30周」
クラスの面々から不平が漏れる。
「連帯責任だ。文句ある奴前に出ろ。教育してやる」
指を鳴らし、殺意ある視線でめねつける。誰からも文句はでない。
「おらっとっとと走ってこい!」
結果、保健室送りになった平坂を除く全員が校庭を走ることになった。
只の籖引きからどうしてこうなったのだ!ワケガワカラナイヨッ!!
後日、班分けが改定された。
“友好的”にトレードがなされた結果こうなった。
一班:皇、柊、ビアンカ、ジャネット、ドゥルガー、中島
二班:フィリス、カナン、イフェ、平坂、石田
三班:櫛橋、間部、メアリー、シルヴィア、亘理
四班:前田、源、龍造寺、安西、マルガリータ
五班:エレノア、北条、シンディ、竹中、羽柴
六班:カルディア、ディアナ、クリスティーナ、最上、結城
七班:咲華、霧島、アラキナ、マルヤム、仁科
まぁ……一班に固められた訳だ。
何故かメアリーとあずさんは悔しそうな目で俺を観ていたが……そんなの知らねーってば!
へとへとになって寮へと帰還。
まったく騒動には事欠かないぜ。
帰り際、安西に言われたことを思い出す。
「君は騒動を起こすのが生業なのか、起こすならロボテクスが関係していることだけにしてくれ」
何をいってやがんだ。今回は俺の責任じゃないぞ。仲裁しただけじゃねーか。
思い起こす。
まぁなんだ、ぴょんだとかなんだとか、関係ない関係ない全然全く関係ない。火に油を注いだ行為は忘れることにしよう。単に確かめただけである。ボクはワルくない。
「中島君、ちょっといいですか」
皆が部屋へと戻る中、呼び止められた。
天目先生にである。
「はい、なんでしょう」
「話があるので、部屋に来てくれますか」
「え?いいですけど」
周囲の視線が集まる。さっきの今だからだろうか、警戒されているのが解る。
「大丈夫だから。……大丈夫ですよね?」
「君は何を言っているのです」
「いや、そのぉ~。なんとなく……」
「私がご主……中島君を害するようなことをするとでも思うのですか」
いまいち天目先生の意図が読めない。が、ここは言われた通り、着いて言った方が問題はすくなさそうだ。
「はい、行きます」
先生でもあるし、命令には逆らえないというふうを装い、着いていくことにした。
部屋へと入る。
………なんというか、カオスであった。混沌がそこに存在していた。
所狭しと転がる工具。と、ごみ袋。
所在なさげに散らばる衣服。と、ごみ袋。
意味不明な道具。と、ごみ袋。
用途不明な電子機器。と、ごみ袋。
名状しがたいナニカと、ごみ袋。
まごうことなく魔境がそこにあった。
自分でもなんだが、そこそこに部屋は片づけている。寮則にもあるし、軍のあそこまでは厳しくないけど抜き打ち検査もある。汚いとそれだけで大変な目にあわされるのである。
それが………それが………指導者の側が………こんな……。
額に青筋がでるってもんだ。
「ご主人様に渡すものが……どうしました。なにか不機嫌のようですが」
「先生……、俺……我慢できない」
「え、突然なに?いや、突然じゃない、部屋に呼んだのだからそうなっても当然、でもまだ心の準備が、いえでもご主人様であるのだから、いつでもいかなるときでも」
「き……」
「キ?……す??」
「汚い!汚すぎます!!この部屋!!!掃除しましょう!!!!先生なんですから!!!!!」
がくりと膝を落として座り込む天目先生が目の前にいた。
「そーよね、そうでしょう、そうでしょうとも」
「えーと、どうしました?」
さめざめと泣く先生をみて、一瞬申し訳ない気が起きる。だってこんな汚すぎる部屋をみて、なんとも思わないなんてことがあるだろうか、いやない。
俺は心を鬼にする。
「俺をご主人というなら、部屋が汚いことは許されません。こんなところに住みたいと思いませんから」
はっとしたように俺を見つめる。
なんというか、尻尾を振る犬を連想させた。
「直にっ」
言って、ごみ袋を掴み、口に──。
「ストップ!スト~~~~~~~プッ!!!」
「普通に掃除しましょう、普通に。そういうインチキは不可です」
見た目も良くない。ごみ袋を人間ポンプの如く飲み干す姿なんてシュールすぎる。エンガチョである。いくらなんでもソレはない。
もしそれが、人と人外との認識の差であるならば、ふむん、ちょっと考えないといけないな。
どうやって縁切るべきかを。
「あ、それで呼ばれた用件ってなんなんですか」
「そうでした」