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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第五章
158/193

日入り果てて、風の音、虫の音 03

 俺は他の班がどうなっているのか見回す。

 千歳は源に龍造寺、安西と同じ班だ。……うん、がんばれ安西、陰ながら応援しているよっ!

 あずさんは、メイド姉妹の内二人にマルヤムと仁科さんか。マルヤムの暴走が気になるが、全体のバランスは良さそうだ。というかですねっ、一人はうちの班にもメイドさんが欲しかったぜ。何かと便利!

 とかいったら、押しかけられそうな気がするので自重する。

 ジャネットは、カナンにイフェ、平坂とフィリス。比較的普通の面々がかたまっているようだ。それもこれもご加護でしょうか?本人を目の前はしては言わないが、巧い組み合わせのようだ。

 レンについては、何も言うまい。コメントできるような面子でもないし、本当にバラバラの集まりだ。エルフにメイド、3馬鹿四天王、他。どうか仲良く強調してください。祈るしかなかった。

 コメントしずらいといえば、メアリーの班もである。間部がいるから何とかなるだろうけど、我が儘言わなければという注釈はつきそうだ。まぁ、その件に関しては俺も同じだろう。


 六道先生の話によると、明日からの午後は、ハイキングに合わせての授業になる。

 支給される装備や備品についての取り扱い等々、ということのようである。

「ということで、各班は班長を決めるように。上級生との打ち合わせは基本、班長が行う。時間がないからさっさとな」

 ホント、さっさと決めてしまおう。

 各班ごとに集まり、挨拶を交わす。

「──というとこで、よろしく」

 面々を見渡す。当然という風か弥生はいつもと同じ態度。霧島書記は俺と弥生がいるお蔭か安心している様子だ。

 そして……。

「はっ前田ン所と同じ班になるとはな」

「うっさいわ。だまっとけや」

 キーキー突っかかる羽柴とものうざげに反論する前田。それの中を取り持とうとする石田という構図。

 ぬぅこいつらって、こんな犬猿関係だったのか?思ったより前途多難?

「まぁまぁ、お前ら少しは仲良くしようとはしてくれよな。これから班行動するんだから」

「断るっ!」

 二人してハモって拒絶された。

「うちはな、あんなお調子者と一緒に見られるのはすかんのや」

 羽柴が悲鳴にも似た声でハッキリと断言する。

「まっこと、猿のようにうざい。みどもの事など放っておけばよかろう」

 前田が生ゴミを見るような目で反論する。

「脳筋がようゆうわ」

「金勘定ができるから、みどもより強いってか」

 ずいっと一歩脚を踏み出し、胸を羽柴に押しつける。

 対する羽柴も胸を反らして対抗する。

 キーキー、ワンワン。駄目だこいつらぶちまかしてやりてぇ。仕方ねぇ話の持ってき方をどうにかかえるか。

「羽柴さん、金勘定が得意なんか」

「あん?当たり前や、そんなことも知らんかったんか」

「だってなぁ、まともに話したことなんかないやん」

 素で返す。

 じぃっと俺の顔を覗き見る羽柴。

「………あほくさ」

 言って、石田の所へと下がっていく。

「で、だ。前田さん。四天王なんやろ。そんな態度しててえーんか?」

「あー、どういうことだ?」

 羽柴とやりあってた馴れ合いの怒気ではなく、俺には殺気でもって睨んできた。

「人の上に立つつもりなら、其れなりの素養をみせなきゃならんのじゃねってことだ」

「いちいちうるせーんだよっ。ナニサマのつもりだ」

 まだ花札のこと根に持っているのだろうか。一瞬そんなことが脳裏をよぎる。

「そいや、罰ゲーム」

「ああん?」

「いや、ちょっと思い出した。演習のせいでいなかったけど、ちゃんと続けてたよね」

「だだだだ、黙れっ」

 この反応ってことは。

 羽柴と石田をみる。

「知らないぴょん」

 二人してハモって言ってきた。

「で、どうなんだ。やったのかやってないのか、そこんところハッキリさせておこうよ」

 見事な話題反らしである。いちいち付き合ってられんからな。

「……るせぇ」

「ん?」

「うるせぇっていってんだよっ。ナニサマのつもりだぁぁぁ」

 怒り心頭。いきなり殴ってきた。

 俺はその一撃を見る。

 見た途端、身体が反応した。

 顔面に向かってくる拳。それを踏み込んで右前に移動。併せて掌底がでる。

「へぶっ」

 突き出した右手に当たった感触が伝わる。

 前田の一撃をギリギリ回避し、反射で出た手がカウンターで顎を打っていた。

 ストンと膝が折れて倒れる前田がいた。

「あ…」

 自分が何をやったのか理解できなかった。

 思わず自分の右手を見る。赤い染みが一筋ついてた……血?

「おいっ大丈夫か」

 慌てて近寄る。

 頭を上げると、口から血が流れていた。歯で唇を切ってしまったようだ。目の焦点があってない。綺麗に入ったからなぁ。

 顎を突いたことで、脳を揺すったのだろう。朦朧としていた。

「これ何本に見えるか解るか?」

 二本立てて目の前で揺らす。

 返事はない。

 パシッ。

 指を立てた手を払われた。

「上等だ。やってやる」

 襟首を掴んで俺を引き寄せる。

 やべっ、なんかスイッチいれちまったようだ。

 トン。

 突かれ、距離が離れる。

 それは合図。

 背筋に冷たいものが走る。

「いっぺん死んで──」

 言葉は最後まで紡がれず。

 前田は吹っ飛んだ。

 平坂と共に。

「へっ?」

 飛んでった方向を見る。

 いい感じに前田と平坂が絡みついていた。

 ラッキースケベ爆誕の瞬間であった。

 状況が飲み込めず、廻りを見る。

 あーー………なるほどね。

 平坂を投げたのは千歳のようだった。

 ずかずかと千歳は前田に歩み寄る。

 絡まった平坂を無造作に放り投げ、前田の頭を鷲掴みにして持ち上げた。

「今、なんと申したかのー、耳がとーくて聞こえなんだ。もういっぺん、妾に聞かせてもらおうかのー」

 言う間、もう片方の手が顔をはたきまくる。

 連打の前に前田は返答を返せない。

「妾のモノをどうするっていった?ほらっ言ってみるのじゃ」

 デジャブー。

 いや、以前にもあったな、コレ。てか、俺はお前のモノじゃないっ。

 停めないと、一歩前に出ようとすると、ジャネットが立っていた。俺を背にし、周囲を警戒している様に見える。視線の先は……北条?

「なにを──」

 横に人がいたのか、身動きしたところ当たった。

 そこにはレンがいた。その視線の先には結城。

 軽く目眩がし、一歩あとじさると、また当たる。今度は誰と見ればビアンカだった。その視線の先は言うまでもなく源を警戒していた。源の傍らには間部がいる。

 ………改めて教室内を見回す。

 軽く臨戦態勢のようだ。

 メアリーの廻りにはビアンカを除くメイドの3人が立っており、弥生の前にはあずさん。霧島書記は弥生の横で庇われてる感じ。

 クリスティーナはマルヤムに首根っこを掴まれぶらんとしており、エルフ3人は互いを背にして固まっている。石田、竹中、羽柴の3人も同じように固まっている。他も何人かでまとまり周囲を警戒していた。

 乱闘一秒前?

 突然のことに理解が追いつかない。一体全体どういう──。

「やめんか馬鹿どもーーーーー」

 怒声が響く。窓が共振でビリビリ震える。

 教室の面々は一様に動きをとめた。

 声の主は六道先生だった。

「お前ら、俺の目の前で楽しいことしてんじゃねーぞ。元気が有り余っているなら走ってこい。全員だっ!校庭30周」

 クラスの面々から不平が漏れる。

「連帯責任だ。文句ある奴前に出ろ。教育してやる」

 指を鳴らし、殺意ある視線でめねつける。誰からも文句はでない。

「おらっとっとと走ってこい!」

 結果、保健室送りになった平坂を除く全員が校庭を走ることになった。

 只の籖引きからどうしてこうなったのだ!ワケガワカラナイヨッ!!


 後日、班分けが改定された。

 “友好的”にトレードがなされた結果こうなった。


 一班:すめらぎひいらぎ、ビアンカ、ジャネット、ドゥルガー、中島なかじま

 二班:フィリス、カナン、イフェ、平坂ひらさか石田いしだ

 三班:櫛橋くしはし間部まなべ、メアリー、シルヴィア、亘理わたり

 四班:前田まえだみなもと龍造寺りゅうぞうじ安西あんざい、マルガリータ

 五班:エレノア、北条ほうじょう、シンディ、竹中たけなか羽柴はしば

 六班:カルディア、ディアナ、クリスティーナ、最上もがみ結城ゆうき

 七班:咲華さいか霧島きりしま、アラキナ、マルヤム、仁科にしな


 まぁ……一班に固められた訳だ。

 何故かメアリーとあずさんは悔しそうな目で俺を観ていたが……そんなの知らねーってば!


 へとへとになって寮へと帰還。

 まったく騒動には事欠かないぜ。

 帰り際、安西に言われたことを思い出す。

「君は騒動を起こすのが生業なのか、起こすならロボテクスが関係していることだけにしてくれ」

 何をいってやがんだ。今回は俺の責任じゃないぞ。仲裁しただけじゃねーか。

 思い起こす。

 まぁなんだ、ぴょんだとかなんだとか、関係ない関係ない全然全く関係ない。火に油を注いだ行為は忘れることにしよう。単に確かめただけである。ボクはワルくない。

「中島君、ちょっといいですか」

 皆が部屋へと戻る中、呼び止められた。

 天目先生にである。

「はい、なんでしょう」

「話があるので、部屋に来てくれますか」

「え?いいですけど」

 周囲の視線が集まる。さっきの今だからだろうか、警戒されているのが解る。

「大丈夫だから。……大丈夫ですよね?」

「君は何を言っているのです」

「いや、そのぉ~。なんとなく……」

「私がご主……中島君を害するようなことをするとでも思うのですか」

 いまいち天目先生の意図が読めない。が、ここは言われた通り、着いて言った方が問題はすくなさそうだ。

「はい、行きます」

 先生でもあるし、命令には逆らえないというふうを装い、着いていくことにした。


 部屋へと入る。

 ………なんというか、カオスであった。混沌がそこに存在していた。

 所狭しと転がる工具。と、ごみ袋。

 所在なさげに散らばる衣服。と、ごみ袋。

 意味不明な道具。と、ごみ袋。

 用途不明な電子機器。と、ごみ袋。

 名状しがたいナニカと、ごみ袋。

 まごうことなく魔境がそこにあった。

 自分でもなんだが、そこそこに部屋は片づけている。寮則にもあるし、軍のあそこまでは厳しくないけど抜き打ち検査もある。汚いとそれだけで大変な目にあわされるのである。

 それが………それが………指導者の側が………こんな……。

 額に青筋がでるってもんだ。

「ご主人様に渡すものが……どうしました。なにか不機嫌のようですが」

「先生……、俺……我慢できない」

「え、突然なに?いや、突然じゃない、部屋に呼んだのだからそうなっても当然、でもまだ心の準備が、いえでもご主人様であるのだから、いつでもいかなるときでも」

「き……」

「キ?……す??」

「汚い!汚すぎます!!この部屋!!!掃除しましょう!!!!先生なんですから!!!!!」

 がくりと膝を落として座り込む天目先生が目の前にいた。

「そーよね、そうでしょう、そうでしょうとも」

「えーと、どうしました?」

 さめざめと泣く先生をみて、一瞬申し訳ない気が起きる。だってこんな汚すぎる部屋をみて、なんとも思わないなんてことがあるだろうか、いやない。

 俺は心を鬼にする。

「俺をご主人というなら、部屋が汚いことは許されません。こんなところに住みたいと思いませんから」

 はっとしたように俺を見つめる。

 なんというか、尻尾を振る犬を連想させた。

「直にっ」

 言って、ごみ袋を掴み、口に──。

「ストップ!スト~~~~~~~プッ!!!」

「普通に掃除しましょう、普通に。そういうインチキは不可です」

 見た目も良くない。ごみ袋を人間ポンプの如く飲み干す姿なんてシュールすぎる。エンガチョである。いくらなんでもソレはない。

 もしそれが、人と人外との認識の差であるならば、ふむん、ちょっと考えないといけないな。

 どうやって縁切るべきかを。

「あ、それで呼ばれた用件ってなんなんですか」

「そうでした」


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