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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第五章
157/193

日入り果てて、風の音、虫の音 02

 中間試験はあれよあれよと過ぎていった。

 色々と妨害はあったが、なんとかやり過ごすことができ、今日は答案が帰ってくる。


 人の足を引っ張ろうとする遊び人や、趣味に付き合わそうとする慮外者などは未だよかったが、本気で人の邪魔を仕掛けてくるものまでいた。

 尤も、鉄壁のガードで守れられている俺に、そんな罠に飛び込む余裕もなかった。

 試験期間となっては、天目先生が本来の仕事に掛かりきりなり、空きができたが、それを埋めるように美帆さんがやって来て補習の続きを受け持った。

 夕食後は試験に向けての勉強会があずさんの手により催され、逃げ出すこともできず。逆に妨害しようと手ぐすね引いていた者たちもまきぞいにされ、千歳とジャネットの監視の元、食堂で消灯間際まで行われたりと。

「大将、もう殺してくれっ」

 そんな悲鳴を源がのたまう。

「許さん、お前には勉強することと、勉強することと、勉強することしか選択肢は無い」

 とか、言い返したり。

 因みに、勉強する俺を邪魔にしに来たのが、源、マルヤム、3馬鹿四天王。源もいるのでまるっと四天王揃い踏みではあるが。間部はうまいこと関わりにならずに逃亡している。

 趣味に付き合わせようとしたのが、クリスティーナ、カナン、イフェ。こっちもクリスティーナはお仕置きで逆に付き合わされるはめとなったが、カナンとイフェはどちらかというと自主的だ。

 部活のことで相談があると話され、そのまま一緒にってな流れであった。

 あとは冷やかししたものが、巻き添えをくらい、エルフ3人が御用となり、それ以降、触らぬ神──誰とは言わないよ──に祟りなしとばかり、夕餉が終わると、関係者以外はそそくさと自室に戻るそんな状況とかさ………365日24時間護送船団状態、泣きが入るっての。


 兎にも角にも地獄の試験期間は終了となった。

 そして目の前には答案が並べられていた。

 ………平均69点。クラスの真ん中に位置していた。

 赤点は免れた訳だが……うーん、まぁ仕方ないか。よくぞここまで盛り返せたと言うべきか、判断は後の歴史家に委ねよう。

 平坂は82点、安西は93点。何気に優秀ですよ、お前ら。少しは手を抜きやがれ。

 弥生、あずさん、霧島書記は言うまでもなく……千歳までが成績上位者だったのが、不可解だ。

 留学組は日本語で躓いて、点数を落としていた。つまり、読み書きが進めば、更に点数があがるというもので、ひたひたと後ろから追いかけられる恐怖を味わうこととなる。………一部を除いて。

 まぁ進学校じゃないから、そこまで優秀である必要はないんだけどさ。

 なんでそんな細かいことが解ってしまっているのかと言えば、もちろん六道先生の賜物である。

 ご丁寧に、クラス全員の点数が書き込まれたプリントを配布してくれたのであった。

 死ね、マジシネ。


 そして、六道先生は俺にのたまう。

「今回赤点はギリギリ無かったが、ギリギリなものが多い。あとは解るな」

「解りませんっ」

 と、ハッキリ返答したら、拳が返ってきた。理不尽であるっ!

 そういうことは、学級委員長の平坂にでも言えってんだ。

 いい迷惑である。


 そんなこんなで、通常授業の開始。

 天目先生と美帆のお蔭でなんとか挽回でき、授業の内容についていけるようになっており、ほっと胸を撫で下ろせた。

 そして授業が終わり、ホームルームになる。今日も一日何事もなく終わることができたと安心したところで、六道先生から発言が飛ぶ。

 もぉ、お約束?

「中間試験が終わったら、次は“ハイキング”だ」

 説明が続く。

 ハイキングとは爽やかに聞こえるが、実体は“行軍”だ。

 30キロ以上の荷物を背負って、一週間(月曜から金曜まで)歩く。

 荷物の内訳は6人用の本格的なテントだ。各学年で1つのテントを分担して運ぶ。またシュラフ、着替え、飯盒鍋包丁まな板炊事洗面道具、食料水ロープ救急箱、他等々、シャベルにナイフと鉈も持つことになる。キャンプだホイ♪キャンプだホイ♪キャンプだほいほいほ~い♪で、ある。ボーイ/ガールスカウトかっ!いや、まぁ、着ていく服はまんまそれなんですけどね。

 行軍は、その距離100キロ。

 20キロ毎に置かれるポスト(通常はそこで野営)を廻って、最終地点である海軍の軍港までを踏破する行事である。ちょっとどころではないオリエンテーリングだ。渡されるのは、地図に書かれたポイント地点とコンパス。

 因みに20キロとはポストからポストへの大体の“直線”距離である。山中を行軍するということは、その分脚は鈍るし、目的地まで真っ直ぐ歩いていける訳ではない。確かに、全部が全部山の中を歩く訳でもない。ゴール手前の10数キロは市街地だし。だけど、そんなものは関係ない。実質300キロ、へたすりゃ400キロは歩くかもしれないということだ。

 辿り着けなければ、辿り着けるまで歩く。寝る時間を削ってでもだ。毎年数グループは脱落するとかなんとか……。その分あとで“補習”が待っている。どんな補習かだって?聞きたくもないっ!

 土曜日は向うからこっちに帰る日となっている。朝、ちろっと軍港内部を見学し、電車に乗って戻る。

 班編成は1年から4年を各5人づつ混ぜた20人を一班とする。端数は調整され足されていく。


 そう、そこが問題なのだ。一学年から5人。つまりはそういうこと。

 誰が俺と班を組むのか。

 奇しくも同じ寮、同じ部屋である。一部屋4人だから、調整はあるだろうけど、そこで纏まってしまう流れだと思うのである。そうなると、心配なのが霧島書記である。

 だって、ねぇ……。平坂とは最悪組ませたくない。論外である。最悪、婚約者のいる安西なら大丈夫だとは思うのではあるが……。

 廻りは人外ばかりなり、このクラスで霧島さんを任せることができるは、弥生とあずさんだろう。無論、あずさんは弥生から離れる事はないのも確定だろう。

 無論、千歳が弥生と離す事なぞできない。そんな大惨事が約束されている行為を見逃す事などできはしないのである。

 他のクラスの面々なら適当に組んでも問題はないだろう。願わくば、問題を起こさないでいてくれるのを祈るばかりなり。

 そうするとだ、俺、弥生、あずさん、千歳の4人は確定だろうから、そこへ霧島書記が入るというのが、一番問題ないというものである。仕方ないよね、うんうん。


 メアリーたちの様子を伺う。5人で組むなら、メイドの4姉妹とで決まりだろう。

 同じように源達は四天王と間部で5人になる。

 他にも目ぼしいグループはある、エルフの3人とか、イフェとカナンのコンビ。5人きっちりとはいかないが、組み合わせれば丁度良くなるだろう。

 あ……レンのことはどうしよう……。彼女が誰かとつるんでいる風には見えない。接点があるとすれば、鵞鳥の小屋を作った龍造寺と、総合演習に赴いたときの仁科さんとビアンカになる。もし、あぶれるようならなんとかしないとなぁ……。

 誰か他にいないかと辺りを見回す。

 あ……ジャネットもあぶれているような気がしないでもない。そいや、一緒に飯喰っているんだから、一纏めにしても問題ないよな?なんなら、平坂と安西とも組ませてしまえばいいだろう。

 そこで、はたと思考する。組むなら………、俺は誰と組みたいんだろ。

 それは俺の優先順位。誰がそばに居れば安心するのか。

 順に皇弥生、咲華あずさ、霧島榛名、柊千歳、メアリー・スチュアートとメイド4姉妹の内のビアンカ・マーチ、ジャネット・リシャール、スイレン。深く関わった者はこの位か。

 後は上級生である東雲美帆と中江瑠璃の両名。とりあえずこっちはおいといて、班として組もうと考えられる人物……。

 ふむん………、しがらみで考えると、誰と組むのは決まってくるが、そうでないなら……。

 ……………。

 ………。

 …。

 何かやばい。これはやばい。順位付けしようものなら、俺自身の身が危ないのではないか?後ろから刺されてしまうような錯覚が過った。

 そうそう、そうよそうよ、一夫多妻の場合、優先なんてものはない、等しく同等に扱わなくてはならない。この場合もそういう風に考えよう。

 そうだそうだ、無理に順位をつけることなんかない。優劣を競ってどうするってんだ。お手て繋いで仲良くゴールでいいじゃないか。

 但し、あずさんは除く。

「何か物凄く、不愉快な気分に」

 あずさんが、俺の方を向いて聞こえるギリギリな小さい声で呟いてきた。

「気のせいだ」

 彼女は俺の瞳をじっと見つめる。三白眼の瞳になって貫いてくる。

 怖いよっ!

「いいでしょう」

 視線を教壇へと戻す。

 本当にあいつはサトリか何かの人外なんじゃないか?


「そんじゃ、班分けするぞ」

 六道先生が生徒を見回しながら告げる。

 机決めも適当な人だ。適当に固まれっていうんだろうな。なら俺は──。

「籖引きで決めよう。天目先生、準備を」

 がくっ。

 まじで?

 面倒は嫌いとかいってたくせに。寄りにも寄ってこのタイミングで……って、うん?

 誰が誰と組もうが、俺にとっては関係ないんじゃね?級友であるわけで、深刻なイジメなど起きてない。反目し合っている奴らもいるだろうが、それはライバルって意味で嫌っているとか憎んでいるって訳じゃない。

 このイベントで、仲がよくなればいうことなしじゃないか。大体、殆どが同じ部員である。俺もだけど。親睦を深めるには丁度いいってもんだ。

 ナイスだぜ六道先生。正直見くびってたよ!色々と考えてくれていたんだ!!

 ………じゃぁないな。この考えは天目先生が出してきたのに違いない!!!

 第一、言われて直ぐに、用意していたものを出しているじゃないか。

 教壇に、さっくりと置かれた箱が目に映った。

「じゃあ、端から順に引いていけ」

 大雑把に六道先生は指示をだした。


 一班:すめらぎ霧島きりしま石田いしだ中島なかじま羽柴はしば前田まえだ

 二班:フィリス、カナン、ジャネット、イフェ、平坂ひらさか

 三班:櫛橋くしはし間部まなべ、メアリー、シルヴィア、亘理わたり

 四班:ひいらぎみなもと龍造寺りゅうぞうじ安西あんざい、マルガリータ

 五班:エレノア、北条ほうじょう、シンディ、竹中たけなか、ドゥルガー

 六班:カルディア、ディアナ、クリスティーナ、最上もがみ結城ゆうき

 七班:咲華さいか、ビアンカ、アラキナ、マルヤム、仁科にしな


 黒板に班分けの結果が書かれた。

 一班以外はいい感じに混ざっている………一班以外は。

 なにやら作為的なものを感じるが、籖引きの結果なのである。流石にこれをインチキできるはずはないだろうし、たまたまなのだろう。

 ………だよね?

 改めて一班の面子を観る。弥生はまぁ彼女の能力が作用したのだろうとは想像着くが、霧島さんまで同じ班になるとは思わなかった。情けない所は見せれないな、気を引き締めないと。

 後は、前田。三馬鹿四天王の一人だ。候補生といってはいるがどの程度の強さかは知らない。本気を出せば俺よりは強いのだろうけど、いまいち頼りなさを感じる。

 石田、羽柴はよく分からない。接点が特になかったからなぁ。見てると竹中を含めた三人は知り合い同士のようで、俺からとやかく言う必要はなさそうな感じだ。

 仲良くできればいいね。



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