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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第四章
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幕間 越後のちりめん問屋

幕間 越後のちりめん問屋


「──以上が、総合演習でおきた戦闘に関しての全てです」

 流石、親友。斜め上のことをしてくれる。

 でもまぁ妹の旦那となるならば、その位やってもらわないと困るんだよな。

「聞きたいことはありますか?」

 言われ、思案する。

「その報告、大本営的にはどう纏めたのだ?」

「ハンサ襲撃部分ですか」

 俺は頷く。

「そうですね……襲撃時、西条大尉が迎撃を行った。果敢に挑むも、後一歩のところ運悪く、落水。残っていた彼が逃走しようとするのを対空ミサイルで撃墜。着水後、自身も海に飛び込み、魚雷発射し止めを刺すも、距離が近く自身も余波を受け沈没。リュウジョウが果敢にも秘匿事項である潜水機能を使用し救助……ってところでしょうか。潜水機能を使用したことで、箝口令も無理なく通せます」

 可潜空母リュウジョウ。旧帝国軍が生み出し、戦略原潜へと発展した悪夢の兵器の系譜に連なるもの。

 今の時代、核は使えない。巡行ミサイルなどは今も使えるが、それよりも秘密裏に現地で部隊を展開できる戦術が重要になってきている。それもこれも相手が魔獣であることからだ。先祖返りしたようではあるが、時代の要請ってやつだ。

 通常の艦隊行動なら、必要とされないが、皇軍の立場では重要な位置を占める。海外での救出作戦など用途は多岐に渡るだろう。

「ご苦労、引き続き親友のサポートをお願いするよ」

 上層部はそれで誤魔化されるとは思わないが、一般発表ならそれで誤魔化されるだろう。今の時点で余り目立ってほしくはない。

「言われなくても、あんな楽しい素材はそうあるものではないですし」

「素材ね……、気にいってんだな」

「ええ、貴殿に勝るとも劣らずですよ」

 言いたい事は解る。全損になるほど躊躇なく使い倒す奴なんて早々いない。モノを創る上で限界を知る事ができるのは実に有用だ。try and error、欠陥を手早く叩き出す奴は重宝する。

「それで、全損した訳だが、次の計画はあるのか?」

「そうですね……、空を飛びたいそうですから、そういう機能を着けるのもいいかと」

「……あいつがそんなことを?」

「ええ、冗談でしたが、駄目ですよね。私の前でそんな冗談、本気にするに決まってますから」

 南無三、親友よ幸あらんことを祈るわ。思わずにやけ顔になる。

「でも、どうするよ?基本学校で教えるのは陸の方だ。飛行課程なんかないぞ」

「何とかなるでしょう、ファミリアー・コントロール・システムは優秀ですから」

 適当だな……。

「それに、彼自身にも難癖つけて、飛行課程を受けさせましょう。なんてったて、皇軍ですから」

「そちも、悪よのぅ」

「いえいえ、お代官様ほどでもありませぬ」

 ひとしきり二人の嫌らしい笑いが谺する。

「そのファミリアだが、優秀なのか?」

「ええ、驚くほどに。船の操艦までやってしまうくらいには。上部甲板をパージされた時は何が起こったかと思いましたよ。お蔭で艤装はやり直しです」

 やり直しついでに、またよからぬ機能をつけそうだ。

「なるほどね、陸ができて、海ができれば、次は空と」

「後は宇宙空間ですね」

「言ってろ」

 しかし、こいつなら笑いながらやってしまいそうだ。そう思う。

「ファミリアー・コントロール・システムの有用性は解った。それで、量産はできるのか?」

「予算案だしましょうか?内閣ひっくり返ると思いますが」

「皇軍の特定機だけこっそりってのは?」

「難しいですね、人工知性体搭載というのは、アレルギーがあるでしょう」

「AIの反乱か、石にも意志が宿る世界だ。そういう危険性は排除したいか」

「全く面白い時代に生を受けたものです」

「全くだ。そういう世界だからこそ俺の価値もあった訳だが」

「そういう話になるのでしたら、通信を切らせてもらっていいかな」

 全くコイツは興味のないことはばっさりしてる。まあ、そこがいいんだが。

「はいはいっと、では次だ。ハンサだっけ?あの鵞鳥、扱いはどうするんだ」

「正直、扱いに困っています」

「……だろうな」

「遭遇時は30メートルはあろうかという大きさでしたが、倒されたせいなのか、普通の鵞鳥より二回り大きい程度まで小さくなってました。ですので、檻の中にいれることができているのですけど。それにあの負傷、専門家に任せたいところですが、そうも言えませんし」

 鵞鳥のハンサ。ヒンドゥー教でいうところの、ブラフマーが騎乗する水鳥。

 シヴァが率いる団体から襲撃を受けたとき、保護(掻っさらったともいう)したドゥルガーがらみ。

 徹底的に潰しておくべきだったか?まあ、過ぎたことはどうしようもない。あの場にはハンサは居なかったし。

「にしても、シヴァとブラフマーが繋がっていたとは聞いてなかったな」

「ヴィシュヌとシヴァがあの地での二大勢力で、ブラフマーは一つ落ちます。潰されないために、いい顔をしておきたいのでしょう」

「素直にブラフマーに返して貸しを作るか?」

「まさか、そんな愚作をするとでも?」

「思わんさ」

「返したとしても、向うは知らぬ存ぜぬを貫くでしょうし、ましてや人に負けた人外なんて恥さらしもいいところでしょう。内部で粛清されるのがオチですね」

 更に付け加えるなら、ハンサを通じてドゥルガーの居場所が割れて、シヴァと正面切ってドンパチって展開は流石に御免だわな。

「ならどうするさ、焼き鳥にして後でスタッフが美味しく頂くって展開は、正直面白くない」

「だから困っていると言っているのですがね。ただ、このままでは遠からずそうなる可能性は大きいです」

 思案する。皇軍で監視したとしても、隙を狙って逃げ出すかもしれない。所詮は畜生、保護した恩とか全然感じないだろう。喋る口は塞ぐに限るが……まあその口は今現在木っ端微塵だけど、どうにも日本人的感覚から、そういう無粋な真似は躊躇われる。

「そうだな……、なら預けてしまえば?」

「彼……に、ですか?」

「名案だろ?」

「そうですね、こちらで監視してたところで、力が戻れば脱獄してしまうでしょうし、暴れられれるのも困りもの。遠野に預けるにもいささか問題があります。生殺与奪含めて彼等に任せるのは手っとり早いですか」

「そうだな、逃がしてシヴァが絡んでくるなら、もう任せてしまえばいい。ジコセキニンってやつだ」

「それはそれは、とても面白そうですね」

 皇軍という組織が、直接関与していなければ無関係を貫ける。奴らも狙いが絞れる。面子もあるだろうし、直接乗り込んでくるだろうな。ブラフマーがくるかシヴァがくるか、うん楽しみだ。その場に俺がいないのが残念でならない。

 ただ……まあ、そんなことにはならないだろうと推測する。番犬ならぬ、番鳥が関の山。

 災難なのは彼とその学校。まっ、軍人になろうというんだからいい試練だな。嫌らしい笑みが漏れだす。

 それにどう足掻こうが、妹がいる。逆立ちしたって最悪なことにはならんだろう。

「じゃ、そういうことで」

「了解しました」

「後は………A.Iか。結局作動原理は掴めたのか?」

「いえ、全然です。完全にブラックボックスです。ただ、どういう現象が発生したのかは推測できますが、普通の人間があんな事象を起こせるのは無理です。ざっとSランク相当のフォースパワーが必要でしょうね」

 天変地異相当ってことか。確かに“世界の反転”なんて芸当だ、さもありなん。にしても、親友はどうやって作動できたのだ。確か今はCランクとか言ってなかったけ、俺が知覚しえなかった謎な部分があるというのだろうか。

 “普通”であるから選んだのに、えらい誤算だ。それとも、なにか別の働きがあったとでもいのうか?

 全く、楽しませてくれる。

「あれのお蔭で助かったのはいいんだが、お前でも解析できなかったってのはちょっと信じられんな」

「ええ、貴方が面白がってつけろって言わなければ、今でも倉庫の肥やしだったものですからね」

「………前任の消失事件と関係あると思うか?」

 A.Iは前任者が開発したものだ。完成した後、忽然と居なくなった。設計図や作成された品は残っていたが、いまだ原理は解明されてない。

「さて、それは私の判断外ですが、まあ、関係していると思いますよ。少なくとも私は」

「確か、前任者は“覚醒の夜”について色々興味をもっていたんだったな」

「そのようですね」

「あんたは、それに興味がないのか?」

「そうですね、ないとは言い切れませんが、今は別のことに夢中ですので」

 全くこいつは本当に……。

「でも、タキオン粒子波動力学ですか、その線でしょうね」

 ……こいつどこまで解っているのだ。

「解っているなら、解析できるんじゃないのか?」

「まさか、無理に決まってますよ。元になる理論がそうであったとしても、アレの中身がどうしてそのような作用を発生させるかなんてのは……ね」

「あんたでも解らないってのは、信じがたいな」

「世界は謎が多い。いいことですよ、解明された世の中なんてのは楽しくない」

「言えてら」

「大体のところはこれで終いか」

「そうですね、詳細は送付したファイルを見てください。くれぐれも扱いには気をつけてくださいね」

「解ってるって」

「それでは、そちらもご健勝あそばれ」

 あっさりと、通信が切れる。


 俺は一息つく。

 あーーー、はやまったかなぁこっちにくるなんて。やはりゴネてなかったことにした方が良かったか。

 いやいや違う違う。

 俺は、あの中で活躍する役者じゃなかったんだよ。俺がいたのでは、あそこまで面白いことになんかならなかった。残念なことに。

 俺ができるのは、親友の行く末を見守ること。裏で引っかきます材料を揃え、火に燃料をくべるが如く投入する。うん、直接ではないが、そういうのも面白いってもんだ。

 妹をやったんだから、その位は楽しませてもらわなければ損というもの。

 だから勝手に楽しくなるなんてのは、見逃せることではない。次の燃料を探さなくてはならない。

 ……にしても、今回のは誰が裏で糸を引いたのか……。磯巾着云々は、おおよその見当は着いているが、ハンサが居合わせたのは本当に偶然なのか、調査すべき事案なのか……。

 フン、まあ、どっちでもいいか、何か目的があれば、またぞろちょっかいをかけてくるだろう。その時でも遅くない。

 再度、大きく息を吐く。

 ククク、あぁ親友よ、本当に幸多からんことを。


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