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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第四章
145/193

たった一つの冴えたやり方 02

長らくお待たせしました。

 原因を撃破したとしても、集まった集団が直ぐに消えてなくなる訳ではない。

 扶桑を挟んだ向うで側では、いまだ総攻撃までのカウントダウンが進んでいる。

「最後の作戦となります。こいつらを敵の後方へ投下して進路を変更させます」

 リュウジョウの甲板にネットで拘束されている磯巾着を観る。

「一体は今後のために残しておきたかったのですが、現状では危険すぎますので、全部を運びます」

 作戦の説明がなされる。

「死体だといっても、他に誘因要素がないともいいきれませんし、できる限りの手は打つべきですので。それに、本当に死んでいるのかもわかりませんしね」

 義死とかいうやつか。調べている暇もないし、そのことは置いておくしかない。


 3機のヘリが各々一体づつをつり下げて飛んでいく。

 護衛には最後に残されていた雷電がついていく。

 その光景を飛行甲板から眺めている。サクヤを充電するため降りて作業していたからだ。

「これで終わりか」

 俺のやることはもうなにもなさそうだ。

「親父殿、なにをしようとしているのだ」

 心配させたようでスイレンが話しかけてる。

「これで終わりなんだと思ってさ。まだ向こう側では戦闘が残っている。いくら散らしたといっても、扶桑に向かってくるやつはいる。帝国軍はその侵攻を阻止するために動いているのだけど……」

「適材適所だ。親父殿が気に病むことでもないだろう」

「それは……そうなんだが……」

「それより、ことが終わったら話したいことがある。他の皆と一緒に集まってくれんか」

「ん、あぁいいが、話ってなんだ?今じゃだめなのか」

「人目があるからな。我々だけで話をしたい」

 スイレンの俺を見る目は真剣だった。

 ん?視線に険がある。辛そうな感じだ。

「調子悪いのか?医務室で休んでた方が」

「まあ大丈夫だろ。それより、さっきの件、おそらく夜になるだろうが絶対に集まってくれ」

 真剣な眼差しに押され、おれは頷いた。

「とりあえず、休んでおけよ」

 救務室へ行くように促し、俺は再度サクヤに搭乗しに向かう。帰って来たビアンカが着替え中で、それを待って着き次第リュウジョウの護衛任務を続行となる。

 まだ戦闘は終わっていない。

 甲板では、ヘリや雷電が給油など整備し、再出撃を繰り返している。一段落するまではまだ気が抜けない状況だ。

 にしてもだ。

 吹き抜ける潮風が心地よい。データースーツのせいで風は顔に当たるだけの分でしかないが。

 空を見上げる。

 何処までも続く蒼い空。

 反対側では空を見上げる余裕なんかないのだが……。

「はぁ…」

 いや、前線にでて何かしたいという訳じゃないんだけど、何か他にやれることがあるんじゃないかと、焦りにも似た感覚が襲ってくる。

 それにしても雲一つないな。本当に、今が戦闘中ってのが嘘のようだ。


 眺めていると、突然けたたましく警報が鳴り響いた。

 辺りを見回す。甲板に出ていた兵士が補給やらなんやらの設備を片づけだし、それ以外は持ち場にいそいそと戻りだす。

 俺はっ俺はっ……。慌てるな、サクヤに早く乗り込むんだ。

 にしても、何が起きたのだ。辺りを見回しても敵の影すらない。まぁ肉眼で見える距離まで近づかれるまで、気がつかないなんてことは有り得ないか。

 充電ケーブルを外す作業にとっかかる。

 先に補給を終えていた西条大尉が12式を起動し、甲板前方へと向かう。俺もちんたらやってられないが、象の冷蔵庫理論は通用しない。焦る気持ちが身体を急かす。

 よしっケーブルが外れた。

 格納の操作を行いつつ、ヘルメットを被る。

 データースーツと接合し、手首のパネルを操作。ひんやりとした感触が肌にひっつく。準備はできた。

 サクヤのコックピットへと足を向けたとき、聞き慣れない燃焼音が轟いた。

 見ると、12式が空へ向かって背中のセルからミサイルが4発飛んでいくのが視界に入った。

 一端直上に昇ったミサイルは方向を替え、リュウジョウの後方へと向かう。

 目標へと飛ぶミサイルから青い煙幕が吹き出る。視界妨害や異臭をばら蒔く対魔獣用の煙幕弾だ。

 背中に背負ったVLSのセルは2つあり、一つは今の煙幕弾、もう一つは対空ミサイルが格納されている。先ずは防衛のために煙幕弾を打ち上げたということだ。

 これで、某かの敵が離れれば問題はないが……。

 続いて12式はミニガンを構える。

 一呼吸か二呼吸後、砲火が飛んだ。

 敵?どこからだ。煙幕のせいで良く分からない。

 目を凝らしていると、射線の向うの彼方から何かが飛んできているのが目に入った。

 西条大尉はそれに向かって撃っていた。

 なんだ、鳥か、飛行機か、いや鵞鳥だ。

 それはものすごい勢いでリュウジョウの左舷を白い巨体が抜けて行く。艦との対比でそれは途轍もなくでかいというのが解った。30メートル位はありそうだ。

 タラップに足をかけた地面が揺れた。

 地面じゃない、艦がだ。リュウジョウが大波に掬われ左右に揺れる。

 不意のことに足をすくわれ甲板を転がった。

 データースーツのお蔭で痛くはないが、なにごとだ。いや違う、あの鳥が通りすぎた余波だ。改めるまでもなく、ここは地面の上じゃない、海の上なのだ。いきなり、足元が揺らぐ不安に俺は焦る。

「中島少佐、中島少佐、応答せよ、応答せよ」

 ヘルメットに無線が鳴り響く。

「はい、中島です」

「どこにいる?」

 この声は小早川大尉だ。いつもの飄々と人を食ったような口調ではない逼迫した声。

「サクヤの前です。今乗り込もうとしてました」

「そうか、ならアサルトライフルの使用を許可する。二丁持っていってくれ」

「二丁ですか」

「一丁は西条大尉に渡してくれ。ミニガンじゃ豆鉄砲すぎる相手なんだ」

 確かにあれにはミニガン程度では歯が立たないだろうな。

 ミニガンは基本対人兵器だ。圧倒的な面への制圧力はあるが、中型以上の魔物には効果が薄い。

 にしても、なんでそんなもんがやってきたってんだ。

「はやく搭乗して、君も援護をしてくれ」

「了解」

 立ち上がったところでまた艦が揺れ、再度転ぶ。今度はなんだ。

 艦首方向からの圧力。あぁそうか、リュウジョウの機関が全力運転したせいだ。

 くっそ船の上ってのはやりずらい。

「親父殿、すっころんでばかりでだらしがないぞ」

「慣れてないんだから仕方ないだろ」

 仁王立ちで俺を眼下に納めているスイレンに文句をいう。

「ほら立った」

 手を引っ張られ、立ち上がる。こんな時だがなんとも情けない感情が沸いてくる。

「それより、医務室に行ったんじゃなかったのか」

「こんな状況でのんびりしてるわけにもいかんだろ」

 しかし、相手は巨大な鵞鳥だ。俺にはロボテクスがあるが、生身のスイレンでは何もできないだろう。

 ……鵞鳥だよな?飛んでるけど。なんでこんな所に?いやいやあの巨大なとこから魔獣であることは確かなんだが……鵞鳥かぁ。いかんともしがたい座りの悪さだ。

「あんだけ巨大な図体だ。しかも飛んでいる。スイレンは中に入っていろ」

 俺はそういって、コックピットに駆け込んだ。

 アサルトライフルを二丁持って、12式に向かう。

 眼前で、残りセルから対空ミサイルが射出される姿が映る。

「中島伏せろっ」

 無線が響く。

 言われ、即座にサクヤの身を屈めた。

 12式の銃口がこっちを向いている。咆哮が轟く。それは俺の上を通過していった。

 まさかと思う間もなく、影が通りすぎ、西条大尉へと一直線に向かう。

 その次に目に飛び込んできたのは、12式が巨大な鵞鳥に蹴られ、海に落ちていく姿だった。

 派手な水しぶきが立ち上がった。

 そして12式が居た場所に、大きな翼をはためかせ、優雅に鵞鳥が降り立つ。

 巨大だ。千歳の八咫烏姿とは比較にならない程の大きさだ。見た目はホント、鵞鳥なのにでかさ故の威圧感がとんでもない。

 どうする。ミサイルを撃つか?駄目だ近すぎる。艦にも被害が出るだろうし撃てない。

 なら、両手にもったアサルトライフルを起き上がりつつ乱射するか?ミサイルに比べて艦への被害は少ないだろう。そのまま突撃して、体当たり。抱きかかえて海へもろとも。こっちは潜水機能がついているんだ、海中へ引きずり込めばなんとかなるか。

 巨大な鵞鳥をモニター越しに見つつ算段する。

 不意に鵞鳥がこちらを見た。

 気取られたか?

 そうじゃないか、今この中でヤツに対抗できそうなのもはこの機体だけだ。西条大尉の12式は蹴落とされて海の中。雷電は周りの掃討に出払っているし、よしんば戻ってきたとしても艦ごと攻撃するわけにはいかないだろう。

 ヘリはいわずものがな。対潜装備で何ができるというのだ。

 鵞鳥が続けて睨んでいる。どうする、どうする?

 逡巡している俺を後に鵞鳥は鳴く。金管楽器の鳴き声がびりびりと機体を揺する。

 威嚇か?

 威嚇だろうな。反応して動けば狙い澄まされたように潰されるだろう。

 先手を取られた。そのままアサルトライフルをぶっ放して突撃すればよかった。ってそんなことしても、結果は同じか。ならどう動けばいい?どうやって倒せば……。

 ……ん?

 何故俺は倒すことばかり考えた。

 千歳のファーストコンタクトのことを思い出す。もしかして……いけるのか?

 それと同時に恐怖が走る。千歳のときは、何も知らなかった。人外に対して言われている事実が本当かどうかなんて体感もしてなかったことだ。ある意味舐めていた。隣には弥生がいたし、それで話しかけるなんて選択ができたのかもしれない。

 実際、弥生を見たときは背筋に氷の柱ができたかと思うくらいだった。アレを体験したあとでは、いくら姿が異形であったとしても温く感じていたのかもしれない。

 無知なだけだったのかもしれない。

 それに、その後、狼女や黒い12式とか問答無用の戦いがあったしな。実際……俺は………。

 今はどう感じているのだ。

 大きく息を吸い、吐く。こういう時こそ素数を数えるんだ。2、3、5、7、11、13……。

 モニターを見る。今だ鵞鳥は金管音をがなりたてて、警戒している。

 こちらの手が何かを伺っているのだろう。つまり、知能がある。魔獣の類ではなく、人外の可能性もあるってことか。単に、鵞鳥の習性かもしれないが、あんだけ大きな図体でこちらを警戒するというのは理屈に合いそうにない。間違ってないことを祈る。

「外部スピーカーオン」

 サクヤピクシーに告げる。

『その判断は無謀と判断します。相手を刺激し、戦闘になる可能性が高いです』

「その時はその時だ。やれ」

『了解しました』

 大きく息を吸い、止める。鼓動が激しいのがわかる。大丈夫だ、弥生と相対したときなんかより余裕だぜ。自分の心に言いきかせる。

 おしっ。

 破れかぶれでもいい。最悪だったら、やつに抱きついて、そのまま一緒に海に飛び込んで魚雷でもぶっ放せばなんとかなるだろうさっ。自分のケツは自分で拭く。覚悟を決めろ俺よ。

「そこの鵞鳥、いまから立ち上がる。攻撃はしない。話をしないか?」

 さぁどうだっ。


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