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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第四章
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蒼天航路 07

「唐突だっちゅーのっ」

 周りを見回す。

 ミーティングルームだ。

 但し、仮想のというか夢の中か。光源らしきものはなく、それに伴って影もない。だが明るい。

「なんとハレンチなっ」

 絶叫が迸る。

 声のした方をみると、仁科さんがいた。体操着姿で。

 隣には拳より小さいくらいの蒼い宝石が浮かんでいた。

 なんだこれ?

 視線を上にすると、体操着姿のスイレンが肩車されているのを確認する。

「貴方、一体全体これはどういうことっ」

 俺に食ってかかる仁科さんではあるが、俺だってどういうことだっちゅーのっ。

「知らんがな。スイレンに聞いてくれ」

 睨まれた。

 まぁ、スイレンも同じ体操着なわけで、俺の被害者だといいたい様だ。

 やめてっ濡れ衣よ。濡れた衣は見てみたいけどっ。

 途端に、仁科さんの体操着が濡れた。

 透けて肌色成分が染みだす。

「ぎゃぁぁぁぁ」

 びんたされた。

「落ち着け」

 スイレンが止めに入る。

「自分を保て。親父殿に感化されているぞ」

 感化ってなんだよそれ。むぅ。

 いわれて気付いたような素振りで自分を凝視する仁科さん。

 すると、濡れた服はあっという間に乾いていき元に戻った。残念無念。ついでに腕で隠した胸も…。

「親父殿も邪念を起こすな」

 髪の毛を引っ張られた。止めて、毛根がしんぢゃう。

「ややっこれは。なるほど、面白い現象だ」

 足元からの声。

 視線を向けると、そこには………ダルマがいた。顔の部分に名前が書かれている。

「小早川大尉ですか……」

 ぴょんぴょんと跳ねつつ。俺の問いにそうだと答えるダルマ。

 隣には、東郷少佐、西条大尉、南部さんに北都さん、他士官の面々がダルマになって転がっていた。

 と、なるると、あの蒼い宝石は……。

「もしかして、ビアンカ……さん?」

「イエス、マイロード」

 宝石が喋った。

 仁科さんが体操服なのは解る。スイレンと同じ人外でフォースパワーがあるからだ。

 同様にダルマにされている小早川以下士官はフォースパワーが足りないから、あんな姿にスイレンがしたのだろう。と、思う。

 では、ビアンカは何故に宝石?よくわかんねー。

「不思議がっているのは後だ、親父殿」

「そうですね。今は問題を解くのを先にしてください。話す機会は後に」

 スイレンと小早川大尉にせっつかれる。

「解ったそれでどうすればいいんだ」

「同じだ。我が輩と深く繋がれ、そして観るだけだ」

 簡単に言ってくれる。

「早くせいっ」

 殴られた。

 くっそー。

 とりあえず、呼吸を整えてフォースパワーを巡らせ準備する。

 それから徐にスイレンのフォースパワーをその身に呼び込む。

 おぉっ、精霊石のお蔭かなんだかすんなり事が運ぶ。

 視覚にフォースパワーを廻しつつ、肉体強化も行う。

 風景がみるみる変わる。

 周りが幾何学模様に変化した。

「周りのものにも解るように、お前の視野をこの場に投影する」

 なるほど。

 そうやって皆に見せる訳か、こっちが何かすることはないってことね。

 勝手はよくわからないが、スイレンに任せておけば大丈夫だな。

 視野を拡げるイメージで周りを観る。

 うーん、なんだかごちゃごちゃしている。

「鳥瞰図だ。上から下を見下ろすようにしろ」

 ふむん、視点を上へ下を見下ろしてっと。足元に扶桑の全容が広がる。輪郭にそって幾何学模様が埋め込まれた感じだ。なんとか解るな。

「これは凄い。こんなことができるとは」

「これほどとは、驚いた」

 感嘆の声が足元から出る。小早川大尉と東郷少佐だろうか?今は視線を向ける訳には行かないから想像するしかない。

 他にもいくにんかの声がするが、とりあえず意識から締め出す。

 東へと視線を動かした。

「足元が……なんとも不安になるな」

「これが人外の力……なのか」

 まて、俺は人ですっ。人ですよ~~。

 いかんいかん、うろたえてはいけない。ここで集中を切らすわけにはいかないのだ。

 東に向けて足元の幾何学模様の風景が流れていく。

 展開している艦船があり、その先には哨戒機だろうか、それが見える。

 さらに先を観る。

「なんという数だ」

 誰かの呟き。

「海が3に、魔獣が7。まともにあたっては全滅必死だ」

 でかいのが200メートルだから、視野的に半径5キロ位を観ている感じか。

「更に増えているようだ」

 絶望的な状況だけは解った。

「にしても、大きさがいまいち判別しずらい」

 誰かが言った。

 そんなこといわれても、俺にはどうしようもない。

「計測なら任せてください。干渉しますが大丈夫でしょうか」

 ビアンカからの提案である。だが、干渉といわれても俺にはこれまたどうすることもできない。

「大丈夫だ」

 スイレンがそれに答えた。お~流石だ愛してるぜ。

「バカッ」

 殴られた。

 そいや、スイレンとは繋がっているのだった。余計なことは想わないようにしよう。

 ビアンカが足元に枡目を構築する。

 それを俺はスイレンを通して情報が流れてきた。うすらぼんやりとではあるが、なるほどなるほど、距離がだいたい解った。

「親父殿、赤黒い何かだ。探せるか?」

 言われて俺は視線を巡らす。

 時には拡大し、時にはさらに水中深くまで見通す。しかし、昨夜感じたような赤黒いモノは見つからない。

「更に後方なのか?」

 言われ、東の方へと視線を向ける。

 海原の中にあれば、それは目立つはずだが、一向に見つからない。

「操られていなかった?単なる偶発的現象だったのか」

 誰かが言った。

 そうなのかもしれない。にしては、規模がでかすぎで有り得ないという話だから、何かあるはずだ。

「この規模でそれはないと思いたいですがね」

 魔獣がこんな自発的に集団を取るようなことがあば、人類に勝ち目はない。

「操っているボスがいるのでは?」

「つまり知性ある人外がこの件に絡んでいると?」

 考えたくない意見が飛ぶ。

「昔ならそうであったかもしれませんが、今の時代、人外にとっても魔獣は不倶戴天の敵ですよ。少ない数ならそうかもしれませんが、この規模となると……」

 確かにそうである。操っている人外の力が弱まれば、操られた魔獣は簡単に牙を向く。憎しみの矛先は使役した者に向かうからだ。一度使役したならば最後、自らその魔獣を倒さなければ寝首をかかれないとも限らない。そうやって自滅した人外は枚挙に厭わない。

「ならば自爆行為と?」

「確実に我々に被害をもたらさなければならないのに、何時支配が切れるか解らない状況でそれは…」

 会議は踊る、されど結論に至らない。

 うーむ、何か決め手にかける。

 結局、赤黒いナニカは見つからない。気のせいではないはずだが、これとは関係なかったのだろうか。

 ではなんだ?支配ではない。それ以外に魔獣を操る方法があるのだろうか。

 それはなんだろう。

 ちょっとまて、逆だ。呼び寄せているって考えもある。だが、そんな方法があるのか?

 例えば、悲鳴、仲間の叫び。もしくは魅了の歌とか?

 そんなのが聞こえるのならば、俺たちにだって聞こえてくるんじゃない?

「親父殿、耳だ。耳にも集中してみろ」

「目だけでなく?」

 難しいことを言ってくれる。

「いいから、案外親父殿の考えがあたりかもしれん」

「君たち何を言って──」

「集中するから、今は黙れ」

 スイレンが厳しく言い渡す。

 ともあれ、こんな状況である。やらなければならぬ。目だけでなく、耳にも意識を振り分ける。

 観ていたものが多少揺らぐが、今は仕方ない。

 訳の解らない雑音が耳朶を打った。

 思わず集中が途切れた。

「今のは?」

「親父殿当りだ。音の発生源を探すのだ」

「探すって何処をだ」

「決まっておろう、大きな音のするところだ」

 うん、まぁなんとなく、そういわれるのは解ってたよ。

 大きく息を吸い、吐く。

 失敗はできない。なぜなら、ここにいる全員の命が掛かっているからだ。無理を通して道理を引っ込めねばならない。

 鼓動を落ち着かせ再度取りかかる。

 今度は聴覚をさっきよりも聞く量を絞る。でなければ、聞くに堪えない雑音に集中を破かれないからだ。

 その点に注意して開始した。

「行きますっ」

 上空より、幾何学模様の扶桑が見える。9つの円が等間隔に広がり、その中で描かれる幾何学模様が動いてもいないのに、ゆらゆらと蠢くように見える。

 錯覚のアレだな。一人納得。

 視点を東にずっと移動し、魔獣の群れを探す。一度発見してたし、大きく移動してないので容易だった。

「音を探ります」

 耳を澄ます。引っかき音が聞こえてくる。ぬぅ、これでも脳にクル。更に絞る。

 東西南北に位置を動かし、音が高鳴るほうを探る。

「西だ。西側のほうが大きい」

「西ってことは、こっち?一体誰がそんなことを」

「西のどこか探ってください」

 視線を艦隊まで移動させる。更に音が大きくなっている。

「発生源は艦隊?」

「違うようだ」

 更に西へ……扶桑の上空まで戻ってきた。

「ここが今までの中で一番大きい」

「つまり、内部工作班がいるってことか」

 スパイ……。その可能性が脳裏に浮かぶ。

 しかし、アーウィン副長たちがそんなことをやっているとは到底信じられない。

「西じゃ。さらに西はどうなんだ」

 言われて気付く、退避している船団があるはずだ。そこに視線を移す。

 幾何学模様に彩られてはいるが、見知った船があった。

 駆逐艦クシダだ。

 船団の殿に位置し、護衛している。

「音はどうだ?扶桑より大きいか小さいか」

 ……なんてこった、一番おおきいじゃないか。確認するためにも視点を動かし、音源を確かめる。

「脱出船団のどれかだ。音を発している」

 船団と魔獣の位置はどうだ?

「丁度、扶桑を挟んで反対側になってます」

 当りか。

 魔獣は音の元へと殺到している、進路上に扶桑が来るように。

「特定はできるか?」

 耳を澄ます。

 音が和音のように重なって聞こえる。

「3隻、これ以上は船の形が解らないから、調べようがない」

「どれとどれだ、中島少佐がわからなくとも、我々なら解るかもしれない。拡大できるか?」

 目を凝らして、それだと感じた船を観る。

「全通甲板のようだ。当該艦は……揚陸艦のようだな」

「退避を開始している艦だとすると、セッツマルだ」

 特定できたようなので次を探る。

 音の響く方へ視線を向ける。

「この大きさはタンカーか。数ある分特定が難しいな」

「まて、この模様はクレーンか。この数、他のより少ないぞ」

「それなら、大蔵丸だ」

 幾何学模様なのに、みんなよく判別できるもんだ。感心する。

 最後の一隻、目を皿のようにして探す。

 それは……俺でも解った。見間違いようがない。乗ってきた艦だから。

「最後は駆逐艦クシダ」

 歯切れの悪い言い方で最後の船を告げた。

「よしっこれで皆が助かる」

 歓声が谺した。

「はいはい、喜ぶのはまだ早いです」

 冷や水をかけるのは小早川大尉。

「どうしてだ?あとはあの船を沈めれば問題ないのだろう」

 血気盛んなことを告げる、東郷少佐。

「沈めてどうします。船自身が音源でない場合、音はやまないでしょうね。発生源をとめなければ、がなりたてながら、海中に沈んで行くだけでしょう。時間がありません、私の立案する作戦に従ってください」

 こうして、音源をとめる作戦が始まった。


次が4部最終話、たった一つの冴えたやり方(仮)の予定です。

一気にいけるといいなぁ(^^;

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