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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第四章
141/193

蒼天航路 05

 二日目が始まる。

 今日は水中装備に着飾ったサクヤに乗り込む。

 の、前に、アーウィン副長に連絡をいれる。昨夜見た赤黒いものについてだ。

 そのまま話す訳にも行かないから、演習でいつもの倍は索敵範囲を拡げてという胡乱な指示しか出せなかった。何も無ければいいが、もし何かあったら対処は早い方がいい。

 まぁ演習で、対潜哨戒機とか出てるから、駆逐艦よりはそっちの方が発見するのだろうけど。

 ついでに小早川大尉にも言っておいた。

 もし、何かあったらサクヤの装備とかでお世話になるからだ。本当に何も無ければ問題ないが。

 小早川大尉は、スパイからの情報を逆に取ってきたのかと勘違いしたようが、語弊があるといけないので、あっさりとばらした。

「そういや、スパイの話しあったんだったな……。アーウィン副長に索敵は~なんて言ったことが余計なことにならなければいいけど」

「そんなに心配することはない。もし索敵してなければ黒だってことだ」

 なんとも世知辛い。

 でも、自分たち、ひいては日本が危険な状況に陥るよりはましであろう。俺もその辺の線引きはしっかりしとかないといかんな。

「単純にサボタージュするとは思えないから、見極めるのは難しいでしょうけど。情報将校にお任せして、こちらは精一杯楽しみ……もとい、演習を実行しましょう」

「水中装備以外に変なモン積んでないですよね?」

 思わず念をおす。

「演習ですから模擬弾ですよ。変なもの積める訳ないでしょう」

 あっさり否定された。確かに、模擬弾が実は炸薬弾でしたとかだったらシャレにならぬ。最悪銃殺されたりするかもしれん。

「作業用にダイバーズナイフ程度は装備してますが、その位ですね」

 今一度、装備を確認する。

 背面の酸素タンク、VLS装置に補助エンジン。腰部のフロート装置及び短魚雷。脚部にはウォータージェット推進器。射出式銛(硬化ゴムの矢尻)とダイバーズナイフ(本物)。後は水中戦では使えないミニガン(弾体はペイント弾)がある。

 本当にトンデモ武器は仕込んでないようだ。

「それとも、心配のために何か装備しておきたいですか?」

 考える。

 もし戦いになるとすれば、俺たちは足手まといだ。いくらサクヤが次期主力としても、戦列を組めるはずもない。僚機もなしに動けるわけもなく、やるとすれば、後方で援護射撃が関の山だろう。

 それすらもまともにできるとは思えない。多対多の戦闘経験はないからだ。いくら今、演習でどうするかやっているとはいえ、お客さん扱いは変わらない。昨日と同じだ。

 なってたって高校生ー、軍人にはまだまだよ。任官する気もないしな。

 大人しく守られているべきだ。

「いや、いい。学生が前に出るものではないでしょう」

「ま、普通はそうだろうね」

 意味ありげに笑う。

「では、そろそろ時間ですので、行きますね」

 昨夜のことで胸騒ぎがするが、俺が標的になっているとも思えないし、既に警告は伝えている。後は小早川大尉がどう扱うか。それ以上は与り知らぬことだな。

 サクヤをハンガーから出す。

 重量装備のため、いつもの爪先立ちとはいかず、踵を倒しての歩行である。

 普段は使わない歩行形態のため、多少の違和感を感じつつ集合場所へと向かった。


「開始まで残り10分を切りました」

 ビアンカが告げる。

 作戦を最終確認する。

 俺たちは増援部隊側で戦闘が始まると移動開始だ。拠点防衛している味方と合流後、要人脱出をはかる。

 俺の場合、着いて行って要人を乗せた車両と共に脱出だ。

 追撃をかわしつつ、脱出艇へと車両誘導後、一緒に海に入り警護しながら揚陸艦へと合流。

 戦闘自体は脱出艇へ到着すれば終了となっている。海上での戦闘はない。

 俺自身も合流後には護衛対象となるので、直接的な戦闘はない。

 あの馬鹿船と違って、俺はそんなに戦いたいわけじゃないから、淡々と役をこなすだけである。

 ホントダヨ。

「開始まで残り5分」

「作戦図を展開します」

 ビアンカの声に反応してサクヤピクシーも動き出す。

 3面パネル中央に地図、右側に増援戦力、左側に防衛戦力が表示される。

 予想防衛地点、増援侵入経路、予想敵勢力侵入経路及び戦力。救助作戦の概要を再確認した。

 どう確認しても、やることは変わらずだ。

「1分前」

 さて、やりますか。開始の合図を待つ。

「作戦開始まで後、5・4・3・2・1……」

 サイレンがなる。高らかに。

 あれ?昨日はサイレンなんて鳴らなかったよな。


「おい、これって」

 昔、学校で聞いたことがある。あの時は確か……千歳が来たときの……。

「警報です。通信来ました。第一種戦闘警報です」

「繰り返す繰り返す、これは演習ではない、これは演習ではない。現在の演習を中止し、各部隊指示に従い所定の配置に着くように。現在の演習を中止し、各部隊支持に従い所定の配置に着くように」

 所定の位置ってどこだよ。 

 演習なら何処に行けばいいってのは解るが、実戦って俺たちは何処に行くべきなんだ?

「駆逐艦クシダから緊急通信です」

 ビアンカが矢継ぎ早に繋げる。

「少佐、緊急事態です」

「こっちもだ」

 思わずアーウィン副長とお見合いだ。

「すまん、続けてくれ」

「はい、扶桑から東約160海里の海中に不審な影を発見とのことで、哨戒機が急行確認したところ、巨大な魔獣を中心とした群れを発見と情報があがりました。数の詳細は不明ですが、大型は少なくも4体の確認がありました。帝国軍はこれから防衛線をはり、迎撃に向かいます」

「ところで、大型ってどの位の大きさ?」

「200メートルほどでしょうか。詳細情報はこれからですので、経験則になります」

 あぁ彼女たちは自国で一戦交えていたんだったけ。

「まさか、その報復?」

 言って、しまったと思った。

 案の定アーウィン副長の顔に翳りが差す。

 彼女からしてみれば、憶測で根も葉もないことである。

「すまん、思わず連想したのが口に出た。そんなことはあるはずもないのにな」

「いえ、そういうことかもしれません」

 沈黙が流れる。

 うー、いらんこといった。俺ってやつは……。

「ともかくアーウィン副長、これからの行動についてなにか指示はあった?」

「はい、我々は一端港に寄港し、避難船の護衛につくように命令がありました」

「解った。こっちも状況を把握次第、また連絡を入れる。そっちの方はお願いします」

「了解しました」

 通信が終わる。

 後で、なにがしらのフォローをしておこう。豪華な夕食に誘うとか?……やってどうする。まぁそれも無事この受難を切り抜けれればの話だ。

 今は今後の行動だ。どうすれば……。

「小早川大尉に繋げるか?」

「少々お待ちください。回線が込んでいるようです」

 向うも自分の部隊があるはずだ。まずはそっちが優先だろうし、待つしかない。

「仁科さんとレンには連絡がつく?」

「駄目です。個人で通信装備はもってないようです」

「それじゃぁ後回しになるか。とりあえず、ハンガーに戻ろう」

「了解」

 サクヤをハンガーへと向かわせた。

「ところで、160海里ってことは、ここにやってくるまで、どの位の時間がかかるんだ?」

「160海里は296.32キロメートル。目標の速度が不明のため、計算不能です」

 確かに。ビアンカのいうことは尤もだ。

「ですが、前回の経験から最大40ノット約74.1km/hを確認しています。早ければ4時間後です」

「あんまり時間の余裕はないね」

「群れで行動しているのであれば、速度は20ノットが限度かと思われ、その場合、8時間後となります」

「逃げ出す分にはなんとかりそうか」

「ですが、小型の場合60ノット出る種があることも確認されており、その場合2時間40分。更に時間の余裕がありません」

「迎撃するとして、相手の距離と時間を考察すると、1時間程でしょう」

 にしても、敵の足が早すぎる。これでは防衛戦を抜けられれば、避難船の足では逃げきれない。

 航空機では全員乗せれる訳もなく、抜かれることは絶対死守しなければならない。

 背筋に冷たいナイフを突きつけられた感覚が襲ってくる。

「マイロード」

 考えていると、声があがる。

「なんだ?」

「進んでいません」

 考えることに夢中で動きが止まっていたようだ。

「あぁ悪い、いますぐ……いや、操縦をそっちに渡す。すまんがハンガーまで頼む」

「イエス、マイロード」

 サクヤが動き出すのを確認し、思考を再開する。

 では、俺たちはどうすればいいのか。いや、俺はだ。何もせずにこのまま観ているだけなのか。

 役割はある。脱出船の護衛だ。だが、それが俺の本当の役割なのか。もっと何かできることがあるはずなのでは。

 できることってなんだ?俺がなにをできるというのだ?

 今までだってなんとかやってきた。なら、何か担うべき役割がここにもあるのではないのか。

 ……まて、なぜこんな事を考えている。俺がそんなだいそれたことができるような力なんてないじゃないか。今までだって偶然の重ね合わせだ。運良くうまくいっただけで、今回もうまくいくとは限らない。いつか致命的な失敗…ではなくても、普通に死ぬことなんてありふれているじゃないか。

 実戦なんだ。これは!

 これから何人も死ぬことになるだろう。俺がその中の一人でないとは言い切れない。いつ何どき死が訪れないとは言えない。後方にいるから大丈夫と安心できるようなものでもない。

 ………怖い。

 堪らなく怖くなった。そう感じた瞬間から身体が震えだしている。

 今までは考える時間などなく巻き込まれていた。考える時間があるというのは、辛い。起こるであろう可能性が津波のように俺を押し流していく。こんなんじゃいけないと考えている最中でも不運な可能性が浮かび上がってくる。

 まだ兵隊ではない。これから兵隊になるための訓練を積んでいる身だ。怖くて当たり前だ。身を守る術なんてまだまだ未熟で、殺すための術も身につけているとはいえない。

 そんな俺が前線にでて何をするというんだ。俺が未熟なせいで、余計に混乱が起きる。死人が出る。

 俺のせいで死者がでたら、俺は言い訳ができるのか?償うことができるのか?責任をとれるのか?そんなの無理だ、無理に決まっている。

 死ぬのも嫌、死なせるのも嫌、だが、逃げることはできない。止めなければ更に悲惨な状況が待っている。

 見ず知らずの人が死ぬ。今までは何も感じてこなかったが、現場に立って初めて実感が沸いてきた。平和ボケと他者を見下していたが、俺だってそうだった。笑えない。

 どうにしかしたい。そういう気持ちはある。だが、気持ちだけではどうしようもない。実力、行動力、覚悟、いろんなものが足りてない。

 何もかも放り出して逃げ出したい気持ちになる。

 知らなければ幸せだ。材料が無ければ悩むことさえ考えつかないからな。

 ちくしょう……。

 なら、できることはなんだ。前線にいっても役立たず。逃げ出す船団と一緒に逃げることしかできない。

 防衛線を突破してきた奴らを自身が盾になって守る。それしか思いつかない。

 無力だ。

 結局は、そこに行き着く。

「俺にもっと力があれば……」

 どうだというのだ。

 英雄願望なんてガラじゃないぜ。

「力が欲しいですか、マイロード」

 ふと漏らした一言に、ビアンカが反応した。

「……解らない」

「そうですか」

「ビアンカは今の状況をどう思う?」

 俺だけでは堂々巡りの思考をほどきたくて聞いてみた。

「敵性勢力の全容は不明。扶桑に向け進軍中です。日本帝国軍が防衛行動に準備中。30分以内に第一波が出撃と予想されます。我々は避難する船団を護衛し、戦線から脱出をはかります」

「聞きたいのはそういうことじゃなくてだな……」

 はぁ俺は何を聞きたいのか。彼女の気持ちを知ったところで、俺がそれに従うってか?それは違うだろう。単に俺と同じ気持ちでいるのか確認して、安心したいだけなんだ。自己嫌悪に陥る。

「いや、いい。変なことを言ったな。気にしないでくれ。それで、俺たちの予定は何か指示あったか」

「いえ、今のところは……今、通信が来ました。廻します」

 タイミングを見計らったように、小早川大尉からの通信がやってきた。


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