蒼天航路 04
折角手助けしてもらっていて、余計なことをしてては申し訳ない。強弱つけつつ、限界を探っていく。
にしても、これは退屈だ。幾何学模様の空と海。それしか見えない。
強弱の調整がどうにもつかない。なんでだ。
「10の力を使うのには慣れていても、1000の力は使いこなせないだろう。10の力を使う感覚で1000の力を扱おうとするからそうなる。まあ、慣れだな」
一気に使えば、目玉がバーンとなる。恐る恐る絞って使っている状態だし、さもありなんということね。改めて人外のフォースパワーの物量に舌を巻く。
それに目的なく使っていても駄目か。慣れる分にはそれでもいいが、制御が疎かでは勿体ないこと請け合いだ。
とりあえず、どこまで遠く見えるかを試そう。
じいーと、水平線を望む。遠くへ遠くへと視線を先へ先へと。
それだけではなんだから、ついでに辺りをぐると見回す。視線の動きも慣れておかなくてはな。
速度調整が辛い。うーむ、一つ一つ順を追った方がいいのだろうか。
焦点をあわせるのをおそろかにもできない。少しづつ少しづつ。
「ん?なんだこれ」
水平線の向う、幾何学模様に変化があった。周囲とは違い赤黒い……感じがする。
「ふむ、何か居るようだな。焦点を合わせてみろ」
言われ、赤黒い幾何学模様に注視する。
それは動いているようだ。代り映えしない、周りの幾何学模様と違って小刻みに変化している。
もうちょっとと、力をいれる。
ドクン。心臓が跳ねた。
なんだこの感覚。
とても嫌な感触だ。どこかで似たような体験をした気が……既視感が襲う。
「アレが来たのか」
レンの問い。
言われて気付く。既視感はアレだったのか?確かめるためにも更に注視する。扉の向こうの化物、アレが本当にやってきたのだろうか。
じっと見つめる。自ずと注ぐフォースパワーも増大していく。
「違う、アレの気持ち悪さは感じない。アレに比べて生ぬるい……気がする。でも、こちらを敵視しているとは思う」
なぜだろう、見てるだけなのにそんな“イメージ”が解ってしまう。
これが、俺の……スイに助けられてはいるが、力なのだろうか。
「我が輩にも伝わるぞ。こちらに向かってきているようだな。しかし何者だ」
幾何学模様では流石に判別がつかない。ごちゃごちゃしてて掴みづらい。
更に力を込める。
せめて輪郭でも、相手が何者かであることくらいは……。
「あづっ」
限界だった。
目玉の熱さに飛び跳ねた。思わず顔を手でおおう。
「目がーーー、目がぁぁぁぁぁぁ」
のたうち廻る。焼き鏝を突っ込まれたような熱さ、というより痛さだ。
夢の中では痛くないはずなのに、強烈な痛みが襲う。現実の寝てる俺が痛いのだろう、起きて水をぶっかぶりたい。
こんなに痛いのに目が覚めないって結界のせいなんだろうけど、ぐぬぬぬぬぅ。
「落ち着け」
襟を掴まれ、したたか頬をぶたれた。
レンの掌が視界を覆う。
「あっ」
「黙っていろ」
なすがままにされる。
すると痛みが退いてきた。
「ありがとう」
「気にするな。親父殿の目が潰れられるのは、こちらも不本意だからな」
覆っていた手が退けられる。
「どうだ見えるか?」
恐る恐る目を明けた。
スイの顔、なんだかんだと心配そうにしている。
「み、見える。大丈夫のようばっ」
首から下。
それがいつもののぺっらな肌色の二次元な絵ではなかった。
陰影がある凹凸がある。
細い首筋から下がって、鎖骨の繋がり、窪み。
視線は更に下がる。
手で包み込める程の慎ましやかな双丘。その頂きにある薄桃色の蕾。
心臓が唸りを上げる。
さ、さらにそのし、したっ。視線が意志とは裏腹に移動を開始する。
小さく可愛い窪み。
思わず、唾を飲み込む。
そ、そのさらにーーーしたーー。
無地のキャンパスの中央にある全人類の半分……訂正、今は3割ちょとが探検したいと願う一本のクレパス!!!!
「ら…」
「ら?」
「らっきぃ~~っ」
「何を言っているのだ」
スイが俺の視線の先、自分の身体を見た。
「俺の青春の一頁に今!熱い感動が!!」
歓喜に突き動かされ、叫んだ。
「正直者にご褒美ィー!!!」
その瞬間、俺は宙に吹き飛び、そのまま夜空の星になった。
我が生涯に一片の悔い無し!
[完]
「何故だ、情報劣化させていたのに、こんな姿を……」
懸命に戻そうとするが、戻した先から元(裸)に戻っていく。
「くっ、親父殿っこっちを見るな殺す」
そう俺は、後ろを向いて座らされていた。
後ろを振り向けないのは残念だ。だが、俺は脳内でさっきの風景を反芻することでスイの変身が終わるのを待っている。
でゅふふふふ。
「げふっ」
要らぬことを考えてたら、スイから頭を蹴られた。
縦回転で地面を転がる。
ちらっちらっと、肢体がその回転の瞬間で見える。眼幅眼幅~うひひひひ。
痛くないから平気平気、とてつもない脱力感が襲ってくるが、努力と根性(邪な心)で抑える。
「見るなっ」
はぁはぁと息を切らしてレンが叫ぶ。
「なら、服着りゃいいのに」
思わず呟いた。
「そうか、その手があったか」
しまった。余計なこと言ってもた。
「もう、こっちを向いてもよいぞ」
スイの許可が下りたので、振り向いた。
丸首の白い半袖シャツとブルマーの体操着を着ていた。
学校で使うものと同じである。
集団でいるときは気にもならないが、隣に一人が居る状況は、なんともグッとくるものがある。思わず顔がにやけてしまう。
が、睨まれたので自重する。キリリと顔を引き締めた。
「しかし、どうしてこんなことに?」
スイ自身がやったわけではない。それなのにどうしてなんだろう。
「親父殿、気付いていないのか」
「俺?」
心当たりがありません。深く考えても、毛ほどもない。
俺のアッピールをみて、げんなりとした顔をしてくるスイであった。
「はー、我が輩としてもこんなことは初めてだ」
「スイの中なのに?」
「なにやら、馬鹿にされたようなきがする」
「いやいや、単にスイでも知らないことがあるんだなーと」
「我が輩とて、全て知っている訳ではない。だいたい歳は親父殿と同じだぞ」
「まじ?」
「本当だ。何を疑っていたんだ」
「いや、まぁねぇ。あの面子だとさーほら」
解るでしょといいたいが言葉を濁す。それにスイだって見かけは千歳より背が多少高いだけで、殆ど………ねぇ……胸もないし。
「天衝覇道拳!!!!!」
見た目はアッパーカット。ただしそのまま伸び上がり、地面を蹴りあげ宙に舞った。
俺はまたもや星になる。
御免スイレン、もー会えないー。第一宇宙速度を突破し星屑に、そして俺は考えるのを止めた。
「なんということだ、思わず必殺技っぽいのを叫んで殴ってしまった」
苦虫を噛んだような形相で黄昏るスイ。
「今のはかっこ良かったぞ」
「言うな~~~」
顔を真っ赤に染めて、スイが牙を剥いてくる。
そのまま乱闘が始まった。
大地に転がる。
雲一つない蒼い空が広がっている。太陽はないのに明るかった。
「もう限界」
虫の息でスイに告げた。
「まったくだらしのない親父殿だ」
「そういうなよ。昨日よりは随分と耐えたと思うぞ」
「我が輩と繋がっているのだから、もって当然だ」
「あっ、そうなん?」
自信が震度6の衝撃を受けて崩れ去った。
「でも、よくやった」
え?褒められた。落として上げるのは常套手段だが、上げられる意味が不明だ。
「あー、どういうことか説明をしてくれると嬉しいなぁ」
「戦い中、いやその前から親父殿はずっと我が輩と繋がっていた。我が輩からは繋げる意志なぞないのにも係わらずな」
俺はハテナマークを頭に掲げ、首をかしげた。
「察しの悪いやつだな。つまり、自身の力で我が輩のフォースパワーを奪っておった。そういうことだ。一本だたらにもやっただろうその技だ」
「それって凄いことなのか?」
凄いだろうとは思うが、実戦に不向きな技だと決めつけていた。
「そうだな、相手のフォースパワーを奪う。これはなかなかできることではない」
ですよね~。なんで自分にできるのかは解らないが。
「だが、これが実戦で使えるようになれば、親父殿、無敵だぞ」
「無敵?まさか……」
いわれて、思わず顔がにやける。
「使えればな。自身の受容量次第ではあるがな。それがどういうことか解るだろう」
なんとなく解る。相手の力が自分の力になるんだ。吸い続ければどうなるかなんて火を見るより明らかである。
「だが、欠点もある」
あ、やっぱり。
「相手の波長に直ぐさま合わせ、奪う。これができなければ、最初の一撃で親父殿は死ぬだろう」
以前考えてた通りの欠点を指摘された。
「だが、ものは考えようだ」
「考えよう?」
「二人で協同して立ち向かえば、相手のフォースパワーを奪わなくとも戦えるだろう」
あー、ジャネットと一緒になって一本だたらから脱出して見せたようなことか。
「今はそれが武器となるだろう。磨け、研ぎ澄ませ」
「ん、そうする」
人の身一つで人外には到底対抗できはしないが、相棒が居ればなんとかなる。少し光明がでてきた。
「たぶんな」
ずるっ。
「そこでオチつけるなーーー」
「言っておくが、味方のフォースパワーを吸いすぎれば味方の戦力は落ちる。親父殿にその加減ができるか?それに、今の状態では共闘なんて夢のまた夢だぞ」
「え?」
「当たり前だろう。フォースパワーを手に入れる方法は解った。だが、どう使うかまではこれからなんだからな」
「確かに」
今のままじゃ、タンクか繋ぐためのホースでしかない。タンクとしては、自分の容量は貧弱、繋ぐにしても、その相手が……ふむん。
「あんまり有用な使い道が思いつかんな」
「まあ、そればかりにとらわれることもない。まずは、自身の強化が先だ」
身体が資本だ。軍隊でもどこででも。
頷く。
「さてと、そろそろ限界のようだな」
いわれるまでもなく、俺の身体は指一本動かせず、寝ころがったままである。
「最後に、最初にみたやつだ。あれをどう思う?」
目の特訓で近くした赤黒い幾何学模様のことだ。
「なんとなく、禍々しいような気はするが、どこにいるかわからんしな」
「距離的にはそう遠くないと見た」
いや~~な予感が背筋を通る。
「いやいや、いやいや、それは──」
「ないとは言えん。親父殿はトラブルメーカーだからな。誰かに呪われているんじゃないか」
「まさか、そんなことは………」
約一名心当たりはある。俺を襲った先輩だ。だが、千歳のお蔭で大丈夫なはずだ。えげつない条件付けをされているからな。
他に誰か……あっもう一人追加。長船馬鹿野郎だ。あいつはヤバイ。何も関係がないはずなのに、こっちに厄災が降ってくる。そんな存在だ。天にも昇るような気持ちで地獄行きになるとか尋常じゃぁない。にしても、あいつは海の遥か向う。UKに逝っちまったから関係はもうないだろう。
「うん、ないっ」
言い切った。
じと目で見られた。
「いやいや、俺は健全ですよ。普通の高校生、成績も何もかも普通で、人に恨まれるようなことはしてませんてっ」
「……そうだといいけどな」
せせら笑いが怖かった。
「ま、とりあえず用心しておくことに越したことはない。過去のこともあるからな、しっかりと自己の研鑽に励むといい」
そうして、今夜の特訓は終了した。