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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第一章
14/193

この中に妹がきた 05

「そう人外。FPPランクAA以上の潜在能力を有するもの。理性を失った化け物や魔物と呼ばれる者からムーンチャイルド、魔王の子とか言う輩もいる。ありていにファンタジーで魔法使いとか僧侶とか勇者もそうか?超常の力を行使する者ども。世間一般ではこの程度の認識で十分だからな」

 俺は頷く。そして、痛みが走る……。ぐがががぁぁ。

「だが、国防に関わる者としてはそれだけでは不十分だな。お前も知っていると思うが、特殊クラスだとか、特Aクラスってのがあるだろ?普通のクラスとは切り離されているクラスが。その一つが彼らのクラスだ。エリートの特殊クラスと違って、AA以上の特殊クラスは此処ではない所にあるんだよ」

 なんだが衝撃の事実を告げられた気がする。確かに、考えてみれば、エリートクラスは教室の並びの中にあるのは記憶にある。だが、人外といわれる者達のクラスが何処にあるのか知らない。気にしてなかった。どうにも、特殊クラスって朝話してた以上のものであるようだ。

「ま、夏休み前に、その辺の事を授業で智識を色々と仕込んで、休み明けにご対面ってのが今までさ。上級生は知っているよ。詳しく知らないのは新入生だけだ」

 それにと女医は続けて言う。

「最も、そっちの特Aクラスは、毎年毎年40人のクラスが埋まるってことはないんだよ。全く居ない年も珍しくない。なもんで実態はあって無きが如しって見方もある。だがね今年は豊作だったんだ。10人以上いるのだよ。元々数は少ないのに、それだけいるんだ。この学校にね」

「そ、そうなんですか」

 あれ?でも入学式の時はそっちの特Aクラスなんて見たことがないような?少人数で1クラスなら、逆に目立っていそうなもんだ。

「特Aクラスの子を見たことがないってんだろ?そらそうさ。此処にはいないからね。癇癪起こした戦略兵器がこんな処で暴れてみろ。大惨事になるのに違いない。ケンカ程度が地域紛争並になろうってんだ。普通、置いとけないよ」

 確かに一理はある……あるが、では何処に集められているのだろう。

「どこにいると思う??」

 考えを読んだかのように女医は聞いてきた。

「知るわけないでしょ。まだ授業でも出てないのですから」

「ちっ、想像力の無いヤツダナー。詰まらん人生送るぞ」

「いや、もうこの二日で普通の人生踏み外しかけてますから…」

「では、もう少し想像力を働かせてみようか。君は、昨日UKの姫様に勝ってしまった。彼女はおそらくAクラスだ。そして、今日はAA以上…診た感じだと、恐らくAAAか。それを相手に、何故か君は八咫烏に勝ってしまった。そんな人物がB-ですといったら信じる?」

「極めて遺憾ながら、客観的に…総合的に、どんなに穿った見方をしたとしても…判断するに………信じられないですよねー」

「だろうねー、私も信じてない。しかし、私は君をB-だということを知っている。この手で診断しているのだからね」

 女医は一息つく。

「これは診断ミスなのかな。確かに君は普通の機器では判定できない特殊な体質だ。だから私も誤魔化されているのだろうか」

「さ、さぁ……どうなんでしょう」

「そしてそしてそしてっっややこしい事に、名家の箱入り娘が君にぞっこんときた。AAAの人外が、だ!更に言うと、殿下まで君にぞっこんじゃないか。君の取り巻く環境は……少々普通ではなくなってしまった」

「なんか凄く話が飛躍したような気がしますが……僕の処遇をどうするかってことですよね…。でも、そんなの一週間もすればなんて事は無い普通の人間だって解っちゃいますよ」

「そうだろうね」

 女医はあっさりと認めた。

「ちなみに、状況認識をはっきりさせる為に言うとだな、彼女。柊千歳は人外3強の家の娘だ。俗に言う天狗、九尾、鬼の一角、天狗の愛娘ときたもんだ。さて、君の処遇だが、客観的に見てどうすべきだと思う?」

「多分、色々と勘違いしているから一週間もすれば、飽きて帰っちゃうんじゃないでしょうか」

「希望的観測か。それもいいが、そうでない場合はどうなると思う?」

「……どうなると言われても、自分は帝国軍高等学校の一生徒ですから、そんな判断つけられないですよ」

 ここで、特Aクラスかなーなんて言ったら、そのまま放り込まれそうだ。そんな都合のいい口実を与えるつもりはないし、俺のFPPはB-だ。そんなところに行かされる訳にはいかない。

「では皇軍の少佐としてはどうだね」

 あっさりと昨日の話が出てきた。

「えっ?」

「なぜそれを知っているのかって顔だね。考えてもみたまえ、ここは一応高校だが軍なのだよ。その程度の情報の伝達は朝の時点で済んでいる」

 改めてビックリした。こう…なんというか、内緒の話だと思っていたからだ。

「なんちゃって。一般の先生は知らないよ。私はちょっと特殊でな。校医という立場であるから、そういう情報は知らされるのさ」

 どっと疲れた。

「考えてもみたまえ、君のほうが上官であるなんてことが知れ渡ったら、先生の立場はどうなると思う?そういうことさ。だからこの話は此処だけにしてくれよな。君が上級士官だから話した訳だ」

 確かに、というか未だに自分が少佐とか信じてないけど。

「さて、調子はどうだい?随分と良くなっている筈だが」

 言われて、身体を動かしてみる。まだしこりというか重みというかだるさは多少残っているが、痛みは退いていた。

「うむ大丈夫のようだね。これが私がここの校医である証。治癒術の使い手だということさ」

 これが魔法と云うやつか?良く漫画やアニメにあるような魔方陣なんかこれっぽっちも出てないし、詠唱もなかった。それを云ったら笑われた。

「光り輝く魔方陣なんて、演出だよ。実際やるなら、地面に書いたりするもんだ。詠唱は、まぁ必要なものもあるが、この程度なら要らないな。それとこれは魔術であって魔法ではない」

 そういうものなんだ。

「ありがとうございます」

「最も、普段は治癒術なんか使わないけどね。疲れるから」

 さらっと酷いことを言われた気がしないでも無い。

「擦り傷や捻挫程度で使ってたら身がもたんよ」

 笑いながら校医は告げた。

 ということは、骨折はしてなかったが結構酷い状態だったってことか。

「しかし二日続けて君に治癒術を使うとは思っても見なかったよ」

「えっ二日続けて?」

「あぁ言ってなかったけ、君、昨日は脳挫傷してたんだよ」

 えっ?なにその衝撃の事実。

「幸い処置が速く済んで、後遺症以前に傷跡もないから気にしないでいいよ」

 なんだか、ブルーな気分にさせられた。

「プッ」

「え?」

 女医はひとしきりケラケラとはしたなく笑った。

「素直に信ずるな。冗談だ。ま、死ななければ、なんでも治してやるさ。それが私の仕事だからね」

 自信満々に女医は誇って見せた。

「あぁでも四肢欠損は無理か。くっつけられるけど、無いものは再生できない。そこまでの能力はないから、極力無くなさないようにな」

 さらっととんでもない事をいってのけられた。

「さてと、とりあえず今日は帰って良いぞ。明日もう一度来るように。後、朝一で職員室に行く様にな。先生に報告しておくんだぞ」

 矢継ぎ早に言われ、そのまま追い出された。

 とりあえず……帰ろう。


 教室に戻ると、皇達3人が待っていた。

「待っていたんだ」

 俺に飛び込もうとする柊の首根っこを捕まえつつ皇は言う。

「うむ。旦那の帰りを待つのは妻の勤めだからな」

 …もう突っ込む気が失せているので何も返さない。ほんと、今日はもう寝たいんだ。さっきまで寝てただろうという突っ込みは無視、いいね。治療術のせいか体力がごっそり減らされた感じである。

「それで一つ問題があるのだが、いいか」

「問題?」

 もう騒動は勘弁願いたいものだが。

「コレだ」

 掴んだ首根っこそのまま持ち上げてモンダイの者を見せる。

 無論、それは柊千歳と名乗った八咫烏だった。

「その子がどうしたの?もう夜だから帰らないと親に怒られるよ」

 そういえば、今日は授業全然受けてないじゃないか。どうしたものか。教科毎の先生の顔が浮かんでは消える。

「帰りたくないとのたまっている」

「ふーん、それで?」

「政宗に輿入れしたいと言っている。泊まるといってきかないのだ」

 俺は柊に近づいて頭を撫でてやる。

「お嬢ちゃんそういうのはもう少し大きくなってからにしようね。帰らないと親が心配するよ」

 諭すように言ってあげる。本音はもう関わりたくない。

「子供扱いするなー。同い年じゃぞっ」

 怒った顔も愛らしく、反論された。

「同い年??」

 皇に視線を向ける。

「うむ。同い年だ」

「………マジ?」

「本当である。我が嘘をつくと思っているのか?」

 怪訝な顔をされるが、彼女が嘘をつく理由もなく……。

「それじゃよけいまずいじゃないか。年頃の娘さんが、見も知らずの所に転がり込むとか言うのは。皇さんからも言ってやってよ」

 後ろに控える咲華は、黙って事の成行きを見守っている。彼女に意見を求めても無駄だろうなと悟る。

「私が知っている。こやつとは幼少の頃からな」

 あっさりと、とんでもない事を告白した。

 いや、まて、そういえば逢ったときは面識があるような話っぷりだったな。違う、突っ込む所はそこじゃない。

「いやしかし、俺とは違うだろ」

 咄嗟に言ったが、次の言葉は何となくわかる。

「もう知っているだろう。名前も聞いたじゃないか」

 やっぱり…そうきたか。

「我としも不本意だがな。今夜位は大目にみてやるさ」

 そして彼女は柊千歳と名乗る少女……自称同い年、に向かって言う。

「泊めるのは良いが、私の部屋だ。彼の部屋には入らせない」

 威風堂々と、告げた。

「いけません」

 話に割って入るはあずさだ。

「殿下の部屋に泊めるなぞ言語道断であります。百歩譲って泊めるのであれば拘束して空き部屋に放り込むべきです。監視には私が就きます」

「そういってやるな。今夜だけは普通に泊めてやるさ。だが空き部屋はだめだ。抜け出すに決まっている。それに、千歳を拘束なんてできるはずも無いだろ。あずさが監視に立ったとしても千歳は意に介さないぞ。だから我と同室だということだ」

 確かに彼女の論にはおかしな所はない。

「でっでは、私は中島の部屋にて監視を行います。彼が不埒なことを…」

「それは駄目だっ」

 皇と柊がハモって抗議した。

 ……あれ?ちょっとまて、何か様子が変だ。具体的に何がと言われても解らないが、どうにもこのやりとりのニュアンスに疑問を感じる。

「まぁこんな所にずっといても仕方ないし、寮に帰ろうか。君たちは何処の寮?」

「何を言っておる?」

 皇が怪訝な表情をみせる。

 あ……この展開、先が読めました。


 寮は4DKのマンション型である。各個人一部屋与えられ、4人一組で住む形となっている。一部屋は6畳、リビングはなく、ダイニングキッチンのひとまとまりで10畳ほどの大きさがあり、トイレと風呂は別々に別れてある。

 同じ部屋といっても、同室で寝るというのはないのでこういった話になった訳だ。

 って、おい、皇も同部屋になるのかよ……。まぁ、朝に咲華がーと言ってた時点で察するべきだった。


 結局、部屋割りは彼女たち3人で一つの部屋に泊まることとなった。使う部屋は咲華の部屋とした。この時点では、どの位置が彼女の部屋となっているかなんてのは知らないが。

「それじゃ帰るか」

 他にも色々問い質したいことは色々あったが、疲労のピークを迎えまくっている。はやく夕餉を賜り、ひとっ風呂浴びたら、そのまま寝たい。

 鞄を取って教室から出た。教室の戸締りを確認後、下駄箱迄で歩く。

 廊下は遅い時間でもあり、階段以外は非常灯のみの灯で薄暗い。階段は非常灯だけではないが、最低限の灯なのでやっぱり暗い。

 そういえば今は何時だと玄関の時計を見ると8時を過ぎていた。


 急ぎ寮に帰って部屋着に着替えた後、食堂に行く。彼女たちはまだ着替えているのかどうか、確認も面倒で声もかけず一人で出てきた。

 何人か食堂に人はいるが、ありがたい事に声をかけて来るものはいない。視線は感じるけどねっ。

 妙な孤独感という風が心の隅に吹いたが、気にしても仕方ない。

 さっさと飯をかっこみ、部屋に戻った。

 腹に飯が溜まっている状況で風呂に直ぐ行くのは躊躇われたが、空腹が解消されたことで、睡魔が猛威を奮い出している。堕ちる前にさっくりと地下の大浴場(普段はこちらを使う)に行き、烏の行水で戻ってくる。

 明日の準備だけ済ませて、ベッドにばたんきゅー。

 おやすみなさい。


 炎が蛇のようにとぐろを巻いている。

 命を啜ろうと真っ赤な舌で舐めずっている。

 爆発が起きた。

 ゴミ屑のように身体は地面を転がっていく。

 痛いはずが、麻痺したのか感覚は無かった。

 ふと、それが目に入る。

 赤黒い液をひび割れた隙間から垂れ流している黒い物体。

 自分の腕だった。脚も身体も炭となっていた。

 半狂乱に叫ぼうとするが、肺も喉も焼かれてしまって隙間風のようなヒューヒューと気の抜けた風音がするばかりだった。

 視界が霞む。首の後ろから何かに引きずり落とされる感覚でもって強制的に眠りが襲ってくる。

 駄目だ、ここで寝てはいけない。反射的にそう判断した。

 必死にこの場から逃げようと身体を動かそうとするが、ぴくりともしない。

 絶望が高らかに笑っている。嘲笑の声が聴こえる。その音色は夢見心地な調べ。冥府へ誘う唄だった。

 俺は、まだ生きていたいんだ。

 俺は、まだ何もしてないんだ。

 俺は、まだ………。


 目覚めは爽快というわけでは無かった。

 悪夢から醒めたかのように寝汗がびっしょりと寝間着を濡らしていた。

 時計を見たら、何時もの起床時間より1時間は速い目覚めだった。

 二日続けての騒動で疲れ果てた身体はまだ睡眠を求めていたが、学校を休む訳にもいかず、重い身体を無理やり起こした。

 とりあえず、起きたら彼女達が部屋で寝ころがっているとかそういったハプニングも無く、多少は平穏な日常が戻ってきたのかと思うことにした。

 そういえば、一人部屋だったのに、一気に二人増えて、あまつさえ一人転がり込んでいる状況だ。

 なんだろうこの麻痺した感覚は。本当ならもっと騒いでもいいのだろうけど、受け入れてしまっている自分に驚いた。……違う諦めているだ。達観したと言い換えもいい。この状況に思考が追いついていないだけだ。

 溜め息一つ漏らしつつ、注意深く廊下に出て、洗面所をノックし誰もいないことを確認。歯を磨き、顔を洗う。

 朝餉の時間までまだ余裕があった。なので、庭を散歩することにしてみた。ここ最近は慌ただしかったから気分転換だ。


 ジャージに着替え、外に出る。

 外の空気はじめっとしており、湿度は高そうだ。空を見上げると雲が掛かっていて、雨になりそうな天気が伺えた。

 玄関を抜け、庭園の方へと脚を向ける。

 庭園のベンチには数人の先輩達と伺える人だかりがあった。

 そこを通り過ぎ、俺は丘手の方へと登っていく。少し小高いその位置は海側への視界が良好で気に入っている。

 路沿いにぽつぽつと並ぶベンチに人が座っていた。

 学生ではない。

 初老の域に掛かった長い髭が特徴の男だった。なんだか既視感が……。ふと目が合ったので、挨拶をする。

「君はここの学生かね」

 長髭の男が尋ねてきた。そうですと答えると、俺の顔を見直して相好を崩した。

 カイゼル髭の人でなくてよかった。

「そうかそうか、御国のために頑張っているんだね」

「いえ、まだまだ若輩者ですので、これからです」

 当たり障りの無さそうな答えを返す。

 また、そうかそうかと繰り返し返事がきたあと、他愛ない話で時間を少々潰した。

 名残惜しいが、そろそろ朝餉の時間だと断り、長髭の男と別れ寮へと戻った。普通の会話がこんなに新鮮なものだと改めて感じ入ってしまった。

 部屋に戻ると、彼女たち3人は起きて身支度をしていた。

 挨拶そこそこに、部屋に戻りジャージから制服に着替え、鞄に教科書一式を突っ込み食堂に行こうとすると声が掛かってきた。

「私達を置いて行こうというの?」

 咲華がすごい形相でこちらを睨んでいた。

 あぁ、やっぱり見逃してはくれないようだ。


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