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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第四章
139/193

蒼天航路 03

「ビアンカさん、状況に変わりはない?」

 なんの気なしに聞いてみた。

「前方、防衛側がやや有利のようです。自軍戦車が規定位置に辿り着けないため、防壁砲撃の判定が行えていません。後方では、12式一機に翻弄されており、初期損害以降は撃破されていませんが、ほぼ膠着状態と言って良いでしょう」

「へっ?よくそんなの解りますね」

「マイロード、フォースパワーをご使用ください」

 端的に言われた。

 言われたが、俺はそんな便利な能力はないってんだ。

 でもまぁ、やるだけやってみるか。

 呼吸を整え、フォースパワーを廻す。程よく廻ってきたところで目に集中させた。

 モニター越しに見る風景は、鮮やかになった以上の情報はない。

 ふむん、この視界ではないようだ。あのフラクタルな風景のほうを見るって事か?

 やることないし、何かあればビアンカが警告してくれるだろうから、視野を一段階更に進める。

 幾何学模様が現れる。エッグシェル内壁一面に。

 逆に模様が邪魔だった。使えん!

 この更に向こう側はどうなっているのか、今まで試したことはなかったな。興味が沸いてきた。

 しかし、できるのだろうか。フォースパワーが持つかどうか……なんてったってCランクだからなぁ。切れてコテンと倒れたとかやってちまったら、何やってんだと言われかねない。

 ……んー、ビアンカいるから大丈夫かな。どうせ暇だし、どこまでいけるのかも興味がある。

 なんとかなるだろうと、更に力を入れてみた。

 幾何学模様が濃くなっていくに従い、現実の風景から色が抜けフレーム状になっていく。

 そのフレームに幾何学模様が合わされば、ステンドグラスをはめ込んだかのような世界に変わる。

 意外と、モザイク状になっているとはいえ、形状はそのままなのでなんとなく解る。目がチカチカと痛いけど、なんとか耐えられた。

 ふと気付く、焦点があっている部分はそういう風に見えるが、視界の端に向けて色が抜けていっている。力が足りないのかそういうものなのか判別がつかない。

 なので、焦点を左右にぐりぐり廻して確認、確かめる。

 ………きつい。慣れないこの視界を縦横無尽に振り回せば、そらそうなるか。

 目をつむり休める。

 つもりが、休めなかった。視界はそのまま変わらずだった。逆に焦点がぼやけたせいで、なにか……別のものが見えた気がした。

「んにゃ??」

 思わず変な声を上げてしまった。

「どうされました?」

 ビアンカが反応して聞いてきた。

「いや、なんでもないなんでも──」

 視線を下に向けたら固まった。

 シートの位置、複座型のこれは俺の腹部辺りの高さが前席の頭部になる。

 シートがあるはずなのに、それを通り越してビアンカが見えた。もちろん幾何学模様の“絵”である。

 思わず見つめる。

 少々残念であった。普通に透視できたらなと思わずにいられない。って、これも一応透視能力というやつなのか。

 ううむ、とりあえず観察を続ける。

 ビアンカの輪郭、内包する幾何学模様。心臓辺りを中心に放射状に広がっている。心臓に注視する……んー、心臓にしてはやけに小さい。いや、実際心臓を生で見たことはないが、それにしたって小さい。宝石みたいな楕円形をしていて、その部分は蒼い。サファイアの様な青さ、宝石と言ってもいい。なんというか神秘的である。他の人も見たらこんな感じなのだろうか。

「何か、嫌な視線を感じます、マイロード」

 ドキッとして集中が崩れた。

 途端に視野は普通の世界へと戻ってしまった。それに続いて、脱力感が襲ってくる。

 うっへ、こんな短い間だったのにめっちゃ疲れとる。力の消費激しいなぁ。

 そんなことをしていたら、演習は終了した。

 防衛側の勝利で。

 見事、脱出していったということだ。

 このあと、原状復帰や清掃を行い、各チームが反省会を開いて解散となった。


「と、まぁこんな感じだった」

「こちらも似たようなものだな。後ろでのんびり見学してただけで、活躍の場がなかったわ」

「スイが前に出ちゃねぇ……一方的になっちゃうんじゃね?」

「そうでもないぞ。多勢に無勢、数は力だよ。それに日本の軍には一度酷い目にあっている。進んで戦いたいとは思わないぞ」

「そうなん?」

「我が輩が何故ここにいると思う?」

「それは御愁傷様……なのか?」

「いや、天佑であろう。今にして思えば、あの場所から抜け出せたのは幸いだ。あの場所におれば、いずれ殺されるか、酷い目にあっておっただろうな。それも悲惨な末路で。だから感謝しておるよ、我が輩に世界を見せてくれたのだからな」

「世界っていっても日本だぜ?」

「親父殿は解っていない」

「うっ、なんかすまん。ある程度は知ってたつもりだったんだけどな。見てないとやっぱな……本当にすまん」

「気にするな。これも天の配剤だからな」

 スイは男前だった。

 スイになら抱かれてもいいぜ。ってー立場が逆です逆。

「それにしても聞いていたことと……」

「ん?何のことだ」

「いや、気にするな。こちらのことだ」

 気になる。

 だが、どうせ、種馬からの評価だろう。やつが俺のことをどう評価してたなんて聞きたくもない。

「そんじゃ、特訓やるべ」

 話が別の方向にいってきたことだし、元に戻す。

「昨日と同じでいいのか?」

「いや、今日は親父殿が実践した目の特訓をしよう」

「でもちょっと力いれただけで、めっちゃ疲れたんやけど、特訓といわれてもあれ以上はどうしようもないような気が」

 伊達にCランクじゃない。がっつりつかえば、あっという間にバタンキューである。

「ここに我が輩がおるだろ」

「……うん、いるね」

 だからなんなんだ?

「我が輩のフォースパワーを使えばよいのだ」

 言ってスイが手をさしのべてきた。

「あ、あぁそういうことか」

 手を添える。

 細い指に鼓動が跳ねる。綺麗ですべすべだ。この手が……、沢山の………人を…いや、今はそのことを考えるはよそう。

 意を決して握る。

「息を合わせるぞ。我が輩のやるとおりにせよ」

 吸って、吐いて、吸って、吐いて、吸って、吐く。

 繋いだ手にじわっと温かみが伝わってきた。スイからのフォースパワーだ。

 合わせた呼吸に合わせて、波打つように伝わってくる。それを俺の手が貪欲に吸い取り、手から腕へ、腕から身体へと受け入れる。

 其れを身体の中で廻し、一本の川の流れのようにまとめ上げる。

 自分一人だと、こんな太い流れは無理だった。一人ではちょろちょろといった、しみったれた流れしか創れない。ホント天は酷い、不公平である。まぁ一々文句をいったところで意味はない。

「いけるか?」

「あぁ」

 頷き、いよいよ目に集中する。

「熱っ」

 いきなり、目、いや眼球だ。それが熱を帯び、思わず集中が解けた。

「いっきにやりすぎだ。無茶をすれば破裂するぞ」

「破裂?破裂って……」

「目玉が破裂だ」

「ぶっ、そんなこと先に言えっ」

「親父殿の身体のことなんか解るかっ。どの程度まで耐えれるかなんて解るはずがないだろ」

「そうはいったって、そういうことがあるなら先に言ってくれよ」

 俺は人体実験の材料じゃねーんだぞっ。

 ……って、自分が勝手に無茶やったんだった。あれ?普段の俺ならそういうことも考えたんじゃないか??

 影響を受けてる?誰に??そんなの………思い返せば、普段が無茶苦茶な生活を送らされていたのであった。そら多少は影響受けちゃうよね。改めて、ハンマーでどたまを殴られた感じがした。

「無茶はするな。普段の倍くらいの感覚でな」

「うー、わかった。色々すまん」

「なにがだ?」

「いや、なんでもない」

 気を取り直してもう一度。

 流す量は普段の倍くらいっと。この位だろうか。今まで意識してなかっただけに、どんだけなんか良く分からん。

 まぁいい、さっきのようにがっつりいかなきゃいいんだよ。よーし、いくぜいくぜいくぜぇ~。

 ちょろっと気持ち程度で流す。

 ………。

「何か見えたか?」

「天井が見えた。幾何学模様の極彩色で」

 どーなってんだ。

 いまは、スイの結界内だ。そこに意識体として俺たちは居るはずなんだが……。それに今の風景は、あの丘である。上を向けば空が広がっているだけである。

「ふむ、我が輩の結界を越えて、実際の世界が見えたか」

「そう……なるのかな」

「ま、理屈は簡単。我が輩のフォースパワーを使っているのであるからして、我が輩の結界を抜けることもあるだろう」

 そういうことらしい。

「で、ここからどうすりゃいいんだ?」

 強弱をつければ、天井を突き抜けて、上の階まで見える。

 もちろん幾何学模様の極彩色で。見ていて楽しくも何もない。見るなら、やっぱ、普通の視界で、獲物は女の子。美女美少女なんかをばセンターにターゲットロックオン、バキュンと一発ズドンだぜ。

「確かに、長船の親友だ」

「えっなに、あんなやつと同類にするなって」

「センターにターゲットロックオンとかほざいているやつが同類じゃないというのか」

「えっ!俺、口に出してた?」

 そんな、ばななっ!

「口に出さずとも、解るわ。ここがどういう場所か解っているだろ。大体手を繋いでいるのだ、強い想いなんか駄々漏れだ」

 しょぇ~~~~。

 鏡があれば、自分の顔が真っ赤になっているのを見ることができただろう。

「あー………」

「言い訳無用。そもそも、親父と我が輩はどこで出会った?そんなの分かり切っているだろう」

 たはぁーーー。

 そういえば、初めての出会いってアソコだった。普通なら出会いは最悪だて。

 だがしかしっ、だからといって、心の声がだだもれってのは、なにかと不味いだろう。昔は昔、今は今!未来であんなことやこんなことが起きるかもしれない。否っそうではない!起こしてみたい。うはうはなハーレムを夢見ないオノコなんか居るだろうか、いやいない!可愛い女の子、メイドさんとかバニーさんとか巫女さんに囲まれて嬉しくないはずがないっ!!!!!はぁはぁはぁ、まぁ今はそんなことを語っても仕方ない。とりもなおさず、今は……って、あ゛ーーーーーー。

「うむ、しっかり聞こえておるぞ。鬼父キチク殿」

「てへぺろ」

 しこたま殴られた。

「つーかさー、なんか凄く心の声が駄々漏れというか、ヒートアップしまくっているようなんだが、どうしてだ?」

 普段ならちらっとは考えるかもしれないが、ここまで暴走するようなことはない。………無かったよね?

「夢の中だからだろう。普段では思っても見なかった心の内があっさりでるものだ」

 …………俺ってこういうやつだったのか、真実は残酷だ。

「まあ、そうしょげるな。親父殿もしっかりと男だったというだけだ。いいではないか、ハーレム。どのみち日本は一夫多妻制だ、後ろ指さされる訳でもない。寧ろ推奨されているのだろ?」

「まぁ、そうなんですけどね。それにしたって数に限度ってものありますけど」

「よそはよそ、うちはうちでいいではないか」

 気楽に言ってくれる。

 ………ん?

「もしかして、それってスイが──」

「それはないっ」

「ですよね~~~」

 きっぱりと断られた。

 うん、解ってましたとも解って……。ぐすん。

 やはり、心のたががどこか緩んでいるのだろう。普段ならこんなやりとりは決してしないぞ、俺。

 だいたい、真面目にこれ以上の嫁騒動は勘弁なのである。成人したときどうなるかなんて、まだまだ考えたくもなかった。


「脱線したが、元に戻そう、続きだ。目玉を強化しつつ、視野にもフォースパワーを込めるのだ」

 切り換え切り換え。

 空が広がる。夜だから暗いはずなのに、幾何学模様の世界はそうではないようだ。若干寒色系ではあるが、見えないということはない。

「視点を水平にしてみろ」

 言われた通り、視線を空から水平線に移動する。意外とあっさりいった。

 海か?空と海、その境から幾何学模様の形状が違っている。それにしても、これはどこまで見えているのか解らないな。対象物がないと距離感が全く掴めない。

 もう少し、目に力を入れてみる。……あんまり変わった気がしない。どの程度で変わるのだろうか、変に力を入れすぎても駄目だし、加減が難しい。

 ふと気になって下方向へ視線を向ける。

 海中なのだろうか、あまり変化がない風景だった。

 どの方向をみても空か海で面白味がない。

「代り映えしない風景だな」

 そんな感想を漏らした。

「初めてにしてはうまくいっている方だぞ」

 使うことに関しては初めてではないが、ここまでじっくりとやるのは確かに初めてか。

「でも、これが特訓になるのか?」

 素朴な疑問である。殴ったり蹴ったりあれやこれと、身体を動かし痛めつけられてきた今までと違うせいもあるが、特訓しているという特別感はない。

「親父殿は勉強するのに、走ったりするのか?」

 なるほど。

「身体を動かすことと、フォースパワーを使えるようになることは等しいわけではない。一番簡単ではあるだろうがな」

「それじゃ、これは?」

「使い方を知っているなら、習熟することが一番よ。自転車に乗れたからといって、それだけで速くは走ることはできないだろう。使い続けてこそ、その先がある。まあ、我々人外はそのことは最初から解っているがな」

 スイにとって、そこが人と人外の境界線ってことのようだ。

 使い続けるか……。使い続けられたら、そら細かい事情はさておいて、慣れるだろうし使いこなすこともできる。息をするのに、指導が必要か?飯を食うのは腹が減るからだ。

 出来て当然。そのレベルが違うだけ。で、あるんだよな。

 では、出来ない場合、どうするのかというと、出来るまでやり続ける。至極簡単、至極地獄。

 つまり、俺の場合、ある程度出来るが、フォースパワーが足りないから、使い続けることができず、習熟には至らない。それを補うために、スイが手助けしてくれている。

 こんな僥倖はそうそうないから、好意に甘えておこう。後で、何かプレゼントでもしよう。

「いらぬ気づかいはいい。それより、しっかり使い続けろ」

 わびさびがない。繋がっているから筒抜けなんがなー。

 こつんと軽く殴られた。


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