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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第四章
138/193

蒼天航路 02

 さて、本番。

 今日から総合演習である。

 朝、集合し整列。音楽隊の演奏に合わせ、一糸乱れぬ歩兵の行進。その後に続く、戦闘車両、ロボテクス、戦車等々、パレードが続く。

 広場に集まれば、お偉い方々の訓辞が滔々と垂れ流されるのを直立不動で聞き流す。

「国旗掲揚」

 一同が黙って見つめる中、旗が揚がる。

「国歌斉唱」

 厳かに奏でられるしらべに全員が謡う。

 燦々と太陽の光が降り注ぐ中、総合演習が始まった。


 それぞれがそれぞれの演習に向け、持ち場に赴く。

 俺はロボテクスが格納されているハンガーへと足を向けた。

 早速、データースーツに着替え、ビアンカと共にサクヤに乗り込む。

 今日やるのは市街地戦だ。

 立て籠もる敵を制圧する。明日は逆だ。

 なので装備は通常のものである。明日は水中戦装備で攻めてくる敵から要人を護衛し、洋上に脱出、揚陸艦まで逃げ延びるまでが遠足…もとい、演習であった。

 で、三日目は皇軍対帝国軍。防衛・脱出側が皇軍、拠点制圧側が帝国軍となる。

 ペイント弾を詰め込んだアサルトライフルとサブのミニガン、硬化ゴム製のククリ、積層装甲のヒーターシールド。順調に行けば学校でも使うんだよな、3年生で。2年も早く扱うことになるとはね、運命(糞蟲野郎)のいたずらを感じる。

 装備の確認を行っていると、通信がはいる。

「テステステス。こちらは小早川デース。シーキューシーキュー」

 作戦前でハイになっているのだろうか。

「こちらはサクヤ搭乗の中島です。感度良好」

「無線の状態は問題ないようだね」

「そうですね」

「ブリーフィングで解っていると思うが、君は後方組だ」

 まぁ予備兵力扱いなのは解る。今まで血反吐吐く思いでやってきた先輩方を差し置いて、前方に出るわけにはいかない。歩兵戦闘車両の護衛役である。

 それに基本4機小隊で行動するしで、俺の隊には俺だけしかいないことも関係している。

 最低の二人一組にもならない。

 あぶれ者であった。……物?

 そんなわけで、大人しく後方支援でのこのこついていくだけである。

 楽でいいや、楽で、うんうん。

 今までが常に前線だったからなぁ……なんとも違和感である。まぁ高校生が前を張っていくのもどうかと思うわけで、複雑である。

「了解、解っております」

「それと、FSCは使っちゃだめだよ。あ、ファミリアーのほうね。火器管制制御じゃないから」

 頭の上、鳥籠にサクヤピクシー(仮称)がいる。今日は役目がないといっても、残しておけるわけもなく、鎮座している状況だ。

「どっちか解んないですよ、それ」

「そうだねー。じゃ、火器管制はFCSファイア・コントロール・システムで、ファミリアー・コントロール・システムはファミリアとしよう」

 カタカタと軽くて早い打鍵音がスピーカーから微かに聞こえた。

「今日明日は通常の操縦で、ビアンカさんもそれでよろしくね」

「了解しました」

「三日目が本番だから、Fドライブも防御に使用可能、好きにやってちゃってくれて構わない」

「ノリノリですね」

「今日と明日のなんかお遊戯だからお遊戯」

「いや、三日とも演習ですよ演習」

「ちっちっちっ、甘いなー。二日までは手順の確認でしかない。本番は三日目だ。皇軍が敵を蹴散らし、物の見事に脱出する。そうでなければならない」

 小早川大尉も悪人面をして告げる。

「あと気をつけてね、防衛側は東郷と西条のコンビがいる。やつら逃げると見せかけて攻めてくると思うから」

「……はぁ」

「こっちは東郷隊の南部と北都が前衛を張っているから、恐らくそこで戦闘になるはずだ。彼等はそこで足止めを喰らうだろうから、迂回しての行動。西側から歩兵戦闘車が突入になるだろう」

 テキパキと、地図と行動予定表を映し出し侵入経路を指し示す。

 防衛地点には2小隊がついている。残りは南側から合流、要人グループを確保し撤退の流れだ。

 攻撃側の本体は北からの侵入となる。

「東側は行かないので?」

「数が足りないからね、陽動はかけるけど本命は西側。向うは北から来るのは解っているがどっちに行くかまでは知らない。ふふふ、見事護送隊を確保しよう」

 お遊戯といってる割りには本気だった。

「それじゃ、頑張ってね」

 通信が切れる。

「そんじゃ、こっちはどするかな」

 後ろから見てるだけである。北攻めも西攻めも直接係わらない。減った戦力側に投入されるからそのとき次第である。

「操縦してみる?」

「いえ、役割的には操縦はマイロードのほうが良いでしょう。火器管制を受け持ちます」

「そう?」

「はい」

 まっ、適材適所か。俺に射撃の腕はない。

 二人と一匹、状況を開始した。


 砲火が叫ぶ、狂った朝の光にも似た火箭が向う側からもこちら側からも敵を倒さんと、曳航弾交じりのペイント弾が降り注ぐ。

「暇だ」

 前衛部隊が突入し、防衛部隊が抗戦を開始する。門が突破できれば、そのまま突入だが、そうは問屋が卸さない。二個小隊の連携した火箭に足止めを喰らう。

 ここまでは予定通り。

 こっちは相手を釘付けにし、増援がやってくる前に西側へと部隊を派遣、門を突破し護送車の一団にペイント弾を撒く

「zapzapzap、敵12式2体確認。残りは10式6体だ」

 ノイズまじりの報告を拾う。

 やっとるやっとる、豪勢に。薬莢を探さなくていいからって撃ちすぎなんじゃね?

 戦車や戦闘車両から、頭を出すことは厳禁とされている。ペイント弾といっても生身であたればあの夜行きかベッドの上だ。その辺りは参加している全員が解っている。

 戦闘中投げ出されても問題ないように防護服だけはガチガチに着込んでもいる。

 俺たちはデータースーツがあるから関係ないけどね。つかエッグシェルの中にいるってことは外を覗くことなんかできない。モニターに映し出される光景が俺の視界である。

 あちこちと頭を巡らす。実戦さながらの演習は初体験だ。あるいみ、局地的な実践は潜ってきたが規模が違う。

 秒単位で状況が変わる。かと思えば分単位で固まる。全体の動きなんて全然わからん。

「後方じゃ何がおきてんのかわからんなぁ」

『索敵しますか?』

 頭上からサクヤピクシーが聞いてきた。

「できるのか?」

『問題なく』

 どの程度だろうか。

 起動実験では巧いこと操縦できた。ただの接続機能をもった人形ではないことは説明を受けて知っている。こまかい性能はまだ未検証だ。そんな時間もなかったしな。

『モニターに映します』

 結果が表示される。

 3面モニターの中央に、ここの俯瞰図が表示される。その中に味方が青、敵と思われる勢力が赤、他の存在が黄色に塗り分けされていた。各光点は予想進路が添えて表示される。光点を選択すると、右モニターに機体情報が映し出される。

 一機の性能ではここまで処理しきれない。人の操作ではもちろん、制限されているいまのデーターリンクでは接敵し、確認された敵以外の情報がここまで表示されるわけがない。

「ここまでできるって凄いな」

 丸見えだ。

『プローブやドローン、敵側の無線から割り出しました』

 ハッキングですね、解りました。ドローンはまだしも、設置されているプローブは本部がこの戦闘を監視するためのもので、戦闘参加者には戒示されないものである。

 でもいいのかなぁ。実戦を想定したとはいえ、これは演習だ。裏の情報まで見ちゃうのはズルしている気がする。

「12式一機ロスト。索敵注意、どこいきやがった」

 無線からの声。

 状況が大きく動こうとしていた。

「ロボテクスと戦車の位置を全体図に表示してくれ」

「防衛側、敵味方信号以外の情報途絶。機体照合不可」

 ビアンカがいってきた。

 誤射を防ぐために敵味方信号は絶対だ。それ以外の情報を向うは遮断してきた。

 つまり、覗かれていることを想定して、情報封鎖をしたということか。

「ドローン反応消失、プローブも途絶、敵無線反応なし。周辺一帯の情報収集が不可になりました」

 えげつない。勝つために目を潰して、無線封鎖をしてきた。

「敵味方信号ジャミングされました」

 徹底的にやってきた。

「推測しますと、防衛側は拠点で敵を足止めし、その間に合流と脱出を実施すると思われます」

 その程度なら俺でもわかる。

「向うが無線封鎖を開始した。こちらも封鎖を開始する。各小隊、事前の作戦通りに行動を行うように」

 無線からの声。向うも本気ならこっちも本気というわけか。手慣れているようで、こういうことは日常茶飯事なのだろう。

 それにしても消えた12式、東郷少佐か西条大尉のどちらかだろう。最低でも2機で行動なのに単機でなにやるつもりだ。

 って、分かりきっている。

「東郷さんか西条さんがこちらにやってくるだろうか」

 前線の側面を衝くという考えもあるが、後方の予備戦力側への強襲のほうがありそうだ。

『その推測に同意します。周辺警戒の密度をあげます』

 サクヤピクシーが答える。

「火器管制、問題なし。いつでも撃てます」

 ビアンカも応答し、緊迫感が上昇した。

 周りのロボテクスも周囲警戒体制に入る。ハンドサインが飛び交う。

 ハイテクの塊がローテクで意志のやりとりか。なんとも言えない切なさだ。

 ふと、授業風景が被る。

 確かに、無線無しの意思疎通方法が重要になるんだと改めて実感した。


「こちら、デルタ1。デルタ2被弾、大破。煙幕弾にて視界不良。各機陣形を保ちつつ応戦せよ。敵は一機だ、敵は──」

 そこで通信が途絶えた。恐らく大破判定で行動停止したのだろう。

 後方部隊の一角が崩された。

 素早く襲撃された部隊の地点を確認し、位置を割り出す。反対側だ。建物の影になっていて、目視では状況が掴めない。

 市街地戦、近くにいるのになんてこったい。

 戦闘車両を庇う位置に立ち、周囲を警戒する。守るものがなければ、建物の影に入っておきたいが、そういうわけにもいかない。

 攻め側なのに、防衛体勢となり歯痒い想いだ。

 おかげで、前線への戦力投入が遅れることとなり、このままでは脱出されしまう。

 ハンドサインが行き交う。

 一部が西側に廻るようだ。このまま待ってもいいことはないからな。

 だが、その部隊に俺はない。

 あくまでお客さんの立場のようで、連れていっては貰えない。いったとしても足並みを乱すだろうし当然である。

 でも、なんか悔しい。

「サクヤ、改めて状況確認。周囲の情報をできるだけ拾ってくれ」

 といって、腐ることはしない。集団行動については解っている。俺は俺の役割を果たすのみだ。見学者という立場なら、徹底的に見学するまでよ。

 制限されているとはいえ、近況の状況と推測される勢力図がモニターに描かれた。

 それにしてもさすが次世代機なことはある。10式と比べて情報収集能力はダンチであった。あの偽12式はこれより特化していたってんだから、なにをいわんやである。

 それはおいといて、やっぱり暇だ。

 サクヤのおかげで周りの状況ははっきり解っている。こっちに突撃してくる戦力はない。反対側では敵を倒そうと包囲に動いているようだけどね。


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