表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大儀であるっ  作者: 堀井和神
第四章
137/193

蒼天航路 01

蒼天航路


 負けた負けた負けた。

 何にって?決まってる、ビーチバレーだ。

 大の字に倒れ、空を仰ぐ。燦々と降り注ぐ太陽の光が俺を焼く。

 流石、現役皇軍。向うもフォースパワーの扱いは慣れたものでレンは頑張ったが、彼らの連携技に翻弄された。

 俺も頑張ったよ!頑張ったけど、まだまだ鍛練が足りないと思い知った。ビーチバレーを修行して優勝とかそんなの狙ってもないが、あの人達の運動性能は段違いなのを実感した。

 全力ではないが、レンのサービスやアタックを受けれるとはね……世界は凄い。

 1対2。

 最初の1セットは取れたが、それは向うがこちらを分析していたためだ。続く2セット目は向うに取られ、3セット目はデュースの応酬で最後に俺がドジを踏んだ。

 集中力、経験、技術、差をあげればきりがない。

 ホントまだまだだな。

 影が覆う。

「すまん、俺のせいだ」

 差し出される手。

 俺はそれを掴み、立ち上がる。

「よくやった……です」

「ありがと、でももう少しなんとかできたと思うが……いかんな、負けは負けだ。相手は俺たちより強かった」

「強く…なりたい?」

 レンが首をかしげる。

「そうだな、何をするにしても身体が資本だ。強くあれば、それだけ楽ができるしな」

 とはいうものの、物理的な強さでは人外にはいうに及ばず、武術などといったものは合気道を齧った程度。負けたからといって、だから打ち込むかと言われても、それはそれで疑問だ。

「今夜……特訓。スイが言って…いる」

「いや、そこまでしてもらうようなことは──」

「駄目……、スイが…怒る」

 彼女の中でどういった綱引きが行われているか、想像もつかない。だが、スイの機嫌を損ねることは不味いと至る。

 ……というか、負けたことに腹立ってる?

「今夜といっても、就寝時間とか学校より厳しいぜ。帰ってからでいいだろ」

「駄…目、大丈夫邪魔…は、させない」

「暴力は無しだぜ?」

 実力行使で攫われて、意味が特訓のためだった。とか、ばつが悪すぎる。

「大丈…夫、問題は…ない。寝て、て、待って…て」

 ま、ここであーだこーだいっても仕方ないか。

「無茶しないってんなら、よろしく頼むわ」

「…解った」

 そんなこんなで、俺のビーチバレーは最後の最後、遺憾なく参加できて終了した。

 因みに、優勝はビアンカと仁科ペアだ。

 俺たちに勝った東郷少佐と西条大尉ペアでも敵わなかった。というか、俺たちに全力を出しすぎて体力が残ってなかったようである。

 他の競技も夕方になる頃には次々と終了を迎え、三々五々と各持ち場に戻っていく兵士たち。俺もレンたちと別れ、ビアンカに押してもらう形で宿舎まで戻った。

 ふぅ、もうくたくただ。これで明日から総合演習本番って、疲れないのか?みんな体力有り余りすぎだ。

 明日に向けての短い打ち合わせの後、ベッドに入れば記憶が途切れた。


「……起…ろっ………、何時ま……ている……だ」

「うーん、あと10分、いや5分」

 次の瞬間、俺は部屋をゴムマリのように飛び跳ねた。

「くそっなんだってんだ、いてー……くないな」

 辺りを見回す。

 宿舎の……自分が割り当てられた部屋だ。だが、誰もいない……。いや、一人いた。

 のぺっとした陰影がない肌色の肢体。顔だけ写実的な三つ目が俺を睥睨していた。

「目が覚めたか、親父殿」

「……スイか」

 改めて周りを見回す。ベッド、机、うむ、俺がいた部屋だ。それと一緒の部屋で寝ている人達がいない。

「夢の中……か」

 スイの格好を見れば、確認するまでもなかったが、何事も確認は大事大事。

「そうだな。で、これからどうするかは憶えているな」

 言われ、下を観る。

 なるほどなるほど、これはこれは………。はい、すっぽんぽんですね!

 二度目のせいかどうか解らないが、スイと同じようにのぺっとしていて写実的でなはいが、このままぶらつきたいとは思わないですねー。

 目を瞑り、服をイメージする。いつもの制服を。

「ほぉ、二度目となると手慣れたものだな」

「いやまぁ、ついこないだの事だったからな」

 あの時と同じように制服に身を包み、俺は立ち上がる。

 ……で、これからどうすんだ?また過去へチャレンジするとでも?

「言っておくが、“これからどうするか”と言ったのは、親父殿が服を着るということではないからな」

 要領を得ない俺を見てレンが呆れたように物言う。

「えーとそれはどういう?」

 マッパでいろってのは無理だしな。…あ?なんか約束した記憶が……??

「もうよい。こういうのは身体で憶えた方がいいだろう」

 瞬間、周りの風景がかわる。これは……、あずさんに散々痛めつけられた場所。

 そう、昔の寮からほど近い特訓の場所だった。

「これは──」

「無駄口を叩くな」

 いうなり、襲ってきた。

 右ストレートが俺の鳩尾に突き刺さる。殴り掛かってくるのは見えたが、反応できなかった。

 衝撃そのまま、俺を宙へと飛ばす。

 宙を舞う俺に更に追撃。蹴りが俺を地面へと叩きつける。

 痛みはない。そのかわり疲労感が襲ってくる。

「フォースパワーを巡らせろ。そのままでは直ぐに意識が途切れるぞ」

 そんなこといっても、急には。

 スイの蹴りがまた迫る。

 腕を十字にして受ける。が、そのまま吹き飛ばされる。これが人外の力か。

 しかし、おかげで距離が取れた。呼吸を整え、フォースパワーを廻す。

 って、そんな猶予を与えるほどスイは優しくなかった。

 右拳が迫る。

 今度は間一髪で避けれた。

 よし、この隙に……。

 と、思ったが、左の拳が右頬を抉った。もんどりうって地面を舐める。

「敵は、準備が整うまで攻撃を待ってはくれんぞ」

 言ってくれる。

 全くもって実戦的だ。ぐうの音も出ない。

 しかし………、フォースパワーが使えなければ、対抗することなどできはしない。

 2回、3回とスイの攻撃に地べたを転がされる。

「なんという体たらく」

 嘲笑が耳朶を叩く。

 悔しさが湧き出る。こちとら普通の人間なんだぞ、人外の力で物事を測るなってんだ。

「無様」

 いってくれる。

 立ち上がるなり、右ストレートと見せかけて、脚払い。

 出した脚を蹴られ、逆に背中から倒れる。そのまま追撃の蹴りがやってきて、地面を転がる。

「全くもって無様」

 嘲笑またやってくる。

「あぁぁあぁぁぁぁああああああ」

 吠えた。

 有らん限りの力で吠えた。

 勢いつけて飛び掛かる。

 軽くいなされ、くるりと天地が逆転し背中から落ちる。うがぁぁぁぁ。

 なんて、転がってる場合じゃない!直ぐさま立ち上がり、再度襲いかかる。

「甘いっ」

 宙を舞う。

「温いっ」

 地面を舐める。

「遅いっ」

 転がる。

「鈍いっ」

 てんで歯が立たない。

「怒った時の瞬発力は、知らなければ不意もうてよう。だが、知っている相手には通じん」

 何をいってやがんだ。

 一発、せめて一発くらいは入れないと気が納まらない。

 立ち上がる。

 かなりクラクラと視界が廻る。

「そろそろ限界か」

「まだだ、まだまだっ」

 踏み込み、右拳を突き出す。

「いい根性だ」

 スイが待ち構え、拳を弾く。

 なんのっ、更に踏み込み、左を叩き込もうと振りかぶる。

 不意に、膝がくず折れた。

 あード畜生。耐えろ脚、踏ん張りやがれ、気を張って脚に力を込め……。

 次の瞬間、身体が宙を舞っていた。

「なっ?」

 レンに吹き飛ばされた訳ではない。踏み込み、崩れた脚。倒れまいと踏ん張ったら、それで空へと跳んだのだった。自分の脚で。

 予想外の出来事に目を白黒させる。重力が俺を引っ張り、墜ちていくのは自覚したが、上下が解らない。錐揉み状態で墜ちていく。

「油断しない」

 下から蹴られた。

 油断とかそんな問題じゃねーーーーー。

 また跳ね上がる。

 そして、また墜ちる。頭から。

 見開いた眼には、蹴りを見舞おうと体勢にはいるレンが映る。

 嘘だろ~~~~。

 咄嗟に腕を十字に構え衝撃に備えた。

 金属の歯車が引っかかった耳障りな音が響く。レンの蹴りと俺の腕とがぶちあたった音だ。

 一瞬の均衡。

 音と衝撃に驚いた俺から力が抜けた。

 やばっ、と思った瞬間、ケリが振り抜かれ、何度目かの空中遊泳を味わった。

 腕が鉛となったような重さ、ついで途轍もない倦怠感が腕から身体へと伝わる。

 意識が揺らぎ、下へと引っ張られる感覚、これはやばい。

 次に物理的に墜ちる感覚が襲ってくる。受け身を取ろうにも身体が動かない。

 地面が迫ってくる。

 衝突を予感し、瞬間身をかたくする。

 ………落ちはしなかった。

「今日はここまでだな」

 下から声がした。

 スイの声。

 片手で身体を支えられ、俺は墜落を免れた。

 降ろされ、立とうとするが、力が入らずぺたりと地べたに座り込む。

 近寄る影。俺はスイを見上げた。

「特訓一日目にしては、なかなかだったぞ」

 特訓?

「あっ……」

 そういや、特訓するっていってたっけ。今更ながら思い出した。

「解ったか?今の感じを忘れるな」

「今の感じってなんだ?……あ」

 口に出した時点で気がついた。あの跳躍。それに防御。

 普通の人間にはできない。フォースパワーを使わなければ……だ。

「特訓て、このことだったのか」

 俺の中にある“特訓”とは、ロボテクス乗り込んで戦闘か、あずさんにさんざっぱら苛め尽くされるやつだったから、てっきり夜中に起こされて、どこかでやるもんだと思ってた。

 それが、まぁなんと、夢の中ときたもんだ。想像外すぎる。

「ここなら、怪我はしないからな。その代わり、精神は相当疲労するが」

「……それって朝起きれないとか、そういうオチが待ってたりするのか」

「親父殿次第だろ。回復力までは知らん」

 大雑把な回答ありがとうよっ。

 はぁまったく……。始める前にもうちょっと説明しやがれってんだ。大きく息を吐いた。

 ぬっ?

 気が抜けたのか、急速に視界が歪んできた。

「そろそろ限界のようだな。それじゃ、また明日」

 明日も?

 霞む視界にレンの笑い顔が………。

 そこで意識が途切れた。


「はっ!」

 ベッドから飛び起きた。

 辺りを見回す。今何時だ?

 卓上時計は起床10分前を告げていた。

 起きれた。

 ………って、あれは夢だった?………どっちなのだろう、本当なのか夢なのか現か幻…。

 ふむん。

 深呼吸一発、そこからフォースパワーを巡らせ始める。

 以前よりは手慣れた気がするか?

 掌に集中、拳を作る。シュッシュとジャブの感覚でワンツー。

 シャドーじゃわかんないね。何か殴ってみなくては。

 周りを見る。

 ベッドの柱がある。

 ふむん。

 拳を見る。

「……ていっ!」

 鈍い音がした。

 とても痛い。

「お、おぉぉぉ」

 思わず呻いた。

 柱はびくともせず、俺の拳が痛いだけだった。

 そうは簡単にいかないか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ