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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第四章
135/193

南南東へ針路を取れ 06

 一瞬視界が暗くなる。

 次の瞬間には外の景色が広がっていた。良かった、また一面の野を焼き尽くす炎の中にたっているとかいうのがなくて。安堵の息を吐く。

 これは、あれだな。なんとなく覚えがあった。中江先輩から教わったロボテクスとの

融合状態ってやつだ。あの時とは多少感覚は違うことは違うが概ねそんな感じだ。

 意識して同調するのが大変だったのだが、今回、あっさりと接続したことに多少驚きを憶える。

『接続完了。0.01%の同期ずれがありますが許容範囲です。搭乗していくことによって解消されると判断します』

 サクヤの中枢を司るピクシーの身体をしたサクヤからの確認報告が直接脳内で響いた。

 耳を通さないで、頭の中に直接声が聞こえるのは、やっぱ慣れないもんだ。自然、構えてしまう。

「接続はうまくいったかい?」

「はい、問題ないようです」

「身体に異変はない?」

「それも大丈夫のようです」

 痛くもなく、寒くもなく、痒くも熱くもない。外からの刺激が一切ないかのようだ。

 自分の息づかいさえ感じない。こんなものなのか。

「それじゃ、ちょっと動いてみようか」

「了解」

 ハンガーロックが外れ、機体が自由を得る。

 一歩、足を外へと繰り出す。二歩、三歩。

 なんともなしに歩けた。

 ロボテクス特有の揺れや溜めといった感じはなく、自分の身体で動いているような感覚。

 そういう点では、中江先輩から教わった操縦方法とも違っているんだな。あれはサクヤに動作を任せるような操縦方法だったから。

 なんというか、ロボテクスであるサクヤと一体となった感じだ。自分の身体がサクヤになった?8メートル越えの巨人になったといったところか。

 途端に、肌寒さを感じる。いやこれは違う。生身のまま外に出ている感覚だ。服も着ないでうろついているような感覚……。実際の俺はこいつの下腹にあるエッグシェルのコックピット中で椅子に固定されている。

 つか、俺が俺の本体の存在を感じることができないでいる。俺がここにいるからなのだろうってことは想像できるが、俺が乖離してサクヤに憑依したような状況は、いささか本体が疎かな気になって心許ない感じである。

 そんなことを報告する。

「あーそれは、君が男だからかもしれない。女性の場合、“子宮”に自分がいる感覚があるそうだからね」

 ふむん、元はといえば、魔女の技術が基となっているから、男にはないってか。

 いやぁ男も乗ったはずだよな。そのときの報告書みたいなものってないのかな。後で聞いてみよう。

 手を目の前に持ってくる。

 う、うーん……。なんとも言えない奇妙な感覚だな。感慨に耽る。

「そんじゃ、ちょっと運動してみようか」

 物思いに耽っていたら、小早川大尉から指示が飛んできた。

 慌てて意識を戻す。

「了解、何をするのですか」

「それじゃ、ラジオ体操でもしてください」

 ……うん、なんとなくそういうオチになるんだろうと思ったさ。


 空砲が雪崩のように鳴り響く。

 明けて次の日、今日は総合演習前のレクリエーションの日だ。

 俺たちは開催式の後、移動して中央管制やレジャー施設などがあるプラントの特設ビーチに来ていた。

 一般の観客が競技の観戦にしこたま来ている中へと入っていく。

 総合訓練自体は、軍港のあるプラントで非公開に行われるが、こういったレクリエーションは一般公開された中で行われる。

 それにしても………これは、嵌められたというべきか。

 南洋のまだまだ暑い日差し。

 目を痛めないようにサングラス。

 ビーチバレーなので水着である。しかも……ブーメランなやつだ。

 そんでもって、マッチョでムキムキな筋肉男が立ち並ぶ中、一人10代である。

 彼等に比べると、まだまだな体格。腹筋は一応割れているが、厚みが違う。これでも、普通の高校生よりは筋肉あるはずなんだが、どうしても見劣りしてしまう。

 女性もいくらかはいるが、ここでの主役は断然男側であった。

 観客も殆どが女性であり、まぁそういうことだ。

 俺は先に一回戦が始まるビアンカと仁科さんの観戦にきていた。隣にはレンがいる。

 もちろんのこと、彼女たちもビーチバレーをするからには水着を着てはいる。学校指定のスクール水着ではなく、ビキニなのである。逆に参加者の野郎どもの視線が女性に降り注ぐことになるが、まぁなんだ、目立っているのはビアンカのみという感じだ。

 仁科さんは日本人で、レンはアジア系だし混ざってしまえば気がつかれないが、ビアンカだけは白人系で周りから浮いていた。金髪碧眼、豊満な胸も相まって完全に日本人の規格からは外れている。ファンタジック!

挿絵(By みてみん)

 そういう奇異の目は日本も国際色豊かにはなっているが、まだまだのようである。というか軍隊に白人がいることが珍しいのだろうな……やっぱり。別に差別とかいう訳ではないが、物珍しいことは確かである。

 それにしても……、同級生の初水着を見るのがビキニ。なんとも視線を向けるのが気恥ずかしい。

 以前見たマイクロビキニとかのアレはカウントしません、絶対に。

 しかも、外人でって、俺も人のことは言えないようだ。


「やっぱり君もビーチバレーだったか」

 声がした方向をみると、東郷少佐と西条大尉のコンビがこちらに向かって手を振っていた。

「やっぱりっということは、やっぱりそういうことなんですね」

 近づいて話をする。

「レクリエーションさ。俺たちではなく、観客へのな」

 陽気にウインクしてみせる。むくつけき男からされても気持ち悪いだけだ。

「軍隊とはいえ、人間です。血も涙もない機械ではないということをこういったふれあいで示すのが目的ですよ」

 淡々とというか観念したように隣の西条大尉がつぶやく。

 建前はそうなのだが、周りの視線はどう見繕っても飢えた狼のソレである。品評会でもないんだから、血眼な目線はやめてもらいたい。

「そういうことだが、だからといって適当こいていいわけじゃないからな。俺たち皇軍は優勝しなきゃならん。辛いねぇ」

「それって、やはりエリート集団であるからですか」

「そういうこったな。帝国軍兵士にだけは死んでも負けるなよ」

 バンバンと背中を叩かれる。

 割と無茶をいう。こちとら、名義上は皇軍だが、一介の高校生である。軍のだけど……なんだか微妙な立ち位置だな。そんなわけで、いくらなんでも年期が違う。年期どころでもないけどな、圧倒的に子供と大人の差なんだから。

「とりあえずは頑張りますが、期待されても困りますので」

「そうか?俺としてはお前たちが一番優勝候補だと思うがな。俺はお前が相手だと楽して負けれるからな」

「またそういう、つもりもないことを」

「そうか?エイユーに勝てるとは思ってないさ」

 へらへらとしてるが、目は笑ってないのに気がついた。

「最善は尽くしますよ」

 熱血パターンは嫌いじゃない。暑苦しいのは嫌だが、さらっとこういうことを言ってくる分には受けるのもやぶさかではない。

「お互い、あたるまでは頑張ろう。で、君の部下たちの奮戦具合はどう──」

 東郷少佐が視線を向けると、開いた口が閉まらなかった。

 仁科さんが放ったアタックを相手がレシーブしようとしたら、そのまま吹き飛んだからだ。

 というかですね、アタックしたボールが見えん。相手がレシーブの体勢でいた所にボールが飛び込み、もろとも吹き飛んだ。という状況であった。

 やりすぎじゃぁぁぁ。

 慌てて、抑えて抑えてと身振り手振りで示す。

 サービスに立つビアンカがこっちに気づき頷く。ほっ、あんまり目立たないでくれよぉ心の中で祈る。

 ビアンカがサービスに入る。ボールが高く高く……ぉぃっなんであんなに高くあがっ──。

 派手な爆発音が響いた。

 5メートル上空からの打ち下ろし。

 鋭角にボールは相手コートに突き刺さり、派手な砂煙をあげた。

 静まり返る観衆。

 砂浜に叩きつけられたバレーボールは裂けて潰れていた。やりすぎだっ。

 俺に向かってVサインを送るビアンカ。

「こちら……に気付いたから張り切った…かな」

 横で眠たそうな顔をしたレンがつぶやく。

 始まる前に、手加減するように言っておくべきだったと後悔した。

 結果、試合は圧勝で2セット連取し終了した。(先に2勝したほうが勝ちのルール)

「確かに皇軍になるだけはあるな」

 東郷少佐が呟いた。

 え?それってどういう……。

 聞きようによっては、このくらいできて当然ともとれるような。いやいや、まさかね。

「一つ、伺っても?」

「なんだい改まって」

「彼女たちのこと知っているのですか?」

「そら知らないはずはないだろう。ま、皇軍の俺の立場だからではあるがな」

 やはり少佐クラスになると、そういうもんなんだろうな。やれ、人外だと騒ぎださないくらいの度量もあると。

「あの長船殿下がわざわざ世界各国を廻って見いだした、日本の将来を背負って立とうって人物なんだってな。島国の日本だけにとらわれず、世界を見回すことができ、優秀な人材をひっぱってこられるとは感服するね」

 ………あーそうねぇ。そうなのるねぇ~。

 ということは、彼女たちの本当の素性というのは、バレテナイ?それともワカッテテ言っている?下手に突っ込むと藪蛇になりそうだしなぁ。

 触らぬ馬鹿(長船)に祟り無し。ここは流しておこう。冷たい汗が背筋を伝った。

「これで、俺ら皇軍の優位は確定だな。唯一心配だった彼女たちがあーも奮闘できるのであれば、何も問題はなさそうだ」

 俺を含め、高校組の戦力は疑問視されていた。彼等にしてみれば、俺が一際目立った存在であり、バレーボールごときで後れをとるようなことはないと見なされているのだろう。

 つまるところ、実際な所では一番の不安要素が俺だってことですね。ワカリマシタ。

 まぁ俺にはレンという相棒がいる。俺が駄目でも彼女なら問題ない………よね?

 ちらりと視線を送った先、やる気なさそうに欠伸をしていた。

 あれ~、あれあれあれ~~~、一抹の不安が脳裏を過った。

「さてと、俺たちもそろそろ試合の時間になる」

 そういって、東郷少佐たちは行ってしまった。

 ふむん、俺たちも呑気にしてる場合じゃない。試合は待ってはくれないのだから。

 まだコートに残っている二人に手を振り、自分の試合が始まるコートへと足を向けた。


 では、俺たちの対戦相手はっというと、誰だっ!

 見れば、身長は俺より高い、筋肉で引き締まった肢体、無論のこと腹筋は割れまくりな女の人たちであった。

 スボーツブラとブルマよりは面積は少ないかなー程度の原色系ビキニ姿と、サングラス。短く髪は刈り込まれ、いかにもやりそうな雰囲気を醸しだしていた。

 その視線は……俺じゃなくてレンに向けられていた。ガン飛ばしまくりだな。

 グラサンで判断しずらいが、まぁ態度からしてそうだろう。

「レン、レン」

 呼び寄せる。

「お前、なんかやったか?」

 たるそうに俺の顔をみたあと、対戦相手に視線を送る。

「知らない人…」

 そうかそうか、やっぱこんな処で、直ぐに知り合いできるようなことはないってこたぁなかったな。こないだのお手玉騒動の被害者か?いちいち顔を憶えているわけではないから想像でしかないが。それとももっと他にやっちゃっていたとか?

 否定しようにも否定できる材料が思い浮かばないのは何故なんだろうな。

 まぁ、それはおいといて、今あーだこーだやってる暇も余裕もない。

 とりあえず一試合目は様子を見つつ対策を考えるのがいいか。

「レン、ほどほどにな」

 コクンと頷いて了承を現す。本当に解っているのか、淡白な反応のためいまいち疑問になる。

 審判がコイントスをする。

「表」

 相手の気勢を制して先に告げる。

 つかね、コイントスしてんのに、視線はレンに注がれていて、こいつらやる気あるのかと、いや殺る気はありそうだけどな。乱闘騒ぎは御免だぜ。

 コインが落ちてきて手の甲に納まり、もう片方の手で隠された。

「…裏」

 ボールかコートかなんてどっちでもいい、大体ポイント溜まってきたら自動的にコートチェンジするわけだし。どっちが得かなんて良く分かってもいない。

 なので、勝ったらボールでいいかと思っていたが、コインの目は裏だった。

「ボール」

 相手は告げる。まぁ先に攻撃した方が何かといいんだろうね。と、いうことでコートだが…。

「レン、どっちのコートがいい?」

 俺には良く分からん分聞いてみた。

 今いるコートと相手コートをそれぞれみて、こっちと告げる。

「そんじゃコートはこっちからで」

 お互い開始位置に散らばり、ホイッスルを待った。


ビキニのイラスト……時間が……週末にでも?

ちょこっと修正

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