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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第四章
133/193

南南東へ針路を取れ 04

 台尻銃床を肩の付け根に。

 肘を地に突きたてグリップを握りしめ、上体を反らすように。

 足はY字に開き気味に。

「開始3秒前、2、1…」

 ターゲットが現れる。

 引き金は絞るように。

 発射。

 衝撃で銃身が跳ね上がるろうとするのを左手で抑える。

「外れ」

 ま、一足飛びに簡単に命中することはないか。

 けどまぁビアンカにご教授されたおかけで、さっきとは違うと感触がいっている。

 しっかし、いくら教えるためといっても寝てる背に覆い被さってこなくてもよかったのに。いくらなんでも女の子なんだから、慎みをもって下さい。

 次に出るパネルに照準を合わせて撃つ。

「外れ」

 でも、戦地においては男女の区別なんてのはないしな。如何に使えるように教育するかである。おかげで、なんとなくだけど、解ってきたし。

「外れ」

 つか、そろそろ当たれよっ。

 イラっと来るがここは我慢我慢、抑えて慎重に。

 次のパネルが出る。

 今まで照準があった瞬間引き金を引いていたが心持ち1テンポ遅らせて撃った。

「サークル外」

 初めてパネルに当たった。小躍りしたくなるが我慢我慢、ふぅ。

 息を整え、次のパネルを待つ。

「命中」

 パネルに書かれている円の端ではあるが、ようやくまともな当りを得た。

 やればできる子!この後も続けて命中だ。

「外れ」

 ………。

 落ち着こう、まだまだ慌てることはない。

「サークル外」

 よしよし。

「サークル外」

 まだまだ。

「サークル外」

 そろそろ円の中に当たってくれてもいいんじゃない?

 10発目、最後の射撃を祈りながら引き金を絞る。

「命中」

 最後の最後で円の中心近くに命中できた。

 ……やればできる子っ。そっと心の中で呟いた。

「次は私の番ですね。操縦権もらいます」

 ビアンカがそのまま射撃訓練に入る。こっちは計測や結果を報告する番だ。

「距離2000メートル。風速右から2メートル。湿度64%、温度32℃」

「了解しました」

「開始10秒前」

 そのままカウントダウンを続ける。

「……2、1」

 ターゲットのパネルが立ち上がってくるやいなや、銃声の咆哮が轟く。

「命中……ど真ん中」

 次々と現れるパネルを次々とど真ん中に当てていく。

 全弾命中、ど真ん中。

「……お見事」

「ありがとうございます」

「俺も君みたいな腕前になれるよう頑張らないとなぁ」

「一つ質問よろしいでしょうか?」

「いいけど?」

 射撃のことで聞かれても、ビアンカの方が巧いんだ。一体何を聞こうというのか。

「なぜ、射撃時にアシストシステムを使わないで、手動で行っているのでしょうか。私も手動で射撃を行ったほうがいいのでしょうか」

 ナニソレ?

「もしかして、存在を知らなかった?マニュアルは読みましたよね」

「えーと……」

 何を読んだか思い出す。

 練習場での注意事項、射撃訓練の流れや約束事、銃の撃ちかた(姿勢とかセーフティーやら)、照準が視野としてリンクされてヘルメットに投影される──。

 だからあとは引き金引けば撃てるし当たるだろうと……。

「知りませんでした」

 白状した。

 色々と基本すっ飛ばした弊害だ。とりあえず動かせ、とりあえずとりあえず……ひっちゃかめっちゃか。動かし方は解っても、細かい原理まではついぞ放置だった。

 まぁ悔いてもしかたない。足りなければ補えばいい。

 ………でもなぁ、将来必要なのコレ?色々疑問が山盛りすぎるよ。


「100メートル走、400メートル走、障害、1600メートルリレー、10キロマラソン、トライアスロン、走り幅跳び、棒高跳び、スプーンレース、パン食 い競争、借り物競争等の陸上種目から綱引き、騎馬戦、棒倒しなどの団体戦の定番に、バレー、バスケ、テニス、サッカーのスポーツ系、柔道、剣道、弓道の武 道系。2時間耐久レースにジムカーナは車とバイクそれぞれ。サバゲ、小型ロボテクスを使った競技その他諸々、どれを選びます?」

 小早川大尉から唐突に告げられた。

 どこかで聞いたようなって、体育祭の種目じゃねーか。

「一体なんですか、厭味ですか?」

 ジト目で睨む。

「何をいっているのですか?」

 あれ?なんだか勘違いした??

「それ、今週末ある体育祭の品目ですよね?俺が出ることができない」

 言われて、顎に手をあてて考え込む。

 ぽんと両手を叩き、気がついたようだ。

「あーそういわれればそうでしたねー。でもまあ、こちらも同じですよ、レクリエーションです。だから内容は同じですよ、参加者の年齢が違うだけで変わらない」

 総合演習前の娯楽ですか。

 団結力の強化、厳しい訓練の息抜き。余興として十分に意味がある。とのことだが、こちらとしては、本来やるはずのことがすっ飛ばされているのに、こっちでやるとか恨めしい限りである。

「それで、どうします。参加したい競技ありますか。貴方は第13独立部隊としての参加です。UKの皆さんと相談してもいいですけど、夕食前までには申請してください」

 チームとしての競技に参加するなら、話し合わないとだめだろう。でもなぁ彼女たちのことは殆ど知らないしどうしたものか。面倒なら団体戦でなく個人競技に出ればいいだけなんだが。

「それじゃ、一応皆と話してみます」

 夕食時間までそんなに間は無い。行くなら今直ぐだ。

「週末にはFCSの結果でるから、それも忘れなく~」

 小早川大尉の声を背後にして、俺はそそくさと港湾区画にいる彼女たちへと向かった。


 移動用のセダンを使って向かう。戦闘目的でもないから、SUVでもないまんま普通の乗用車だ。

 助手席にはビアンカ。

「港湾区画に向かう前に、レンと仁科さんを拾っていかないとな」

「そうですね」

 レンたちも参加するだろうし、話すなら一緒にしたほうが時間の節約になる。

 区画的にも、通り道だ。

 IDカードを提示し、レンジャー訓練施設に入る。

 さて、どこにいるかな……、食堂かどこか適当なところ探せばいるだろうか。

 適当に車を走らせる。

「居ました。おそらくあそこです」

 先に見つけたのはビアカンだった。指差す方へ向け車の針路を取る。

 ………。

 視界に……。

「なぁ、見つけたといったのはアレか」

「イエス、マイロード」

「まだそのネタ引っ張るのかよ」

 いかんいかん、一々反応していては相手の思うつぼだ。無視だ無視。

 それより目の前の現象だ。

 人が宙を舞っていた。

 一人二人三人四人、ごーにんろくにんしちにんはちにん……。

 面倒なので数えるのをやめた。

 それが二つの柱というか、あれですお手玉。英語でいうとジャグリング。

 目を疑う光景が繰り広げられてた。

「あんなことをするのは……」

「レン様と仁科様でしょう」

「………だろうな」

 慌てて現場に車を急行させた。


 人が宙を舞う柱が二つ。それを中心に軍服を着た兵士たちが取り囲んでいた。

「一体ぜんたい……」

 ビアンカと二人、車を降りて人垣を割って入っていく。

 予想通りレンと仁科さんの二人が黙々と人間お手玉をしていた。

「なにがどうなってんの?」

 囲んでいる兵士向かって聞く。

「レクリエーションさっ」

 レクリエーション?これが??

 奇声や絶叫、訳の解らない言葉が飛び交っている。

 あーー、仲良くやっているようでなによりだ………っぽいかも?


「あれはなんだったんだ?」

 騒動も程々に、レンと仁科さんを連れ出し聞いた。

 今は4人で車を走らせ、埠頭区画へ向かう道の途中。

「レクリエーションです」

 仁科さんが答えた。

 レンのほうは後部座席で寝ている。

「まぁそうだな、楽しくやっているなら何も問題はないか」

 色々と想像することはできるが、深く追求してもしかたなさそうだ。

「……追求はしないのですか」

「なんで?」

「普通、部隊の隊長ならば問題行動をおこした隊員について、厳しく詰問するはずですが」

「レクリエーションなんだろ?」

「普通はそう思わないでしょう」

「それだと、仁科さん。虚偽の申請をしたと、自分で白状してるようなものだけど」

 後部座席にいるので表情は読み取れない。声の質で判断するに、多少はいらついている気がする。

「まぁ、なんとく推測すると、君たちが巧くやりすぎて、兵士から反感をかった。それでいざこざが起きた。結果がアレ」

「処罰はしないので?」

「レクリエーションだろ?何かいってくるなら、その役目はレンジャー育成の教官だろうさ。待ってるのは腕立て伏せか、走り込みか、平手打ちかなんだかわからないがな。俺からはないよ。むしろ無事でなによりってとこだな。言っておくが両者ともにってことも含めてだからな」

「……解りました」

「流石、マイロード。お優しい」

 横合いから、そっと言ってくる。

「だからといって、メイドと認めるような“やさしさ”はないからな」

「悲しみで死にそうです。このまま海に飛び込んでしまいそうです」

「やるなら一人でやれ。だいたい何だそれ、誰の入れ知恵だ」

 答えは簡単、メアリーなんだろうけどさ。

 婚約者相手に女をあてがう様なまねするってのはどういうことだ。

 身も心も捧げお役に立てるよう粉骨砕身一意専心のとか言わさせるなって。

 もしかして、弥生に付き従うあずさんのような感じで、引っつけようとしているのか?

 それにしても、四人ともなのだろうか?意味がわからん。数が多い方が優先権を得るとか民主主義的な多数決でもって決めようとか、そんな考えをしているのだろうか。

 いくらなんでも、それはないだろう……ないよね?背筋に薄ら寒いものが走った。

 まてまて、そう考えるのは短絡的というものだ。メイドの四人が俺と結婚するわけではない。あくまでメイドとして仕えるということのようだから。

 じゃあどうというのだ?根本原因を思い起こす。エリザベスが寄越すといった手前の流れだったな。

 ならば……メアリーとビアンカ達メイドとは関係がないことになる。エリザベスの命でメイドになりにきたのだ……だとしたら……結局、いまの現状に変わりはない。メアリーが余計な入れ知恵してる分だけタチが悪いってことか。

「それに四人は多すぎるな。どう見繕っても養えない。アー残念だ」

「三人なら問題ないという訳ですね」

「三人も同じっ。一人でも大変だろって」

「一人なら問題ないという訳ですね」

「大変だろうけどな。まぁそのくらいは……って大変だよ、大変なんだからなっ」

「なるほど、了解しました」

 彼女たちは四人で1セットのようだし、こう言っておけば大丈夫だろう。

 ケセラセラ、なるようにしかならんつーことすか。メイドさんを侍らすのは男の夢ではあるのだが……。

 理想とするメイドさんたちを思い浮かべ悦に浸る。

挿絵(By みてみん)

 こんなメイドいいな、いーたらいいな。

挿絵(By みてみん)

あんなメイドそんなメイドいっぱいいる~けどー。

「そろそろ着きますね」

 ビアンカの声で我に返った。やばいやばい、夢想運転とか事故の元。

 平静を装って運転を続けた。なんとなく皆の視線が痛い気がするのは、多分気のせいだ!

 車を埠頭に乗り付け、スザンヌ・アーウィン副長がいる駆逐艦クシダの元へと向かった。


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