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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第四章
132/193

南南東へ針路を取れ 03

 ずしりとした感覚はない。

 人が持とうと思っても、持つことはできないが、ロボテクスなら簡単だ。

 30mmアサルトライフル。

 初めての実銃だ。というかもうこれ大砲だな。全長約5メートル、装弾数1マガジンに300発、600発/分。つまり、全力射撃すると30秒で弾切れとなる。砲身の廃熱が追いつかないから実際はそこまで全力は出せないが、とりもなおさず、ロボテクスの標準的な武器である。

 射撃場でソレを受取り、腹這いになって目標を狙っているところだ。

 訓練は、2キロ先にランダムに現れる5メートル四方のパネルを一発撃って当てるというもので、連射してバババ~というものではない。単純な伏射訓練である。

「訓練開始まで、あと10秒」

 前席で、ビアンカが告げる。サクヤが複座のため、一緒に訓練という訳だ。

 もし、サクヤが複座じゃなければ、ビアンカもレン達と同じレンジャー訓練に行っていたことだろう。一人で訓練にならなくてほんとに助かった。あんな面々に単独で囲まれる事態だけはさけられてよかった。

「了解」

 アサルトライフルの照準機と同期よし。ヘルメットの2重透過モニターの一枚に同期した十字の照準が現れる。

「3・2・1」

 カウントダウン0と同時にターゲットのパネルが立ち上がる。

 直ぐさま照準を合わせ、トリガーを引く。

「外れ」

 無情にもビアンカが告げる。

 今のパネルが引っ込み、別の所からパネルが現れる。

「外れ」

 また外れた~。なんでやねんっ!照準はあってるぞ。

 考えるのはあとだ。次々現れるパネルを狙って延々と射撃を続ける。

「外れ、外れ、外れ、外れ、外れ」

 ビアンカの淡々とした報告が耳朶を撃つ。

 マヂなんでや~。照準はあっているんだよ~。それなのに当たらないってどういうことだ。

「外れ、外れ、外れ。訓練終了、命中なし」

 10発中撃って命中無し……かすりもしない、凹む結果が待っていた。

「なぜだ、なぜ当たらない」

「中島少佐、次は私の番です。操縦権をこちらへ移してください」

 血も涙もなく淡々と言われ、俺は操縦権を渡す。慰めの一言くらいあってもいいんじゃね?八つ当たりだが……。

 まぁそうもいってられるような時間はないのは確かで、開始10秒前のアラートが飛んでくる。

「10秒前」

「了解、問題なし」

 今度はこちらが秒読みを始める。

「4・3・2・1」

 0の表示と同時に、さっきと同じようにパネルが立ち上がる。

 ビアンカは撃つ。

「外れ」

 結果を俺は告げる。

「補正開始」

 次のパネルが立ち上がる。

 合わせて次弾が飛ぶ。今度はパネルの端に当たった。

「当たった」

「再補正」

 そこから先、まともにパネルに命中しだした。最後はど真ん中に当てて終了した。

 何が俺と違うのか……。現実は厳しかった。


 サクヤをハンガーに戻し、ビアンカと二人ミーティングに入る。次の射撃訓練までに何が駄目なのか教えてもらうために。

「中島少佐の場合、銃の抑えができていません。反動で弾道がずれてしまっていると思われます」

「そんな、マニュアル通りにしているはずだが」

 射撃訓練にあたって、しっかり予習はしてきた。構えから照準機の扱いまで一通りだ。

「更に、引き金の引き方が乱暴です」

「乱暴?単に引いただけじゃ駄目なのか?」

「その意識が、駄目なのです」

 サクヤを操作するにあたって、単に撃つってイメージだけでは駄目ってことなのか?

「実際に銃を撃ったことはありますか?」

「ない……あ、一回ハンドガンを撃つ機会があったかな」

 一本だたらのときのやつだ。

 学校の授業ではまだ射撃訓練はしていない。体育祭が終わったあたりから、分解清掃だのなんだのの科目があって、実際に撃つのはその後の筈だ。

「そうですか」

「そうなるなぁ。やっぱちゃんと撃った経験がないと、駄目ってことか」

「そうですね」

「まいったなぁ」

 つまり、実際の射撃訓練を受けてない俺はロボテクスを使った射撃訓練をやっても無駄だってことになる。ボロでないようにって考えてた矢先の出来事に凹むこと請け合いだ。

「それではこうしましょう」

 ビアンカは立ち上がり、俺についてくるように促す。

「一体何をするつもりなんだ?」

「ライフルの射撃訓練です」

「いや、まだ順番がきてな……って、もしかして本物の?」

 って、ロボテクスのも本物なんだが、言っているのは人用のってことだろう。

 受付けまで着いていく。


 ビアンカが俺のことについて受付けに向かって告げている。

 受付けの顔がこちらをちらりと覗く。なるほどという感じで話をしていた。

「よぅ、少佐殿。射撃訓練、伏射で全ミスだってな」

 背後から声がかかった。

 振り返ると、東郷少佐と西条大尉の二人であった。

「東郷少佐、あまり大きな声で言うのはやめてください」

「昨日の格闘戦はいい筋だったのに、射撃は駄目なんですね」

 西条大尉が不思議そうな目で問いかけてきた。

「学校ではまだ銃器は扱っていませんので」

「そっかぁ、君ってまだ一年だったっけ」

「えぇ本来ならまだ小型の教習ですよ」

「まっ、君がスーパーマンでないことが解ってほっとしたよ。格闘戦は俺たちといい勝負だったからな」

 東郷少佐が冗談めかしていってくる。

「昨日といってることが違ってるような気がしますが」

「気にするな」

「それで、次の射撃訓練はどうするつもりで?」

 値踏みするかのような視線で西条大尉が聞いてくる。このままだと、只の無駄弾使いで終わるよと暗にいっている。

「それなんですが──」

「手続きが完了しました」

 ビアンカが割って入ってきた。

「と、その娘は誰?」

「第13独立部隊所属のビアンカ・マーチと申します」

 綺麗な敬礼をして、二人の前に立つ。

「あ、ああ、よろしく。俺は第3機動部隊所属、第5突撃部隊長の東郷十三だ。隣は副長の西条信輝」

 そういって東郷少佐は手を伸ばす。

 数瞬遅れて、握手を求めているのだと理解したビアンカは差し出された手を握った。

 その瞬間、少佐のニヤリと口の端がつり上がるのをみた。

 ……が、次の瞬間には驚愕の顔に変わった。

「これが日本式の挨拶ですか?」

 淡々とビアンカがとがめる。

 無理やり握手を引き剥がし、ふーふーと手に向かって吹きつける少佐。

「いやはやびっくりしたよ。ま、おふざけはやめておこう」

「東郷少佐、一体何をしようと…」

 手を伸ばしてきたので、その手を握る。

 その瞬間、なにかヤバイと感じた俺は手を振り払った。

「………なかなか、中島少佐も感が鋭いもんだな」

「そういういたずらは程々にしてください」

 苦言を呈する西条大尉であった。

「まっ、なんだ。少佐たちのことを見くびっている訳ではないが、これも挨拶だ」

「そういう肉体言語系は、勘弁して頂きたいのですが」

「何を言う少佐、しっかり反応できたくせに」

 入学仕立ての頃だと多分、手首を捻られてそのまま抑えられていただろう。ここまでになったのは、まぁ色々だなぁ色々。走馬灯のように起きた出来事が想いおこされた。

「で、手続きってなんだ?」

 話をころっと換えてきた。

「はい、射撃訓練が駄目だったので、生身で先ずは体験しておいたほうがいいだろうと」

「ふむ……なら俺たちの出番はないか」

「それって……」

「気にするな。要らぬお節介だったようだしな」

「気を使ってもらってありがとうございます」

「だから、気にするなって」

「それにしても、ビアンカだっけ?中島少佐の隊ではなく、俺たちの隊にこないか?」

 またまた話しをころっと換えて、今度は堂々と目の前で引き抜きを仕掛けてきた。

「ご遠慮したいと思います」

 返事はにべも無かった。

 自ずと少佐の視線は俺に向く。

「まさか、殿下だけではなく……」

「そういう話しじゃありませんので、勝手な妄想は辞めて頂きたい」

 以前にメイドになるって云われたのを頭の片隅に仕舞い込んで、しれっと返す。

「私はメイドですので、一度決めた主人を替えるつもりはありません」

 って、そばから爆弾発言が炸裂した。

「メイド?主人??」

 二人が俺を凝視してきた。

「なあ、ちょっと、倉庫裏で話そうか」

 胸ぐらを掴まれ脅してくる。

「違います。彼女なりのジョークですからっ」

「冗談?」

 怪訝な声だ。半信半疑といったところか。

「そそ第一、メイドだから、主人替えることはないって、意味が通じてませんよ。やだなー」

 笑って誤魔化す。

「それもそうか」

 うんうん、いいぞいいぞ、信じてくれたようだ。

「冗談でも、嘘でもありません。中島政宗殿はマイロード。尊厳を汚すものには死を」

「……と、いっているようだが」

 息が荒い。なぜここまで鼻息が荒くなるんだよっ。目も血走っている。

 やはり弥生の他に女つくったってところが逆鱗に触れたのだろうか。実際は違うがなっ!

 勘違いしないでほしいが、この状況。狙っていっているだろうこいつ。このドグサレメイドめ、UKの奴らは全員こんな……あっ。

「メアリー辺りにそう言えと吹き込まれたな。白状しろ」

「肯定。姫殿下からは中島政宗少佐を主人とするよう申しつけられております」

 しれっと無表情で回答がきた。

「それでマイロード?茶目っ気ありすぎだろー」

「イエス、ユアハイネス」

「やめいっ」

 思わず胸チョップの突っ込みをいれてしまった。

 ぽよんとした感触が手に伝わった。

「わっすまん」

「いえ、気にしないでください。ユアマジェスティ、存分に好きにして下さって結構ですので」

 一気に血圧が上がった。

「何をメアリーから吹き込まれたのか知らんが、そんなのはメイドとは呼ばない。お前は奴隷か?人形か?違うだろ。大体においてメイドというのはだな──」

「あー、ごほんっごほんっ」

 はっ!思わず熱くなって語り始めようとしてた。錆びた蝶番かなにかのようにギギギと首を回すと、困惑気味の東郷少佐と西条大尉がいた。苦笑いしたその顔、なにか蔑まされた視線が俺を貫く。

「えーとそのですねっ」

「これが若さか」

 言い訳しようとしたが、解ってるふうな感じで呆れられていた。

「検索終了、解りました。こう言わなければならなかったのですね。“えっちなのはいけないと思います!”」

 ………。

 空気を読まず、ビアンカが真顔で告げた。

「あー、中島少佐……なんかのプレイ中なのか?」

「さぁ……自分にも解りません。彼女が何を考えているかなんて」

 何をどうプレイしてんだって。変な噂がたったらどうするんですかっ。

「違いましたか」

 怪訝な顔して聞かれても困ります。

「違いますっ」

「おかしいですね、日本のメイドに求める所作として、身も心も捧げお役に立てるよう粉骨砕身一意専心の──」

「ワーワーワー」

「………何か問題でも?」

 無表情に問いかけてくる。悪気はなさそうなんだが、ここで言うネタではない。

「とりあえず、こんな処で言う台詞ではないな」

「ではいつがよろしいのでしょうか」

 何気に食い下がってくる。相変わらずの無表情で事務的に。

「か……帰ってからな。帰ったら聞くから、それでいいよな」

「了解しました。帰ってからじっくりと中島政宗少佐の真意を聞きます」

 詰め将棋の如く、王手がかけられていく気がした。

「それではライフル射撃の訓練をいたしましょう」

 呆気にとられる二人を置いて、俺は連れ去られた。

 俺に説明(言い訳)をさせる時間をくれ~~~。


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