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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第四章
128/193

それはそれ 06

 はっ、目が覚めた。

 夢だった?あれ、そんなはずは……。

 辺りを見回した。

 ………どこだここ。白い壁白いベッドしろいーーーって病室じゃねーか。

 そして、目の前に俺が寝ていた。

 ここは………、軍の病院か。見覚えがある。なんてったって2カ月近く過ごした場所だ。

 ふむん、こっちが夢?

「夢なら醒めよっ!」

 …………しーん……あれ?

 醒めませんっ!

「いったいどうなって……」

 下を見ると、つるつるのぷらぷらしているものが目に入る。

「Ohーマイサンよ、お前もきていたか~」

 ……自分でいってて情けなくなった。

 要するに裸であった。

 着るもの、着るものっ、どこだ~。

 ベットのシーツをもぎと……れなかった。すかっと手が通りすぎた。

 なんということでしょー。あー、どうすりゃいいんだ。

 呑気にぶらぶらさせている場合でもないしな。

 あれ?以前にも似たようなことなかったけ?

 まぁいい、それよりも、ここは夢の中だと仮定しよう。

 夢の中なら思い通りになるはずだが、シーツは掴めなかった。つまり、シーツのイメージがこの状態から変わることが想像できていないってことか。おそらく?

 なら、普段着ている服を想像しよう。って制服だが、それを着ている自分をイメージする。

 思い出せ~思い出せ~思いだせったら思い出せ~。

 むむむむむむむぅん、目を閉じ一生懸命念じる。

 ………チラッ。

 ふぅ、よかった成功だ。ずっとマッパのままなんて嫌だからな。

「さて、どうしようかというか、どうなるんだ?」

 改めて周りを見回す。

 目の前には寝込んでいる俺。他にはなんの動きもない。寝てる俺も動いちゃいないがな。

 それにしてもぐっすり寝ているなぁ。いたずらしたくなる。

 なるが、触れない。顔に落書きでもって俺が俺になにすんじゃい。独りでボケて、独りで突っ込んで……ヒューと木枯らしが吹き抜けて云った。

 はぁこれが、美少女なら……。あんなことやこんなことを……って触れないから何にもできないって。

 以下ループ。

「中島政宗少佐よ、見ていて飽きぬがそろそろ気付いて欲しいかな」

 声がした。ドゥルガー……いや名無しだ。

「どこだ?」

 周りを見回すが、姿は見えず……。

「ここだ。上をみよ」

 言われ頭をあげた。ってー、目の前に飛び込んできたのは、全裸だった。

「うわっ、はっ裸っぁぁぁ、ぁぁってあれ?」

 それは人型をした肌色だった。ノッペラで凹凸もなければ、陰影もない。ただ、顔の部分だけが普通だった。

 その顔を見ると、額に目がついていた。

「ドゥル……この場合、名無しでいいのか?」

「いかにも、中島政宗少佐」

「そのだな、その呼び方はやめてくれないか。こそばゆい」

「お前の名前なのであろう?」

「そうなんだが、フルネームに敬称付きで呼ばれるのはなー。中島でいいよ。あとその姿はなんとかならんか?」

「この姿はここで行動するのに最適化しておる。最小限の自我枠だ。これ以上の情報を詰め込むと、世界構築に支障がでる。なので無理だ」

「そうでっか」

 できないのならしょうがない。堪能しようと……ってできるかーー。流石に絵としても駄目だ。抽象的過ぎて難易度が高すぎる。……ってなんの話だよ、俺っ。

「中島、まっことお前は奇才の持ち主だな。我が輩の世界に入り込んでくるとは思ってもいなかった。違うか、我が輩の考慮が足りぬということか」

「名無しの世界に入り込む?」

「来たからにはしょうがない、説明してやる。ここは中島の記憶を元に我が輩が作り出した仮想世界よ」

「……はぁ???」

 こいつ、俺の記憶をどうしようってんだ?

「我が輩はいったよな。中島に聞きたいことがあると」

「それがこれ?」

「そうだな。直接聞いたところで、お前は憶えておるまい。それに嘘をつかれる可能性もある、思い違いもあるだろう」

「だから直接俺の記憶を探っていると?」

「そのとおりだ」

 型抜きしたような肌色の身体の上に乗る頭から声が発せられると、えもいわれない違和感が背筋を走る。

「だから邪魔をしないように。どうなるか解らないから」

「名無しが支配する空間でそんなことが?」

「中島がおるからな。ここはお前の記憶を元に構成している空間だ。無我の領域であれば、こちらも拾うだけだが、観察者としてお前がいる。我が輩が構築した記憶、中島が見ることで記憶の齟齬がおきれば土台が揺らぐ。普通は記憶の補完となるはずだが、何事にも例外はある。そして、中島よ。お前は例外を引き起こしやすい、心しよ」

「そんな人を疫病神みたいないいかた……」

「本来ならここにはいない筈なのに入ってきていること自体例外なのだぞ」

 睨まれた。

「おそらく、中島がもつ他人のフォースパワーを合わせる能力のせいなのだろう。無意識でもやってのけるとは想定外だったわ」

「……なんか悪かったな」

「まあよい。それにお前がいることで、記憶の補完になるといった。連れ回す理由はあるな」

「それで一体何を調べるんだ。プライベートなのはお断りにしたいんだが」

「うだうだぬかすな。中島がトイレでこそこそやろうとして邪魔が入ったことや、風呂で処理していたことなぞ、我が輩の目的ではない」

 どっごーーーん。やめて下さい見ないでっ調べないでぇ~~。

「ええいっ黄昏ている暇などない。ほらっ手を繋げ。はぐれると探すのが面倒だ、ついてこい」

 差し出された手を握った。

 握ると、それは普通の手である。相変わらず陰影のない肌色一色ではあるが……。もみもみ、すりすり。すべすべして、柔らかかった。もういっか──あごっ。

 名無しの開いている方の手で殴られた。

「邪魔をするなら消すぞ」

「ごめんなさい、もうしません」

「それにしても中島よ」

「ん?」

「よくこの世界で自己を保っておられるのだな。普通は形を保てず、よくて人型をした軟体動物のようなものなのに」

「そうなのか」

「普通はな」

 頷く名無し。

 これは、俺が普通でないということか?でもFPPなんてCだよC!こないだまでDだったんだぜ。そんなことなのに、どうして……だから普通ではないということなのか。

「云っておくが、フォースパワーとは関係ないぞ。お前の自己認識力の問題だ。なぜここまではっきりとした形になっているのか、これもまた謎だな。探ってみる一つになろう」


 舞台は病室から、闘技場へと変わっていた。

「これは決勝戦か」

 中身がサクヤ対抗機の外面12式との戦いだ。あの時、インチキされてたんだよな。いっくらダメージあたえても最後の1ドットが削れなかった。まったくもっていやらしい。

 サクヤが黒い12式を殴っている。しかし効いた様子はない。

 そうこうしていると黒い12式がサクヤの拳を噛む。

 噛み砕かれる前にサクヤはナックルガードをパージ、間一髪逃れた。

 そうだ、俺はあの時こんな戦いかたをしていたんだったな。

 ククリを抜き放ち、切りかかるが、過去の記憶通り効いてはいない。

「シャシャシャシャー」

 黒い12式の笑い声。今聞いても癇に触る。あのとき俺は何をしたっけ。

 そう、A.Iを起動したんだったな。

 その後の記憶が曖昧でよく思い出せないんだった。もしかして、これで何が起きたかを知ることができる! ?

 が、その期待は露に消えた。空間のいたるところにノイズが走り、見ていられなくなった。

「名無し、どういうことだ?」

「中島の記憶を元に再現しているのだ。お前の記憶がなければ、再現なぞできようもあるまい」

 そうだった。

 俺はあの時……何かを感じ……駄目だ、思い出せない。

「人の容量では受信しきれぬ情報圧にでも曝されたのかもしれないな」

「そんなことがあるのか」

「おそらく、これは精神世界で戦っているのだろう。だから物理世界であるこっちでは記憶が保てない。中島が人外であれば、もっと正確な情報が拾えたかもしれんが残念だ」

 俺は精神世界で戦った?言われればそんな気がしないでもない。だが、それ以上の記憶は掘り起こせなかった。

「次にいこう」


 場面は変わる。

 狼女に襲われるシーン。

 千歳に襲われるシーン。

 エリザベスが操るアスカロンに襲われるシーン。

 なんだか襲われてばかりだな。

 順々に過去へと遡っていく。

 アホ船との入学式後の喧嘩シーン。なんだかついこの間のことなのに懐かしさを感じた。

「なんともはや、よく生きているな中島は」

「………まぁ自分でもそう思う。ギリギリのところでなんとか回避しているって感じだよな」

「だが、出来すぎておる。何か意図があるやもしれぬ」

「え?襲ってきたやつって手加減してくれてないぞ」

「そういう意味ではない。まあ推測だ、確証はない。次にいこう」


 その後中学時代の俺、孤児だった俺への軋轢が赤裸々の元に曝された。今更この過去を思い出したくもない。怒りと後悔がない交ぜになる。

「中島、落ち着け。心が乱れてきておる。お前が安定せぬと、空間の維持に支障がおこる」

「………すまん」

 深呼吸を数回行い、気を落ち着ける。

「おしっ、大丈夫だ」

「そうか、なら更に記憶を探ろう」

「なぁ、なんで俺の過去を探ろうとしたんだ?」

 今更ながらの質問ではある。

「今の中島を創っている核たる部分を探しているのよ。それが解れば、我が輩のお前への態度も固まる」

 核たる部分ねぇ、よーわからんわ。そんなことのためにこんなことをしているのか。

「解せぬ……」

「何がだ?」

「これ以上進んだところで、見えるのは未熟な精神を持った過去だ。それなのに、今まで核となる部分の手がかりさえでてこなかった」

 今は中学入学辺りだ。

 小学生の過去なんて俺自身も忘れてかけている。俺自身の核となる出来事なんて、そんな大層な事件があったかどうかなんて………あった。

「どうした、中島よ」

「ある。一つだけ心当たりが……」

「それが、お前の生き方を決めた事件か」

「おそらくそうだろう。だが、殆ど憶えていない。熱かったのと苦しかったのと……ぐっ」

 急に目眩がした。

 なんだかどんどん世界が回る。

「しまった。中島のフォースパワーが尽きかけてきている」

「どういう?」

「質問は後にしろ、我が輩の手を離すなよ」

 急速に指先の感覚が無くなっていくのを感じる。

「あ、ぐ……」

 なけなしの意識を振り絞って、手を握りしめる。

「世話の焼けるやつだ。ここで落ちられては我が輩も困るからな」

 指先から何かが流れてくる感覚がやってきた。

 あぁこれは知っている、フォースパワーだ。名無しから流れ来るフォースパワーで俺はひとごこちつけた。

「その姿のままでいられては、我が輩も疲れるゆえ加工するが、抵抗するなよ」

 言われるままに従う。

 っておいー、裸っ!ハダカっ!!肌がーハダガー!!!

「騒ぐな。抵抗するなと云っただろう」

「いやしかしっ」

「抵抗するなと何度も云わせるな」

 鬼気迫る物言いに黙る。

 渋々抵抗をやめた。

「そうだ、それでよい」

 名無しの意志に従って身体が変わっていく。みるみる凹凸が無くなり、名無しと同じような姿に様変わりした。

「まったく、余計な抵抗をするから無駄に力を使ったではないか」

 叱責がとぶ。

「すまん」

「まあ、よい。先に……過去へ進むぞ。意識をはっきりと保っておけよ」

「……解った」

 正直これ以上は付き合いたくない。なんせ、両親を失った事故をもう一度みることになるだろうから。出来ればあのことには触れたくはないのだが……、俺自身の核というものに興味はある。

 いや、少し違うか、興味を持たれるほどの核とはなんのことか。人外を引き寄せるようなモノが何なのかを知りたいのだ。本当にそんなモノが俺にあるのだろうか。

 一度大きく息を吐き吸う。

 意を決し、俺と名無しは再び俺の更なる過去へと踏み込んでいった。


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