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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第四章
127/193

それはそれ 05

 掴まれていた手を摩りつつ、前田はあぐらをかいて座る。俺にも座れと指を差す。

 それに従って黙って座った。

 北条も前田の横に付き添って座る。

「改めて聞きてぇことがある」

「なんだ?」

「お前は、俺たちのことをどうみてんだ?」

 真剣な目で俺を見つめる。

「クラスメートだろ?」

「………それだけか?」

「まぁ、隊の部下って話しも無きにしも非ずだが、今は関係ないしな。それがどうした?」

 まじまじと俺を再度見つめてくる。

「人外だぜ?恐怖を感じねぇのか?いや、それもそうだが、隊長なんだろ?もっと威圧的に命令するとかなんかあるだろ?」

「隊長権限でどうこうする気はないと云ったぞ。それに恐怖?まぁ他人の考えることなんて解らんから怖いのは確かだが、そんなん人とか人外とか関係ないだろ?暴力に訴えられるのは勘弁して欲しいが」

「そうそこだっ」

 指差して俺を問い詰める。

「何がだ?」

「人外の暴力だ。人間なんか一発でおしゃかだ。なぜ平然としてられる?泣き叫んで命乞いしないんだ」

「それこそ今更な話だな。泣き叫んでもお前たちは意に介さないだろうに」

「……それもそうだな。いや、だからといって…」

 言葉がつまった。何かいいたいようだが出てこないようだ。

「自分、守られているからと、そんな態度なん?」

 横合いから北条が割って入ってきた。

「守られる?誰にだ」

 目線が背後を差す。

 振り返ると、ジャネットが立っていた。その更に奥には千歳と弥生とあずさんが机に座っているのが見えた。あっちはこちらを気にかけてる風には見えず、平常運転のようだった。別の机にはメアリーとそのお付きのメイドたち、こちらも気にかけているようには見えない。天目先生も意に介した様には見えなかった。

 周りも遠巻きにしてこちらを伺う部員たち、まぁ寮生だが。

 源と間部はニヤニヤしながら観ていた。視線が合うと、知りませ~んという感じに視線を逸らせた。

「ジャネットさん、そんなに殺気だたなくていいから」

 無言で横にやってきて、座った。視線の先は前田へと向けられている。

 聞いちゃいないようである。心の中で溜め息一つ。

「えーと、その、なんだ……気持ちとしては守られるより、守るつもりでいるんだが」

 呆気にとられる北条と前田の2人。そこからなんとも表現しがたい表情に変わっていく。

「お前……馬鹿だろ」

 断言するのは前田。

「馬鹿というやつが馬鹿なんだぜ」

 咄嗟に言い返す。

 視線と視線がぶつかる。

「やめいっ」

 ぺしっと北条が前田の後頭部を平手打ちした。

「ってーな、なにしやがる」

 がるる~と威嚇するが、北条は気にした風もない。

「いらんことをいいいなさんな」

「ちっ」

 しばしの睨み合いの後、前田はそっぽを向いた。

「それで、言いたいことは理解してくれました?」

 北条が再度、こちらに問うてくる。

「まぁ……なんとなく」

 態々危ないことをするなという警告なんだろうな。俺だって踏み込みたくはない。ないが……。

「では、これで」

 そういって立ち上がろうとする。

「でも、まぁ約束は守ってね」

 底冷えのする視線が俺を射抜く。

 だがしかしっ、俺は笑顔で見つめ返す。

「……了解……した…………にゃん」

「前田さんは?」

 周りの視線が前田に集まるのを感じた。

「代わりに身体で払うのはどう──へぶっ」

 容赦のない一撃が俺の背後から頭上を飛び越えて突き刺さった。

 いわずものがな、その正体は千歳である。

「今なんと云ったのじゃ。よく聞こえなんだ、もう一度云ってみるがよい」

 足元に敷いた前田に向かって告げる。

 頭を踵でグリグリと踏みつけていた。

「姫さんやりすぎですぜ」

 源が止めに入ろうとするが、一睨みされて蛇に睨まれた蛙のように固まる。

 はぁ……もう色々と台無しだ。

「やめなさい」

 両脇に手を差し込んで持ち上げる。

「主よ停めるな、こやつの息の根を止めさせてくれ」

「駄目です」

「じゃがっ」

「千歳ハウスッ」

 反論を言わせず、降ろした千歳に向かって元いた机を指差して命令する。

 なおも文句を言いたげそうな顔をしている。

「後で飴ちゃんやるから、今は大人しくしててくれ」

「飴なんかいらぬわっ、子供扱いするでないのじゃ、くれるなら、か──」

 それ以上は言えなかった。音もなく近づいてきた弥生に首根っこを掴まれ、机に連れ戻されて行った。

 前田を見る。

 顔を上げたら、鼻から血が滴っていた。

「大丈夫か?」

 ハンカチを取り出し鼻血を拭いてやる。意識が朦朧としているのか、抵抗はされなかった。

「痛みはあるか?これ何本に見える?」

 目の前に指を3本立てて聞く。

「3本、これしきのこと大丈夫だ」

「大丈夫ついでに、約束のことも忘れるなよ」

「意外としつこいんだな」

「ぴょん」

「…………ぴょん」

「よろしい」

「あ゛あ゛あ゛~~~、死ぬー恥ずかし過ぎて死ぬー死ぬ死ぬ死ぬー」

 悶え苦しむ前田であった。

「大丈夫だ、こんなことくらいで死なない」

 まじまじと見つめられた。

「とりあえず、部屋に戻って休んでろ。同室のやつ付き添ってやってくれ。様子がおかしければいつでも構わんから言いにこい」

 同室のやつは、北条と結城だった。前田は結城に連れられ部屋を後にした。

 その後、部活はまともに活動できる状態ではなく、頃合いを見計らって解散となった。


 夕飯喰って風呂入って宿題やって……、寝るまでの時間が空いた。

 どうすっかな。

 ………散歩にでもいくか。

 階下に降りると、ひと気はなかった。

 いつもなら、多少はいて何かしてるんだが、今日のアレの性で出てきてないようだ。千歳に絡まれるのは皆いやだろうし。飯のときも荒れていたからなぁ。色々いいきかせはしたが、むくれられるととりつくしまがない。どうしたもんか……仲良くやってくれればいいんだけどなぁ。

 外にでるのも、千歳の機嫌が悪いからだ。

 機嫌が悪いと、まぁなんだ、俺に引っつこうとする。すると、あずさんから冷たい視線を浴びせられるし、弥生の様子もおかしくなる。微妙なバランスが崩れてしまっては俺の精神がもたなくなる。特に胃とかがなっ。

 要するに、消灯時間ギリまで粘ってから床に入る算段である。

 その間に頭を冷やしてくれればとの期待も……とりあえずはあった。

 俺自身も多少は熱くなってたからな、頭を冷やすにも丁度よい。

 外に出る。

 9月も半ばを過ぎると、夜風も多少は涼しさを感じるが、動けば程よい位か。

 外灯のほのかな灯が夜道を照している。

 どこへ行くか……ふむん。

 ってまぁ決まってる、頭を冷やすためにも賢者モードに入るのがいいでせうー。

 寮内だと人の目があるからな。特にあずさんやあずさんやあずさんの。隠しても絶対見つけられる。全くもって嫌な特技をもってやがる。

 お宝の隠し場所へ向かって歩みを進めた。


 ここへきた初日、迷い込んだ池の反対側にある岩の裏はちょっとした空洞がある。

 人一人が入れるくらいの穴だ。

 隠し場所を探して彷徨った結果の発見である。

 流石にここが見つかることはないだろう。いそいそとその場所へ向かう。

 月が出ていた。

 満月だ。雲も無く、月の明かりだけでも結構路が見える。

 池のほとりに辿り着いた。裏側に回って岩の……岩の上に人がいた。

「誰?」

 小柄な女の子のようだ。

 一瞬、千歳かと思ったが、シルエット的にそれではなかった。あるはずのでっぱりがないのだ。

「初めましてというべきか、中島政宗少佐」

 向うは俺を知っている?それで初めてだと、いやその声には覚えがある。

「ドゥルガーさんなのか?」

「今はドゥルガーではない。名も無き人外よ」

「どういうことだ?」

 近寄ろうと足を進める。

「止まれ、近寄ることを禁ず」

 踏み出した足が固まった。前に踏み込めない。

 足を降ろすことはできる。だが前に進むことができなかった。

「おい、いったい何をした?」

「中島政宗少佐に近寄られる訳にはいかんから、ちょっとした術をかけさせてもらったまでよ」

「はぁ?」

「近寄られるのは危険だといった。拘束しないだけの温情はあるつもりだが」

「近寄るとどうなるってんだ?」

「中島政宗少佐を殺してしまうことになる」

 いきなりなものいいだ。つか、なぜ俺がここにくるのを知っていたんだ。来るのを決めたのは出かけるときだ。目的が目的だけに、誰にも喋ってないしな。

 ……あの岩の下に俺のお宝が…。くそっどうしてこうなるんだ。

「中島政宗少佐の疑問には答えてやりたいところだが、こちらは手札は見せる気はない」

 今、俺の考えを読んだ?さとりとかの系統なのか。

「この下のお宝など、気にしておらぬしどうこうするつもりはないから安心しろ」

 ひょ~~~~!!!一瞬にして血の気が下がった。

 ドゥルガーの姿をした名無しの口の端がつり上がったのを見た。

「まあ、戯れ言はよい。中島政宗少佐には聞きたいことがあったゆえ、ここで待っておったのよ」

「聞きたいこと?こんなことしなくても、普通に話しかけてくれればいいのに」

「中島政宗少佐の周りは強固な守りがあるのでな、近づきたくはないな」

「強固な守りねぇ……」

 弥生、千歳、ジャネット、ついでにあずさんが大抵近くにいる状況ならそうともいえるか。

「それに、こちらを人に見せるのは極力避けたい。なので、誰にも云ってくれるなよ」

「それはいいんだが、聞きたいことってなんだ?」

 彼女を見上げる。陰に隠れて表情が読めない。

 ……おかしい、月明かり、さらに池の反射もある薄暗いといっても、完全に見えないなんてことはないはずだ。こういうときは、アレだ!

 フォースパワーだ。

 呼吸に合わせて流れを呼び、視力に注ぎ込む。

「ふむ、この術を破るつもりか。なかなかに大胆ではある」

「やっぱり、その姿は見せたくないのか、見せたくないならいってくれ。やめるぞ」

「この程度の術を破れるようであれば、取るに足りぬ存在よ」

 やってみろということか。

 目一杯フォースパワーを目へと注ぎ込む。明るくなった。それでも見通せない。更にフォースパワーを注ぐ。幾何学模様が現れた。さて、ここから先ってどうなるんだ、ここまでは体験してはいるが、その先は知らない。そもそも先があるのかどうか解っていない。

 無秩序に散らばる幾何学模様の先……、フォースパワーをつぎ込むと、結晶化していく。それとともに、格子状に再構築され、フレーム状の景色へと変わった。それでも彼女は黒いままだ。

 いや、もやもやしていたものが、のっぺりとした黒く塗りつぶされたものに変わって見える。

「おしいな、中島政宗少佐。その見ているものは影よ。見るべきところが違うぞ」

 影?いやそれよりも。

「そんなアドバイスいってくれるのか。そのまま勘違いさせておいたほうが、君にとって好都合だったんじゃないのか」

「そうだの、それはそれ、クラスメートが頑張っているのだ。多少のヒントくらいはやらんとな」

 優しいこった。

 ではどこにいる?あれは影だといった。影と本体を入れ換えている?ならばいる場所は……。

 空を見る月が赤々と輝いてる。月の光、伸びる影。ならその先に。視線をいるはずのところへ向けた。

 影だと思っていたのが色彩を放つ。岩の影に潜んでいたのを発見した。

 彼女を見つめる……なっ!?

「三つ目?」


 額に目があった。三つの目がこちらを見据えている。

「やはり、中島政宗少佐には素養があるようだ」

「素養?」

 なんのだ??ヒントをもらって漸く見つけることができたんだが……。

「まあよい、人外に囲まれていて、その程度ができぬようではこの先無理だからの」

 俺は何かを試されている?

「では、ここから本題だ」

「その前に、俺のことをどうするつもりなんだ?聞いてばかりじゃなくこっちの質問にも答えて欲しいところだな」

「今のところ、どうこうするつもりはない。これはこちらが学校生活を過ごすための確認よ。野獣が口を開けている横で寝るようなまねは自殺行為だからな」

「え?俺ってそんな風に思われていたのか?」

 心外であるっ。紳士ですよ紳士っ、物事には真摯に取り組んでますよっ、ホントだよっ。

 大体野獣だったら、こんなところにこないで、あんなことやこんなことをやってますってば。

「ほぅ、お宝を燃やしたくなる気分にさせてくれるとはな」

「ぎゃぁぁぁ、ごめんなさい、お願いします、ご勘弁を」

 へこへこと思わず土下座して謝った。

「……どうにも調子が狂う。こちらは脅しているのだぞ?普通なら反撃してくるだろうに」

「え?いやいやそんなことはない」

 顔を上げて、手を振ってナイナイと仕種する。

「まあ、それはよいか。本題に入らさせてもらう」

「何を聞きたいんだ?俺は別にどこにでもいる普通の高校生だが」

 じと目で睨まれた。

「言いたいことは解る。でも、俺だってこんな異常な状況になっていること自体が不思議なんだぜ。そもそも馬鹿船が絡んでこなければ、普通に高校生活を送ってたはずだからな」

「黙って我が輩の目を見ろ」

 目ってどれだ。三つもあればってこの場合、額の目の事をいってんだろうな。これから何をしようというんだ。

 三つめの目を見つめる。金色に輝く瞳。

 瞳が揺れる。ゆらゆらと。黄がねに吸い込まれそうな……なんだかふわふわした感覚が襲ってきた。

「中島政宗少佐、少しは警戒心を持とうな」

 その声と共に意識が途切れた。


お知らせ:第一章オープニング変更しました。

以前のはMan-Machineに突っ込みました。

M-Mをとても直したくなった。

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