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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第四章
124/193

それはそれ 02

 学校っていいなー。

 解放された気分に………ならないね、うん。

 寮の面子がほとんどのクラスじゃぁね…。

 唯一の救いは、授業中はみんな真面目に受けているってことだ。人外ではあっても外道ではないということか。

 そこまで言う必要もないけど、もうちょっと不真面目な態度でいるもんかと思ってた。

 まぁ、そんな態度とった暁には、六道先生の指導という名の鉄拳が待っているだけだけどな。

 結果につながっているかはあずかり知らぬが、一番の平穏な時間が授業中ってのはなんともかんとも。


 そんな思ったことを昼休み、メアリーも同席しだした昼食時に聞いてみた。

 今日は瑠璃先輩と美帆副会長はいない。向うは向こうで色々と用事があるようだ。

「そっちの方は知りませんが、集められた皆さんは将来がかかってますからね」

「将来?」

「この国で自由に生きていくか、自国に戻るかですわ。その為にここを卒業する必要があります。退学処分で放校されたなんてことになるとどうなるかは…」

「まさか、死刑?」

「そこまではしません」

 流石にそれはないか。

「ですが、待遇という面を考えれば、ここが一番です。機会は平等に掴むは自身で、です。わたくしは違いますけどね」

 確かに、真面目にやってれば、卒業するだけなら簡単だ。別にその中の一人だけって訳でもない。手をつなぐ必要はないが、協力すればさらにたやすくなる。

 まぁその話は、以前理事長からも聞かされたが、本人たちの口から聞くのとでは重みが違っていた。

 それと、彼女たちは今までまともな教育を受けて来なかったともいってたし、真面目に受ける理由はあるということか。物珍しさだけで、飽きなければだけど。

「真面目にやってくれれば、俺としても問題はないな」

 言うこと効かせるため、殴って夕日に向かって走るような展開だけは勘弁だ。返り討ちになるのは確定事項である。

「お蔭で、源たちも真面目に受けておる。対抗意識を燃やすのはいいが、妾は退屈じゃ」

 千歳がさも残念そうに呟いた。

「なんだそりゃ」

「負けず嫌いじゃからの。明確な競争相手ができて、下に置かれるのは勘弁じゃいうことだ」

 さすが人外、直球だ。

 だが退屈ってどういうことだ。暴れたいのかお前は。

「いいじゃん、騒ぎが起きなくて。それに千歳の場合、平坂がいるだろ。今日もまた吹っ飛ばしてたよな」

 あまりな扱いではあるが、奴に関しては自業自得である。擁護はしない。たまに理不尽にぶっ飛ばされてもいるが、いいんじゃなかろうか。

「あやつな……最近耐性ができてきたのか、直ぐに立ち直りよる。それに本気でやってないから欲求不満じゃ」

 お前はどうしたいんだ!級友を。

 にしても、耐性ができてきたって……本気では無いにしても普通の人間の威力ではない。あぁ平坂よ、お前は人外への路を順調に進んでいるのな。頼もしいこって。


「おっいたいた。大将ー」

 大声が食堂に響く。

 ずかずかとやってきたのはマルヤム。その後にカナンが連なってやってきた。

「食堂ではお静かに」

「んーあーすまんすまん」

 おざなりにあやまられた。視界の端に映る上級生含む人々からの視線が痛い。

「ちょっと話が合ってな」

 背後の椅子をぶんどり、俺と弥生の間に強引に割り込む。

 カナンが申し訳なさそうに立っているので、適当な場所にと座るように促した。

「で、話しってなんだ?」

「それなんだがよー、おっ美味そうだな頂きっ」

 素早く俺の昼飯のおかずである豚カツを一切れ口に放り込む。

 殴ったろかこいつは……。

「行儀が悪いですわよ」

 メアリーが即座に注意する。

「わりーわりー、目についちまってな。美味そうだったから。いや、美味かった」

 悪びれなくあやまって……ないな。

「ただなんだから自分で取ってきて食えよ」

「気にすんなって。ほらあれだ、人のものはうまそーだってやつ」

 がははと俺の肩に腕を廻し豪快に笑う。

 それを言うなら、隣の芝生は青いだ。

「そうか、それならほらどうだ、喰わせてやる。はい、あーん」

 照れやがれ!恥ずかしがれっ!醜態を晒やがれっ!

 箸で豚カツを一切れとってマルヤムの目の前に差し出す。

「おっサンキュー」

 かぶりつきやがった!!!

「主よっ!」

 瞬間沸騰で俺を批難してきた。千歳以外の面々も唖然としていた。

「いや、済まん。まさかこんなことになるなんて」

 さすが人外、普通の感覚ではない。恐れ入った。

「ほりゃ、はにいって」

「喰ってから喋れ」

「何を言ってやがるんだ?」

「みんなお前の大胆さに度肝を抜かれたんだよ」

 そうかそうかと大笑いをするマルヤムであった。こいつマジで気がついてないようだ。

「それはそうと、いつまで抱きついている気だ。そろそろ苦しい」

 筋肉質で重量感のある腕だ。女の子に抱きつかれている感覚は全くなし。

「はっいいじゃんいいじゃん、お前だって俺に抱きついたくせに、今更そんなことをいうなって」

 フレンドリーに肩をバンバンと叩かれる。

「それで、話なんだがよー」

 乾いた音がした。何かが折れる音だ。

 その元はどこだと視線を巡らせば……、弥生の箸だった。見事に真っ二つ、この場合四つか?無残な姿を晒している。

「いかんな、最近の箸は脆くて困る」

 プラスチック製で、そんな気軽に折れるような脆いもんじゃない。なにより、弥生が怒っていることに俺は戦慄した。静かにだが、確実に鶏冠に来てそうですはい。

「女の子なんだから、少しは慎みを持ちなさい」

 むりくり腕を引き剥がす。

 そのときちらりと見えた千歳も暴発寸前だ。

 これ以上、引っつかれては何が起きるかわからない。主に俺に。身の危険を感じ、椅子を動かし距離をとる。

「で、なんだよ話って」

 とっとと話を済ませてしまおうとマルヤムに話しかける。

「………どうした?」

 何故か微妙に震えている……というか、あわあわしているといった風情だ。

 目と目があった。

 浅黒い肌でもそれと解るほど真っ赤になった。

「女の子?女の子だと??」

 なにを言っているのだ?

「どう見ても女だろ?」

 よくわからんが、答えてやる。

 マルヤムの視線が泳ぐ、あっちいってこっちいって……。いきなりな挙動不審者に早変わり。

「わーーーっ!!!」

 突然大声を放ち、顔を両手で覆い隠し食堂の外へ重戦車の如く駆け出して消えていった。

「どうしたんだ突然……」

「ガキじゃな」

 千歳が溜め息まじりに呟いた。

 見るとメアリーも同じように溜め息を吐いていた。

「一体何をしたかったんだ……」

「それで、話しとはなんだ?時間もなくなってきている。そろそろ本題に入ってくれ」

 弥生がカナンの方を見て問いかけた。

 マルヤムが出ていった入り口を唖然と眺めていたカナンは視線を戻してこちらを一望する。

「それはですね、部活のことなのです」

「何か問題でもおきたか?」

 カナンは日本文化研究部の部長である。その補佐をする立場に俺はいる。思い起こせば……ってほど昔ではなく先週のことだ。色々ありました色々とっ。

「先週やっただけなんですが、あのひらがなというのが、皆苦戦してまして。天目先生の指導でなんとかやれていますが、どうにも皆さん字が下手くそで、このままでは士気に係わりそうかと」

 数秒思考が固まった。ひらがなが難しいだって?まさかそんな……一番簡単なんじゃないのか?

「ひらがなが難しいとなると、どうすべきなんだ?いや、そのまえに何故難しいということになったんだ?」

「字がくねくねしてて、思ったように書けないのです」

 くねくね?うーん、外国からの視点だとそういう風に映るのか。でもどうすりゃいいんだ?基礎の基礎だぞこれは。

 それとも、カルタを取られた数だけ“永”を延々と書かせるか?とめ・はね・はらいに縦横画・おれの要素が入った、日本語を書く上での要素が詰まっている文字だ。

 やると非常につまんねーけどな。

 それでもだめなら、線を引かせるってのもあるか。太く細く一本の線、拡げつつ狭めつつ三角を形作るように横線をかいてくやつ。均一に書いたり、均等に拡大縮小しつつ書くのは……ってこれは書道での話だな。文字を憶える練習にはならないか。うーむぅ。

「ならば、カタカナがよかろう」

 進言してきたのは弥生だった。

「カタカナ?そっちのほうが難しくないのか?カタカナなんて外国語を日本式の発音にしたものを書くくらいで、用途としてはそんな多岐にわたった使い方をしないよなぁ」

「カタカナですか」

 カナンが思案げに頭を捻る。

「その理由は?」

 どういう目算なのかと聞く。

「カナはくねくねなどせぬからな。縦横払い跳ね折れの組み合わせだ半濁音以外で丸は書かないだろうし、最初に憶えさせるなら丁度よいはずだ」

 アイウエオカキクケコサシスセソタチツテトナニヌケノマミムメモヤユヨラリルレロワヲン。

「確かに」

 頭の中で文字を思い浮かべ頷いた。ヱヰにしたってくねくとした文字ではない。

「それじゃ、今日は手本の変更といこうか。用事が終わったら作りにいくよ」

「それと、慣れてきたころには漢字を交えて、ひらがなを習得させた方がはやいだろう」

 これまた弥生が提案してきた。

「漢字って、そんなの早くないか?小学生のころの教材ってもってないしな何から始めればいいんだ」

「なに、カタカナの元になった漢字を教えるのだ。それに合わせてひらがなを示せば、どういった流れで文字ができたのか知ることになろう。単に書くだけよりは、興味がそそられると思うぞ」

「凄い、よく思いついたな」

 思わず弥生の手をとって称賛を現す。

「なにこの程度のこと、別に褒められる程のものでもない」

 横向くが、頬がほんのり紅くなっているのは見逃さなかった。

「ならば、妾からも提案じゃ」

 負けじと千歳も言ってきた。

「いろは唄はどうじゃ?曲に併せて書けば憶えやすいのじゃ」

 頭を撫でてやった。えらいぞっ!

「………妾は頭か」

 小さく不平が零れた。

「相談しにきた甲斐がありました。皇様、柊様、今度また何かあったときはよろしくお願いなのです」

 そういって、立ち上がると足早に去っていった。

 あれ?俺は??俺には何の一言もないんですかー、ねー???

 ちょっとそこ、メアリーとジャネット2人して笑うなよなー。

 特に言及することもないが、あずさんは無表情でした。ついでにメアリーにお付きの4人のメイドも無表情でした!

 なんだろう、このやるせなさ。背中が煤けているぜ。


「そうだ、忘れるところだった。昨日はあの後どうなったんだ?サクヤはどこに行ったんだ」

「わたくしの機体と共にハンガーに並んでいますよ」

「わたくしの?」

「アスカロンのことですわ」

「あれって、いつメアリーのものになったんだ……」

「昨日です」

 いいのか皇軍。適当すぎるぞ。

「心配なされなくてもいいですわよ。皇軍へと渡されたものを皇軍である私が使うのですから」

 テーブルを乗り出し顔を近づけてきて、ひそひそと告げてきた。流石に食堂で“皇軍である”とは言えないのだろう。

「いや、それ……ん?いいのか?」

 ひそひそと。

「元々の目的である技術調査は終わったので、倉庫に置いておくよりはと、小早川大尉が申しておりました」

 うーん……なんとも判断に困る。

 深く考えたところで事実は変わらんか。

「ま、それならそれでいいか」

 懸念終了。

 とりあえず、授業終わったら、ハンガーにでも行って様子を見てくるとしよう。


10万PVいきました。

皆さんアリガトー\(^o^)/


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