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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第四章
123/193

それはそれ 01

それはそれ


 今!俺は!!モーレツに!!!正座させられ、説教されていた。

 理不尽だー。ちゃぶ台を返したい。

 寮の自室、リビングルームで食卓を挟んで正面にあずさん、左右に千歳と弥生が鎮座ましまししている。

「政宗はどこまで節操無しなんですか」

 きつい叱咤があずさんの口から出る。

「誤解の無いように云っておくが、便宜上なだけだぞ。向うに帰りづらければこっちに残る理由をですね──」

「言質を取られたのが不味いといっているですっ」

 バシンと食卓を叩く音が快活に響く。その音には完全に俺の身を竦ませる効果があった。

「言質ってそんな大層な…」

 バシンッ。

「解っていません。向うが単に言い寄るだけならまだ知らぬ存ぜぬが通じますが、こちらが了承すればそれは契約と同じ効果を生みます。その意味が解りますか?」

 目を釣り上げて激しく詰問してくる。

 契約ってそんなねぇ……、履行しなければ莫大な違約金を払うとか?逆さに振っても出ませんよ。出るとしたら鼻血くらいなもんだ。

「俺が何か支払うようなことになるなんて、向うも無理だって解ってるだろーに」

 バシンッ。

「政宗にはなくとも、請求されます。殿下に」

「はぁ???」

「日本の婚姻制度を考えなさい。離婚の場合どういう法律になっているかを」

「しらんがな……。高校生の俺にそんなん解る訳ないやろ。第一、結婚してねーぞ」

 苦虫を噛みつぶしたような皺の深い渋面をされた。

「妾も知らぬぞ」

 最初は激昂していたのに、ひとしきり言うだけいうとケロッと平常に戻っている千歳も同じようだ。

 逆にあずさんの鬼の態度を見て引き気味である。

「いいですか、一夫多妻制度を悪用しないため、別れる際の法律は別れる側に有利とされています。先ず、財産権、全員の総資産を均等に割ったものが相手に与えられますが、それも理由によってその割合は変わります。今の状況にあてはめると、私、殿下、柊、東雲、中江を加えた総資産からになります」

「はっ?その理屈はおかしくね?」

「おかしくありません。婚約の状態まで来ているということで、みなし結婚となっています」

「無茶苦茶だ」

「無茶でもなんでもありません。常識ですっ」

 革命だ、日本には革命が必要だ。こんな法律なんか消してしまわねばならぬ。

「で、財産を分与するとなると、この中で一番被害甚大なのは誰ですか」

「あ………」

 弥生を見る。どう考えても一番金持ちとなるとそれしかない。

 あずさんが激怒するだけの材料がそこにはあった。

「他にも養育権、もし──」

「いやいやいやいやいやいや、何もしてないしっ!」

 なんて事を言い出すんだ、こいつは……。まぁ確かに、そういう状況になるとしたら……したいけどなっ!!!

 やりたいですよ、もう女ばかりの寮でむんむんとなってんだ。しかもお宝は処分された状況だ。溜まりに溜まりまくってんだぞ。朝起きたら愉快なことにならないか毎日戦々恐々なんだぜ。弥生との約束があるから色々抑えているんだぞ、まったくー。

 こちとら健全な男子、朴念仁じゃない、隙あれば……。ちらりと、隣の千歳の胸に目がいった。

「とりあえず、その不埒な目玉をくり抜きましょう」

 手刀が眼前に現れた。ほんのちょっと押すだけで刺さる距離に。

 一瞬の出来事に動けない。上がってきたものが一気に急降下した。

「もうよい、その辺にしておいてやれ」

 助け船が弥生からでた。

「十分に事の重大さが解ったことだろう。それに、政宗は未成年。その法律が適用されるのは基本成人してからだ。第一、我々全員が了承もしていない。故にそのようなことはならない。ただ、関係を持ってしまった場合だけが除外されるが」

 鋭い視線が俺を射貫く。

 してないよー、しません、しないですったらーやだなぁ。

「その場合、我々も管理できなかった咎として甘んじて受けねばなるまい」

 今、何か凄い重責が身に降りかかってしまったのを思い知らされた。ってか、管理ってナニソレ。

 はっそうか、だから俺に種馬が勝手させないようにと、あの協定を持ちかけられたのか。奥が深い……。つーか知らぬは俺だけだったのか?いやいや、そんな馬鹿な……。

 生徒会の面々の顔が浮かんでは消える。フッ、知ってるよなー奴らなら。それに安西たちクラスの面々もそうなるのか。やっぱ知らぬは俺ばかりなり??

 しかたねーじゃん、中学のときなんて俺は……。暗い気分になってきた。

 結婚すれば天国って訳じゃない。余計にしんどくなるのかよ。ならなんで、みんな結婚したがるんだ。めんどくせーなぁ。

 あぁこれが棺桶に片足をつっこんだ状態っていうのか。ナムアミオダブツ。

「殿下、今のうちに磨り潰しておくのが得策かと具申いたします。いますぐ、ご決断を」

 ひゅんとなった。マジひゅんと!この3人にかかられては抵抗のしようがない。

「ならぬ、余計な事をいうな」

「なら、妾が頂こう。妾ならば問題はない」

 喜色満面に身を乗り出す千歳。

 それを2人が制止する。

 ピリピリとした一触即発の気配。

 駄目だ、動いた方がやられる。

 空気が重い。なんだこれは、今日のロボテクス戦なんかよりも重い。緊迫した空気、滲み出る汗、火花散る視線、正直逃げ出したい。

「えー、皆仲良くね、仲良くしよう」

 喧嘩イクナイ。人類皆兄弟、平和万歳である。

 だが、裏腹に、3人は目を剥いてこちらを睨んできた。あの弥生でさえも。

「確かに、一夫多妻制ではある。あるが、そのなんだ……」

 いつもはっきり言う弥生が言いよどんでいる。珍しい……。つか、一夫多妻制がなんだというのだ?

「貴様、今度という今度こそは……」

 わなわなと肩を震わせ、顔を真っ赤に染め上げ、汚物を見るような暗い視線を飛ばしてくるあずさん。

「主がそんな趣味の持ち主だったとはな」

 何故か呆れられたようだ。

 ???フワーイ何ー、お前たち、ナニヲイッテイルノデースカー。

 と、そこへ訪問を告げるチャイムが鳴った。

「ん、誰だろ」

 俺は立ち上がり、そそくさと玄関先へ向かう。助かった……ここから逃げ出せたぜ。


 扉を開けると、ジャネットが立っていた。

「マスターよ、そろそろ夕餉の時間だ」

 なんとも気が利くではないか。迎えに来てくれるとは。そして、この状況を抜け出すいい口実を持ってきてくれたことに感謝だ。

「もうそんな時間だったのか」

「そうだ。支度するなら早くしてくれ、こっちは──」

 くぅーと可愛い音がなった。

 ジャネットの腹から……。

 瞬間、殺気を纏った視線がきた。もちろんジャネットから。

「アーオ腹スイター、腹ノ虫ガナリヤガルゼー」

 棒読みで、俺の腹が鳴ったことにした。

「そうであるな、待っているからはやく……」

 ジャネットの視線が俺の後ろに向かう。

 その視線の先へと、恐る恐る背後を振り返った。

 ドゴォーンとかドバーンとかの重低音な響きが似合いそうに3人がそびえ立っている。

「もうそんな時間であったか、では行こうか」

 何か云おうとしたあずさんを制し、弥生が発言した。これ以上の口論をさせないためか……。見ればその視線の先はジャネットの目を見据えていた。前を向くとジャネットも弥生を見据えていた。

 数旬の間のあと、ジャネットは向きを変え歩きだす。

「先に行って席を取っておく。遅れるなよマスター」

「むぅぅぅ。不愉快じゃ」

 何故かむくれる千歳の頭に手をぽんぽんと置く。

「まぁ、飯行こうか」


 修羅場は続くよどこまでもー。

 食道で待っていたのはジャネットだけではなく、メアリーがいた。

 更に天目先生も同じ机に座っている。

 思わず立ち止まった俺の背を小突いてくるあずさん。

「早く行ってください。つるつるハーレム王」

 耳元で囁かれた。

 何にもしてないぞー、何にもだー。不名誉な称号がだんだん増えてくよ……。

 そっと溜め息一つつき、夕食のセットを選んで席に着いた。

 3人もそれに習って席に着く。

「それでは………頂きます」

 ある意味壮観な眺めである。

 屈指の実力者ばかりである。

 飯の味が解らないのである。

 会話なく静かに食べるアル。

 とっても気が重いのである。

 胃に大穴が開きそうである。

「ごちそうさまでした」

 気付けば食べ終わっていた。

 お茶を取ってくる。皆の分をだ。なんだかこの役ってずっと俺がやってるよなぁ、まぁいいけど。

 皆に配ったあと席につく。依然沈黙が降りたまんまだ。こんなのが毎日続くのかと思うと憂鬱になる。どうにかなんないものか……。視線を巡らせる。

 一重二十重に様子を伺うその他面々が三々五々と夕餉を食している。

 そいやなんかイベントあったような気が……。

 ひょろっとした感じの少女が目についた。あれは、龍造寺だ。それで思い出した。

「そいやさ、体育祭の準備はみんな万全?」

 聞いてみたが反応が薄かった。

「おいおい、優勝狙うんだぞー、気合入ってないのかよ」

「さりとて、勝つのが解っている試合に気合なぞ入りようもないというもの」

 大胆な発言を千歳が告げる。

「えらい自信だな」

「負ける理由がないからのー」

 ドがつくくらい慢心している。

「いいのか?そんなこといってて」

「いいも悪いも、妾を誰だと思っているのじゃ。天狗の姫であるぞ」

 腕を組んで胸をはり、えらそうにふんぞりかえった。

「そうなんだ、じゃぁ負けたら婚約破棄でいいな」

「構わんかまわんっっっっ。なんじゃとーーー」

 口にしていた茶を盛大に吹き上げ、どういうことかと俺を睨む。

「だって勝つんだろ、問題ないじゃない」

 机に零れたお茶を備え付けのハンドタオルで拭きつつ、しれっと言ってやった。

「それはそれっこれはこれなのじゃっ」

「皆も、慢心しているなら、同じ条件を提示するぞ。いいか?」

「では、優勝した場合はどうします?何か報酬がでますか」

 聞いてきたのはメアリーだ。

 目の奥に暗い炎が輝いている。

「ふむ、そんじゃデートでもするか?」

「却下。それは、普段でもできます」

 するのかよっ!

 決定事項なのかよっ!!

 俺の意志は関係ないのかよっ!!!

「確かに、おままごとなんて今更ですわねぇ」

 茶を啜りながら教師がレートを上げてきた。てめぇそれでも生徒を導く聖職業かっ。

「じゃぁ、なんならいいんだよ。金ならないぞ、従ってプレゼントといわれても出せない」

「つまり、中島の御大将は、精神的、肉体的にご奉仕をなさってくれるということですか」

 突然横から間部が聞いてきた。流石蛇女、忍び寄るのは十八番ってか。

 くわっ全く油断も隙もない。

「一体ご奉仕ってなんだよ。メイドの真似をすればいいのか?」

「あら、それもいいですわね。でもわたくしにはアラキナさん達がいますし、わたくしとしてはメリットがございません。他を要求します」

 メアリーにとってはメイドは駄目のようだ。ちょっと気になったが、まぁなんだ。やらないなら仕方ない。って、女装はしないよな……女装は。執事、バトラーのほうですよねーやるならさー。

「他ってなんなんだ?」

「ぐへっへっへっ、そんなん決まってンだろ、男が景品だ。つまり、やることは一つ。一夜を供にする!これしかないねっ」

 げひた声で源がいってくる。舌なめずりするなそこっ!

 お前何いってくれてんだと睨むも、それが決定打になり、一気に食堂内が沸いた。

 俺の抗議を毛ほどにも受け付けず、話は進んでいく。

 結果………。

「公正な審議の結果、体育会でMVPを取ったものに、一晩大将が割り当てられることになりましったっっっ」

 マルヤムが高らかに宣言した。

「おおお、おまえらなー、人を玩具にするんじゃねーっ」

 怒り心頭に抗議を続けも、誰も聞いちゃいねー。

 騒ぎが大きくなるばかりだった。

 はぁ、どうしてこういうことになるのかなっ!

 意気消沈し、椅子に深々と座った。

 まぁMVPだ、この面子以外が取れば御破算なんだから、なんとかなるさ………多分。

 風紀委員長でもあり柔道部でもある古鷹先輩や、薙刀部の藤堂先輩もいるわけで、そうそう簡単にMVPは選ばれることはないだろう。他にも3年4年の先輩なんかのほうが……。

 周りを見回して………大丈夫だよな、いくらなんでもさ……。

 全く信じれない俺がいた。

「大丈夫だ問題ない」

 傍らで声がした。

 振り向くと、弥生だった。

「我がいる。気にするでない」

 澄んだ瞳、冷静な言いように俺の心は落ち着いていく。

 確かに、この中で一番MVPをとりそうなやつといえば、弥生だ。……そのはずだ。

 弥生ならば、弥生ならば……なんとかしてくれる!そんな期待が沸いてきた。

「そうか、なら頼む」

「任せろ」

 静かに頷く弥生であった。

 はぁそれにしても、口は災いのもとか。何の気無しに言ったことが、なぜこうも爆発するんだ。いや暴発?暴走??ふっ、どっちでもかまわん。

 まぁあれだ……みんなやる気がでたようでなによりだ……心の中で血涙を流しつつ……俺は……。

 ………さぁて、どうやって逃げようか。これからの算段を考えた。


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