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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第四章
118/193

Faraway 03

 動作確認が一通り終わってサクヤから出る。

 足元には皆が集っていた。

 お疲れと手をふる面々に俺は、気が重くなるだけだった。

「なんだかお疲れだな」

 昇降機から降りた俺を安西が目敏く言ってきた。

「おニューなんだから、もっとワクワクしてるもんだと思ったが……」

「んーそやな、ワーイ楽しいなーワーイ」

「ざーとらし」

 なんとでも言ってくれ。答える気にはならんがな。

「それにしても、僕たちをモニタールームから締め出すなんてどうかしてるよ。僕はメンテナーなのに」

 悔しそうな顔を見せる。まぁFCSのこともそうだが、色々と機密なことやってんだろうよ。俺はモルモットじゃねーつーの。

「何か問題があったの?」

 心配そうに美帆副会長が聞いてくるが、その理由を言うのは躊躇われた。引かれますよねぇ……普通。

「いやぁなんでもないですよーなんでもー」

 笑顔で誤魔化す。

 アレが出てくるまでにそれらしい理由を考えねばならぬ。ロボットに付きものでしょー、アレって。連想して悪いですか?いや悪くない!俺は悪くなんかない、至って普通の発想なのだから。

 だが、それを美帆副会長たちにいったところで、通用しそうにはない。唯一通用するとすれば……。

 ゼツボーシタッ。UK行ったあのヤツと同じ思考パターンになっているのか?王道パターンとか笑って云ってきそうだ。

「ったく、さっきからなんなんだ?青くなったり赤くなったり」

 平坂が訳がわからんとばかりに、いってくる。

「まぁなんだ、朱に交われば紅くなる。ってのを実感してしまったというところだよ」

「なんだそりゃ?」

「なんなんだろうねーホントに……」

 外を見つめ黄昏た。


「お疲れさまでした、中島少佐」

 モニタールームから出てきたアーウィン副長が敬礼をする。その後ろには小早川大尉が続いてた。

 じっと見つめる。なんだか、色々と騙されたような気になるのは、単に俺の被害妄想なだけでしょうか?

「アーウィン副長はこのことを知ってたんですよね」

「このこと?」

「FCSのことですよ。そっちの技術なんですから」

「いや、私もよく解っていないのだ。そういうものがあることは知っているが、中身まではどのようなものか興味も無かったのでな」

 古い技術と言ってたっけな……。

 つまり……ということは……、じろりと小早川大尉を睨む。

 口笛を吹くな。よそを向くな!

「小早川大尉、ちょっと体育館裏にご招待したいのですが如何ですか」

「はっはっはっは、そういう体育会系のノリは好きではないんだよね」

「まぁそういわずに、ほんの少しだけでいいんです」

 じりじりと近寄る。

 じりじりと離れていく。

 一触即発の気配。

「それはいいとして、この機体はもう稼働しても問題ないのでしょうか」

 メイドのビアンカが突然割って入って聞いてきた。

「通常の接続でなら問題はないが」

 小早川大尉が値踏みしつつ返答した。

「そうですか、では」

 視線を俺に合わせて言う。

「メアリー殿下からの伝言を中島様にお伝えします。決闘をご所望です」


「……はあ!?」

 なんで今更そんなことになるんだ。……今更なのか?それとも機会をはかっていたのか、とりあえず話を聞かないことには意味不明だ。

「日時は明日の正午、コロッセオで。形式は武闘大会準拠とのことです」

 武闘大会準拠ってことはFドライブはなしか。模造武器での試合となれば、死人が出るような話じゃない。つか、よくそんな理由で借りれたもんだな。……って許可したのは十中八九、会長っぽいような……。

 ちらりと、美帆副会長を仰ぎ見る。

 舌を出して、てへって可愛い仕種が返ってきた。一体どういう思惑なんだ?イベント盛りだくさんはもういいーちゅーねん。

「了解ですか?」

 ビアンカが確認してきた。

「嫌や。俺にメリットなんか全然ないじゃないか」

「勝てば私達が手に入ります」

 爆弾発言キターーーーーー。

 途端に周りの視線が俺に突き刺さる。

「まぁ待て、みんな落ち着こうじゃないか。俺は決闘なんて受けるつもりはないんだから、そもそもの前提がありえない」

 流石にこれ以上の“嫁”というのは勘弁だ。ただでさえ持て余しているっつーのに、増えたりなんかしたら、身が持ちましぇーん。

 大体あれだ、学生の身でメイドを侍らすなんて無理だ。給料なんて払えない。うん、そうそう、そうである。でもメイドさん……そんなのぉ……欲しいけどぉぉぉぉ。血涙!!

「じゃが、何故決闘なんじゃ?お前らの意図はなんじゃ」

 千歳が俺の前に立って直球をぶん投げる。

「そうだ、第一何故生徒会がそんなことを許すんだ。本来なら抑える立場じゃないですか」

 俺も俺で、美帆副会長を問い質す。それに俺が勝ったら、彼女たちが俺のものになるってのは、美帆副会長からして止めたい話のはずだ。

「その……以前ですね、エリザベス殿下と長船殿下が決闘なさったので、メアリー殿下に対しても駄目とは言えないと会長が……」

 よし、今度実弾射撃訓練があった日には、誤射しておこう。

 会長の処分についてはおいといて、ビアンカが千歳の問いに答えず突っ立ったままだ。

「ビアンカさん?」

「失礼、現在協議中です。しばしお待ちください」

 誰と協議中なんだ。

 なにがおきてんだと千歳と顔を見合わせる。

 メイド、メイドさん、メイドリーム……やっぱ欲しい。普段はなんの気無しに接していたが、改めて手に入るかもしれないとなると、欲はでるでるでまくりだ。だが、何のための決闘なんだ。勝ったら手はいるとはいったが、負けたらどうなる?本当に意図が解らない。

 ん?そいやメイドさんといえば、エリザベスの傍らにいたメイドさん。あれは至高だったな。あの人であれば、二つ返事で何も考えずに決闘していたことだろう。そういう意味でいうと、失礼だがこっちの4人はランクが落ちようというもの。彼女たちも素晴らしいが、何が違うんだろうか。そいや代わりに寄越したものが気に入らなければ………あれ?よく思いだそうか俺。何か重要なことがぼかされているような……。

「協議中ですまんが、一つ確認させてくれないか」

 ビアンカがこちらを向く。どうぞと促された。

「以前エリザベスさんが、メイドを寄越すといってたんだが、それって君たちのこと?」

「肯定です」

「確か、その時って俺が気に入ればあげるとかなんとかいってたと思うんだが、それで間違いはない?」

「肯定です。私達はそのために来ました」

「じゃぁ決闘に係わらず、俺が気に入れば君たちは俺のメイドってことなんじゃない?」

「肯定、そのように取り決められています」

 あっさりとビアンカは俺の問いを肯定した。

「ちょっとそれ聞いてないっ」

 凄い剣幕で美帆副会長が俺の襟を掴んで怒鳴ってきた。

 ガクガクと振り回される頭。むちうちになるーー。

 突然の狼藉を千歳と瑠璃先輩が抑えにかかる。が、改めて3人で俺に詰め寄ってくる。てんやわんやの展開が繰り広げられた。

 これ……どうオチをつけたらいいんだ。わけがわからないよっ。


「はいはーい、その辺でお静かにー」

 小早川大尉が呑気な声で遮ってきた。

「モテモテの中島少佐のことは置いといて、えっと、ビアンカさんでしたっけ」

「はい、ビアンカ・マーチと申します」

 値踏みをするように小早川大尉は見て問いかける。

「乗るのは君?それともメアリー殿下?機体は何?」

「操縦者はメアリー殿下で、機体は借り受ける零式の予定です」

「それじゃあ話になんないね」

「どういうことでしょうか」

「勝ち目が無いってことだよ。勝負するなら五分五分の条件でないと面白くない」

「メアリー殿下では勝てないということでしょうか」

 淡々と聞くビアンカに、したりと答える小早川大尉。

「まず零式とサクヤ。もう雲泥の差だね、2世代の差がある。プロペラ機とジェット機の差はあると思っていい。メアリー殿下の腕前は知らないが、もうこれだけで勝負は目に見えている。結果の見えたものほど退屈なことはない。あ、戦争は別だけどね。勝つべくして勝つに限る」

「協議の時間を下さい」

 どうぞと、手振りする。

 さっきから協議というからには、ビアンカはメアリーと何らかの回線を持っているということか。

 でもどうやって?見た感じ通話機なんか持っていない。彼女の能力ということになるんだろうな。一体どんな能力なんだろう……。

「主よ後で話がある。理由は解っておるな」

 話が止まっている隙を見て千歳が言ってきた。

 私も私もと、美帆副会長と瑠璃先輩も迫ってくる。

 正直、怖いです。あの時の自分を叱りつけたいもんだ。不用意な発言ってのは、ほんとにもー……。


 ちらりと背後の安西たちをどんな状況だろうとみる。

 僕たち蚊帳の外。いつものことだ。進んであの中に入りたくはないね。命が幾つあっても足りんな。ツルカメツルカメ。

 ……そんな感じだった。ですよねー、万歳三唱して逃げたくなってきた。


「協議が終了しました。そこで、提案があります」

「聞きましょう」

 待ってましたとばかりに、意気揚々と小早川大尉が受ける。俺のことなのに持ってかれてる。

「どんな状況であれ、決闘は行います。ただ、貴殿が戦力不足とおっしゃるなら、私達がサポートにまわることを了承していただきたい。もしくは、サクヤに対抗できる機体を貸与願います。とのことです」

「おおよその予想通りかな」

 じっと見つめ合う2人。だーかーらー俺の存在忘れてね?ねっ???

「決闘しないって、いってんだろーがっ」

 叫ぶ。

 2人の顔が俺に向く。

 今更そんなことを言い出すのって顔をするんじゃないっ。最初っからしないっていってただろう。

「まあまあ、中島少佐。これはいい機会なのですよ」

 したり顔で言い寄ってくる小早川大尉だ。

「私達はサクヤを納品した。でも初期設定だけしかできていない。となれば、動作確認も必要というもの。ついでに決闘でもって試運転をするということでいいじゃないですか」

 悪魔が囁く。

 絶対面白がっている。

「小早川大尉の言いたいことは理解しました。で、ビアンカさんの方、決闘の理由を答えてもらってません。そんな大層なもんをホイホイと受ける謂れはないんでね、どういうことかいってくれませんか」

 囁く小早川大尉と距離を離しつつ聞く。

「それは……」

 珍しく言いよどむ。秘密にしなければならないようなもんが隠されているのか?

 つまり、長船に関係すること?

 ……はっ、流石に被害妄想過ぎるか。いまさら地球の反対側にいる奴ができるわけないよな。

「言いたくないならいいさ。決闘はしないし、君たちを俺のメイドと認めることもない。エリザベスさんのメイドさんのほうがいい」

 色々めんどくさいので、改めるまでもなく拒否した。

「それは困ります」

「いーや、俺は困らない」

 メイドさんの頼みとは言え、こればっかりは折れることはできない。第一、着ている服が学校の制服であって、今はメイド服でない。魅力は半減どころではない、10分の1以下である。あ、いや、そんなことで決断したわけじゃないんだが…。

 無難?に、立ち振る舞いが違うということでひとつ……。


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