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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第四章
116/193

Faraway 01

Faraway


 結局、購買で注文したデータースーツ一式は週末までには間に合わなかった。一両日で届くもんでないし、仕方がない。

 土曜日の部活が終わった後、納入されるサクヤを受領しにハンガーへと向かう。

 傍らには、安西と平坂、それに千歳とジャネットがいる。

 弥生は実家へ、あずさんはお供でついていってこには居ない。いつものことだ。

 それと、メアリー付きのメイドであるビアンカもついてきていた。

「私のことは気にしないでください」

 観ていたらそんなことを言われた。

 じっと観られている……。俺なんかしたのかなぁ。心当たりは無いよな、無いねっ、無いんだからっ。

 まぁそれは置いといて、弥生がいないのに、サクヤを受け取るのはなんだか申し訳ない気がする。

 本来は皇族の機体なんだ。乗らないと言いきってはいるが、それでも彼女が第一に受け取るのが筋というものだろう。それを解ってて弥生は家に戻っているもんで、俺が代理以上の役割を担わされた。

 経緯としては、俺用ではあるんだが、そこんとこ本当にいいのだろうか……。


「ほぅ、これが新しいサクヤか。前のと変わった感じはしないがのぅ」

 トレーラーからハンガーへと移される中、千歳が言った。

 確かに、見た目は変わっていない。以前の機体と並べたら違いが解るのかもしれないが、見た感じ特に何かが変わった風には、俺からしても解らなかった。

「おっ来た来た」

 瑠璃先輩と美帆副会長がこちらに気づき手を振っている。

「先に来てたんですね」

「手続きがあったからね」

 美帆副会長が俺の腕に絡みついて囁いた。

「わっ、いきなりなんですっ」

 咄嗟に腕を振り払う。しまった……勿体ないことをした。自分の反射神経が全くもって憎いぞ、こんちきしょー。

 勿論、美帆副会長から、え~という顔をされた。でもですね、人の目があるじゃないですか、そこんとこ考えてくださいよ~、貴女は副会長なんですから。

「はぁ、釣った魚に餌をくれない人なんか放っておいて、手続きの続きしてくるね」

「久々に逢えたんだから、はしゃいじゃって、美帆っちも子供よねぇー」

 さり気なく、今度は瑠璃が俺の横に立ち、腕を組んでくる。二回目ともなるとびっくりもせず組まれたままにされる。

 外そうとしてもがっちりと極められているので、下手に動くと激痛なのです。

「瑠璃さんは、どうしてここへ?美帆さんなら解るのですが」

 言った途端、ミシリと肘関節が唸った。

「私がここにいたら駄目なのかしら?」

「いえっ全くもってそんなことはないです」

「それだけ?」

「いえっ全くもって憂いし限りでありますっ」

「よろしい♪」

 でも、周りの目が痛いです。

 千歳からは、下げずんだ視線も飛んでました。

「君用のデータースーツとヘルメットも届いてるよ」

 瑠璃先輩が告げる。そのまま引っ張られ、トレーラーの片隅にある箱へと連れてかれた。

「なあ……俺たちって……」

「放っておけよ、僕はサクヤがあるからいいさ」

 そんな声が背後から聞こえた。


 箱を開ける。そこにはピンク色した何かが入っていた。

 はい、そうですね。何かではありません、データースーツとヘルメットです。

「なんでこんな色…」

 普段着ているデータースーツは灰色だ。こんな目立つ色なんてしてない。

「説明しようっ」

 突然横からの声。それは小早川大尉であった。受け渡しだけなのに、こんなところまで出張ってくるとは暇人ですか?暇人ですね、決定~。

「まあ、そんな嫌そうな顔をしない。私と君との仲じゃないか」

 そんな仲になった覚えは全くもって欠片もありませんぜ。

「それは置いといて、これは、普通のデータースーツとは違って、センサー類を強化しています。ま、その区別をするためにも、こんな色にしてあります」

 淡々と説明を始める。

「テスト機だからですか」

「察しがいいね。サクヤに乗るときはこれを着てくれたまえ。なんせ、初めての接続方式を試すんだ。準備は万全のほうがいいからね」

 あー……そうだった。

「小早川大尉、申し訳ありませんが、その必要は無くなりました。この間のことでFPPがCランクになっちゃいましたので」

「………」

 見事、小早川大尉は固まった。

「本当?」

「本当です」

「本当の本当に?」

「本当の本当にです。なんなら、保健の先生に聞いてみてもらっても構いませんよ」

「……まあ、知っていましたけどね。別にFPPがCランクだろうと、接続方式を変更しなくても問題はない」

 ずこっ、この狸め。

「いや、そこは従来通りの方式でいきましょうよっ」

「だが、断るっ」

 胸を張って言い放たれた。

「断らないで下さいよっ。何も危険なことしなくても今までどおりでいいんですから」

「Cランク?」

 腕をがっちり掴んで放さない瑠璃先輩が聞いてきた。

「えぇ、ちょっとしたことがあって、それでCランクにあがったようなんです」

 俺と小早川大尉を交互に見据え、瑠璃先輩は考える。

「政宗君っ、君はまた危ない橋を渡ったのね」

 鋭い……。

「そんなことは……」

 睨み付けられた視線を、外して告げる。

「いーえっ、急激にFPPがあがるようなことなんて、そういうことですっ」

 腕を絞り上げられた。激痛が走る。

「はっはっはっはっはー、流石、中江君だ。全てお見通しって訳だ」

 意気揚々と小早川大尉が後に続く。

「小早川大尉……、貴方も貴方です。私の政宗を危ない目に合わせるなんて!」

「いや、これは仕方ないことで……」

「黙りなさいっ」

 くどくどと、お説教が始まった。

 ……なんだか、瑠璃先輩の態度が一変しているような?

「あの、瑠璃さん?その辺でお終いにしませんか?」

 聞いてない、お説教に夢中のようだ。

 喋りだしたら止まらないのは美帆副会長だけの特権じゃなかったようだ。類は友を呼ぶ……。

 話が進まない。溜め息を一つ吐き、心を決める。えいっ。

 瑠璃先輩の前に立ち、開いている片方の腕を背に回す。そのままくびれ部分を掴み、徐に持ち上げた。

「おわっ?」

 くるりと半回転、反対側を向かせて下げる。

「先輩、いい加減にしてください」

 真面目な顔して見つめる。

「この間のことはもういいんです。無事でしたし、俺は怪我の功名でCランクに上がりました。それで手を打ちませんか」

 このまま話が広がって、原因を根堀り羽堀りしていくと、他の人達にも迷惑がかかりそうだしな。

「だってっ」

「俺はここにいる。だからいいじゃないですか」

「でも、政宗がこんなになったのは私のせいだもん。気にするわよっ」

「へ?どういうこと」

「だって、私が操縦訓練したから、決勝までいくことになって、あんなことになったのよ。こんなことなら教えなければ良かったと後悔したんだから。だから、これからは私が政宗を守らないといけないの」

 いやはや、それは本末転倒ですよ。

 それに、その先はやばいです。行き過ぎると、監禁されて何もかも管理されそうな予感です。瑠璃先輩が三つ編みお下げの看護婦なら確定だ。俺は逃げさせてもらいます。

「それは違う。元々の原因は、長船の大馬鹿野郎が原因です。だから瑠璃が気に病むことはない。それに、操縦を教えてもらったから、今ここに立っているんですから。俺としては、教えてもらって有り難いだけで、感謝してもそんな恨むような話じゃない」

 まじまじと瑠璃先輩を見つめる。

 目をぱちくりと大きくあけて見つめ返された。

「……本当に?」

「えぇ、そうです。だからこれからも操縦教えてくださいね」

「ん、解った…」

 そういって、目を閉じ顎を気持ち突き出してくる。

 こっこれは!!!まさかのっ?えっ、いいんですか。いきなり突然すぎませんか?

 艶やかな小さい唇に目を奪われる。

 どうしよう、どうするべきか、どうするとき、どないせーちゅー、ちゅーねん、ちゅーぅぅぅ。

「はい、そこまで。抜け駆けしない」

 美帆副会長が瑠璃の首に腕を廻し、締め上げて引き離す。

「主よ、なにをしとんのじゃー」

 ついでに、俺も千歳に背後から引っ立てられて剥がされた。

「何もしてないよ、何もっ」

「ちょっと生身で月旅行へしたいのかや?」

 低い声で千歳が迫る。真っ赤なオーラを放って怖い。

「すいません、ごめんなさいっ」

「大体、接吻するなら、妾とのほうが先であろう」

「いやまて、その理屈はおかしい」

「おかしくない。弥生とはしたのじゃから、次は当然妾の番じゃ」

「まてまてまて、そんな覚えはないぞ」

 記憶を探るまでもなく、した覚えなど欠片もない。

 反論したら、しまったという顔を一瞬させた。なんだ?俺の知らない間に、お前たちなんかやってくれちゃったりしたのか?

「えーい、昔のことはどうでもよいのじゃ。今はこの話じゃー」

 逆ギレされた。

「誤魔化すな。いったいどういうことなんだよ」

「煩い、黙れ、口を閉じよっ」

 一瞬にして俺の口目掛けて飛び掛かってくる。ぎゃぁぁぁムードもへったくれもないっ!

 が、その無理やりなキスは寸前で止まった。

 美帆副会長と瑠璃先輩がタッグを組んで、千歳の肩を片方づつ掴んで阻止した。そのまま投げ捨てる。

 空中で綺麗に一回転して、地面に着地する千歳。

「お主たち邪魔をするのか」

「当然です。順番を言うなら、私の方が先です」

 胸を張って言い切る美帆副会長だ。

 そこっ、論点が違いますっ!!

「貴女よりも、先に私の方が目をつけてたのですから、当然です」

 ………もう、わけがわかんないよっ、思わず涙目になる。


「そろそろ、本題に入ってくれないと私も困るのですが」

 小早川大尉が、申し訳なさそうに言ってきた。

「あ、はい。そうですよね、そうでしょうともっ」

 3人の姦しい騒ぎを無視して、俺は小早川大尉へと視線を向ける。

 後ろでは、ジャネットたち4人が冷やかな目でこちらを観ている。

 冷静になってみると………こんな処で痴態を演じてしまうとは恥ずかしいー。

 溜め息一つ。

「それでなんでしたっけ」

「少佐、貴君にファミリア・コントロール・システムを使ってもらいたい。それがサクヤを渡す条件だ」

「えー、じゃぁいらない」

 あっさりと拒否した。

「まあ、そういうだろうとは思ってました」

 なら最初っからふっかけんなって。

「Cランクになったことですし、自分としては、通常の教科でいきたいと思いますので、特殊な機体はいりません」

 この際だからはっきり言っておくことにした。だいたい授業では小型ロボテクスに乗るんだ。種馬がいたころとは違って拘束される謂れもない。

「いやいや、そうじゃないだろー。最新鋭機だよ、最先端だよ、しかも未知の装備付きとくれば、乗りたくなるでしょ」

 最新鋭、最先端、これはまぁいい……。でもなんなんだよ、未知の装備って怖すぎる。またあんな目にあえというのか。

「しかし、そんなの渡されても乗る時間なんてありませんよ。勿体ないじゃないですか、テストパイロットは自分以外にもいるんでしょうに」

 以前のやりとりを蒸し返した。

「だーかーらそれは以前もいったけど、君しか動かせなかったんだから、当然、君に乗ってもらわないと困るんだよ」

「てか、まだあれ積んでいるんですか?」

「当然、それ以外にも色々とね。どう?いじってみたいでしょ」

「だから、それはもういいんですってば。

「そうか、それなら仕方ない。引き上げるとするよ」

 あれ?予想よりもあっさりとしたもんだ。

「君に預けてある車ともどもにね」

 あーきったねー。それが大人のやることか!

「なるほど、そうきましたか」

「フフフ、これて貴君は断れまい」

 ずばっと指さしして高らかに笑う。自信満々な姿であるが、あえて云おうカスであるとっ。

「だが、断るっ!」

「そうだろうそうだろうとも、ってなにっ、断るのかよっ」

「いかにもっ」

 これには小早川大尉も困惑したようだ。

 先に有用なものを渡しておいて、それを餌にするとかセコイセコイぞ~。

「そういわずにさー、乗ってくれるなら、もうちょっとおまけもつけるからさ~」

「具体的には?聞かないとウンとは言えないなぁー」

「こういうのはどう?」


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