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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第四章
115/193

魁!日本文化研究部 05 + 幕間

 さ~て、今日の授業はー。

 政治、経済、歴史、英語と午前中を過ごした。

 政治は主に日本の今の体制のお復習いみたいなもんだ。ここんとこの授業は留学生に配慮した感じである。

 それでも、通常の授業分もしっかり進むもんで、大変である。時間は待ってくれない。

 経済は今の貨幣制度について。今は共通通貨として、一番上にコモンカレンシーというのがあり、それは個人では所有することの出来ない国家間の通貨として使われている。所謂、仮想通貨だ。

 それを土台にして、各国の通貨が為替を元に貿易やらでお金のやりとりをしている。これは一国の都合で乱高下をさせないための措置で、“覚醒の夜”以降の混乱時期に取り決められたものである。

 当時のハードカレンシーの国が無茶苦茶やったせいでもある。また、金融に関してはかなり制限が課せられてもいる。

 歴史については、“覚醒の夜”以降の日本と他国の関係を駆け足であらましを勉強した。普通の学校視点ではなく、軍事視点からなのが興味深かった。

 なんとも、ヨーロッパは組んずほぐれつの混沌な状況だったんだな。

 そして、今の状況に落ち着いたという訳だった。

 後は、英語?うーん、まぁそうねぇ。これはほぼ留学組の独壇場であった。日本組はたどたどしい発音、おかしな構文、直訳的な文章……。いいんだよ、ここは日本なんだからっ。なんくるないさー。


 昼休みになり、飯を喰い終わった後、購買へ足を運ぶ。データースーツとヘルメットの申請のためだ。

 入学してまだ一学期と少しってのに、また申請するとか購買のおばちゃんにくどくどと説教をたれられながらも、無事申請は終了した。実は3着目なのだが、まぁしゃーなしだ。俺が壊した訳じゃないもーん。

 ……こんなところで、言い訳してても仕方ない、教室へ戻ろっと。


 今日は二学期最初のロボテクスの授業だ。Zクラスの関係から、色々ばたばたしたもんで、他のクラスは既に乗り始めているのに、えらい重役出勤の感がある。

 授業に参加するのは、俺と安西、平坂に霧島書記の4人。内容は小型ロボテクスで行われる。

 そのロボテクスもインフレーム型で、一学期のオープンフレーム型とはまた趣が変わっている。こないだ、一本だたら捕獲作戦で俺を警護するのに一機ついてもらったやつだ。

 あの時は、あっという間にやられてたけど……。まぁ本来は人外と対峙できるような物ではないので仕方ないのかもしれないが。

 戦闘でいうと、戦車などに随行したり、警察の対暴用や消防の救助活動にも使われたりと、用途としては一番多岐にわたっている。オープンフレーム型は建築などの土木作業等々幅広く使われている。

 これが使えたら、ほぼ一生喰うに困らない仕事がごまんとあるのだ。そういう関係の仕事に就職できればだけど。

 まぁそういう技能が習得できるから、この軍学校へ進学した一つの理由のでもある。手に職あるのは有利だからね。

 一学期に乗ったのはオープンフレーム型でぶっちゃけ作業機械の範疇だった。基本筋力倍増タイプで、顔とかむき出しだった。作業用なんだからそんなもんである。

 インフレーム型の小型ロボテクスは、完全に頭から爪先までびっちし装甲に包まれる。視界もモニター越しとなり、解放感は全くない。基本動作は変わらないが、物々しさは雲泥の差だ。

「やっぱ、装甲の関係でがに股っぽくなるのは、間抜けな感じだな」

 外から見れば、ゴリラが二足歩行しているような感じだ。見た目だけなら、オープンフレーム型のほうが装甲がない分膨らまないのでスマートだ。股や腋の部分がね。

「なんでもいいさ、ロボに乗れるならな」

 横から平坂が言ってきた。

「そうそう、弄るにしたって、動かし方解ってないと駄目だからな」

 これは安西だ。乗る目的は違えど受ける授業は同じ。

「ここでのんびりしている暇はないと思いますよ」

 既に小型ロボテクスを着終わった霧島書記が急かしてくる。

「了解であります」

 元気よく答え、俺は小型ロボテクスを発進させた。


 他の一年が並ぶ列の端に俺たち4人が整列する。 

 なんだか久々だ。以前はオープンフレーム型で集合したときのアレがという視線だった。今度は、妙な恐れが入り交じっているような気がする。装甲に包まれているから、実際どんな表情をしているのかは解らないけど、なんとなくそう感じた。

 そんな雰囲気を、鬼軍曹が壇上に立ち一喝する。

 浮ついた空気が一変し、教官である鬼軍曹に向かって敬礼し授業が始まった。

 と、言ってもやることはひとーつ。

 準備運動が終われば、走る走る走る。いつでもやることは一つである。

 他にやることはないんかねぇ。

 とか、気を抜いていたら、躓いてコケた。無様である。

 脚の長さ、ひいては身長が小型ロボクテスを着込むことで変わっている。普段の感覚とは勝手が違っているからそうなる。大型ロボテクスのようなオートバランサーなんてものはついていない。ドジればそのまま自分に返ってくる。

 当然の如く鬼教官から罵声が轟く。

 その場で腕立て伏せ20回を命じられ、観衆の目が集まる。生身と違って、腕立て伏せに腕力が必要ということはないが、恥ずかしさは倍増だった。

 といっても、させられているのは俺だけではなく、所々で腕立て伏せをしている仲間はいる。

 おお平坂よ、お前もか。意気揚々と走ってたが、調子に乗りすぎてすっ転んだようである。

 そんな中を無難に走っているのが安西、優雅に走っているのが霧島書記だった。

 安西はまぁ、自動車部でメカキチであるから、わからんでもないが、意外と霧島書記がここまで綺麗に乗りこなせているのは驚きであった。

 いやー、そうじゃないな。流石、Aクラスの住人だということだろう。元ではあるが…。

 こういう場合、やはりオネーサマと呼んで慕うのが本筋なのだろうか?ってそんなこといったら、上級生の彼女さんからクレームが飛んできそうなので止めておくことにした。

 校庭10周した後、次は丸太を持って走った。因みに次の段階は校庭ではなく不整地路を走るらしい。本当に走る以外の選択肢はないのだろうか?

 それはとりあえず置いとくとして、段々思い出してきた。ってほどでもないが、“そこそこ”乗ってた時の感覚だ。

 丸太を持ったことで、重心のズレが発生し、それをより意識したことが切っ掛けとなった。

 人工筋肉の補助があり、重さや抵抗を感じないが、実際は200キロを超える塊だ。生身の感覚で動かせばどうなるかなんて分かりきっていた。

 人よりだいたい1メートルは高い。伸びた手足を繰る時、遠心力、慣性、重心どれもが違ってくる。振り回されないように気をつかいながらも、勢い良く脚を前に出し、手を振る。身体全体の中心線を意識しながら駆ける。

 そう、あくまで、小型ロボテクス。只の鎧ではないのである。


 ふぅいい汗かいたぜ。丸太を元の場所に戻しクールダウンに入る。

 インフレーム型は温度調節機構はあるが、自分の身体を動かすわけでその分発熱する。それでもじっとりとかいた汗は吸収パットで吸ってくれるが、腋や股といった部分は蒸れる。

 もうちょっとどうにかならないかとは思うが、オープンフレーム型には、そういう機能はないから贅沢な話ではあるが、どうにもならないもんであった。

「どうだ、久々に乗った感触は?」 

 先に走り終わっていた平坂が聞いてきた。

「色々と懐かしいもんだな」

 小型ロボテクスは4月以来だし、ロボテクス自身も7月以来だ。そんなに経ってはいないはずだが、懐かしく思った。

「流石、優勝者は貫祿あるね」

 横から安西が話しかけてくる。

「しないしっ、あれはノーカンだ」

「ま、そういうなって。僕は君が優勝したと思っているさ」

 有り難い言葉だが、尻がむず痒い。

「見てろよ、来年は俺が勝ってやるさ」

 負けじと平坂が対抗してきた。

「来年ねぇ、今からだと鬼が笑うぞ」

「ところで、来年も出場するつもりなのか?」

 安西が指摘する。小型ロボテクスの面がずいっと向けられて話されるのはなんとも違和感が拭えない。

「そうだなぁ、当初の目的は達成したし、出なくてもいいのかもしれないが、中江先輩との決着ついてないからなぁ。やっぱでるんじゃない?」

「何を人ごとのように……」

 呆れた声で平坂が言った。

「僕が言いたいのは、そうじゃない。お前FPPがDランクなんだろ?そういう意味で出れるのかという話だ」

 あ、そういや、言ってなかったけ。

「こないだ、保健の先生が調べたらCランクになってるらしい。だから乗れるってさ」

「なにっそんな重要な話聞いてないぞ」

「まぁ言ってなかったしな」

「ぉぃぉぃ」

 器用に小型ロボテクスの肩を竦ませて呆れられた。

「そういうなって、俺だってまだ実感沸いてない話だ、週末にサクヤが来るから、本当に動かせるかはその時になるだろうし」

「まて……、サクヤがくる?どういうことだ、聞いてないぞ」

 器用に小型ロボテクスを操って俺の首を絞めにきた。

「こないだな、サクヤを管理してる部署の偉いさんが、廻してくれるって言ってきて、週末にここに運ばれるんだよ」

「全損だったはずなのに、良く直したな」

「いや、別の機体。テスト機が余ってるってんで、こっちに寄越すってことなんだ」

 まぁ嘘ではないよな。内情を全部暴露するわけにもいかない。

「お前、なんか裏取引したのか?」

 失礼なことを平坂が言ってきやがった。

「んなわけあるか、こっちは押しつけられたほうだっての」

「恵まれてるねぇ、うらやま死ね。でもなんだ、おめでとう。僕もサクヤが弄れるわけだし、万々歳だ」

 器用に小型ロボテクスで万歳してはしゃぐ安西であった。

 来るのは来るのだが、なんてったけ、あの接続機構は……まぁCランクになってるわけだから、必要ないといえばそうなのだが、それで納得するあの人なのだろうか、それだけが心配の種であった。



幕間 淀みよりきたるもの


「本国より電文が届きました」

 寮の一室、というかメアリーたちの部屋で、メイドのディアナが告げる。

「珍しいわね、わたくしになんて。一体どういう風の吹き回しなのかしら」

 メアリーにとって、本国となるUKは色々あって疎遠な状況だ。ここに来るのも無理やりだったし、それに向うにとっても体よく追い出せた状況だ。そんな相手に電文とは、考えるに最悪の事態が発生していると暗に告げている。

「まあ、いいわ。それで誰からどういう内容なのかしら」

「はい、エリザベス殿下からです」

「ベスから?なにかあてつけなのかしら」

 被害妄想ではあるが、派閥を組んでもないエリザベスからディアナに電文が届く事態がいやらしい。

 尤も、自分の派閥なんてものは、当の昔に潰されている。誰かに監視されるよりはとこちらにきたのだから、ディアナに直接連絡を入れるような酔狂はエリザベスくらいなものである。

「そうではないようです」

「では、どういうこと?」

「内容は、聖女のことがバレた。適当にあしらって。とのことです」

「なにそれ?」

「聖女とはジャネット様のこと、バレたとは、検索情報をあたるにブラッド・ナイツのことかと推測できます」

 ブラッド・ナイツと言われ苦虫を潰した顔になる。

 聖女を使って、イングランドに乗り込んできた結社である。当時、徹底的に潰されたはずだが、生き延びていたということになる。

「ブラッド・ナイツですって?ディアナ、その検索間違ってないの」

 彼女の能力は知っている。だが、それでも眉唾すぎる。

「80パーセントの確度で、ブラッド・ナイツで確定です」

「80パーセントって微妙ね。根拠はなに?」

「ブラッド・ナイツ事態が存続してるのは確実です。また、聖女が発掘された情報が漏れています。ブラッド・ナイツ自身が聖女発掘のため、故ヘンリー殿下へ接触した事実があり、更に過日3隻の潜水艦がスエズを渡ったとの情報があります。その他の示す情報からも、ブラッド・ナイツもしくはそれに類推するグループであることは確実です」

 初耳な情報が飛び込んできた。潜水艦?そんなものが何故、スエズを無事に渡れるのというのか……。つまり、裏で糸を引くものがいるということ。ブラッド・ナイツなんてのが正面に出てくるのは、程のいい名義かもしれない。

「まったく、昔の亡霊が今更なにようってのよ。いいわ、ベスに繋いで。向うが何時だろうと構わないわ」


「おはよう、ポリー。貴女から連絡が来るとはね。やっぱり送った情報が気になるのかしら」

 メアリーの前に立体映像が現れる。まだネグリジェのままの姿でエリザベスが挨拶した。

「こっちはもうじき夜よ、だからこんばんは、ベス」

「そっちの制服なのね。可愛いわね」

 向うにもこっちの映像が送られているための反応だ。2人は似ているから、自画自賛である。

 そういう益体もないことに、メアリーは苛立ちを憶えた。

「止めてよね、それと、その格好なんとかなんないの?わたくしがそんな格好をしているようで嫌だわ」

「あら、まだ貴女は──」

「その先は言うな」

「まあ、怖いこと」

 微笑む。見透かしたように。

「そんなことより、ブラッド・ナイツってどういうことよ。なぜそんなのがスエズを渡れたの、沈めてしまえばよかったのに」

「スエズで戦闘行動なんて無理でしょ。格好の火種になるわ。地中海でも同じこと」

「……そうでしょうね」

 UKにとって、地中海は領海外である。スエズにひしめく管理地も同じ、そんな場所で戦闘行為はいい口実にされる。春に大規模な戦闘で戦力を減らしたUKにとって、今は対立は避けて通りたい時期である。

「そんな訳で、そっちに対処をお願いしたいところなのよ。恐らく聖女奪還に向かったのはその内の一隻だとは思うけど、相手がブラッド・ナイツであれば、相応の覚悟が必要になるわ。だから、伝えたのよ」

「……仕掛けたのでしょ」

 いまUKでコトが起きるのは避けたい事態だ。火種がどこかで燻っているなら、戦力が減っているこの時期は格好の的である。

「あら、あらあら。そんなことないわよ」

 泰然とした態度でこちらを見つめてくる。

「まあいいでしょう。大体、彼等が来るとしても、日本の軍がそう易々と通過させるとは思えないし、来たら来たで対処いたしましょう。それにジャネットはもう契約して……」

 ギリッと口を噛みしめた。

「あら、契約できたのね、おめでとう」

 しれっと返してきた。

「その言葉は彼に言って上げれば?わたくしには関係ないわ」

 なんとか言葉を紡げた。

 エリザベスは見透かしている。この状況だからブラッド・ナイツを素通りさせたのだ。いくら火種が心配だと言っても、日本が火種になってはまた借りを造ることになる。UKとしてはそんな事態は避けて通りたい。内々で処理できるなら、そっちのほうがまだよかったはず。……いや、契約を急かしていたのもそのためのシナリオか。

「そうそう、話は変わるけど、“私”のメイド達は彼気に入ってもらえたかしら。気に入ったら渡す約束をしているから気になるのよね」

「さあね、“気に入った、欲しい”とは言われてないわ」

 お互い睨み合い、数秒沈黙が流れる。

「そう、結論は早くお願いね。そうでないと、私の一番のお気に入りが彼の物になってしまうのですから」

 釘を刺してきた。

 言われなくても解っている。解ってはいるが、手放せないでいる。

 単刀直入に聞けば、“欲しい”って言うに決まっている、彼女たちは有能なのだから。だから、帰国のギリギリまで聞くのを伸ばして手元に置いておきたいのであった。

「話は以上かしら?」

「そうね、十分気をつけることにするわ」

「それじゃ、元気でね」

 通信が切れた。

 何かとこちらの思惑通りに進まないことに苛立ちを憶えるメアリーであった。


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