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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第四章
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魁!日本文化研究部 03

 程なくして、ひらがなのお手本は作成し終わった。

 背後では、ジャネットたち4人以外にも人が増え、書道に“励んで”いた。単に覗きに来たら捕まって、そのままってのが実情なのだが。留学組だけでなく、日本組も何人か捕まっている。

 当分、このレクリエーションルームが部室となるため、作成した手本は壁に目につくように張り付けた。

「ふむ、こんなもんかな」

 天目先生と比べれば雲泥の差なのは確かだが、まぁよくできてるほうだろう。割と自画自賛である。

 筆や硯を洗い、片づける。

 気付けばそろそろ夕餉の時間が迫ってきている。時間を書けるつもりはなかったが、闖入者のお蔭でここまでかかってしまったのであった。カルタを買いに行くのも夕餉後だな。

 背後に目をやる……。

 そうだね、そろそろ解放してあげないとね。

「天目先生、作業が終わったので終了で、あと夕食はどうします?ここで食べていくなら、帰り送りますが」

「あら、もうそんなに時間が経っていましたか」

 こちらを見て残念そうな顔をする。

 対照的に、強制されていた寮生は安堵の顔だ。

「では、明日から本格的に始めますので、皆さんまた明日ね」

 みんなも書道の道具を片づけ始める。

 片づけでも一悶着あったが、まぁそれは余祿。


 天目先生も混ざって夕餉を堪能した後、送るついでにショッピングモールへと弥生たちと供に車を出す。

 運転席に俺、助手席に天目先生、これは路を聞くためである。後部2列目に弥生とあずさんで、3列目にジャネットと千歳が座っている。

 ……うん、まぁこういう構成になるよね。そして何とも言えない沈黙が場を支配している。後部座席の4人は助手席に座る天目先生に興味津々……というか、なんというか……。

「主よ、何か言いたいことはないか?」

 千歳が言ってきたが、何を言えというのだ?俺は車の運転に集中しなくはならない。無視させて頂きます。大体、何をどうとりつくればいいのよ、俺に何が解ろうといえるのだ、いやない。

「運転に集中してんだから、静かにな」

「むぅ、帰ってからじっくり聞かせてもらうからな」

 問題は先送りできたようだが、どうしようかねぇ。

「先生、俺達はショッピングモールに行くのですが、買い物します?無ければ先に送りますよ」

「私も着いていきますよ。生徒達だけにしてはおけませんし」

「あ、はい」

 うーむ、保護者同伴か、まぁ別に問題行動をおこすつもりはないんだが、なんとなく居心地が悪い。生徒と先生という立場だけでなく、後ろの目が……。

 いかんいかん、運転に集中しなくては。こんな処で事故を起こしたら洒落ならん。


 そんな緊張した中で、漸くショッピングモールへと辿り着いた。いつもの3倍は疲れた気がする。

 手っとり早く、車を駐車スペースにつけ、本屋へと向かう。

 まぁなんだ、本当に色々あった。あっちいったりこっちいったり、喧々諤々な予算の取り合い、備品なんかもだ。最後の一つがこのカルタだ。

 そのカルタなんだが………。

 色々あるんだな。定番のいろはカルタから、ことわざ、四文字熟語に歴史カルタ等々色とりどりだ。購買にあったのはあの軍人カルタしかなくて、頑丈な作りな分高価であった。それを基準にして考えていた。

 何を言いたいのかというとだな……。安い!

 安い奴は単行本一冊分で二つは買える。その程度であった。

 この程度の値段なら、あーだこーだとすったもんだしなくても、小遣いの中から捻出できた。大きな溜め息が漏れる。

 弥生がどうかしたのかと、聞いてくるので、俺はこんなに安いなら何も相談どうこうする必要もなかったと答えた。

「なら、その分、数を買えばよかろう。部員は多いのだから数はあった方がいいだろう」

 そうですねー。

「それにしても、なんというか……大山鳴動鼠一匹な感じが、ちょっとなぁ」

「いいではないか。それに、我は嬉しいのだぞ」

「なにが?」

「こうして、政宗と出かけたことにだ。初めてのことだぞ」

 ガツンと後頭部を殴られた衝撃が俺を襲った。

 あれ?今更ながらに、過去を振り返る。………確かに、弥生を連れて外に出かけたことはなかった。週末はいつもあずさんと2人して帰省で居なかったし、平日は部活やらなんやらだった。

 ついでに入院ともなれば、何も起きるはずがない。退院してからもあっちいったりこっちいったりした時には弥生は居なかった。そういう状況でもなかったしな。

 唯一あるとすれば、文化祭だが、それも学校内なわけで…確かに初めてのできごとである。

「その、済まんな、こんなのが初めてで」

「気にするでない、時間は未だある」

 そうだな、これから頑張ろう。

「そんじゃ、適当に見繕って買おうか」

 天目先生含めて6人が1人1個づつ選んで購入、支払いは折半した。


 開けて翌日の放課後、本格的に部活始動の日だ。

 寮のレクリエーションルームに入部希望者全員が勢ぞろいした。

「それでは、部長をカナンさんで、副部長をマルガリータさんとフィリスさんお願いします。顧問は天目先生がやってくれます。皆さん、頑張りましょう」

 わーっと拍手。……が続かない。

「おい、大将、あんたはなにすんだよ?」

 マルヤムから突っ込みが入る。

「俺からは特に何かするつもりはない。こないだも言ったが、こっちから何しろだのと命令するつもりはない」

「あー?それなのに部活強制させてんじゃねーか」

 む、どこで行き違いがあったのか、参加者を募ったが強制した覚えなんかないぞ。

「この部への参加は任意、自由意志のはずだったが?」

 言われて、マルヤムの動きが止まる。

 後ろを振り返り、そうなのと仲間をみる。

「中島さん、発言よろしいでしょうか?」

 メイドのビアンカが手を挙げたので、どうぞと促す。

「恐らく、マルヤム様は日本語の読み書きと部活について混同なされていると思います。私達もその件については、どうすればよいのか判断に苦しむところです」

 一同の視線が俺に降り注ぐ。

「ちょっと待って、俺も思い出すから」

 つまり、六道先生に言われた“憶えさせろ”から始まって、道具を揃えるには部活って流れがあって……それで、部活動にするから名前を書けと……という流れかっ!

「すまん、俺も少々説明不足だったな。日本語の読み書きについては、六道先生直々のお達しで、部活というのは俺の考えだ。どうやらここで変になっちまったようだな」

 それみたことかとマルヤムが上から目線をくれる。他の留学組もどういうことかと首を傾げる始末。

「ことの経緯は───」

 何度も説明って疲れるわ。ただ、それも俺が独断専行した結果なんだからしかたない。たしかに、一人でやりすぎたというか、皆と話あってなかったな。言い訳をさせてもらえるなら、そんな時間などなかった。あれよあれよと、問題がやってきてなんとか処理してきた結果なんだよーと叫びたいが、叫べませんねぇえぇ。

 説明しきった。みんなの顔を順々に眺める。理解してもらえたでしょうかね?

「結局のところ、俺たちはどうすりゃいいんだ?」

 マルヤムがぶっちゃける。

「皆には、読み書きができるようになるまでは必修事項、これは六道先生からのお達しである。俺のせいじゃないからなっ。そんで、その後のことは自由にしてくれ。本当の意味でこの部で活動するなら残ってくれ、その時には俺も色々とサポートする。日本文化を良く知らないカナンさん達だけにあれこれしろってのは無理があるしな。そんな感じだ」

「留学組については、解ったが私達はどうすればいいんだ?」

 結城が質問してきた。確か彼女は四天王どーたらの娘だったけ、記憶を辿る。傍らには前田と北条もいるな。

 同じ四天王どーたらの仲である源はちょっと離れて間部と一緒にいた。仲が悪いのか?まぁ詮索したところでどうしようもない、おいとこう。

「好きにすればいい。状況としてはこんなもんだからな。読み書きでないやつが居るとかそんなオチがあったりすば別だが」

 肩を竦ませて、そんな訳ないと示してきた。

 周りの顔を見つつ、日本組は様子を伺う。

「竹中としては、参加したい所存であります」

 初めて口をきく相手だ。顔は憶えているが、どんな奴かまではまだ解らないが、なんとも軍人口調な言い方だな。

「どうぞどうぞ、歓迎するよ。他には?」

「不詳、龍造寺小百合も参加いたしたく、お願いします」

 竹中の口調を真似たのか、茶目っ気たっぷりに追従してきた。その視線は天目先生の方に向いてあったが。

 確か呪装とか刻印を生業とする一族の娘だったけ。なるほど、天目先生が目当てなんだろうな。

 2人も続けば後は我も我もと雪崩をうって参加希望の手が挙がった。 

 結局、この場にいる全員が参加希望となったのは勢いなのか、対抗心からなのかはわからんが、まぁこれまたよしとしよう。

「そんじゃ了承を得たということで、お楽しみのカルタと罰ゲームの書き取りといきましょうか」

 日本組には全然関係ないんだけどね。


 ………なんというか、ここまでカオスになるとは想像もしてませんでした。

 審判と読み手を日本組に任せて、始めたまでは良かった。……手漉きにならなくて良かった。そして、審判と読み手不足解消ができて良かった。日本組がいなければ、右往左往してたところである。行き当たりばったりだなぁ俺って。軽い自嘲の笑いがでた。

 それは置いといて、留学組の対戦が酷い。

 なにが酷いって、マジに日本語が解ってない連中だ。一部は除くが。

 読み上げられたカルタを探す。これかと思うのを選んで押さえる。お手つきになる。片方がじっくり選ぶ。審判にはよせーと急かされ、適当に選ぶ。これまた違う札。最初にお手つきをしたのが逆にこれまた違う札を押さえる。互いに違う札を押さえつつ、アタリが出るまで繰り返し。

 まぁいい。その辺は折込済みだ。……ってことにしよう。

 それが、じっくり選んでも拉致があかないとばかりに段々高速になっていく。外したら、後手になったほうが別の札を即効で押さえる。審判も気が気でない状況に陥り……フォースパワー全開の勝負が繰り広げられた。

 まぁまぁここまでは、想定外だったが、問題はない。

 初手の札を押さえるのに、出した手を弾き始めたのがいけない。先に札を押さえにかかるのは常套手段だが、妨害まで常套化されては困る。

 白熱し過ぎたところは鉄拳制裁が待っていた。勿論、俺が一々みてる訳じゃないから、やっているのは審判だ。最初は天目先生がガツンと一発づつどついてたが、あっちもこっちもとなると、その役目を審判にまかせた。先生自身も、罰ゲームの書き取りの監督が待っている。そうそう監視し続けることもできなかった為だ。

 ………こんなの日本文化じゃないやいっ。

 祇園精舎の鐘の声ではなく、畳を叩く諸行無常の響きが谺した。

 こうして日本文化は別の何かに変貌するのか。盛者必衰、偏に風の前の塵に同じと化すのだろうか。


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