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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第四章
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カテキヨソルジャー 04

「と、まぁこういう流れだ」

 弥生とあずさん、千歳に説明した。

「なるほど、状況は理解した」

「だろ、担任がいい加減で困った状況だよ」

「それで、どうするつもりなのだ?」

 手を挙げてみせる。なにもないと。

「手っとり早く、どこからか貰ってくればよいのじゃないのか?」

 千歳が簡単そうに言う。

「そんな簡単に……」

 ふむん?ちょっと待て、余り物なら有るかもしれない。さっきも職員室で言ったが、書道部からなら、卒業した先輩たちの遺品が有るかもしれない。筆なんかは多少へたっていたとしても、書き取りの練習なのだから問題はない。消耗品の墨汁と半紙はどうにもならないが、筆一式辺りはなんとかなるか。

 ならカルタは?とりあえずいまのを半分づつにして、2組でさせたとしても人が余る。流石に3組に分けるには枚数が足りない。ここはやはり一つは購入しなければなならないか。

 まぁ筆とかの金がかかりそうな物はなんとかなるかもしれん。

「そうだな、書道部に行って、使わなくなった道具を分けてもらえるか交渉か。他は目星がつかん」

「生徒会はどうなのだ?」

 今度は弥生が聞いてきた。

「生徒会?」

「そうだ、生徒の問題であるならば、生徒会が補佐する立場にあるだろう」

「そうはいってもな、本来なら知ってて当然の話なんだよな。生徒会が何かしらそれで、金を出すとは思えん」

 まぁここで悩んでてもしょうがない。生徒会役員がこのクラスにはいるから丁度いい。聞いてみた。


「そんなことはないですよ」

 霧島書記が答えてくれた。

「そうなんですか?」

「ええ、彼女たちは留学生ですから、何かと補助はでます。ですが……」

 言いよどむ。

「何か問題でも?」

「申請しても直ぐにという訳にはいきません。稟議提出して認可されるまで、数日かかります。そこから予算が実際にでるとしても更に数日かかります」

 ま、そうなるわな。今すぐ出せるとはいかない。

 モノが揃うまでに、目的が達成されてたら意味がない。今、この場に金が欲しいのだ。

「予算の方は、そうですが、もしかしたら在庫があるかもしれません。墨汁や半紙は色々と使われますから、調べないと解りませんけど」

 おおぅ、流石だ。霧島大明神様である。

「それじゃ昼休みに生徒会に行って調べる方向でいいかな」

「はい、いいですよ、お待ちしていますね」

 これで、書道関係の目処がたった。あとは、カルタだ。こればかりはしょうがない。自腹切るしかないか。


「政宗、あとはカルタだけということか」

 弥生が聞いてくる。

「そうだな。書道の道具はなんとか目処がついたわけだが、流石にカルタはどうしようもなさそうだ」

「それであれば、我が出そうか?」

「いや、そこまではしなくていいよ。金を出してもらう訳にはいかんだろ」

 好意は有り難いが、金勘定は別だ。そこは譲れません。

「そうではない、実家に行けばカルタの一つや二つあるはずだからな。それを持ってくる」

 その手があったか。確かにあるだろうな、俺の場合と違って。

「それって直ぐに持ってこれるものなのか?」

 どっかに仕舞って、行方しれずかもしれない。

「大丈夫だろう。昼休みに電話で聞いてみる」

 それなら、いいか……ってちょっと待った。

「お前、家に取りに戻るって、その費用はどうすんだ?下手したらそっちの方が出費にならないか?」

「大丈夫だ、問題ない」

「いやいや、金銭感覚しっかりしろよ」

 週末のいつもの帰省ついでに持ってくるならまだしも、平日に行って帰ってはないだろう。

「とりあえず、今週一杯は、今のでなんとか凌ごう。持ってきてくれるなら帰省したときにだ。いいな」

「……了解した」

 とても了解した顔ではないが、この歳しかたない。

「一つ提案があります」

 言ってきたのはあずさんだ。

「流石にかるたが1組だけでは、話になりません。最低でも後1組は必要でしょう」

 言われればそうなのだが。

「ですので、この3人で割り勘で購入というのはどうでしょう。それなら出費も大したことはないはず」

「いいのか?」

「それくらいであれば」

 うーん、確かに割ってしまえば一人一人の負担は軽くて済む。だが、それでも……。

「なぜ、3人なのじゃ。妾を抜くでない」

「あら、いましたか」

 火花を散らす、千歳とあずさんであった。

 この状況で、待ったを掛けられるはずも無く、多少のわだかまりはあるが提案に乗ることにした。


 そして昼休み、食堂で昼餉を所望し、終わると一目散に生徒会室へとなだれ込んだ。

「話は聞いているよ」

 古鷹会長がにこやかに言ってきた。

 おおぅこれで、漸く問題の終着点につこうというもの。

「ですが、問題があります」

 いきなり希望をへし折られた。七転八倒猫灰だらけ、一難去ってまた一難。どうしてこうも問題ばかりが立ちはだかるのだ。

「問題ですか……」

 ショックが隠せない。気落ちした声で聞く。

「道具は余っているんだが、元々は文化祭や体育祭での備品としてです。他に部活動で必要になったとき用にと揃えている物なんですよ」

「でも、留学生には便宜を図るようなことをいってませんでしたか」

「それは、彼女たちが部活動なり始める時に、揃えるものが解らなかったり、時間がかかる場合、臨時に貸与したりする場合ですね。ですので、この場合教師に問い合わせて、買って貰うことの方が筋というものです」

 見事なたらい回しだ。

 教師が駄目で、こっちに来たというのに、また教師に言えと、俺は伝言屋じゃないぞ。

「教師に言っても駄目でしたよ」

 端的に結論を言う。

「まあまて、未だ話は終わっていない、これからだ」

 どういうことだと訝しむ。

「私は言いましたよ、部活動なり“始める”時にと」

 古屋会長は、何を俺にさせたいのか言ってきた。

 だが待って欲しい。その前に、既存の部活につっこむことはできないといってた。ということは、つまり……。

「まさか……」

「おや、察しがいいようで」

「ムリムリムリ!無理に決まっているでしょ」

「君なら出来ると思うのですがね」

「無茶過ぎますって」

「冗談で、こんな話はしませんよ。いつでも、いかなる時でも私は冗談はいいません」

 キリッと真面目くさった顔して冗談を言ってきた。

「第一、皆が入るなんて思わない方がいい、彼女たちがそんなに融通の聞く存在じゃないぞ」

 今日から君はコレねーとか、俺だってそんなの言われたくない。そんな経験はもうさんざっぱらやってきた。

「別に全員が入る必要もないでしょ?」

「……そうなのか?」

「私としては、彼女たちに有意義な学校生活を送ってほしいだけですよ。そうすれば、物騒な面倒事も少なくなるし、無用な衝突も起きないでしょ」

 言われてみるとそうかもしれない。そうかもしれないが、その音頭を俺が取るのか?胃に穴どころでなはない風穴が開くわ。

「古屋会長。時間がありませんわ。そろそろ政…中島君が納得いくものを提示してはどうでしょう」

 美帆が助け船を出してきた。

「休憩時間が終わりそうなのか」

「そうですね」

「ならしかたない。数少ない男子生徒の会話を楽しみたかったのだが、残念だ」

 ケツの穴が一瞬キュッと危機感を覚え、閉まった。やらせはせん、やらせはせんぞー。

「要点だけ言えば、留学生たちが形だけでも入っていればいいんだよ。なに、選択部活は掛け持ち可能だ、後々解散したって構わない。名目だけありさえすれば、足りないものを渡すことが出来る。だから、君が直接部長をやらなくたって構わない。どうせだったら、自主的に彼女たちが行動しやすいように、彼女たちで決めさせても構わない。生徒会としては、部があれば支援するだけの話だからね。ま、生徒会長がこんなこと言ってたとかなんてのは、言いふらさないでくれたまえ」

 なるほどねぇ、狡いやり方だ。

「して、その心は?」

「下手にあれやそれと他部に分散されたくない」

 ま、そう思うのが当然だわな。

「それにしても、古屋会長は本音を問われれば直ぐに答えてくれますが、どうして?」

「それは、私が生徒会長だからだ」

 意味不明だが、凄く自信満々に宣言された。きっと、彼は関西人ー。

「それはともかく、書道の道具一式だけなのかい?」

「筆とかもあるんですか?」

「書道部の卒業生たちが残していったものが寄付されているからね。部の備品と半々ってところかな、部のほうでは、しっかり使っているはずだから、こちらから持っていくといい。備品の管理台帳はあるよね」

 霧島書記に向かって問うと、二つ返事で返ってくる。

「それは有り難いです」

 部を興したら渡そうということなのだが…。

「放課後までには結論を頼むよ。こちらも放課後は何かと忙しいんでね、余り時間は取れそうにない」

 体育祭ありますもんねぇ。こっちのほうも色々と問題山積みだ。

 とりあえず、やってみることにして、生徒会室を後にした。

 一難去ってまた一難、ほんま、終わりはあるのだろうか。


 昼の授業はお約束の如く持久走であった。

 外国人のブルマ姿は眼幅です。とかやってたら、当然の如く殺されるので、極力見ないように走る。

 チラッ。

「中島よ、朝からなんだか奔走してるようだが、今度はどんなトラブルだ?」

 平坂が並走してきて話しかけてきた。

「それがな、留学生に日本語を読み書きできるようにしろと担任に言われたんだよ」

「無茶振りだな」

 別に隠すこともないので、これまたあらましを語る。丁度、安西も追いついてきて3人になった。

「今度は部活ねぇ」

 嘆息まじりに安西が呟く。

 確かにずっと付きっ切りってわけにはいかないだろうな。授業の他にもおそらく、あずさんの特訓が始まる。今はドタバタしているが落ちいた段階で地獄が待っているはずだ。今週は部活始動のため時間はないから、来週あたりからか?フフフ身震いがするぜ。主に恐怖的な何か、冷や汗が滝のように流れた。

 それに、体育祭の準備もある。バイクレースとなると、事前の調整や整備やらなんやらで時間が大変だ。

「部長やってみないか?」

 無駄だとは思いつつ聞いてみた。

「無理」

 異口同音に同じ返答がくる、まぁそうなるよな。

「それはともかく、部活の趣旨としてカルタと書道ってのは弱いよな」

 安西が告げる。ううむ、そうなのか?

「そうだな、なんつか芯となるものがない。彼女たちが読み書きできれば終了ってのは、作る甲斐がないってもんだ」

 平坂も同じ感想か。

「なら何がいいんだ?目的を達成しつつ、他のが聞いて納得いくような部活ってのは」

「知らん、自分で考えろや。それがお前の役目だろうが」

「昨日の今日で、いい案が浮かぶ分けないだろ。だいたいカルタと書道考えただけでも、俺に取っちゃナイスアイデアーなんだぞ」

 三人寄れば文殊の知恵とはいうが、これでは只の三馬鹿トリオである。

「そういのはさ、聞いてみればいいんだよ」

 投げてしまえと安西が囁く。

「つまり?」

「市場調査さ。カルタや書道の他に、彼女たちがここで何をやりたいか。意見を聞いて方向性があれば、それを部のお題目にすればいい」

「そんな簡単にいくもんかねぇ」

「やらないよりはましだろ、能無し君。ついでに主張が強い奴を部長にしてしまえばいい」

 言ってくれる。

「まぁ、駄目で元々か」

「ほな、がんばってぇ~。この時間中に聞いとかないと、時間ないと思うぜ」

 げげぇっ謀ったなー孔明。

 俺は慌ててダッシュで遥か先頭をいく彼女たちを追った。


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