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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第四章
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カテキヨソルジャー 02

「えーそんなわけで、君たちに日本語の読み書きができるように言われました」

 寮に帰ってから、留学生たちを集めて報告した。

 案の定、批難轟々である。

 寮のレクリエーションルームで助かった。これが学校の教室ではまたぞろ別の騒ぎになりそうなもんである。

「静粛に願います」

 言っても聞きませんね。特に一部の面々が。マルヤムとクリスティーナの両名だ。

 さて、どうしたらいいものか…。頭を悩ませる。日本側の人外でないから、千歳を使っての威圧も無駄だろうし、って今はいない。薄情なもんである。まぁそんな権力振りかざしたところでやる気になるもんでもなし。自主的にやる気になってもらわなければ進みようがない。

「それじゃ、勝負をしようか」

 一言、それで静まりかえった。

「ほう、それは解りやすいこって」

 指をぽきぽきと慣らしながら勢い立ち上がったのはマルヤムだ。ゴゴゴといわんばかりに闘気をたぎらせている。

 それに呼応して前に立ちはだかったのがジャネット。

「マスターを害するつもりなら、許しません」

 二人の間で火花が散る。

「二人とも話を聞きなさい」

 仲裁に出るが聞きやしない。なんでこんなに、血気盛んなんだよこいつらは。

「はいは~い」

 甘ったるい声で、イリュージョン級が質問してきた。訂正、マルガリータ・ゴンチャロフさんです。仕方ないよね男の子だもん。出っ張っているところに目が行くのは自然の行為です。

「なんでしょ」

 火花を散らす二人を無視して聞く。

「それってぇ~、どんな勝負なんですぅ?わたしぃ~力事は苦手なんですぅ」

 人外に力がないなんてのは嘘である。でも、この諍いごとを好き好んでいませんと、言ってくれるのは大いに助かる。

「なに、簡単な勝負ですよ」

 こんなこともあろうかと、じゃ~なく、こうなることを予想して購買で買って来たものを前に出す。勿論、支払いは六道先生につけてある。そういう風に話をつけてある。かかる費用は先生持ちと。

「なんですのそれはぁ~」

「ふふふっよくぞ聞いてくれました。このために用意したカルタです」

「かるたぁ?」

「解りやすく言えば、カードゲームですね。文字札を呼んで絵札をとるという、至極単純なね。日本語の読み書きが嫌って言うなら、出来ていると見なします。だから、出来ていることを証明してもらうために、これを用意しました」

「で、何を賭けるんだ?」

 マルヤムが乗ってきた。

「証明するだけなのに、賭けが必要なのですか」

 こういうとき、簡単にはのってはいけない。

「はっカードゲームだろ?だったら、賭けないことには始まらんよな」

 なぜ自信満々なのか解らないが、乗り気になってくれたことは一応の成功だな。

「学生が賭け事をするのは禁じられていますね。生徒手帳にも書かれていることです」

 生徒手帳と聞いて一瞬ひるむマルヤム。こんな効力があるとは恐るべし。

「だが、それではつまらんっ」

 なんとも、源とか六道先生と同じような性格のようだな。六道先生相手ではどうにもならんが、源と同じタイプであるなら、話は簡単だ。

「では、こういうのはどうです?負けた方が罰ゲームをするというのは。それなら校則にも書かれていない」

 目の奥が光るマルヤム。それだと言わんばかりに釣られてきた。

「勝った方の言うことを聞くとかか、それならのってやるぜ」

「マルヤムさん、残念ですが私達は高校生なのですよ。そういうのは健全とは言えませんね」

「それじゃどんなんがいいってんだ?」

「こういうのはどうでしょう。負けた方が」

「負けた方が?」

「取られたカードの文字を書き取るってのは?」

「なんだそりゃ?」

「文字通りです。俺は先生から君たちに日本語の読み書きが出来るように言いつけられましたから」

「けっ自分の得ばかりじゃねーか」

「そうですか、勝つ自信がないと、そういうことですね」

「なにっ」

 いきり立つマルヤム。

「おやおや自信がないからと、暴力にでも訴えようというのですか」

 残念だといわんばかりに、大げさに両手を拡げ頭を振ってみせる。

「上等だ、吠え面かかせてやる。他のやつもそれでいいなっ」


 読み手にあずさん、審判に弥生を頼み、開始する。場所はレクリエーションの別室、畳のある部屋で行った。

 千歳を始め、日本側の人外も何事かと周りを囲んでいる。無論畳の上に挙がるやつには予め靴を脱ぐようにいってある。へんなドタバタはいらない。

 ………ここで負けるわけにはいかねぇ。勝ちは決まりきったもんだが、圧勝しないと示しがつかない。

 44枚をシャッフルしてから並べる。“ゐ”,“ゑ”,“を”の3枚は抜いている。

「それを抜いたのは、何故だ?」

 目敏くマルヤムが聞いてきた。

「特殊なカードだから、初心者には難しいのさ」

「数が偶数だが、同点の場合は?」

「最後の一枚はカウントしない。早い者勝ちになるだけだからな。勝った方の取り分でいいだろ」

 後、細かいルールを説明しながら準備を整える。

 しかして、勝負が始まった。


「欲しがりません、勝つまではー」

 咲華が抑揚のない棒台詞で読み上げる。

 ほっほっほっとー、声が指示する“ほ”が書かれた絵札を探す。見つけた!シュッと風を鳴らして腕が伸びる。バンッと畳を叩いたその下には、見事目的の絵札が納まっていた。

「むーっ」

 マルヤムが唸る。

「こんな感じだが、続けていいのか?」

 じろりとこちらを睨んできた。

「ああ、いいぜ」

 あっさりと言ってくる。

「了解だ、あずさん続けてくれ」

「………ギリッ」

「ん、どうかしたか?」

「なんでもありません、続けます。慢心は駄目、絶対よー」

 ざっと絵札を見渡す。キラリーン☆隅にあるのを発見、即座に取る!軽快に畳を叩く音が鳴り響く。2枚連続で奪取した。

 マルヤムの顔を見る。さすがに連続して取られては焦って………ないな。冷静に絵札を観察している。何か考えがあるのだろうか。

「銃後の守りは─」

 ラッキー真正面、言い終わる前に手が飛び出る。これで3連続─。

 と思ったら、同体だった。

「ちっ」

 軽く舌打ちが正面からする。もちろんマルヤムだ。

「どっちだった?」

 審判を務める弥生に確認する。

「大将の勝ちだ」

 言って、マルヤムが確認をするまでもないとばかりに、手を引いていく。

「そうなのか?」

 弥生に尋ねる。

「僅かだが、政宗のほうが早かった」

 ふむん、マルヤムって人物は、勝負事は公正明大であろうという意気込みがある?勝ちに拘る姿勢を以前見たから、粘ってくるもんだと思っていたが、少々考えを変えた方がよさそうだ。

 お互い体勢を整え、次を待つ。

「勝てば官軍、負ければ賊軍ー」

 探すっ。どこだっ。

 あった、今度は遠い。つまりはマルヤムの方が近いということだ。だが、マルヤムは動かないでいる。今のうちにっ、手を伸ばす。

 しかして、取ったのは……マルヤムだった。

 俺の方が早く動いたのだが、やはり近かったせいか。

「大体、解ってきたぜ」

 自信満々に告げてきた。

「一枚取っただけで、そんな態度、吠えづらかくなよ」

「ふふふ、さてどうだろうね」

 いわくあり気な言い方で俺を翻弄するつもりなのか?勝負師としての血が騒いできた。次だ次っ。

「乗るな山城、鬼より怖いー」

 ここで取っておかないと、調子に乗られかねない、どこだ?あった左端、手を伸ばす。

 バンッと畳を叩く音が響く。

 マジかっ、また取られた。2連続かよっ、不幸だっ。3対2で、いきなりヤバくなってきた。それにしても、俺が動くまでは微動だにしなかったのにな。利き手の有利不利はあったとしても、こんなに…。まさかイカサマをやった?まさかな……そんな複雑なことが入り込めるようなゲームじゃない。

 ならば、本当に日本語をマスターしているのか?それなら、それでいいのだが……って違うな授業の光景を思い出す。全然じゃんか。それならどうやって、絵札が取れるのだ?

「地の利は人の和に如かずー」

 ち、ち、ち、ち!どこだ、どこにある?視線を巡らす。あったぜっ、反射的に手を伸ばす。

 が、これも、マルヤムの手が一瞬早く絵札を押さえた。あーくっそまたかよっ。

「へっへっへっ」

 絵札をとってこれ見よがしに見せる。ん?これって。

「“さ”だ。お手つきだな」

「なにっ?」

「定めに抗え、反撃だ」

 書いてある文字を読む。

「なぬっそんな馬鹿な、大将が狙った……」

「俺が狙った?」

「いや、なんでもない」

 ともあれ、“ち”の絵札はこっちの物になったが、どういうことだ?今のは失言だよな。つい漏らした感じだ。“さ”と“ち”は反転した形だから、丁度逆さになっていた俺の位置からつい見間違えてしまった。

 つまり?……いや、まさか?まてまて、そんな冗談じみたマネが?

「情けをかけるは、いくさ後だー」

 ゆっくり考える暇もねぇ、“な”を探す。

 あった。あったが、マルヤムの方は見つけたか?ちらりと視線を向けてみた。やはり見つけてないようだな。

 “な”目掛けて手を伸ばす。

 瞬間、俺の手の前に手が出現し、“な”の絵札を叩いた。

 ………オッケー、どういうことか理解した。なんという力業で対抗してきやがるんだ、こいつは。

 フォースパワーの加速を使って、俺が取ろうとした絵札を先に取る。解ってしまえば簡単だが、微妙な力加減が効いている。絵札を叩く寸前、俺の手の下に入ったところで、加速を切る。巧妙である。加速を持続したまま叩けばどうなるか、いわずものがなだ。

 さてと、どう対抗すればいいか。こっちもフォースパワーを使う?いやいや、基礎力も練度も向うが上だろう。圧倒的差があるのに、同じことをしていては対抗できない。と、すると……。

「兵は神速を貴ぶー」

 絵札を見つけることは先んずることができる。どこまで文字を知っているかもあるが、概ねこっちのほうが有利だ。

 俺は手を伸ばす、絵札めがけて。

 案の定、俺の前にマルヤムの手が現れ、絵札を叩く。

 狙った絵札、マルヤムが叩いた絵札、それは、“く”だった。

「口を開けるな、黙って従え」

 告げる。

 絵札をめくって、確かめるマルヤム。

「見ても解らん」

 言って、絵札を場に戻す。

 俺は、反対側にある“へ”を取り見せる。

「“く”と“へ”、これまた似たような字だからな。間違えたようだ」

 しれっと、のたまう。

「いいぜっ、乗ってきた」

 勝負は別の次元へと向かっていった。


 ふぅ、一勝負してかいた汗は清々しいぜ。

 結果は、28+1対15。圧勝とは言えないが、それでも大勝ちのほうか、ダブルスコアまでいかなかったのは、流石は人外の能力と言わざるを得ない。

「負けた負けた。いい勝負だったぜ」

 言って、席を立とうとするマルヤム。

「マルヤムさんや、清々しく去ろうとしているけど、解っているよね」

 動きが固まり、こちらをじろりと睨む。

「なんでい、最初だからお試しだろ?これで皆もルールが解ったってことで、次からが本番だよな」

「まぁお試しでもいいけどね」

「おっ、流石大将太っ腹~」

 気前良く俺は言うのに合わせて、マルヤムもほっと一安心したようだ。

「だから、罰ゲームもお試しで行きましょう。何、本当の罰ゲームなら10回書き取りの所、今回はお試しということで、一回に負けときます」

「あ゛ーきったねー」

「異論は受け付けない。で、書き取りするのに当たって、コレを使ってもらいます」

 見せたのは黒い小さな鞄。

「なんだそりゃ?」


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