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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第四章
106/193

カテキヨソルジャー 01

カテキヨソルジャー


 明けて月曜日。

 ………。

 月曜日がやってきた。

 ………。

 休みが足りないよっ。

 後一週間位ごろごろしていたい!

 昨日の今日で、なんともしがたい倦怠感が身体を覆っている。

 と、まぁそんなこともいってられず、起きることにした。

 のそのそ、もたもた、ごろごろ、あぁ布団の温かさが身に沁みるぅ。

「政宗、遅れるぞ。支度は済んだか」

 ノックもせず、ばばんと部屋に侵入してきたのは弥生だった。布団にくるまってて姿は見えないが声で解る。

 とりあえず狸寝入りだ。

「うーんあと5分~」

 などと、甘えたことを言ってもみる。

「……起きていないのか。仕方のないやつだな」

 足音が近づいてくる。

 これは布団を剥ぎ取られるパターンか?それまではこの温もりを堪能しておこう。

 ベッドに重みが加わる軽い軋み音が耳に入った。

 いよいよか?剥ぎ取られるまでは温もりを……。

 ギシリ。重みの形が変わった。一箇所へ向かっての傾斜が線上になって傾く。

 なんだか様子がおかしいようだ。またぞろ突拍子もないことをされるのか?こうなりゃ自棄だ、やられるまではヌクヌクを堪能しておく。結局やってることは変わらない。

 布団の端が捲れる。いよいよか。

 だが、それ以上は持ち上がらない。それどころか、何かが進入してきた。

 ふぁっ?何か変なもんでも突っ込んできたのか?えーいこのヌクヌク王国への闖入者などと、当りを着け寝ぼけたフリして、押し返す。

 ふにん。

 柔らかいものが当たった。いきおい揉んでしまう。

 たゆんたゆんであった。

 しかも生温かい…こっこれはまさかっ。桃源郷にあるという桃かっ!

 ここで、びっくりして顔をあげるような下策はしない。まだだ、まだ俺はねぼけているんだ。ブヒヒヒ、堪能することに集中する。

 むにゅんむにゅんで、ぽわんぽわんな感触。あぁ極楽じゃぁぁ、極楽はあるよっ。

 しこたま揉みしだいていると、それが離れていく。だーめだめだめよ~、まだまだ、まだまだぁ~下がるプリンを追いかけて、手を伸ばす。

「起きたか?」

「…………」

 アブねっ反射的に答えようとしてしまった。ここは我慢だ。我慢しつつもにゅもにゅをむふんむふんする。

 下がるメロンを追いかけて、手が追従する。にゅふふふぅー。

 下がるスイカを追いかけて、手が追従する。にょほほほほ~。

 下がるー。すかっ。

 衝撃が襲った。

 ベッドから落ちたのであった。不格好に顔から落ちた。衝撃で完全に目が覚めた。

「起きたか、政宗」

 さっきまで追いかけてたものを視線だけで探す。

 弥生は制服を着ていた。一糸の乱れも無く完全に着こなしている。

 ………あれ?

 それじゃぁアレはなんだったんだ?化かされたとでもいうのか??それにしては感触は生々しかったぞ???

 視線は胸元から下へ……、そこで俺は目を見開いた。

 手頃な大きさのゴムマリが弥生の手の中にあった。

 騙されたぁぁぁぁ。しかもこんな醜態を観られたぁぁぁぁぁ。

「……おはよう」

「うむ、今日もいい天気だな」

 余りにも普通の調子で返答がやってきた。

「一日この調子ならいいな」

 内心、冷や汗かきまくりだが、あくまで冷静を装って答える。

「では早く着替えをして、朝餉にいくぞ」

 ………うぅぅ、あのゴムマリについて聞きたい。聞きたいが、藪蛇なのは火をみるよりも明らかだ。弥生が言ってこないようなら、こっちも話題にするべきではないか。

「解った、着替えるから外で待っててくれ」

「何故だ?」

「えっ?いや、俺着替えるんだよ?」

「それがどうした?また寝ないとも限らない、しっかり観ててやるから、着替えるのだ」

 お怒りじゃー、お怒りにあらせませる~。

「いや、お願いです。もう寝ませんから、マジ廊下で待ってて下さい。ちゃんと着替えますから」

 さすがに眠気は吹っ飛んでいる。無理やり部屋から追い出して、着替えた。

 今日も一日、無事でありますように。切に心から願った。


 いつもの朝餉、いつもの献立、いつもじゃない面子がテーブルを囲う。

 弥生、千歳、あずさん、……ジャネットと龍造寺辺りはまぁしゃーない。マスターと呼んでるやつや体育祭でのチームメンバーである。ついでにクリスティーナもお誕生日席に陣取っている。いや、彼女も体育祭で同じチームを組んでいるんだけどね。

 隣の机のメンバーがどうしたものか、いつもは開いているのに、人が……いや人外がいる。そいつらがこっちを興味津々とばかりに覗いているのだ。

 源、間部はお約束ですね。椅子を背に隣り合った位置にいる。あと四天王のなんとかグループの残り3人、前田、北条、結城はテーブルの向かい側、遠いところに陣取って様子を観ている。

 日本側がこれで、テーブルのもう半分をカナン、イフェ、ドゥルガーの3人がついていた。

 妙な緊張した空気が流れている……かな?一体全体どういうことなんだ?

 って原因は一つしか考えられない。でもなぁ一本だたら倒したのは千歳含む六道先生等四天王なんだから、俺なんかに興味をもたれてたって、意味ないよなぁ。

 因みに、食堂の反対側ではメアリーとお付きのメイドたちが一つのテーブルで朝餉中だ。態と距離を置いているように感じる。

 エルフの3人は窓側の日当たりのいい場所でこちらとは我関せず、他のメンバーはこの構図を眺めつつ適当な場所に固まって座っている状況である。

 ……なんだかなぁ。

「あーもーうっとおしーのじゃ。お前らどういう了見じゃ」

 案の定、千歳がキレた。なんとか四天王の面々に向かって。

 こちらをちらちら見てた四天王は、視線を明後日の方向へと向け素知らぬ顔をする。

「まぁまぁ千歳さん、朝からイライラは健康に悪いよー。何も言ってこないなら気にしない気にしない」

「………吹き飛ばしてよいか?」

 背後で一瞬にして固まる、四天王その他。

「駄目です」

「じゃがのー、妾は見せ物じゃないぞ」

「大丈夫だ、千歳さんを観ているわけじゃなさそうだし」

 耳目が集まっているのは俺に対してだ。たぶん…。

 先日のことが後々になって、どうにもおかしいことに気がついたのだろう。だからといってこっちから説明するつもりはない。

「お前たち」

 珍しく、弥生さんが発言した。基本、他と積極的に係わってこないのに一体何事だ?

「食事のときは静かにするように」

 静かな喋りだが、威圧が凄いぜ。さすが皇族だ。

「あ、悪い」

 そう言って、朝餉を再開する。

 ご飯を口に運ぼうとして……、ん?周りの様子が変だ。なんというか臨戦態勢?俺とあずさんに千歳を除いた面々の表情が強張っていた。

 ふむ……まぁいいか。どうせ彼女たちもそのうち慣れるだろう。

挿絵(By みてみん)


 どんな冒険活劇があったとしても、学校はやってくる。キンコンカンコンとホームルームの時間がやってきた。

 六道先生が教室にやってくる。普段通りの豪快さのままである。脚もちゃんとある。まぁ繋がってたわけだし、ぼろっと取れてしまってない限り繋がったままなのは当たり前なんだが……。やっぱりこの人も人外なんだと改めて認識した。

「あー諸君、報告がある」

 ん?なんだろう、やっぱり昨日の傷のせいで調子が悪いのだろうか。

「本日より、副担がつくことになった。入ってこい」

 副担だって?そいや普通は副担当の先生がいるっけな。最初っから異例づくしで全然気にしてなかったが。

 全員が入り口をみつめる。

 扉がガラリと開き、外で待機してた人物が入ってきた。

 クラスの面々が息をのむ。

 隻眼の女性だった。片方の目は眼帯で覆われている。

 それだけではなく、片方の脚は義肢だった。艶やかな銀色の髪、銀色の瞳。それはまるで鉄を叩いて鍛え上げたような光沢を放っていた。

「紹介するぞ、天目伊茅子さんだ。授業は機械、電気、電子一般だ。基本ロボテクスや武器全般を受け持つことになる。俺じゃその辺は厳しいからな。なんせ殴った方が早いもんでな」

 冗談を飛ばすが、あれはマジだ。昨日見たし。

「どうぞよろしくお願いします」

 天目先生が丁寧な礼をする。それを受けて、学級委員長たる平坂が号令を発し、こちらも起立して礼をとった。

 ………なんだろう、どこかで会ったような気がしないでもない。だが、あんな特徴のある人物なんか全然記憶にない。出会っていたら絶対憶えているだろうに。

 ふと、目が逢った。にこりと笑みを返されました。何やら背筋に寒気が走った。うーん、この……???

「主よ、気がついたか?」

 横合いから千歳が話しかけてきた。

「なにがだ?」

「あれは一本だだらだぞ。昨日のな」

「あーそれで、既視感があったのか、なるほどー」

 ……あれ?

「なっ、なんだってぇ~!!!」

「そこ煩いっ」

 チョークが飛んできて見事額にヒットした。

「すみませんでありますっ」

 とほほのほ、なんだってこんな目に……。

 失笑が周りから漏れた。態とじゃないんだがな。

「千歳さん、どういうことだ?やつは遠野へ送り返されたんじゃなかったのか?」

「ここにいるってことは、そうでは無かったということじゃな」

「なるほどなるほど……なるほどじゃねー、ということはなんだ?また狙われたりするのか?」

 宿命がとか、もう色々勘弁だ。

「それはないじゃろ。ここにこうして居るのじゃ、何らかの取引が合ったと見て間違いあるまい」

「ふむん、確かにな。まぁ何も無ければどうでもいいか」

「……本当、主は大物じゃ」

「ん?」

「なんでもないのじゃー」


 授業が始まる。いつもと同じ風景がそこに展開され……ない。一学期とは違って、留学組が色々と色々だった。日本組も真面目に受けるつもりがないようで、空気がだれきっていた。

 留学組は真面目に受けてるつもりなんだろうけど、やはりというかなんというか、日本語が読めないせいで進まない生徒が大半だった。

 その性で、俺はまたまた窮地に陥ることになる。どういうことって?こういうことです。

「中島、お前に仕事だ」

「仕事…ですか?」

 放課後に担任の六道先生に職員室に呼ばれ、告げられたのがそれだ。

「このままでは、授業が進まねぇ。あいつらは頭があるが、それを役立てるための言葉が通じねぇ。いや、この場合、“日本語が読めない”だ」

「留学生なんで、それは仕方ないことなんでは?」

「そうもいってられんことは解るよな」

“解りたくありません!”

 ……とは言えない。

「それで、自分にどうしろというのでありますか」

「簡単だ、やつらに日本語の読み書きを教えろ。それだけだ、簡単だろ?」

 横柄な態度で六道先生が言い切った。

「何故自分がですか?生徒に教えるのは教師の仕事ではないのでしょうか」

「そこまで手が廻らんからだ。こっちは学校の授業を教えるので精一杯だし、それ以前のことなんか知ったこっちゃない」

「いやそれって──」

「大体、お前の部下なんだろ?部下を教育するのは上官の勤めだ。なに高校の授業はこっちがしっかり教えてやるさ」

 横暴であるっ!

 生徒としては、教師の案に反対である!!

「それにお前、選択部活はしてないんだろ?丁度やつらも部活動はまだだ。必修もとりあえず一カ月の猶予をとってある。それまでに基礎的な日本語を教えておけ。なに、言葉は通じるんだ、あとは読み書きだけ簡単だろ?」

 簡単々々ゆーなっ。

「簡単であれば、自分より、先生の方が効率よく教えることができると具申します」

「めんどくせぇ」

 本音がでやがった。

「何か文句はあるか?」

 凄まれても困る、なんでメンチきってくるんですか、この素行不良な先生は。

「大体こっちにも事情があるしな。放課後まで付き合ってられん」

 今度は建前ですか。順番が逆ですっ。

「自分が教えるより、他にもっと優秀な方が居ると思うのですが……」

 必死の抵抗を試みる。こっちだって、“めんどくせぇ”だ。

「言ったろ、部下を教育するのは、上官の仕事だって。試されてんだから、それくらいはしろって」

 ……この人はどこまでこっちの事情を知っているんだ?ってまぁ知らない方がおかしいか。人外でもあり、特殊なZクラスという担任でもある。他の教師よりも上から色々と知らされて無い方がおかしいか。

「しかし、問題があります」

「なんだ?言ってみろ」

「自分は奉仕活動中であります。そのような時間を取れません」

 罰当番という便所掃除がまだ残っている。あとちょっとだけど。

「あーあれ無し」

「は?」

 その時、俺はどんだけ間抜けな顔をしていたのか……。鏡はないので知りません。

「苦情が来てな、言ってなかったけ?」

「聞いてませんです」

「じゃあ、今言った。これで終了、良かったな」

 ……えーと、この場合どう逃げ口上をのたまえばいいんだ?

「あーそっか、そうだな、奉仕活動の内容を変更しよう、それなら文句はないな」

「異議ありっ」

「異議は却下だ」

 ………こいつ駄目だ。


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