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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第三章
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暁の地平線 09 + 幕間

 ま~~~た肩車だ。したりされたり、何かにつけ肩車が俺についてまわるのは運命なのか、それとも呪いなのか。あぁ肩車するべきかされるべきか!なんてハムレットしてる余裕はない。とりあえず、ジャネットの両手が自由になったのはいいが、こっちも格好よいとはいえない、特に俺が。

「振り落とされないように」

 ジャネットが中段にツーハンデッドソードを構える。その剣にフォースパワーが集中していくのが力を通した目で見えた。

 青白く剣が光る。

「覇ぁぁぁぁっ」

 横薙ぎに一閃、剣が舞う。

 光が後を追って飛んでいく。闇を切り裂き飛んでいく。飛んで行って見えなくなった。

「やはり駄目か」

「みたいだな」

「今の余では、この結界を破るほどの力がないということか」

 ギリッと歯ぎしりをするジャネット。

 打つ手なのか?いや、何か在るはずだ。考えろ俺っ。

 そうだ、こういう時こそ落ち着いて考えるんだ。落ち着くためにはいつものアレだ。素数を数える!

 2,3,5,7,11,13,17,19…………109,113,127,131,137…あれ?なんでこんなにスラスラと出てくるんだ?

「何か妙案でも浮かんだか?」

「いや、待て。なんかおかしい、ちょっとシンキングタイムだ」

 こんなに答えがスラスラ出てくるなんてまるで弥生のようだ。彼女は言っていた。皇族だからと、それはつまり、皇族かくあるべしと日本国民が望んだ結果だ。では俺は?フォースパワーを廻しているせいなのか?おそらくそうだろう。それしか理由は思いつかない。それにしても良く頭が廻るな。そこではたと気がついた。

「ジャネットさん、フォースパワーが足りれば、結界は破れるか」

「確実に。だが、今の私では──」

「足りない分は俺が供給する」

「いってはなんだが、マスター程度のフォースパワーを供給するといっても余からすれば──」

「それは解っている」

「……どういうことだ?」

 説明するのももどかしい。

「手を左手を俺の手を握ってくれ」

「どういう…」

「いいからっ、それで俺の言いたいことが解る」

 しぶしぶとジャネットは俺の手を握る。

「これでよいのか?」

「あぁ、いくぜ、ぶったまげろ」


 反対の右手を高く掲げる。

 フォースパワーをいつものように廻す。廻す廻す廻す!やはり、そうだ。さっきまではそこまで意識していなかったが、いつもより量が増えている。この空間から俺はフォースパワーを吸っているのだ。気がつけば他愛ないことだ。やつの結界を構成するフォースパワーが充満しているのだ。後は千歳が俺に渡したというように、今度は俺自身が意識して吸引すればいいだけだ。

 掲げた右手から一気に吸い出し、それを繋いだ左手に………。

「ぐぁぁぁぁ」

 激痛が右腕に走った。神経をドリルで貫かれたような痛みだ。

「なんだどうしたのだ?」

「いや、大丈夫だ。ちょっと一気にやりすぎた。もう一度だ」

 格好つけないほうがいいね、うん。

 今度はゆっくりと吸い出す。吸い出したフォースパワーで自身を強化しつつ、徐々に吸い出す量をあげていく。そうして左手に、その先、ジャネットの手へと、流し込む。

「これは……」

 流石のジャネットも驚いたようだ。へへ~ん、日本男児の意地を見ろってんだ。

 段々コツが掴めてきた。といっても一気にはやらない、また同じ目にはあいたくない。さすがに次同じ目にあったら、腕がもちそうにない。徐々に徐々に確実に肉体強化と併せて吸い出す量を上げていく。

 しかし、これは疲れる。フォースパワーで肉体は強化している。だが、この疲労感は精神への負担だ。無理やり奪っていることからくる精神への負担、強制同調の負荷だ。ここでしくじることはできない。歯を食いしばって耐える。

 ジャネットの持つツーハンデットソードが光り輝く、さっきの青白い光ではない、真っ白な直視すれば目を焼くような輝き。

「これならいける。いけるぞマスター」

「やっちまえー」

 叫びと同時に光が迸った。

 それは空間を結界を薙ぎ、粉砕していく。

「雄雄雄雄雄雄雄っーーーー!!!!!」

 視界一面、白い世界で覆われた。


 遠くで俺の笑い声が聞こえる。

 ──やっぱ俺って楽しいなー。流石俺様あめいぢんぐっ──

 あぁくそってめー、観てたんなら助けろってんだ。

 ──その程度、俺なら自分でなんとかできるってもんさ──

 ……ん?俺は誰に向かって???

 急速に声は遠くなり、俺の記憶からも消え去っていく。

 刹那の出来事は夢の如く記憶に止めておくことができなかった。


 光が退くと、そこはさっきまでいた広場だった。

 正面に千歳がいた。八咫烏の姿で。その姿を見るのは始めてあった時以来だな。千歳の傍らには鬼がいる。これは六道先生か、斬られた脚は引っついていて元通りになっていた。どういう構造してんだ。その2人の後ろには源たち4人がいた。

「あーーー、………ただいま?」


 あの後、人の姿に成った千歳に飛びつかれ、肩車からトーテムポールに進化した。後一人乗れば音楽隊になりそうだ。

 肩車のことは、六道先生にさんざっぱら笑われ、源たちにはまたかという顔をされた。好きでやってんじゃないやいっ。

 一本だたらがどうなったかというと、俺たちの足元でのびていた。人の半分くらいの大きさになって。

 おそらく俺たちが結界をやぶったせいで、やつのフォースパワーが急激に減り、目を回して倒れたのだろう。その後、神妙にお縄に付き、六道先生が連れて行った。どういう処罰が与えられたかまでは知らされていないが、おそらく遠野へと送還されたことだろう。向うに行ってしまえばもうどうでもいいことだ。

 吹っ飛ばされた小型ロボテクスに乗っていた隊員はなんとか無事であり、死者はでなかった。最悪の最悪に至らなくて良かったが、なんとも終わり方が間抜けた感じである。

 そうそう俺たちが脱出した経緯だが、ジャネットの力で脱出したことは伏せておいた。日本と海外の対立をさせないためだ。人外の仁義か世間体やらが、どうかなんて解らんが、軋轢は無い方がいい。ジャネットが俺を守っていたら突然戻ってこれたことにした。六道先生や千歳が頑張ったお蔭で助かったという筋書きだ。

 千歳が本当の事を言えといってきたが、頭を撫でて、お前お蔭だありとなと告げると、それで引いてくれた。色々察してくれたようで助かる。今度ラーメンでも苺パフェでも何でも奢ってやることにしよう。

 それと、源たちにはどうやらへたれ呼ばわりされているようだ。喰われて、守られてで何一ついいところが無かったからな。事実はどうであれ。これで、隊長としての面子は急降下したが、まぁ元々あってないようなもんだ。自分から放棄してたしなぁ。ただ、数人からは逆に好奇の目が寄せられることになった。話を聞いて、不思議に思っているのか、半信半疑のようである。確かめるために襲撃とかしてくんなよ~。身が持ちませんので。

 そういや、免許の試験に行ったクリスティーナたちだが、受かったのはカナン一人だったとのこと。クリスティーナは筆記で、イフェは実技で落ちたらしい。また次の日曜にリベンジだと言っていた。カナンには、ご褒美として車の運転権を進呈した。といっても、俺が使わない時限定で。その辺は勘弁してね。


 そして、俺の現状だが……。

 ベッドに横たわっている。学校の……。つまり、女医に弄られている状況だ。いやぁ、腕がぱんぱんに腫れていて、破裂寸前だったとかなんとか、ちょっと聞きたくないですね。どうしてこうなったのと女医が盛んに聞いてくるが、はぐらかすので精一杯だ。

「本当君って、いつも生傷が絶えないわね、このまま在学中の保健室運び込まれ記録を更新するんじゃなくて?」

 冗談じゃないが、冗談にならなさそうなのがとても嫌である。改善の待遇を要求したい。したいが、どこへ言えばいいのやら。誰か受付けを教えてくださいよっ。

「腕はこの位でいいか。さて、ぱんぱかぱ~ん、恒例のFPPちぇ~くの時間よぉ~」

 勿論逃げられない。

 巧みに俺の関節をロックして動けなくされた。

「ねぇDランクまで落ちた気分ってどう?私なら切なさでしんぢゃうかも~」

 患者に向かってなんということをのたまわるんだ。

「それでも先生かっ」

 抗議する。

「残念、女医さんでした~」

 #$%&○△□@※☆!!!

 ぶん殴りてぇ~。しかしそんなことをしたら停学ものだ。血の涙を流して耐える。

「あら?あらあら、君、Cランクになってるよ」

「へ?どういうことですか」

「そんなのこっちが聞きたいわ。その腕パンパンだったのと何か関係してんじゃないの?」

 やべっ藪蛇だった。

「つまり、危険な目にあって、俺の中で何かが目覚めたってことですか」

「何、その中学生みたいな妄想は」

 おもっくそ笑われた。

「ま、でもあながちそうとは言えないかもね」

「は?」

「君、元々B-だったんだよ。時間掛ければそこまでは戻るもんよ。だから、今回の一件で、君の身体が活性化したってこと。こんなに早くあがる事はめったにないんだけどね。言っとくけど、医学的な話よ。何かが目覚めたとかプププ」

 ………やっぱり元に戻るには相当な時間がかかるのか。

 まて、そんなことより、Cランクだ。そうCランクなのだ。それの意味するところはっ!

「良かったわね、またロボテクスに乗れるようになって」

 そうである。って先に言われてしまった。

 まぁまぁいいではないか、先だろうが後だろうが、そんなことより、あのUK仕込みの接続方式のお世話になることが無くなったのが大きい。小早川大尉には悪いが、使い慣れたものの方が何倍も安心だ。

「あと2~3回死ぬ思いすれば、B-ランクに戻るんじゃないか?」

「それは、えーと、凄く遠慮したいですねぇ」

 限界まで身体を鍛えた末に、ランクアップならまだしも、いつもいつも死ぬ思いなんか御免被る。タナボタでロボテクスに乗れるようになったんだから、当分問題ないのだ。

「ま、そうだろうな。毎回毎回ここに運び込まれたらたまったもんじゃない。毎回毎回、FPPチェックするのは一向に構わんのだけどねぇ」

 妖艶に笑いかけてくる。その目の中に実験動物という文字がなければ、100歩譲ってもいいが、これまた御免被る。

 なにはともあれ、終わりよければ全てよし、皆のもの大儀であるっ。



幕間 マッドなサイエンティスト


「中島少佐のFPPがCランクになった?」

 報告書を持ってきた秘書官が頷く。

「てことはなんですか、折角用意したファミリア・コントロール・システムは用なしってことに?」

 再度頷く秘書官。

「折角、昔の技術を掘りあてて、最新の技術と合わさってかなり面白い仕様になったのに、無駄骨に?」

 再々度頷く秘書官。

「いやまて、まだまだ慌てる時間じゃない。別の口実を考えよう。折角手に入れた技術だ、使わないなんて勿体ないことはできない」

 またかと呆れ顔になる秘書官。

「なんだよ、久々に手に入ったいいおもちゃなんだよ?遊び倒さずしてどうするの。もう部隊の皆からは敬遠されて使ってくれないしね」

 手を頭にあてる秘書官。

「まあまあいいじゃない、科学の発展に犠牲はつきものなんだから」

 さすがに怒ってきた秘書官。

「いや、彼が皇族の婚約者だってことは知ってるさ。無下に扱うようなことはしないよ?ホントホント!単に口がすべっ……いやなんでもない」

 右拳をぷるぷると震えながら挙げる秘書官。

「ぎゃぁぁぁ、お助けぇぇ~」


「いい加減にしろっ、いつまで茶番をみせつけんだ、てめーらは」

「これは失礼しました。少々はしゃぎ過ぎましたね」

 小早川大尉が謝る。謝り先は六道先生だった。

 秘書官にお茶の用意をさせ、席に座る。

「んで、どうすんだ?」

「彼女の態度しだいですね。どうしたいかなんて、私が決められることじゃないでしょ」

「ま、そうだな」

 2人して、六道先生の横に座る女性を観る。

 眼帯に片足が義足の女性だ。

「随分と可愛くなりましたね」

 照れる隻眼の女性。

「それはさておき、帰るのか残るのか。残る場合、色々と制約が付きます。これはそちらとの昔からの合意されたことですし、貴女の場合、今回のことで更に重い制限がつくことでしょう。その辺は解ってますよね」

 小早川大尉の説明に頷く隻眼の女性。

「それでも残ると言うのですね」

 再度頷く隻眼の女性。

「こまけぇことはいいんだよ。要はこいつをどうするんかを聞きにきたんだぜ。もったいつけずに言えってんだ」

 慌てた様子になる隻眼の女性。

「……どうしましょうかねぇ。まさかこっちに残りたいなんて言い出すとは思ってもみませんでしたし」

「なんも考えてなかったのかよ」

「中島少佐のことといい、こうも思ってた通りにいかないことばかりなんでしょうかね」

「うるせぇ知るかっ、アレに文句を言え。大体こっちが用意したやつも、お前らが用意したやつも選ばずに、あいつに決めたアレが原因だ。大体、アレの常識外れは今に始まったことじゃない」

「アレなんて失礼な言い方ですね。アレの素晴らしさが解りませんか。常識外れの大馬鹿野郎なんて表現、本当に適用できるような人物なんですよ、アレは」

「おめぇだってアレ呼ばわりじゃないか」

「いえいえ心底私は敬っていますよ、本当にね」

 2人の会話におろおろする隻眼の女性。

「で、どうすんだ。早く決めな」

「そうですねぇ……平日は六道さん、貴方が面倒を……いや監視をしてください。休日はこちらに来てもらって、私のお手伝い…もとい、事情聴取ってのは如何でしょう」

「それって…」

「日割りはまぁ今のところはそれで、何かこっちで色々とあったときは詰めて貰うことになると思いますがね」

「はぁ、それでいいなら……。お前はどうなんだ?」

 力強く頷く隻眼の女性であった。


誤字脱字その他修正に入ります。

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