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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第三章
102/193

暁の地平線 07

 その間に注文した品々がやってきて、舌鼓をうつ。かなりいけますよこれ、この店大当たりですねっ。マジで贔屓にしよう。

「それで、夏の間捜索しまくって、漸く隠れ家を見つけたってことか」

「うぬ、でじゃ。妾を含む者たちに招集が掛かったと言う訳じゃ」

「軍はどうしたんだ?普通なら俺たちよりもそっちが出るんじゃないのか」

「撃退されたそうじゃ。幸い死人まではでなかったようじゃがな」

「撃退って……」

「相手は一体じゃ。それを相手に大軍で押し寄せてどうする?街中にも被害が及ぶことにもなりかねん。だから少数の専門と謳う部隊であたったようじゃがな。如何せん相手が悪かった」

 なるほどね、街ん中で軍隊がドンパチは不味いとその手の専門家を出したはいいが、追い返された結果もちはもちやならぬ、人外には人外で対抗か。それにしても俺良く生きてたな。いや死んだっけな、あっはっはっはっーって笑い事じゃないっ。ん?あれ、それなら何故俺まで呼ばれることになったんだ。

「話は解ったが、そこに俺がどう絡んでくるんだ?」

「主はあやつと因縁があるじゃろ?こちらが攻め入ったとして、あやつは逃げ出すかもしれん。保険のようなものじゃ」

 詰まるところ、囮ですか。

「主のことは妾が守るでな、大丈夫じゃ。それに、実働隊の腕は確かなもんじゃぞ」

「マスターに危害が加わるようなまねは私もさせません」

 ジャネットも負けじと言ってきた。いやはや頼もしい限りで。

 ふぅ……。ホント、退院してから怒濤の展開ばかりだ。因縁……因縁ねぇ。丸めてごみ箱に捨ててしまいたい気分だが、そういう訳にもいかんよな。つか、俺だって奴には一発ぶちかまさないと気が済まない。奴が捕らわれて利用されていたという話は、入院中に聞いてはいるがそれでもだ。

「仕方ないな、よろしくされるとするから、守ってくれよな、頼りにしてるから」

 情けないが、今の俺にはこれが精一杯なのであった。

「で、行き先はどこだ?」

「それはだな……」


 山の麓にトレーラーが8台並んでいる。この中ににロボテクスや装備やらが格納されているのだ。

「大型2機、中型2機、小型4機持ってきていていますよ」

 正面から現れた人物が構成を告げた。

 そいつは、小早川大尉であった。

「皇軍の貴方がここへ?」

「えぇ色々ありましてね。今回の主役は人外の彼女たちですが、彼女たちだけを戦闘行為に出させるわけはいかないだろ?名目ってものが必要なんですよ」

 かわいくウインクしてきても、相手は男だ、かわいくない。

「あの中の一つに俺が登場するのですか?」

 小早川大尉は意外そうな顔をした。

「君が積極的に係わろうなんてね、このあいだの感じだと、逃げる理由をありったけ陳べるだけ陳べて……私達を困らせる」

 肩をすくめて見せる。

「確かにそうかもしれません。ただ、今回はどうにも因縁があるそうなんで、しかたなしです」

「しかたなしですか」

「えぇ、そうことです」

「ま、いいでしょう、やる気になっているのに水をさして済みませんでした」

「それで自分が乗る機体は?」

「君が乗る機体は、ありませんよ。それに普通の機体ですから、今の貴君では扱えないでしょう」

 そりゃそうだ。

 それじゃ、囮としてどうするんだ?まさか生身で山の中へ入れとかいうんじゃないよな…。ちらりと背後の千歳をみる。

「もしかして?」

「残念ながら、サクヤは此処にはありません。まだ調整中なので、こればかりはどうしようもありません。貴君には小型ロボテクスを1機護衛にまわします。あと柊殿達が着くわけですから問題ないでしょう」

 あっさりと言ってくれた。生身決定の瞬間であった。

「といっても、防護服はありますから、それを着てください。まさか無防備にするわけないじゃないですからね」

 割と防護服着てたとしても無防備って気はしますがね。ホント気休め程度にしかならなそうだ。

「銃器の扱いはできますか?」

「まだ習ってないので……」

 これからなんですっ。生きていたら……。

「仕方ない。少佐なんですから、これくらいは持っておいてください」

 オートマチックのハンドガンを手渡された。ズシリと金属の重さが伝わる。

「9ミリのホローポイント16発入ってます。それと予備弾装を4つベルトはこれね。使い方くらいは?」

「それは一応聞いてます」

「なら、大丈夫ですかね。味方に向けては撃たないで下さいね」

「……気をつけます」

 装備は銃一丁とアーミーナイフ一本、甚だ心もとない。

「とりあえず状況を伝えます。まず人外の方たちが山に入り、ここから200メートル先の広場へと誘導します。その広場に貴君達が待機していて欲しい」

「そんなバレバレな誘導にかかるとでも?」

「ま、それは率先して来るのは五分五分ってところでしょう。誘導で8割り、残り2割りは逃げられるそんな計算です」

「思ってたよりざるなんじゃ?」

「そうかもしれません」

 あっさりと認める。

 おいおい大丈夫なのか?

「さりとて、彼等人外はある一定の行動論理があります。こういうシチュエーションならこう動くというのがね」

「なんですか、そのお約束なものは」

 なんだか呆れる話だ。

「して、奴の衝動とはなんぞや」

 千歳が割って入ってきた。

「それは、鬼ってことですよ。相対したものがいると、戦いを挑んでくるというね。角のあるタイプはそういう習性があるそうです」

 そういえば、ジャネットも何か言ってたっけ。そのせいで、契約なんてするはめになったんだったな。

 それが人外へと転変したものの受ける呪いなのか……。そいや、大概の人外に転変したものは世界を憎むといわれているんだったな。そういったものが、彼等を縛っているならば、それから開放すれば……今はそのことは後においておこう。どうすれば開放できるんだってことが解らなければどうしようもない話である。

「奴の習性を利用するとして、本当にやってきますかね?」

「来ても来なくても、なんとかするのが我々であり、彼等です。来てくれた方が何かとやり易いのですけどね」

「まあ、そうなるな。俺たちに任せておけばいい」

 正面に堂々と現れたのは、六道先生だった。傍らに源撫子と前田利子、北条桃花、結城紅葉の4人がいた。

「先生?それと皆、どうして?」

「俺たちがその専門家つーやつよ」

 源が言ってきた。

「俺たちは四天王候補者、そしてなにあろう、六道先生こそが四天王の一人、玄武の六道その人であるぞ、頭が高い。ひかえ~ひかえ~」

 はは~とはしない。

 だれも土下座なんかしてなかった。

「お前らー、こうもうちょっとのってこいやー、折角の登場シーンだぞ。ほらぁっ」

「で、この二軍共で大丈夫なのか?」

 千歳の冷たい視線が源を貫いた。喫茶店では手練のようなことを言ってたのに、面と向かってしまうとこの言い方。……うーん、ハッパかけてるつもりなのかなぁ。

 まぁ源のあの台詞はないわな。いくらなんでも、突っ込まざるを得ない。

「直接の戦闘はさせないさ、斥候係りだ。見つけたら俺を呼ぶ、んで俺がお前たちの所まで誘導して仕留めるって寸法だ」

 六道先生が説明する。さすがに、生徒に危険なマネをさせるつもりはないようだ。

「手ぬるくないか?」

「まあ、実習を兼ねてな。なんせ俺いま教師やってんだから」

「そんな考えが通用するといいのじゃがな」

 千歳の言いたいことがわかる。接見即討伐と言いたいのだろう。

「山ん中で戦闘すると、逃げられる可能性あるからな。奴のお目当てを目の前にぶら下げれば、逃げないだろ?」

 俺の方を向いて、にやりとした薄笑いを浮かべる。

「ところで、そっちのお嬢ちゃんはなんだ?まさか俺たちの問題に割って入ろうって気じゃないだろうな」

 鋭い視線が、ジャネットを射貫く。

「そちらの事情など知らぬ。余はマスターを守るのみ」

「先生、一応ジャネットも生徒なんですよ。そういうのは良くないんじゃ?」

「坊主、良く聞きな。これはこっち、日本の問題だ。外国のもんが係わると後々煩いんだよ、それが生徒であってもな」

 ドスの聞いた声で告げてきた。人外だけあって凄味が半端ない。

「そうなんですか…」

「そうなんですよ」

 酷薄な笑いと供に告げる。

「そういう状況らしいがジャネットは了解したか」

「問題ない、マスターに危害が及ばぬ限り、手出しはしないと約束しよう」

「話が早くて助かる。さすが俺の生徒だ、素直でいいねぇ」

 またそういう挑発は……。

 ジャネットと六道先生が睨み合いになる。火花が今にも飛びそうな雰囲気だ。

「その辺で良いだろう、お主たち。そろそろ準備の時間であろう」

 千歳の仲裁があって漸く緊張がとけた。カタギの人にはお見せできないよこれっ。

「話し合いは終わりましたか?」

 小早川大尉が呑気な調子で話しかけてきた。

「たぶん」

「それでは作戦ですが、先ずは源さんたちが斥候で一本だたらが潜伏していると思われる場所を捜索します。発見次第、六道さんが追走に入り、こちらの広場へと誘導します」

 傍らで頷く六道先生たち。先生たちは既に作戦を知っているようだ。

「次に、広場には中島少佐を置いて、待ち構えます。ロボテクス部隊は左右に展開して潜伏します。一本だたらが少佐を見つけるでしょうから、やってきた所を柊さんとで挟み打ちにする寸法です。なので、えーと……」

「ジャネットさんですね」

「ジャネットさんは中島少佐に危害が加わらない限り何もしないで欲しいのですが」

「努力しよう」

 頷くジャネット。

 作戦の概要は解った。だが、やはり気になることが多いのも事実だ。

「なぜ、ロボテクス部隊で討伐に当たらないのですか?」

 聞いてみる。

「それは、一本だたらがまだ我々の誰をも殺害していないからです」

「どういうことですか?」

「彼等人外と我々とは不殺の取り決めがあります。昔からの取り決めですので、ここで文句を言わないように。向うが殺意をもってこちらに向かってもいませんしね。それで、まあ今まで捕獲を主体としてましたが、殺されていないだけで、重傷者多数と言うわけです。これ以上はということで、六道さんたちに話がいったのです。彼等同士であれば、最悪殺害となっても彼等同士の問題となるのでね」

「まっ、そういうこった。大人しく遠野に戻ってればこんなことにもならなかったのに、馬鹿なやつだ」

 切って捨てる六道先生だった。

「でも、何故、ここにまだ居るのですか。やつの目的はなんなんですか」

「そんなの捕まえてから聞きゃいいよ」

 大雑把な六道先生であった。

 まぁ軍隊も倒してから調べるのが常套手段だ。人外のことは言えない。


 トレーラーからロボテクスが出てくる。12式であった。ということは、皇軍なのか。小早川大尉が居る時点でそうなのかと思っていたが、本当にそうだった。

 12式は別のトレーラーから武器を取り出す。ロングソードとヒーターシールドに銃器だ。あれは、30ミリ機関砲か。あんなのが命中しなくても至近距離で通過した日にゃ人さまにお見せできない惨状がいっちょあがりになること請け合いだ。

 他にも中型ロボテクスがラウンドシールドとメイスに20ミリ機関砲。これまた凶悪ですよえぇ。小型ロボテクスは透明なタワーシールドにサスマタ、銃器が投網のランチャーか。捕獲用装備だ。

 ともあれ、人に向けて撃ってはいけませんな武器がぞろぞろと勢ぞろいだ。

「皇軍なんですね」

「ええ、さすがに、最悪の最悪となった場合、帝国軍では対処できないでしょうし、この事態自体、帝国軍に任せては世論が騒ぎます。皇軍であれば、言い訳も楽ですから」

 なんだかとんでもないことをさらっと言われた気がする……。

「それに、皇軍が出る理由はちゃんとあるんですよ」

「そうなんですか?」

「この近くには誰が居ると思います?」

「皇ですね」

 皇軍の意義を考えれば即効答えがでてくる。疑問の余地もない。

「正解。それと貴方もね」

「俺がですか?」

「そうです。なんせ婚約者なのですから。大義名分は十分揃っている訳です」

 囮だけではなく、大義名分も俺に掛かっていたのか……。冷や汗が流れた。まっおまけ扱いなんだろうけどさ。

「以前は本当に肝を潰しましたよ、ええ」

 小早川大尉はちらりと千歳に視線を向けて言った。

「ええい、昔のことをうじうじと、だから今日出向いてやったというのにしつこいのじゃ」

 千歳がむくれた。

 ……とりあえず、聞かなかったことにしよう。くわばらくわばら。

「付近の封鎖が終わったようです。では時間を合わせましょう。いいですか」

 こうして、一本だたら捕獲作戦が開始された。


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