暁の地平線 06
祝!100回目\(^o^)/
「それって何の──」
ってところで、部屋の扉をノックする音がした。
「その話は後でするからな」
なんでこう忙しいんだっての。
「はいはい開いてるよ~」
入ってきたのはクリスティーナを先頭にイフェにカナンの3人だった。
「ねー明日暇?」
「……忙しい」
「嘘だっ」
即効、クリスティーナに論破された。
「本当本当、明日は千歳と……」
鬼退治に行くんですーなんて言えない。つかナニソレですよ。
「ちょっと出かけることにしているんだ」
「うむ、妾が先客じゃ」
「ふぅん、デートなんだ」
所により血の雨が降りそうなデートかもしれません。
「まっ、それはいいとして、ちょっと連れてって欲しいところがあるのよ」
どこまでもマイペースなやつだ。
「私達も、その…クリスと同じ用なのです」
イフェが申し訳なさそうに言ってきた。
「えーと連れてってって、送るだけ?どこへ??」
「主よっ」
「まぁまぁ送るだけならいいじゃない」
ここでゴネられるのも嫌だしな。あっさりした用事なら、聞かないこともない。
「運転免許試験場なのです」
ふむん、どういうことか解った。俺としてもこの提案はやぶかさではないというよりも、是非取って欲しい。つまり……クリスティーナを見る。
「いいじゃんかよ。これで文句ないだろっ」
「一発で取るつもりか」
「そうよっ」
「……問題が読めるのか?」
「勿論よ」
えへんと胸を張る。まぁその辺は与り知らぬ処であるが……。やりたいようにやらせておこう。
「受付けは朝だったよな。7時半に出れば間に合うか。帰りは知らないぞ」
「オーケーオケー、それでお願いするねー」
「千歳もそれなら問題ないか?」
「……仕方ないのぅ」
はっ!何で千歳の方まで了承しちまったんだ。流れって恐ろしい……。
そして夜は更けていった。
エンジンをかける。今日も快調!
「……で、なんで君まで?」
搭乗者は俺、千歳、クリスティーナ、イフェ、カナンだけではなく、闖入者が一人増えていた。
「マスター居るところ余あり。契約者とは一心同体、何か問題でもあるのか?」
「して、本音は?」
「………」
返事がない。言いたくないようだ。
「どうせ暇だったからってオチだろ」
「そっそんな訳がないだろうっ。余を愚弄するつもりか」
顔を真っ赤にして否定してくるが、他になにがあろうというのだ。大体、一心同体といいつつ、俺が罰当番で便所掃除やってるときは居なかった。全くもって信用度ゼロである。
「まぁ俺はいいけど、千歳はどうなんだ?いいのか」
水を向けられ、千歳はジャネットを見つめる。
「なんだ余が居ては邪魔だとでも申すのか」
敵意を露にジャネットが噛みつく。
「弱い狗程良く吠えるというが、お主はその部類かや?」
「おのれ、言わせておけばそのような暴言許さぬぞ」
なんだって一触即発な雰囲気になるんだよ。いきなりこんなんじゃ先が思いやられる。
「千歳、言い過ぎだ。大体、お前には何時も言っているだろう。仲良くしなさい」
「妾は妾が認める者としか仲を良くするつもりはないのじゃ。泥棒猫なんぞと、仲よーなれるわけがなかろう」
「貴様ーっ」
「やめろお前たちっ」
2人の視線がこちらを見据える。どっちの肩をもつつもりなのかと、目が訴えている。
「仲良くできないなら、2人ともここで降りる。千歳、約束はなしだ」
「主ー」
ねだり声で言うが、ここは断固たる態度をとる。
「返事は?」
「しかたないのぅ。着いてきても良いが、自分の身は自分で守るのじゃぞ」
「問題ない」
……あれ?一抹の不安が過った。鬼退治ってなんかの揶揄するもんじゃなくて本当のことなのか?
「そういえば出かける場所って──」
「中島さん、そろそろ行かないと遅れるー。免許が取れなかったら責任取ってもらうからねっ」
クリスティーナが出発の催促をしてきた。あぁもう、確かにここで時間を潰すわけにはいかない。彼女たちの免許はこれから必要になるだろうし、降ろしてから問い質すしかないか。
「んじゃ、行くぞ」
おーっと意気揚々と免許組が答えた。
朝の風は涼しい。これから段々と気温が上がってくと思うと、部屋でゴロゴロしていたくなる。
「免許とるのは、3人だけなんだ」
目的地に着くまで、無言って訳にもいかず聞いてみた。
「まだ文字読めない子とかもいるし、そもそも車なんて必要ない子の方が多いからねぇ」
クリスティーナが説明する。
時速100キロ位なら素で走ってそうだな……。あのマルヤムって娘を思い出す。
「だから、免許が欲しいのは、僕みたいに運転好きかそれとも、必要のある子になるね」
「ふーん」
つまり、イフェとカナンの2人は移動するのに必要であるということか。
「脚で移動するのはもうこりごりですから」
イフェが言ってきた。
なんか発言が重い。
褐色肌の2人は確か中東辺りの出身だったな、資料を思い出す。ざっと見ただけだからうろ覚えだ。あの辺りはまだまだ紛争が絶え間ない地域と聞いている。聖地の取り合いから消失までの時期はもっと酷かったという。
日本の西向うと同じように地形が変わっている。スエズが運河でなく、海峡になっているのもそうだ。人の想いの壮絶さの一つとして語られている。
「免許があるのはいいことだよ。身分証明にも使えるからね」
何故かは聞けなかったので、話題をずらす。
「そうですねえ」
イフェも曖昧な回答で話を濁した。
「そうだ、免許とったら車だよな。何か決めているものでもあるのか」
「僕はスポーツカーかな、真っ赤な奴で速いの」
喰いついてきたのはクリスティーナだ。
「もう目当てのものは決まっているんだ」
「ま、買えないけどね」
そうだよな、いくらなんでもメアリーのカードからってのは無理がありすぎる。彼女達も持ち合わせなんかなさそうだしな。
「私は、頑丈なのが欲しいです」
カナンも希望を告げてきた。
……イフェと2人してなんとも重い発言だ。
「それなら、日本車はビルから堕ちても動く奴があるし、希望に添えそうなのは探せばあるよ」
10年落ち位なら、なんとか買えるかもしれないな。そんな状況には遭遇したくもないが。
「この車も頑丈そうでいいですね」
「あぁそうだな、免許をとったらこの車を運転することもあるだろう。頑張って取ってくれ」
うーん、クリスティーナに運転はなんかされそうで怖いが、この2人なら安全運転してくれるかな……。
「運転しても良いのですか?」
「安全運転してくれるならな。なんせ軍の装備品だ、大事にしてくれないと困る」
車じゃないが俺もそろそろ自分のバイクが欲しいなぁ。瑠璃に見繕って貰えれば、良いのが手に入りそうだし、今度聞いてみるか。
ともあれ、重くなりそうな会話へ持っていきがちなイフェとカナンを避けつつ、日頃の他愛ない会話を続けた。ここまで気をつかう必要はあるのだろうか……、それとも、そっちへ突っ込んで欲しいのか、外国人のメンタリティは良く分からないのであった。彼女たちへの接し方とか、メアリーと話し合った方がいいのだろうか、なんだか泥沼に嵌まってないかこれって?
「それじゃ、期待してるよ」
「まっかせてー」
根拠もなく元気に答えるクリスティーナとイフェ達を送り届け、車を走らせる。
「そんじゃ、千歳の用事を聞かせてもらおうかな。時間があるなら喫茶店とかでどう?」
「そうじゃな、集合時間まではまだ余裕がある。そこで経緯を語ろうとしようぞ」
「ジャネットもそれでいいか?それと、一般人がいるんだから、出発のときみたいなのは無しで頼むよ」
了解と返答があり、俺は適当に喫茶店を探して車を走らせた。
見つけたのは平屋様式のベランダのある木造のもので所謂バンガローってやつで、そこに車をつけた。
喫茶店の扉を開けるとカランコロンと軽やかなカウベルが鳴る。入ると、木とニスの香が鼻腔を心地よくくすぐった。
「いらっしゃいませ」
白いフリル過多のブラウスに大きめの赤いリボン、同じ赤色のスカートをフリルと2本のストライプであしらい、黒い帯、黒タイツ、黒い編み上げのブーツで着揃えたウェイトレスさんが迎えてくれた。
「3名様ですか?こちらの席へどうぞ」
軽快な声で案内され、俺たちは奥の壁際の席へと着いた。
「ただいまお水をお持ちしますのでお待ちください」
厨房へと消えていく、ウェイトレスを眺める。
「主よ」
やっぱ喫茶店とかは制服であるのがいいよねぇ。私服とか面白味に欠けるというものだ。
「主?」
この喫茶店は要チェックや~。他にも同じような所がないか探さねばならない。そうだバイク買った暁には探して走るのもいいだろう。
夢想していたら、ミシリと脇腹に鋭い痛みが走った。横に座った千歳からの手刀だ。
「なっなにかなー」
痛みを表に出さずに問いかける。
「はぁ、以前妾が着ていた衣装にも反応したし、今度はこういった服がよいのか。主は中身には興味がないのが良く分かったわい。お主も、こんなのがマスターで良いのか?考え直した方が身のためじゃぞ」
「そのような世俗的なことなど気にせぬ」
切って捨てるジャネット。
「いや、これは厭味ではないぞ。本当にこやつでいいのかと心配しただけじゃぞ」
「くどいっ」
珍しく千歳が普通なことを言っている。……あ~~、なんとも身につまされました。色々御免なさい。でも、仕方ないよ男の子だもん。自分に言い訳をする。
ウェイトレスさんが水を持ってきて注文をとる。俺はケーキセットを注文し、千歳はイチゴパフェとブレンド、ジャネットはプリンアラモードにエスプレッソを頼んだ。
厨房に戻っていくウェイトレスさんを目だけで追いながら、話を戻す。
「千歳の用事って具体的にはなんなんだ?」
「鬼退治じゃ」
「や、だからそれってなんのことだよ」
千歳は俺の顔をじっと観る。
もしかして俺が関係することなのか?鬼といえば、源、マルヤムなんかの角持ちのことだ。まさか彼女たちを退治するなんてことはない。こないだの騒動は人外が絡んではいない。どっちかというとこっち側が人外側とも言える。まぁあれは相手が自業自得な訳で、警察に御用となっているはずだから、意趣返しもないだろう。それに、千歳が“鬼退治”だといって態々出張る事案でもない。
ならば、他に鬼という要素を挙げるとすれば、筋肉ムキムキなやつで、該当するのは六道先生辺りだろうか。あの人は自分のことを人外だと暗に告げていたから、そうなのかもしれない。って退治される謂れはないだろう。あの先生がなにをしたというのだ、第一俺のことを気づかっていたし……、あれ?そういえば、── お前、当分独りで出歩くなよ──なんてことを言ってたな。もしかして、単に俺の行動を自嘲させるための発言では無かったと?
「もしかして、俺って狙われたりするの?」
「なにを今更なことを、主は妾の婿であるのじゃぞ。当然である」
ちょっと話がズレたかなー。ってなんだよっ。マジですかいっ、一体誰に狙われてんの。そして、その“狙う”って意味なんか違ってなくなくね?
「いや、取り敢えず今はその話はおいといて、身に覚えがない」
「主は色々健忘症でいかのう。2カ月前のことも覚えとらんのか」
2カ月前?なんかあったっけ……って問うまでもない。文化祭、ひいては武闘会である。
激戦だったなぁ。色々しごかれたりもした。それで勝ち上がって……。あ!
「思い出したか」
「いや、あいつって逃げていったんじゃないの?」
「そうじゃな」
「じゃぁ問題ないんじゃ?」
「何処に逃げたのだと思う?」
外の景色に視線を這わせる。山の方に跳んでいったけな。そこから?
「まだ、この辺にいるってことか」
「そのようじゃな」
一つ目、一本脚、電柱のような身体が大きな特徴であるが、確かに頭頂部に一本の角が生えてたなぁ。
「そいつを捕まえるってことか」
「場合によっては、倒すかもしれん」
……物騒だな。
「私にも説明しては貰えないか」
ジャネットが俺と千歳のやりとりが解らず聞いてきた。まずった、完全に蚊帳の外に放り出してた。取り敢えず、簡単に説明する。
一度は行ってみたかったなぁ