ゲーム開始
すいません。更新遅くて
「神にならないかって……俺がですか?」
「もちろん。君以外に誰がいるの?」
俺は、神様の笑顔を見て、心が弾んだ。
そうか……俺が神か。このまま元の世界に帰らずにここに留まって神になる。それも悪くない。
元々それなりに自殺願望があるくらいあの世界には未練がなかったしな。
この提案かなり良いかもな。別に家族とかどうでもいい。
遥は……まぁ、もう金輪際関わらないよう強く言っておいたから俺がいなくなっても何も言わないだろう。
「とりあえず、考えるのはいいけどさ。そのパイプにもたれるのやめてくれないかな?」
神様は、俺が、背中を預けていたそれを指差すとそう言った。
「何か不味いことでもあるんですか?」
「いやいや、不味いことも何も、それ死んだ魂の黄泉までの通り道だよ」
「そういうことなら早く言ってくださいよ!」
うわぁ、最悪だ。俺がさっきまで聞いていた一定に刻まれた鼓動の音は死んだ魂が贈られる音だったのか。
俺はすぐにそこを離れると最初俺が座っていた位置に戻った。
「人間の魂ってさ。人間に注入するときは綺麗な色しているんだけど、死んだときって黒くて粘々しているんだよね」
なるほど。子供は純粋で年を取っるたびに黒くなっていくってことか。
そういうことって今まで観念的にしか理解していなかったけどこうして色とかで言われると本当にリアルだよな。
「あっ、そうだ。もし神になったときのガイダンスとして君に神の仕事を教えてあげよう」
そう言うと神様は立ち上がって奥にあるタンクにチューブをつなげると段ボールをひと箱、こちらまで持ってきた。
「じゃあ、ちょっとこっちに回ってきてくれない?」
「わかりました」
俺はそう頷くと、立ち上がって、神様の元に近寄った。
「じゃあ、ここ座って」
俺はポンポンと指定された場所に座る。
「じゃあ、これ持って」
そうして俺に手渡されたのはチューブの先端につながったガソリンスタンドで良く見られる給油するとき車に挿しすあれだ。
名前が出てこないので、わかりにくかったら申し訳ない。
「で、次にそこの段ボールから一体適当に取り出して」
俺は、左を向いて、手を伸ばすと段ボールの中をまさぐった。
「なんか、ぶよぶよしているな」
「丁重に扱ってくれよ。傷つけるとお金にならない」
なんか内職みたいだな……。全然神様っぽくない。これじゃ金に困った主婦みたいだ。
まぁ、でもこれが神の主な仕事なのだから手を抜くわけにもいくまい。
俺は1つ適当に選ぶと、それを取り出した。
「うわっ、何だ……これ」
それは手のひらサイズの大きさの海老のように丸まったうす橙色の物体だった。
感触も相まってか、はっきり言って気味が悪い。
「それはね……人間さ」
俺の質問に神様は、そう答えた。
「これが……人間」
「そうさ。納得いくだろ。神様の主な仕事其の1。人間の創生ってね」
あれは聖書だけの話かと思っていたんだけど、まさか本当に神が人間を作っていたなんてな。
改めて見てみると確かに胎児っぽいな。この固く閉じられた目とか。手とか。
「もう1つは、これだね」
俺は、神様と胎児作りの作業をいくつかやった。
行程は頭の部分の蓋をカパッと開けて中に燃料を注入した後、ダストシュートに投げ込むだけの簡単なものだったが、トチュで俺の気がおかしくなりそうだったので、もう覚えたと言って辞退した。
そうして、今俺たちはテレビの前にいる。
「これ……テレビですよね?」
「うん、テレビだよ」
うん、テレビだよ。って。人間を嫌っていたんじゃないのかよ。テレビって人間の創造物だぞ。
「これって、普通に番組が映るんですか?」
何か、チャンネルあるのかな。でも、特に事件と言う事件も起きなさそうだけどな。
「いやいや、これはそんな番組が映るくらいしか性能のない人間界のテレビと一緒にしちゃいけない」
そう言って神様は、電源を入れると、画面に映ったのは、
「これはどこかの町?」
アスファルトの道に沿って両脇に多種多様な色の屋根が横並びに連なっている。
そして、神様がテレビの横のボタンをカチカチ押すたびに画面に移る街並みはどんどん鮮明になって、ついにそこで歩いている人の顔までわかるくらいまで近づいた。
「まぁ、そうだね。僕が治めている日本のどこかの地域だ。で、どうしようかな……あっ、じゃあこの番の男女にするかな」
さらにカチカチとボタンを連打して、ズームしたのは、歩道を歩くカップルだった。
「ケイちゃん、次どこ行くー?」
「お腹空いたから何か食べに行こうか、レナー」
ベタベタなカップルだ。
神様は、ちょうと横に並んで歩く2人の頭が見えるくらいに画面をセットすると、2人のカップルに手を触れた。
すると、画面に文字が羅列した。
「なるほどこのカップルは、男の方が前田圭一。女は竜崎レナと」
そう言うと、神様は、近くの書棚に駆け寄って何かを探し始めた。
俺はその間、暇なのでテレビに近寄って、
「なになに、前田圭一。東京出身。16歳。将来の夢未定……って、これ個人情報じゃないか」
そこにはそのカップルの個人情報がびっしりと包み隠さず書かれていた。
「確かに、ただのテレビじゃないってわけだな……」
そのカップルはもちろんそんなことになっているとは知らず楽しく手をつなぎながら、道を歩いていた。
「よーし、あった、あった。ごめんね。待たせちゃって」
神様はそう言うと、何かを持って俺の隣にまでやってきた。
「いえ、全然構いませんけど、それよりその手に持っている奴は何です?」
俺は指差すと神様はそれを床に置いて広げながら説明を始めた。
「これは神様を神様たらしめる道具その名も、運命ノートさ」
それはただ罫線が引かれたどこにでもあるノートのように思えた。しかし違った。
「よしよし、こいつらだな……」
俺はそう言って神様が指差した場所に目をやった。
そこには確かにさっきの二人の男女の写真があった。そしてその下にプロフィールが細かい文字でびっしりと書き記されていた。
「これをどうするんですか?」
「まぁまぁ良く見てみ?」
それは嫌な予感しかしない笑顔だった。しかし、どうなるのか見てみたいという好奇心もあって俺はただ黙っていた。
すると神様はそのノートに書かれた文字をすべて消しゴムで消し始めた。
いったい何が始まるんだ。
男の方が終わると、女の方も消し始めた。
俺はずっとそれを見守る。どうでもいいが、汚い消し方だな。
「よし、これで完璧」
消し方雑すぎてページが消す前よりも汚いことになっているけどこれはこれでいいのだろうか。
しかしそんなこと気にするようでもなく、神様は俺に
「見てろ?」
俺にそう言うと、汚くそこに何かを書き始めた。
「……よし、これで完成」
何を書いたんだ。俺はそれを覗き込んだ。
そうして絶句した。
――10秒後に2人仲良く突っ込んできたトラックに轢かれて死亡。
「テレビの画面を見てごらんよ?」
まさかまさかまさかまさか…………。
俺はさっとテレビの画面に目を向けるとそこには変わらない光景が。
「何も変わってなんかいな…………」
テレビの右端には、なぜかあと5秒、4秒と減っていく謎のカウントダウンがあって俺はそれから目を離すことが出来なくなった。
ゆっくりと減っていく。
3…………2…………1。
「終わりだ。人間。あの世で楽しくやるといい」
……0。
カウントと同時に、俺は2人を探した。その2人は別にどうと言うこともなく歩道を仲良く歩いていた。さっきまでは。
突然奥からやってきたトラックがものすごいスピードで2人に向かって突進してきて2人はなすすべもなくそれに巻き込まれた。
そしてそのトラックは2人をクッションに家の壁に衝突して止まった。
それは本当に一瞬のことで。
画面の中は騒音に驚いて駆けつけた人々の悲鳴で満たされていた。
「これは…………」
もしこれが俺がここにいる間に現実世界で本当に起こったことだとしたらどれだけ神の力は絶大なんだ。
「……どうだい? 君。これが神と人間の力の差だよ。そして君はこんな反吐が出るほどに弱くて、泣き叫ぶことしかできない愚かな人間どもから全てを意のままに扱える神の権利があるんだ。どうだい。なる気にはなったかい?」
価値の無いくせに俺の周りを蠅のようにうざったく飛び回る人間の生命をこの手にできるのか。
それはすごく俺にとっては魅力的だ。ただ一つ不安があるとすれば、俺にこんな大きな仕事が務まるのか、ってことだ。
「あの……もし俺がこの仕事を断ると言ったらどうなるんですか?」
保険のために逃げ道を確保しておかなくては。
俺自身、物事を引き受けるときは十全に相手に確認を取ってから遂行するタイプだ。
「臆病風にでも吹かれたのかい?」
「ちがいますよ。ただ保険をかけて、あなたの答え次第で天秤を揺らすだけです」
「ふっ、やはり君は面白い。他の人間とは違う。……でも残念ながら君には2つも選択肢が用意されていない」
どういうことだ。俺に選択肢が用意されていないって。
「その顔はどうやら僕の言いたいことが分かっていないようだね。よし、わかった。教えてあげよう。もし、君がここで僕の申し出を断ったら今すぐに君を元の世界に返すよ」
「……それは本当ですか?」
俺はつい聞き返した。
「もちろん。ただし、記憶は返さないけどね」
俺は一瞬、もちろんと言ったところで断るほうに傾きかけたがその後の記憶は返さないという言葉で思いとどまった。
「それに、君は神の秘密を知ったんだ。波風立たずに事が済むとでも思っているのかい?」
俺はついぞ血の気が引いた。そうだ。俺の声明も俺の目の前の奴に握られているんだった。
あのカップルがミートパテになったのもあの2人だけに限らず、俺だって矛先が向けば同じ末路を辿るんだ。
そんな恐怖に耐えられるだろうか。俺はちらっとそれを想像してすぐにやめた。耐えられるわけがなかったからだ。
そんな俺を見越してか神様は
「でも、もし君がここで神になることを選べば、君は日本限定だが君の思うように作れるんだ。それに、君がもし肩入れしたいと思う人間がいたら、その者の人生を如何様にも変えることが出来る」
「な……それは本当ですか?」
「あぁ、まぁ神にはあるまじきことだが、出来ないことではないよ。だってさっきの運命ノートをそういう風に書き換えればいいんだもん」
正直言ってそれまで俺の中の天秤は平衡状態だった。こんな不慣れな世界で人間のために奉仕などしたくないという思いと、自分の思うように出来るという思いがほぼ同等でせめぎ合っていた。
ただ今の一言で完全に雌雄を決した。
「で、どうする? 神やるかい?」
俺は一つ呼吸を置くと
「……はい、やります」
確かに頷いて見せた。
人間世界に未練などない。好きな人間も離れたくないっていう奴ももういない。
「そうこなくっちゃね、君。じゃあ、今ゲームの準備するから、待っててくれよ」
そう嬉しそうに言うと神様は色々と探し始めた。
俺はその間、テレビの画面をぼーっと見ていた。
あぁ、俺ゲームをクリアしたら神になるのか。もしなったらまず最初に何をしようかな。
一回日本まるごと沈没とか悪くないよな。それとも細菌でばらまくか?
まぁ、どちらにせよ、俺は人間をやめるんだよな。すごい嬉しい。
「よーし、準備できたよー。こっち来て」
呼ばれて俺はフレームの黒いブラウン管テレビの前に座ると、はいと言われて手渡された。
「……いや、あの何ですか?これ」
俺は手の中に収まった四角い横長のコントローラを見せる。
「わかんないの? それはコントローラと言ってね……」
「いや、それくらい、ゲームをやったことのない俺だってわかりますよ。そうじゃなくて何で神になれるかを決める試験でこんな物を」
このえんじと白を基調とした筐体とか俺でも名前くらい知っているぞ。確かファ○コンとか言う名前だったか。
神様は筐体の中央にカセットをがちっとさすと、テレビの電源を入れてビデオ1に切り替えた。
色々と突っ込みどころ満載だけどこの際もう流れに身を任せよう。
その内、レトロな音楽とともに画面は色づいた。
――神様試験用ソフト 大戦末期を駆け抜けろ
赤い文字で、でかでかとそれが表示され、その下にドット文字でニューゲームとロードがある。
「十字キーでニューゲームを選んで、Aボタンで選択すればゲームのスタートだよ」
ええっと……これが十字キーかな…………。
俺はコントローラーについた黒い十字ボタンを下に押した。
「うん、それで後はAボタン、そうその赤いボタンを押せば始まるよ。最高に楽しいゲームのね」
俺は赤いボタンを凝視した。それは本当に小さいのに。これですべてが始まるんだ。
「どうしたの、君ともあろう子が手、震えているよ?」
確かに俺の手は震えていた。
「いや、大丈夫です。はい押します」
俺は、一度呼吸をして心を落ち着けた。そうして、ボタンをゆっくりと押した。
その瞬間意識は、示し合わせたかのようにゆっくりと遠のいていった。
「頑張って僕を楽しませてくれよ……」
そうして俺の神になるゲームは幕を開けた。




