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6 第三の男


夢中になっている時に初めてそれを聞いたと思う。


発した本人は、気が付いてない様だ。

火照った身体がまだ繋がっている余韻を伝えていたから。



女の場合は分かんねぇけど、男って多かれ少なかれ

元カノとか無意識に引き摺ったり未練が残ったりしてる

場合多いし……


何故かタブーな時に限って、うっかりNGな名前を

出しちゃったりするんだよな。


所詮、人間は感情の生き物だし仕方が無いかもと

それを責めようとは思わない。


ま、確かに自分の下でしかも最中に言われると

流石にいい気はしないが……



ただ、


ハッキリと聞こえたわけじゃないけど、

先生が明らかに俺とは別の名前をこんな時に

口にするなんてかなり意外だった。


元カノかな……やっぱ……


嫉妬心を感じなかったといえば嘘になるが、

男である俺と今こんな関係にあるとしても

相手が女だと思うと不本意だけど、

やっぱ一歩譲歩してしまう。


そうのうち、その女の事なんか俺が忘れさせてやる。


と、心では思っていてもなかなか強気に

口に出せるモンじゃない。


男と女じゃこの場合、どうしても俺の方が分が悪い気がする。



「……どうした?」


急に動きを止めた俺を怪訝そうに

見上げてる情欲に潤ませた目とかち合った。



「ん?先生がエロいから見とれてた」


「……一之瀬、次は無いからな」


「ウソ!ウソだって!」


半分はホントだけど。


見下ろした顔がメチャ扇情的で、

さっきから腰が疼き放なしで止めてる事が

辛くなってゆっくり動きを再開させた。


次第に漏れる声にも感覚にも

俺は先生にどんどんのめり込んで行く。


……でも、先生はどうなんだろう?


そりゃ、誘って拒否られる事の方が多いけど、

この人が応じるってそういう気持ちが無きゃ

ガチで無いよな?



大人の余裕で本心を簡単には見せてくれない。


そこが焦れるけど、また俺を夢中にさせる理由でもあった。


先生、もっともっと俺を好きになって、俺に夢中になってよ。


俺みたいに欲しくて堪らなくなって、

俺なしではいられないようになって欲しいんだ。















「え?……ごめん、よく聞こえなかった」




学校では滅多に先生と二人っきりで

話すことは出来ない。


前に一度、先生がダメだって言うのを無視して

無理やり数学準備室に押し入り、

キスしまくって服を脱がしかけてたトコに

他の教師が入ってきて危うくバレかけて以来、

学校で不用意に近づくなって釘刺されてしまった。


確かにヤバかったけど、

俺が話すぐらい良いじゃんかと言ったら、

すかさず、話すだけでお前我慢できるのか?って。


これには前科があるだけに

ぐうの音も出なかった。


だから久々に授業が終わった後

小声で準備室に来いと言われた時、

天にも昇る心地で来たというのに。



何だ……コレ。


先生は軽くため息を吐くと、

もう一度その台詞を口にした。



「別れよう」





「……何で?」



すかさず言い返したものの

俄かには信じ難い言葉を無表情で、

事も無げに言い放つ人物に思考が停止した。


「急に何でそんな事を言う?

俺、なんか気に触ること言った?した?」


色々心の中を探るが気が焦って

思い当たる節が見当たらない。


「嫌いになった?」


先生は静かに頭を振った。


「……じゃ、飽きたのか?」


「どれも違う」


「じゃ何なんだよ!理由言えよ!」


段々血が昇って叫びに近い声が出てしまった。


「意味分かんねェー!はい、そうですか、

なんか言える訳ねーじゃんよ!!」



キンコーン



空気を読まない予鈴がなるが

そんなことは今どうでもいい。


「授業いかないのか?」


「はぁ!?今、そんなのどうでもいいだろ!」


「そうか。じゃ俺は出るから」


信じられない。

十朱は俺を無視して教室を出ようとする。

まるで何も無かったかのように。


「待てよ、まさかこのまま行くんじゃないだろうな」


「話は終わったからな」


「認めねぇーって!授業なんかいってられっか!」


「好きにすればいい」


少しだけ視線が合った瞳には色は無く

まるで見ず知らずの他人を見るような

冷ややかなものだった。


俺はまだ一切、関わりがなかった頃の

人に対して無関心で無表情な先生を

思い出していた。


なんでいきなりこうなる?


昨日までにこんな兆候はなかったハズだよな。


AAに残るために毎日勉強をし、少しでも好きになって

もらいたくって、服装も態度も改めて先生の好みに

近づけるよう随分自身を変えてきたつもりだ。


実際、俺は変わった。

外見も考え方も自分でも笑えるくらいに。


これもそれも全てはアンタの為なのに。


何が足りない?言ってくれれば俺は……

今の自分を殺したって良いくらい、

アンタが好きだ。



「――俺、重い?」


「もう一度だけ言う。この話は終わりだ。

俺とお前は先生と生徒、それ以外何も存在しない」


それだけ言い残すと

今度は振り返らずに行ってしまった。



俺はその場で呆然とするしかなかった。


それ、何だよ?

そんなんで納得できると思ってんの?


分かってないのは先生の方だ。

数学じゃないんだぜ、人の感情がそう簡単に

割り切れる訳ないのに。


俺、もうアンタなしじゃ無理なんだって。







納得がいかない俺はその日先生を捕まえるべく

裏門で待ち伏せすることにした。



頭の中がさっきの理不尽な別れ話を反芻している。


「終わらせるもんか」


あんな一方的に切り出されて、終わりだなんて

分かるかってーの。


どうにかして先生の本心を聞き出し

説き伏せるかシュミレーションを立てるので精一杯で

声を掛けられてるのに暫く気が付かなかった


「……あの、もう授業は終ってる?」


結構間近で聞こえた声に反応して向くと、

綺麗にスーツを着こなす

いかにも仕事が出来るエリートって感じの、

俺より5~6センチは高いであろう

20代後半位の男が立っていた。



「あ。そ、そうですけど」



不思議に思ったのは

その男が俺を見るなり驚いた顔で一瞬だけ。

険しく表情を変えたように見えたから。


「そう。外来窓口を教えてもらいたいんだけど、

何処かな?」


「えと、この先を~」


見間違い……か?


「ありがとう」


穏やかに礼をいうその口調からは

さっきの射るような眼差しは覗えない。


去り行く姿を何気なく見てると

その人は何か思い出したように振り向いた。


「君、”AA”クラスの子だよね?」


「……はい」


この特殊なクラス、ましてや

タグやタイを見て気が付くなんて

関係者以外ないはず、だよな?


AAのOB?


そんな言葉がチラリと過ぎったが、

次の言葉でさっきの表情が

俺の見間違いでなかった事を証明した。




「十朱先生を待ってるんだろ?一之瀬君」






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