4 クラス替え
俺は今期のクラス替えで、めでたくAAに入ることができた。
流石にC組からいきなり編入というのは、かなり珍しい様で
最初は何かと探りをいれられたっけ。
敵情視察ってとこだろうな……馬鹿馬鹿しい。
にしても、ほんと静かな教室。
外で体育してるクラスを恨めしげに溜息をつく。
ここは前みたいに級友とバカ騒ぎみたいなノリはない。
正直退屈で仕方ない部分があるが、
このクラスに留まる為にはそういう甘い要素を
捨てた方が良さそうだ。
同じ学校だというのに以前のクラスと
雰囲気はまるで違う。
クラス全体がピリピリしてる感じさえする、
いわば級友というよりライバルっていった方が
しっくりくるか。
こんな窮屈な場所で我慢してる理由は一つだけ。
「小野先生が風邪で倒れた。よって
引き続き3時限目の物理も私がする
異存は無いな」
「はい」
流石AAだ、皆静かに次の授業の
用意に取り掛かっている。
これがC組だったら一騒ぎなのにな。
教壇を見ると同じく数学の教科書から
物理を準備してる十朱がいる。
そう、俺がこの殺人的な居心地の悪さを我慢してまで
ここにいる理由は一つしかない。
このクラスにさえいれば、
毎日教室で無条件で十朱に会うことができるのだ。
こうやって改めて見るとイケメンというより
マジ美形というか……しかもこんな怪物みたいな
頭脳の生徒を遥かに凌駕している教師なんて
そうそういないだろう。
決してやさしくは無いけど教え方が上手い。
実際、俺は先生からのスパルタ個人授業で
一気にこのクラスに入れたし。
まぁ、俺の邪な思念で必死に勉強した
賜物でもあるんだけど、さ。
しかも他人を寄せ付けないこの人が、俺にだけ
特別視してくれるのはモノ凄い優越感だ。
誰かに自慢したい気持ちとは裏腹に
俺と先生の間に誰も入り込ませたくない
感情のほうがより強くって、
正直この秘密裏な状況にかなり満足していた。
誰も俺以上に先生の事を知らない。
クラス替えの告示の発表があったその放課後
初めて先生とキスをした。
そう
教師以外の顔を
唇の感触とかを
俺は知ってる。
俺だけが知っているんだ。
「何ニヤニヤしてる」
「してないよ」
「授業中にだ。気味悪かったぞ」
「ひでーな」
てか、授業中俺の事見てくれてるんだ」
「お前みたいなニヤケた顔してる奴はあのクラス
にはいないから目立つんだよ」
「それでも気にしてくれてたんだ?嬉しい」
「……バカ。お前の顔はどうしても目に入るんだ」
顔が心無しか赤く見えるのは
欲目だからなのか?
俺……やっぱこのクラスに来て良かった。
俺は十朱の俺を見るカオや言葉に、
一々有頂天になっていた。
その言葉や表情にどんな意味があるのか等、
この時の俺は知るよしも無かった。




