16 写真
「写真?」
「うん、入手したんだ」
「…………」
「どうした、コレ?」
いいでしょ~と言いながら頬に摺り寄せる
その姿に呆れる。
「いいでしょう……っていうか
それ、俺だろ。誰から手に入れた?」
「中村先生」
「え?」
出処の意外さに驚く。
「中村先生が近く教頭になるだろ。
で、移動の為に机整理してたら
出てきたんだって。
十朱先生に返しといてくれないかって」
先生、昔から机の上物凄かったけど
全然片付けられていなかったとは……
中村先生は俺を此処に誘ってくれた恩師だ
あの人にだけは昔から頭が上がらない。
「コレ、隠し撮りだよね」
「隠し撮り?」
「うん。中村先生も言ってたけど
十朱先生が昔在学中の時に
女生徒が持っていたのを没収したらしいよ。
本人に許可取ってないものはダメだって言って」
「……先生の頃はまだ共学だったから
メチャクチャモテてたんでしょ」
「はぁ?俺が?まさか」
「それって先生鈍いから
気が付いてないだけじゃん」
俺、お前の中でどういう位置づけだ?
「今更だけど先生、AAだったんだね
この制服、凄く似合ってる……」
写真を改めて見せられた。
……懐かしい。
「今まで制服、色違ったから
何かまだ慣れないんだよね。
浮いてる感じがして、先生はグレー着た事ある?」
「無い」
「じゃカラピンも?」
「ああ」
「スゲ……生粋の特クラか。カッコよすぎ」
一般生徒の制服がグレーに対しAAは黒。
ピンタグも一般は学年に合わせカラフルな色だが
ここは学年・クラス章も純金、加えて
級長になるとプラチナのピンが増える。
本当、そこまでやるかと思うくらいの徹底ぶり。
「ね、ピンタグまだ持ってる?」
「まさか。
親が卒業するの待ち構えていたから
今頃は指輪かなんかに化けてるだろうさ」
「そうなんだ。
でもホント、可愛いなぁ先生
マジ、モテててたろうに」
しみじみ何言ってるんだ。
中村先生か。
俺達の事を誰よりもよくご存知の人だ。
コイツが何も言わない所をみると
七嗣の事を話されなかったのか。
……今の姿を見れば
先生だってダブっていらっしゃるだろうに
コイツを介して俺に思い出せないよう
配慮して下さったのかもしれない。
そういうところが実に先生らしい。
今の俺のやっていることを知ったらどんなに
落胆なさるだろう……
――――いや。
何を思って今頃この写真を
よりによってコイツに渡されたのだろう。
つまりは……そういう事なのか。
やはり貴方には一生、敵いそうにもない。
許して下さい。
もう七嗣はいない。
理屈では分かってても
感情が未だ追いつかないんです。
貴方の愚かな生徒のままの俺を
……許して、下さい。
アパートに着き部屋に
入ろうとする俺を一之瀬が引き止めた。
「先生……好き」
ドアに押し付けられて
いつもの様に熱を帯びた目で俺を見る。
この目と、この顔に俺はどうしようもなく弱い。
俺が動かないのを了承と捉えたようで
様子を窺うように軽く触れるようなキスをしてきた。
「こんなとこで……」
唇を離した時そう言うと
顔を赤くしながら一之瀬は視線を逸らさず
僅かな抗議をしてきた。
「学校では皆いるからって
滅多にさせてくれないし
……オレずっと我慢してて……」
「ったく、しょうがないな」
少し見上げてから一之瀬の首に自ら腕をまわして
引き寄せると一之瀬は真上から唇を下ろしてきた。
やっとの思いで息つぎをし
漸くその体を押し戻す。
「続きはまた今度な」
「……もっとしたい……中、入れて?」
「ダメだ」
あからさまに見せる失望の瞳に心で溜息をつく。
「これで我慢しろ」
そういって自ら唇を合わせ舌を絡めると
一之瀬も夢中で舌を動かしてきた。
「……このまま帰れると思ってんの?」
「ああ、思ってる。帰るんだ」
体を離すと今度は抗議視線を無視した。
「先生……ズルイよ」
「大人はズルイんだよ」
「…………」
「ああ、一之瀬。
それと、何度も言ってるが
学校以外では[十朱]と呼べ」
振り向かせたその背中にそう告げると
一之瀬は何か言いたそうな顔を一瞬見せて
名残惜しそうに何度も振り返る姿に
苦笑してしまう。
「全く……なんて顔してやがる」
不意に背後から聞き覚えのある声が掛かって
反射的に身体が強張った。
挿絵は、AA時代の十朱です。




