表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/21

15 泡沫

学校には来てる形跡がある。


だが、その姿は見えない。


(何処だ?アイツ)


散々探して、やっとここしか無いと思った

果たしてその場所に奴を発見した。


授業中、屋上でお昼寝か……


おまけに鍵が壊れてないところを

見ると、合鍵を所持してるのは確実。



風にそよぐ軽い髪。

伏せられた目から鼻……顎のライン。


俺は唾を飲み込む。



「成績は中の下か」



起きたソイツが俺を見上げ目が合う。

瞬間、その瞳の懐かしさに俺は全身に震えが走った。



声、声、その声が聞きたい。



「……アンタ、顔に似合わず毒舌なんだな」


驚いた顔でそれは返ってきた。



なんだ……声は似てないんだな。


そう、だよな。

流石に何もかもってある訳がない。


馬鹿か俺は。


次第に淡い期待が消えていく。



声が違う。


表情も、口調も似ても似つかない。


心の中の失望を感じつつ


「ほら寄こせ」


回収の為に差し出した手に

しぶしぶ渡してきた鍵を受け取る時、

その指先が触れた。



―――温かい。



当たり前なのだが、生きてる。


目の前にいるコイツは生きてるんだと

思うと、突如最初に見た時の感情が

ぶり返して泣きそうになった。



見たい。


AAの制服を来たコイツを。


分かっている。


それは自分でも愚かな行為だと。

分かっていても、この衝動を

最早、止めようとは思わなかった。



数回言葉を交わして

大体の性格、行動パターンは把握した。


「見てろ!近いうちに俺の成績をみて

テメーを平伏せてやるからな!」


ホラな。

煽れば簡単に食いついてくる。


「期末が楽しみだな」


実に扱いやすい馬鹿だ。


今は器だけ。中身は全くの別人。



だが、そのうち……


俺は内心冷ややかに笑っていた。








38位。


渡された成績表を見る。



チッ……自力じゃここまでか。




「……どうせなら個人授業してくれればいいのに」


「いいぜ」


最初からそのつもりだ。

この俺がついていて、無理だとは言わせない。



「いいのかよ、先生が贔屓なんかして」


の割には少し照れて嬉しそうにしてるくせに

と笑いそうになる。


「お前ならAAのタグ付けれると思うぜ?」


すると今度は真面目な顔をして

俺の目を凝視してきた。


耐え切れず思わず目を逸してしまった。


……その目で俺を見るな。


自分のやってる事を七嗣の目で

責められてる気がして居た堪れなくなる。



―――今更、お前に言われるまでもなく

教師としてどころか、道徳観も倫理観さえ

とっくに範疇を逸脱しているとか分かってるさ。


だったら何だというんだ?



「”センセイ”だって人間だ。

でもヤなら止めとくか?」


……今度はあからさまに落胆の表情に変わる

くるくる表情の変化にちょとした違和感を感じた。


アイツはそんな顔をしなかった。


もっとポーカーフェイスを学ばせなきゃな。


もっと……七嗣は……


この顔をぼんやりと見ながら

そんな事を考えていた。








また、溜息。


個人授業を始めて暫く経つが、何だか

最近コイツの様子がおかしい。


イライラしてるのかと思えば、俺の方を

睨んできたりと……


次の編成試験まで間が無いというのに

一体何だというのか。


昨日出した課題のチェックをしている時だった。


「なぁ、もし俺が”AA”に上がったら、

先生は今度は別のヤツの勉強見るの?」


返事をしない俺に苛立ってか

再度同じことを言う。


「お前が他人の事考えてる余裕無い筈だ」


下らないと一蹴しても尚もしつこい。

何が言いたいんだ?



「俺はアンタが好きなんだ。

誰にも渡したくねぇよ、言ってる意味くらい

幾らアンタでも分かんだろ?」


予想外だった。


言葉が出ない。


ましてや顔なんて見れるはずが無い。


覗き込むな、こんな顔見られたくない。



本当にその口が言ってるのか?


二条じゃなく俺に?

これは現実なのか?


「ねぇ、キス……して良い?」


耳元に息がかかってビクリと身体が跳ねた。


「……返事が無いとこのまましちゃうよ?」



俺がお前に逆らえるとでも?



「……AAに入ったら、だ」



「先生が望むなら」



先生?


―――お前はダレだ?








「先生!オレやったよー」


廊下の向こうから手を振りながら駆け寄ってくる。


AAのクラス章を付けた襟を嬉しそうに

見せる一その姿。


その光景があまりに眩しくって

知らず目が細まる。


抱き付かれて反射的に抱きしめた。


(七嗣……)


「先生?」


「似合うよ、やっぱりお前」



(やっぱり七嗣はこうでないと)


「先……生っ」


少しだけ俺より高いコイツに

羽交い絞めにされるように抱きしめられた。



(七嗣!)



あれは夢だったのだろうか?

だって七嗣は今オレを

抱きしめてるじゃないか。


「……つ……ぐ」



俺はゆっくり確かめるように

もう一度その身体を強く抱きしめ返した。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ