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14 再会

初めて見たとき息が止まった。


呼吸をするのも忘れるくらい驚いた。


当然だ、そこには……








「あ、十朱先生最初に言っておきますね

きっとAAと違って教室うるさいと思いますが

注意するとちゃんと静かになるんで」


エヘヘ、と妙な笑い方で、宮田先生が

自分の受け持ち教室の前、

突然立ち止ってそんな事を言う。


つまり一言わなければ騒ぎが収まらないと

いうわけか。


AAでは先ず考えられない光景だ。


「了解しました。

注意を促せば、きちんと聞き入れてくれる生徒ばかりだと

受け止めれば宜しいですか?」


「は、はい!そんな風に思ってもらえて光栄です」


ちょっと理解しがたい言い回しだが

恐らくは合ってると考えて良いらしい。



副担として配属された2年C組。


「Morning all !」


その挨拶と共に

名目上の顔見みせということで、

宮田先生について教室に案内された。


普段とは違う担任の後ろにいる存在に、

教室全体が浮き足立つ。


「オイ……アレって十朱じゃねぇ?」


「うそ……マジで?

なんでこんな一般教室にいるわけ?

副担の話デマじゃなかったのかよ」


「てか、オレはじめてこんな近くで

十朱見るんだが……」


「俺も、俺も」


予想通りの様々な好奇に満ちた小声に

ウンザリしながら伏せ目がちだった視線を上げ、

軽く教室を見渡した。


そして……



「!!!!」


ある人物の所で目が動けなくなってしまった。



様々なざわめきも一瞬、聞こえなくなる程

魅入っていた。



俺はソイツを余程凝視していたようで

宮田先生が俺の視界を遮るまで、

自分が何処にいるのかさえ忘れていた。



「……十朱センセ?」


やっとの思いで視線を引き剥がすと

ようやく何とか簡単な挨拶を済ませ、

教壇の端で宮田先生の授業風景を見学することになった。


勿論、表向きは……だ。


椅子に腰掛け、その意識は自然と例の生徒に向く。



長年の眠りから強引に目覚させられたような

錯覚を覚えた。



だって、そうだろ?


そこには、あの七嗣がいるのだ。



我が目を疑わざるえない。


もはや似ているなどというレベルではなく、

そのものだと言い切ってしまってもいい位。


幼馴染で一番近くにいた自分がそう思える程、

顔の造形、軽く柔らかそうな髪質とか、

記憶の中の七嗣と重なり合う。



「皆落ち着いたかぁ?

ホラ、十朱先生呆れられてるじゃないか。

授業始めるからちゃんとやれよ~」


少しづつ静まっていく授業の中、

俺は手元の生徒名簿を何度もめくる。


当然そこに”七嗣”という名前は見当たらない。



名前、名前は何ていうんだろう?



声は?仕草や考え方も似てるんだろうか?


不謹慎極まりないと律する気持ちとは裏腹に、


どうしても知りたい気持を抑えようが無かった。



「先生、授業どうでしたか?

十朱先生がいると思うだけで柄にもなく緊張しましたよ」


教務室に戻りすがら、宮田先生に話しかけられた。


「いえ。流石、向こうに5年も留学されていただけあって

発音も見事でしたし、何よりも授業の内容の組み方が

非常に上手いなと感心させられました。

事実、皆集中して聞いてましたしね」


が、驚いたように宮田先生が笑い出す。


「ははは。

逆、逆ですよ。

皆、十朱先生に緊張して静かだったんですよ」


「?」


「あんな静かな授業初めて体験しました。

十朱先生の貫禄というか

やっぱ……改めて尊敬しました」


尊敬……?耳慣れぬ言葉が痛い。

俺は……そんな風に思われるような

人間じゃない



「先生の足元にも及びませんよ。

私の方こそ、学ぶことが多かったです。

ありがとうございました」


「十朱先生~お世辞が過ぎますよ~」


照れて必死にかぶりを払う宮田先生を俺は

初めて少しだけ羨ましく思う。



貴方みたいに真っ直ぐに生きられたら、きっと

どんなに楽だろうかと。








名前が分かった。


”一之瀬”と、いうらしい。



生徒記録に目を通す。


2年の時に編入?

どうりで今まで気がつかなかった訳だ。

……尤も俺は生徒に特に関心を持ってなかったのもあるが

だからといってあの顔を見逃す筈は無い。


しかし、編入とは珍しい。

そして親の肩書きを見て俺は納得した。

お偉さんの息子って訳か……


AA生徒と同様、

一般生徒とは別の、通称”金のファイル”に

分類されてるのがその証拠。


前の学校をサボり、煙草等々休学を繰り返し

世間体を気にした親が業を煮やして

この金持ち高校に無理やり編入でもさせた、

という辺りかな。


寄付金を積めば許容範囲が広がるって方針、

それがこの学校の唯一の汚点だと常々思う。


俺の家はその中で一般的な家庭だったから

この私立の学費はかなり家庭に負担だった。


最初こそ家から反対されたが、

此処の特殊システムの存在を知り、

学費、学食、衣服、交通費、日用品に及ぶ

諸々が全て免除のAAに入る事が条件で、

ようやく受験を許してくれた。


実際三年間、AAに留まることなど

俺にとっては造作無いことだった。



―――全ては七嗣といたいが為。


それが可能なら、俺は何でも出来た。




個人情報を一通り見終わった後、

成績添付ファイルを見て愕然とした。


「何だ、この成績」


この前の中間248番?有得ない。

AAとかいう以前に……

よくCクラスにいられるな。


……驚くほどのバラついた成績がその要因のようだ。



こんなのは七嗣らしくない。



俺はアイツに近づく事を決めた。



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