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13 骸

少なくとも、そこにいけば顔が見れた。

触ることも話すこともさえ。


……例え誰かのモノであったとしても。


人ってあんなに泣けるものなのか。


多分一生分をあの時に、俺は使い果たしたような気がする。







『此処には来るなと言ったろ』


近づく足音。


やがて俺の視界を遮断し、

フェンスを握りしめていたその手を外された。



『危ないから離れるんだ。

ったく一体この病院の管理はどうなってるんだか。

あんな事件があったってのに、

二度と入れないように病院側にキツく言わないとな』


『九方、俺は……』


『何だ?』



『俺は……もう駄目だ……駄目なんだ』


両足がカタカタと震えた。



『……アイツがいないなんて、耐えられない』


立っていられず、

ズルズルとその場に座り込む。


『見逃してくれ……俺も逝きたい……一緒に』


俺の目はあのフェンスだけを捕らえてる。


『バカ!できる訳ないだろ!!

俺はアイツなんかにお前は渡さない』


九方は怒鳴った後、俺の身体ごと、

包み込んだ。


『お前なら残される気持ち分かる筈だ』



『頼む……たの……む』


まるで子供のように九方に蹲り

奴はそんな俺を目を細め苦々しく言った。


『お前は七嗣の亡霊を追ってるだけだ』


『……亡霊でも何でもアイツがいるなら、それでいい』


『馬鹿なこと言うな』



『俺はお前みたいに立派じゃないさ。

アイツを引きずって

生きてなきゃ、息もできない』



『現実を遮断して生きることで

やっと自我を保たせてるのは知ってる。

今はそれでもいい、生きろ!何でもいいから生きてくれ。

俺の言葉、届いてるか?十朱?』


『…………』



『責任は感じてる。

オレが自覚させてしまったからな』


『責任取るから、俺と約束しろ。

どんな形でも良い、生きるって』


俺は何も返答出来ないまま、

抱えられるように屋上から引き擦り出された。



その後、


九方が手配したのか病院の屋上は閉鎖され、

もう二度とあの扉を開けることは出来なかった。







数年たった今も、俺は相変わらず

母校の教師を続けている。



正直やめてもやめなくっても

何もかもがどうでも良かった。


ただ、

他に何もする当てもなく惰性で続けてきたに過ぎない。



いや、それ以前に


むしろこうやって自分が生きている事自体が不思議だ。



この何年間の記憶が薄く、


夢なのか現実だったかはっきりしない

思い出すらあるのだから。



七嗣がいなくなってから俺は”生きる”事を放棄した。

文字通り生きる屍だ。


余計な事はもう何も考えたく無かった。


惰性であってもいつかは終わりが来る。


それをひたすら俺は待っているのかもしれない。




感情の欠片を持たない俺が教壇に立って、

生徒に意義ある学生生活とやらを、

与えるなど荷が重すぎる。



生徒にとっても、こんな教師とは名ばかりの

人間に担任になられたら、

迷惑以外の何者でもないだろう。


知識を与えること以外、俺には何も有してなどいない。


だからこそ、こんな自分などが生徒と関わり合うのは、

極力に止めて置くべきだと思っていた。





「十朱先生~今日から新学期ですね。

石田先生のピンチヒッターで、私のクラスの副担をすること、

引き受けてくれてありがとうございました」



職務室に入ると2年Cクラスの担任、

宮田先生がドアを開けて開口一番そう言いながら、

俺に近寄ってきた。



「理事から直接話があったもので、

後任が決定するまでの短い期間になるとは思いますが」


「あ~成る程。ですよねー

じゃなきゃ十朱先生がウチなんか、

来てくれませんよね」


苦笑しながら笑う宮田先生は、

それでも心なしか嬉しそうにみえた。



この学校では担任等、就く就かないは

ある程度選ばせてくれる。


そのかわり色々と制約もあるが、俺はもともと

人と接するのは苦手で、最初に希望を出していた。


とはいっても、こうやって臨時的に穴埋めの為の、

副担任までを流石に断ることは出来なくて、



……受けるしかなかったんだ。


「いえいえ僕の背後に立っていて頂けるだけでも

充分励みになります!先生は普段AAのクラスしか

受け持たない、生徒にとってもカリスマ教師ですからね」


「背後……カリス……」


嫌味の欠片も無い満面の笑みで言われてしまったら、

流石に言葉を失くすといったところだろうか。



―――宮田先生。


年上だが年が近い所為か、いつも俺を見かけては、

気さくに話しかけてくる。



他の先生はAA出身者で更に出た大学を知ると、

一歩引いて俺に接してきていた。


それ程の学歴を持ちながら何故母校とはいえ、


高校で教師なんてやってるのかと。


そんな中、何の警戒も見せず、


「やっぱ凄いですよね!十朱先生は」


と、唯一屈託の無い笑顔で話しかけてくる宮田先生は、


かなり稀有な存在なのかもしれない。


少し童顔で背も低いが、

その分何事にも気合でカバーってのが信条らしく、

その実俺とは違って本当に教育熱心で生徒のことを

よく考えていているから当然人気もある。


他人に関心の無い俺が”宮っち~”とか呼ばれているのを

何気なくでも記憶しているくらいだ。


生気に満ちた光の中に身を置く眩い位、

俺とは真逆の人物。


自分には到底真似などできそうにもない。




宮田先生は嫌いではないではない……ただ苦手だ。

俺には光が強すぎて眩暈がしそうになる。



「宮田先生。

あまりお役には立てないと思いますが、

よろしくお願いします」



俺は型どおりの障りない挨拶で返すのがやっとだった。







携帯の方、長いのでいつも読みづらいと

思いますが、そんな中読んで頂ける事に

感謝しています。

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