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10 親友の位置

あれから二年後。




七嗣は司法試験を一発合格後、司法修習生として、

研修所や裁判所を行ったり来たりと忙しくしていて。



一方、俺はごく一般的な家庭だったし

特別背負うモノも無かったから、

なんとなく取得していた教員免許を使うか

改めて公務員にでもなるかと

思案している頃だった。



生活リズムが異なる中、

なんとか都合つけてこうやって七嗣と会うのは久々。



店に入ると珍しく先に来ていたのは奴の方。




「何?雨か」


視界に入った傘にそう言った後、

俺の服を見て


「十朱、その服……」



「知人の葬式後なんだ、悪いな」


「いや、それは構わないが」



「おやっさん、俺にも熱燗で貰える?」


数品頼んだあと七嗣の修習の話や

俺が母校の恩師から教員として

誘いを受けてる等世間話をした。



酒も大分入ったところで、


「なぁ。さっき言ってた知人

誰と思うよ」


そう切り出した。


「……俺の知ってる奴なのか?」








「…………二条だ、と言ったら?」






横でヤツが固まったのが分かった。

それからゆっくりと俺の方を向く。



「一昨日の夜、学生がふざけてて

車道に飛び出したのを庇って……」



痛いくらいの視線を横顔で受け止め

俺は続けた。


「その学生、お前にそっくりだったそうだ」



「!!」



「お前に泣く資格は無いから」



まだこの時点では、

その先を言うつもりなどなかった。



終わったことを確認できれば

それで良かった。


もし真実をいつか知ることがあって

コイツに何か言われたとして、

俺は受け流す自信があったんだ。



―――過剰な演出。



自分のあざとさに反吐がでるが、

恐らくは余裕無いぐらい

馬鹿だったのかもしれない。




「卒業式の時、二条に言ったことは

全部嘘だ」



七嗣がこんな事を言い出さなければ

この話は少なくとも俺の中では

終われたのに。



「……え」




「本当は、机に書かれるずっと前から

二条の存在を知っていた。

いつも気がつくと目が合うやつがいて

……そいつは俺が見るといつも

真っ赤になって慌てて目を逸らすのに、

俺が先に見つけた時には

いつも誰かと一緒に笑っていて、

その顔がやけに印象的だった。


メッセージの件も

二条じゃないかと分かったからこそ

確かめに行った」




―――聞きたくない。




「ずっと好きで、

本当は応えたくても、

初めて人を好きになったから

どうしていいのか分からなくて。


家のしがらみとか、

くだらないプライドで言えなかった」



(初め……て)



「俺も同じ気持ちだと言えば良かった」




―――そんな言葉、


お前の口から聞きたくない。




既に冷たくなったお猪口を

グィと一気に流し込む。



「あ……そう。


じゃ本人に直接言ってやれば?」





「……え?」



口に出して、しまったと咄嗟に思ったが

時既に遅く、俺の意思に反して尚も溢れ出る。



「生きてるよ、アイツ」


隣の椅子が勢いよく音をたてる。


「何?俺を殴るつもり?」


震える拳を見て溜息が出た。


「大体気づけよ、そんな本人しか

知りえない情報、いくら俺でも

空想で言う訳無いだろ」



「十朱……お前、自分が何を言ってるのか

分かってるのか?」



信じられないと口にした言葉には

怒気を孕んでいた。


「お前こそ。話は最後まで聞け。

生きてはいるが、事故の話は本当だ

今、自分の病院に入院してる」




教えるつもりなどなかったのに。



黙っていれば分からないだろう事を

敢えて口したあの時の自分は

何を考えていたのかと、

今だに考える時がある。


二条に対する負い目か、


或いは、単なる自己満足だったのか。


それは結局、答えがでないまま。







以前たった一度、街で偶然二条に会った時


学生の頃の甘さは無くすっきりとした

大人になっていた。


医者にはならないのかとの問いに

唯一、昔の名残を見せる笑顔で、

僕にその器量は無いからと言ってたっけ。


それから


相変わらず七嗣と一緒にいるのかと

聞かれた時、逆に俺は質問を返した。


お前は、いつから七嗣の事を

知っていた?って。


二条は少し困ったように

真新しいスーツのネクタイを緩めた。


中学の時から同じ校区内に

全模トップの人がいると彼の中学でも

ちょっとした話題に上がってたらしい。


たまたま俺達の中学に通う従兄弟に

アルバムを見せて貰って七嗣を顔を

知ったのだという。


最初は憧れで、家庭教師を頼み

あの高校を目指したのだそうだ。


勉強を頑張ったがAAにはどうしても

届かず、それでも七嗣に少しでも近づきたい

一心でA組に入った。


そして例の机が同じだと分かって

気がついたら書き込んでいたと。




最後に、


未だ好きなのかと聞いたら

奴は首を確かに横に振った筈だ。



『結局、相手にもしてもらえないんじゃ

諦めるしかなかったから』


そんな言葉を笑って言うから


信用してたさ。


まんまと騙されている事にも気づかずな。



何が諦めただ。


似てるってだけで危険も顧みず、

学生を助けるくせに。



そこまでして七嗣の事が好きか?


何年経っても忘れられない程。




そして馬鹿がもう一人。


自分の気持ちに気付いておきながら

プライドの為に応えられず、


それでも忘れる事も出来きないまま

引きずってきた七嗣。








店を飛び出して行くアイツに

行くなと、どうして言える?


ただの親友如きが

口を挟める訳もく、


既に答えが出ている人間に

それは無意味な行為に等しい。



今にして考えれば随分無駄な画策ばかり

していたように思える。


だが、俺が足掻いたところで

状況は変わらなかった。


きっと、どうやっても

この結果だったのだとの思いに

漸く辿り着いた。






それからは


別の奴の影響で変わっていくアイツを

ただ見てるしかなかった。


その度に、

一番傍にいるのはもう俺じゃなく

二条なのだと、嫌という程

思い知らされながら。





……そして。



決定づける事が起こったのは

それから程なくしてからだった。







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