『プリティー・プリンセス』
「やった……やったよ!」
洋平は、ドラゴンを倒した喜びで、思わずお姫様を抱きしめていた。
「……○×……△○」
苦しげな呟きが、お姫様の唇からもれる。
「あっ……ごめん」
おもわず洋平は、体を離し、自分が抱きしめていたお姫様の姿を見直した。
(うわあ~、小さいなあ。腕、細っ!)
お姫様の背は洋平の胸ほど、手足も細く、十代前半にも見える。
一本一本が見えないほどに細い銀の髪は、腰ほどの長さで、前髪はティアラで止まられ後ろに流されている。
額はゆるいカーブを描き、その下の蒼い瞳は、顔に比べてかなり大きく見える。
容姿は整っているが、冷たさより可愛らしさの印象が強い。
イメージとしては幼い愛玩犬の雰囲気かもしれない。
お姫様の衣服は、先ほどの戦闘で大きく乱れていた。
元は清潔で清楚なドレスなのだが、今は汚れが目立つ。破れているところもある。
自身が切りさいたスカートは、超ミニとなり、絶対領域を覗かせていた。
元々のデザインなのか、ドレスは胸元が大きく開き、鎖骨が見ている。
(前に屈むと、少々のぞくかも……)
と、少々不埒な事を思う洋平ではあった。
お姫様自身も、魔法を使ったり走ったりしたせいか、息が乱れ額には汗が流れている。
そんな皮膚や頭髪にも、埃や小さなコンクリート片が張り付いてる。
そればかりか、破れたストッキングの下には血がにじんでいた。
「キミ、怪我してるじゃないか!」
慌てた洋平はポケットティッシュを出して傷を押さえようとしたが。
「○○■◇……○×」
お姫様は、そんな洋平の動きを止まると、また両手を組んで魔法を発動させた。
先ほどの攻撃魔法のとは違い、暖かい感じの小さな魔法円が浮かぶ。
(あっ……もしかして、治癒魔法?)
そう思った洋介の手をお姫様が取ると、その魔法円を帯びた手をかさじた。
「あっ……」
見ると、洋介の手には、切り傷が出来ていて血が垂れている。
(いつのまに怪我を……気がつかなかった)
緊張のせいで感じなかった傷の痛みが洋介を襲うが、次の瞬間、甘い痺れるような感覚に襲われた。
(うわぁ、痒いって言うか……ぞくぞくする)
お姫様が魔法円をどけると、血は固まっていて痛みもない。
「えっ? もう治った?」
洋介が驚いて固まった血を取ると、下にはうっすらとピンク色の治癒した切り傷の痕がのこるだけ。
(すごいや、魔法!)
お姫様は、洋介の怪我を癒した魔法円をそのまま自分の膝にかざした。
(僕の治療を優先してくれたんだ)
なんだかジンとしてしまう洋介であった。
治療を終えたのか、魔法円が消え、お姫様がニコリと微笑んで洋介を見上げる。
「あっ……えと……」
(この後、なんて言えばいいんだ? 『姫様、ご無事でなにより。私は土岐洋介と申します』なんて言えばいいのかなぁ)
少々ふざけているが、実のところ洋介は困っていた。
理系バカの洋介は、興味があっても女の子が苦手だった。
すると、お姫様の手が洋介の手を取り。
『○◇……トキ・ヨウスケ……』
「えっ?」
洋介は驚いた。
たしかに今、このお姫様は自分の名前を呼んだ。
(自己紹介もしてないし、言葉が通じてないのに?)
〈言葉は通じませんが、思考は伝えられます〉
「えっ?」
〈私は、あなた方が言うところの魔法使いですから〉
先ほどとは違い、少し得意そうな微笑のお姫様。
(これって、テレパシー?)
〈そう思って、間違いはありません〉
洋介は、今たしかに、このお姫様と会話をした。
言葉を使わずに。
「……ありなの?」
〈ありですわ〉
そう心に伝えたお姫様は。
「モンダイ、ナイ」
と、可愛らしい唇から、この国の言葉を紡ぐ。
「いや……問題無いって」
(よりによって最初に覚えた日本語が、それ!)
と、心で 突っ込む洋平であった。
更新が遅れました。
すいません。