『反撃』
また、視点は洋平に変わります。
「スクリプト起動!」
『スクリプト起動、了解しました」
叫ぶようなコマンドに反応したPMUは、洋平の腕の動きに反応して動き出す。
だが、洋平は視線をリアモニターに固定し、何も無い空間を掴むように制御ハンドルを操作したのだ。普通であれば、この操作ではPMUのアームは空を掴むだけだが。
『グガアアァ』
ドラゴン悲鳴を上げる。
無理も無い。
ドラゴンの首を、PMUの右クラッシャーアームが、しっかりと掴んで締め上げているのだから。
PMUは普通の生物ではありえない肩の動きで、真後ろのドラゴンを掴んでいる。
洋平は、スクリプトでPMUの動きを前後で反転させていたのだ。
『ガガアァ』
ドラゴンが尻尾を振って反撃しようとするが。
「させるか!」
左クラッシャーアームがドラゴンの尻尾を掴む。
『ゴグヴァアアァ!』
「くそぉ、なんて硬いんだ」
首と尻尾を掴み、ドラゴンの動きを封じたPMUであるが。強力なクラッシャーアームの破壊力をもってしても、ドラゴンを捕まえるのがやっとであった。
『警告! 警告! 過負荷です』
やはり、PMUのパワーでは、これが精一杯のようす。
「すまん、PMU」
そう言うと、洋平はPMUの動きを固定してシートベルトを外し、PMUから飛び降りた。
「お姫様! どこですか」
洋平は走り、PMUの傍に座り込んでいるお姫様を見つけると、その手をとり走るようにうながす。
「○×◇△○?」
「ドラゴンの動きは止めたが、僕にはこれ以上無理だ」
洋平は、お姫様の手を引いて十分に離れると。
「さっきの魔法を使ってくれ!」
洋平はドラゴンの方を指して、お姫様に頼んだ。
もちろん、言葉が通じないのは承知の上。
「○×◇△○!」
お姫様が何かを問いただしているようだが。
「PMUはいいんです。あれは機械です」
言葉は通じていないが、思いは通じたのであろう。
お姫様は、コクリと首肯すると両手を鳩尾の前で組み、呪文を唱えだす。
掌の間に光の模様が現れクルクルと廻りだすと、それを中心に幾重にも重なる魔法円が空間に浮かぶ。
(すごい……本当に魔法なんだ)
魔法発動の瞬間を見た洋平は、驚きと感動で背筋が震えた。
光は術者である姫の全身を包み、力場が構成されると、ゴウと風が起こる。
お姫様のドレスと髪がふわりを広がる。
(きれいだ)
見入っている洋平は、知らずにポカンと口を開いていた。
「○△×!」
姫が叫ぶと、両手の間の光弾がスッと飛びだして、PMUとドラゴンの方へと向かう。
光弾は野球ボールを投げたくらいの速さだが、重力の影響が無いのか一直線に飛んでゆく。
『ゴガガァ!』
生命の危機を感じたドラゴンは狂ったように暴れてはいるが、PMUの拘束を解けないでいる。
そして、そこに光弾が打ち込まれた。
一瞬、ドラゴンの体が光ったように見える。
その光が通りすぎると、空間が欠けていた。
ドゴゴゴゴオォォォンン!
欠けた空間が膨張と収縮を繰り返し、空を乱し地を揺るがす大爆発を起こす。
爆風は土埃ばかりか小石なども巻き込みながら洋平らをおそった。
洋平は、咄嗟にお姫様を抱え込むように爆風に背を向ける。
お姫様は洋平に抱きついた。
二人はそのまま、倒れるように地に伏して、爆発の余波から身を守る。
あたりはモウモウとした土煙とオイルと血の臭いが立ち込めている。
壊れたPMUの残骸。
ドラゴンの姿は無い。
「は……はっ……ははは……やったのか?」
洋平は、体を起こすと念のために周囲を見渡した。
ドラゴンの姿は、無かった。