『再起動』
ドラゴンの喉の奥に赤い炎が渦巻いている。
『オールシステムチェック、継続中。終了まで、あと20秒』
ドラゴンが首を伸ばし、炎が口から伸びる。
「くそぉ。間に合わない!」
洋平は、咄嗟に顔を腕で覆った。
その腕に、チリチリと炎の熱が届く。
(だめだ。焼かれる。このままローストにされちまう)
洋平は、次に訪れる衝撃に備えたが、何もおこらなかった。
恐る恐る顔を上げると、炎がPMUの直前で遮られているではないか。
「なっ……なんだ?」
よく見ると、ドラゴンの放つ炎とPMUの間に、光の魔方陣があった。
(これは、防護魔法?)
見るとPMUの横に立つお姫様が両手を上げて一心に呪文を唱えている。
『オールシステムチェック、終了しました。オールシステム、グリーン。起動しますか』
折りよく、AIが聞いてきた。
「イエス。PMU、起動」
『イエス、了解しました。起動します』
PMUが、震えた。
洋平が操作する制御ハンドルに手を伸ばそうとするが、制御ハンドルを握ろうとする手が固まり、開かない。
「クソッ、怖いよなぁ。……逃げたいよなぁ」
洋平は呟いて、横を見た。
そこには懸命な表情で呪文を唱詠するお姫様がいる。
洋平は、固まった拳を開きハンドルを握る。
「そういうわけには、いかないよな」
洋平がつま先をフットバーにかけて押し込むと、PMUの無限軌道が唸りをあげて大地を噛み前進する。
『ウガァァ』
ドラゴンが驚きの呻きをあげ、ブレスを止め一歩下がる。
「くらえ! クラッシャァーーアーームゥ!」
洋平の動きに同調してPMUの右アームがドラゴンの顔面を殴る。
(かっこよく言ったけど、作業腕で殴っただけなんだよな)
とは言え、コンクリートや鉄骨を破砕する作業腕の衝突である。いかに巨大な生物であるドラゴンであろうと、そのダメージは相当なものだ。
『ゴグワアアァ!』
ドラゴンは叫びながら倒れた。
「やった!」
だが、ドラゴンは倒れた反動を使い、巨体を器用に曲げて起き上がった。
顔面のダメージを振り払うように、頭を振ったドラゴンは、今までとは違い低い姿勢で構える。
「くぅ~、さすがにタフだなあ」
洋平は、ドラゴンに注意しながら、サブモニターに写される真後ろの映像をチラリと見た。そこには、お姫様が写っているはずなのだが。
「あれ? いない」
横を見ると、お姫様がロングドレスの裾を持ち上げて走っている。
「うわっ。何してるんだよ」
PMUより前に出てドラゴンが見える位置に出ると、お姫様は先ほどとは違う構えで呪文を唱えだす。すると、彼女の両手の間に光の玉ができる。
「ファ……ファイヤー・ボールなのかぁ?」
(お姫様が攻撃魔法かよ)
と思う、洋平であった。