『ドラゴン・アタック』
空中に描かれた光の魔方陣は洋平の乗るPMUの正面に出現した。
それは、見えない壁に描かれたように垂直に立ち上がり、高さは3mほど。
魔方陣のが周囲の枠だけを残して消えると、その向こうに深い緑色の風景が広がっていた。
「ええ? なんだ?」
魔方陣の枠の向こうに、自分がいる工事現場とは別の風景がある。
その事態を理解するよりも早く、動く者があった。
魔方陣の向こうから、白いフワフワした服を着た女性が、こちらに向かって走って来る。
「お姫様?」
洋平は、この女性をお姫様だと思った。
なぜなら、女性の肌は白、髪は銀髪、眼は蒼。さらに、額にティアラを乗せ、レースをふんだんに使った白いロングドレスを着ていたからだ。
洋平のイメージするお姫様とピッタリと一致する。
『オールシステムチェック、継続中。終了まで、あと60秒』
そんな状況にお構いなくAIはシステムチェックを愚直に実行している。
お姫様は、PMUに驚いた様子で一瞬立ち止まったが、洋平が乗っているのをコックピットの強化ガラス越しに見ると、自分が走って来た魔法陣の方を指差して何かを叫んでいる。
彼女を声を良く聞こうとドアに手をかけた洋平は、魔方陣の奥から迫り来る影を見て動きが止まった。
「ドラゴン?」
魔方陣の向こうから迫ってきた巨大な影は、まさにドラゴン。
巨大な恐竜型の二足歩行生物で、しかも肉食らしい牙が生えている。
唯一ファンタジーのドラゴンと違う点を上げると、背中に羽が無いことくらい。
ドラゴンの方も巨大なPMUを生物か兵器と思ったのだろうか。
魔方陣を抜けた所で立ち止まり、グルルと喉を鳴らした。
『オールシステムチェック、継続中。終了まで、あと50秒』
お姫様は、PMUの横を走りぬけて逃げてゆく。
何かを叫んでいたが、よく聞こえなかった。
「おいおい、どうすんだよ。これ」
洋平は考えた。
(これは、どう考えてもドラゴンが悪者だよなあ。あのお姫様、何を言ったんだろう?『お願い、助けて』かな)
だが、助けてほしいのは洋平も同様だった。
「これで、こいつが動ければ、まだ何とかなるけれど」
『オールシステムチェック、継続中。終了まで、あと40秒』
AIはPMUがしばらく動けないと宣言している。
「戦闘ロボじゃないんだぞ、PMUは」
『ゴアアアアァ!』
大地が震えるほどの大音響だった。
それは、ドラゴンの咆哮。
その声だけで、オシッコチビリそうになる洋平だった。
威嚇の声に、微動もしないPMUを唯のハリボテだとでも思ったのか、ドラゴンの顔が歪んだ。
「笑った。あのドラゴン、笑いやがった!」
ドラゴンが体を大きく回した。
次の瞬間、PMUに大きな衝撃が襲い、フロントガラスに大きな亀裂が走る。
ドラゴンが振った尻尾がPMUに当たったのだ。
『オールシステムチェック、継続中。終了まで、あと30秒』
(こんなの何発も喰らったら壊れる)
PMUを完全に破壊するには、この攻撃だけでは30秒以上かかるだろうが、PMUがシステムエラーで起動しなくなるかもしれない。
「そうなったら、石の狸だ!」
洋平は、システムチェック中でも動く唯一のボタンを押した。
『ビイイイイ!』
警笛である。
動かないと思ったPMUが、突然に吼えたのでドラゴンは数歩下がった。
『オールシステムチェック、継続中。終了まで、あと20秒』
(ビビッたな。そのまま再起動まで動くなよ)
洋平は期待を込めて祈ったが。
ドラゴンが大きく口を開いた。
喉の奥が広がり、赤い炎が見える。
「うそ! ドラゴンブレス?」
第二話の投稿です。書き溜めた分があるので、ここしばらくはお待たせせずに更新できると思います。
すでに、お気に入り登録をしていただいた方もあり、大変うれしいです。
やっぱり、モチベーションて大事ですね。
やるぞって気になります。
これからも、よろしく。