『彼の名は土岐洋平』
地方都市の郊外にあるビルの解体現場。
かつての大型商業施設は、周囲を鉄板やシートに囲われ、ビルは半壊になっていた。
今日は日曜日。
解体工事も休みであるが、一人の作業服姿の青年が働いていた。
青年の名は土岐洋平、重工事機械メーカーのサービスマンである。
洋平は、平凡な理系サラリーマン。
就職したのは、大手重工業メーカーだ。
幼い頃から宇宙飛行士に憧れていた洋平であるが、遺伝的な近眼であるためその夢は小学生の頃にあきらめた。
代わって憧れたのはロケットの自体である。
ロケットを造りたい。
洋平はロケット建造に近づこうとして国産ロケットを造っている企業に就職したが、配属されたのは建築機械部門。
夢から遠ざかったとは言え、洋平は今の職場を結構気に入っている。
ロケット自体に興味があるように、洋平は機械いじりも好きだ。
とは言え、ロケットの夢も捨てきれていない。
洋平は自分の夢のロケットを設計してはネットのHPにアップしてきた。
今では、ロケット好きな仲間もいる。
「とは言え、自分のロケットがつくりたいなあ」
個人が建造できるロケットも、最近では高性能化して人工衛星軌道まで打ち上げることができる。
だが、建造には億単位の資金が必要だ。
「あきらめるしか……ないよなぁ」
巨大な重建築工事機械を修理しながら、そんな独り言つぶやく洋平であった。
「さてと、これで動くはずだけど」
修理の完了したPMUはパワーシャベルから進化した建築機械である。
一見するとロボットにも見える外見は子供にも人気が高い。
洋平が修理したPMUは建築物破壊用のクラッシャーアームが2本装着されている。
洋平はマスタースレイブ操作のハンドルを握り電源を繋いだ。
軽い起動音とともに洋平の腕に動きに合わせてクラッシャーアームが動き出す。
「制御。左上腕レスポンス修正プラス2」
『左上腕レスポンス修正プラス2、了解しました』
洋平の声を拾った制御AIが、洋平の言葉を復唱して、PMUの動きを修正する。
「チェック。オールシステム」
『オールシステムチェック、了解しました。終了まで90秒かかります。スタートしますか?』
「イエス」
『イエス、了解しました。オールシステムチェック……あと、80秒です』
システムチェック中はPMUの全ての動きが止まる。
操作ハンドルから手を離した洋平は、スマートフォンを取り出してTODOとメールのチェックを始めた……その時。
「なんだ?」
それは、光だった。
小さな光の点が洋平の乗るPMUの前に現れた。
その小さな光点は平面的に広がると回転しながら複雑な模様を描き始めた。
「えっ……魔法陣?」
それはファンタージー系のゲームでおなじみの魔方陣に良く似ていた。