『ハート・ブレイク』
エンジンの音が聞こえてきた時に、洋介とアムネはビックリして体を離した。
(あの……その……ごめんなさい)
〈いえ……わたくしの方こそ……その……〉
二人は、すごく悪いことをしているを見つかった気分だった。
洋介は、4WDビークルから降りてきた人物を知っていた。
(たしか、成本興業の社長さんだったよなあ)
成本興業とは成本が経営する土地運用会社で、このショッピングモール跡地の所有会社である。
「どないなっとる! なんで、PMUが壊れとる。なんで、建物が壊れとるんや」
ドカドカと荒い足音をあげて洋平達の方へと進む大吉。
(まあ、状況からして、僕が怒られるのは当然かもしれないけど……かんべんしてぇ)
本当の事を正直に話して解決するはずもなく。
正直、泣きたく洋平である。
それでも、事態を解決しなくてはならない洋平は、アムネ姫を守るように一歩進むと、大吉に向かって頭を下げ。
「申し訳ありません、社長。自分の判断でPMUを壊してしまいました」
と、大声で謝罪した。
「ほお~、オマエか……確か、メンテナンスサービスの小僧やな」
「はい、PMUメンテナンスサービスの土岐洋介です」
「ほな、説明してもらおか」
そう言うと、大吉はタバコに火をつけて、紫煙を胸の奥深くまで吸いこんだ。
「くっ!」
また、大吉の胸が痛んだ。
今度の痛みは、先のより鋭く長かった。
先ほどのまでのものが画鋲を踏んでレベルとするならば。今度の痛みは、錐が刺さったレベルである。
大吉は、大きく息を吸い込もうとしたが、萎縮した筋肉が動かなかった。
叫ぶ事も、助けを求める事もできない。
一言も声を出せなかった。
息をすることも、小指を動かすことも出来なかった。
痛みは増して、胸に巨大なドリルを突き立てられたようなレベルになっている。
「あの……社長?」
大吉の只ならぬ様子に、洋平は声をかけてみた。
だが、大吉は叫ぶような顔のまま表情を固定して、顔色が赤から青へと変化してゆく。
そして、大吉は、そのまま崩れるように倒れた。
「社長! 大丈夫ですか」
洋介は、なんとか大吉の頭を守って、ゆっくりと横たえる。
(こいつは、心筋梗塞? 脳血栓? 思い出せ。ファーストエイドは習ったろう)
「社長! 社長! 聞こえますか、社長!」
洋介は、大吉のおでこを抑え、耳元で大声で呼んだ。
(……反応が無い)
大吉の上着のボタンとネクタイを緩め、頭の角度を直す。
(気道は確保した。息は…無いじゃないか)
両手を組み、大吉の胸を強く5回押す。
だが、大吉からの反応は無い。
(くそっ、くそっ、くそぉ!)
慌てて、ケイタイを出して非常通報を押す洋介。
〈この方、危ないですね。どいてください。洋介さま〉
そんな洋介を押しのけて、アムネが大吉に触れる。
先ほどの治癒魔法と同じ光が起こる。
「アムネ姫……治せるんですか?」
〈危険な状態です。私の力で蘇生できるのかは分かりませんが。やってみます〉
そんな事を言っていると、ケイタイの非常通報が繋がった。
(ここは姫にまかせて、僕は救急を呼ばないと!)
洋介は、現場と状況を救急に伝えた。
少し遅れました。すいません。